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女神達の穏やかな対話

作者: 霧島

かねてより懸念があった隣国との間に、新たな問題が発生した。

食物や金目のものを狙う盗賊団の横行、老若男女を問わない拐かし、そして国境での小競り合いである。


国を治める女王は嘆き悲しみ、隣国への王に陳情を申し入れた。

盗賊団を捕え、盗まれたものの補償をし、拐かされた人々を家族の元に戻してほしい。当然の願いである。しかし願いは聞き届けられず更なる悲劇が繰り返された。


女王は最後の手段として、女神の加護にすがることにした。このままでは戦争になる。

女神は最初は応えなかったが、女王の涙交じりの切なる願いを聞き入れ、隣国の女神を訪ねた。神といえど自分の国以外の事に口を出すのはタブーである。できることはその国を統治する神に苦言を述べるだけ。





「あら、ごぶさたをしております。いかがされましたか?」

「実は、、」

「あらあら、過保護ですこと」

隣国の女神は穏やかに微笑んだ。


「私達が人の子に介入することは望ましくありませんわ」

「しかし、、、」

「人の子の争いは、人の子同士で解決せねば」

「それはわかっています。しかし、力の差がありすぎる。これは一方的な蹂躙ではありませんか?」

「おかしなことをおっしゃる。国力は甲乙つけ難いはず。違いがあるとすれば、治めるものの力量でしょうか」

隣国の女神はわずかな嘲りを含ませながら、おおらかに微笑む。



自国の女王は確かに気が強いとは言えないが、賢く勤勉で、何より民を思う気持ちが強い。戦争になれば負けはしないが勝ちもしない。双方とも疲弊するだけである。

女神は優しい女王を愛していた。



一方で隣国の王は争いごとを好む性質であった。

元々は同じ国力であったが軍事に力を入れ、学問・文化は軽んじられていると聞く。力さえあれば、それこそ盗賊団でも讃えられるであろう。

隣国の女神は強い王を愛していた。



相手を尊重し対話を望む。しかしそれは力のあるものからすると弱者の詭弁と映るらしい。

感情が乱れにくい女神ですら、先の見えない対話に疲れを覚えた。




「それでは国交を断絶させましょうか」

「?!」

隣国の女神はわずかに目を見開く。そこまでの話ではないと思っていたのだ。


「国交を?それは、、」

「私はもう私の愛し子が悲しむのを見たくないのです。両国の境に高い塀を立てましょう。こちらからそちらの国を訪れることもなく、そちらからこちらの国を訪れることもない。それでも何か問題があった時は、偉大なる父に訴えることと致しましょう。よろしいですね?」

「しかし、それでは、、」

「こちらの願いは聞かず、そちらの願いだけを聞く、そんなことはありえないでしょう?」


女神は意識して穏やかに微笑んだ。

隣国は軍事力に力を入れすぎて食糧の自給率が落ちてきていると聞く。他国とも同様の問題を起こしているため国際社会で孤立し始めているとも。

それを思い出したのか、隣国の女神は慌てたように喋り始めた。


「隣国の女王は、我が国の王を好いていたはず。

それを勝手に、、」

「幼子の時の話を持ち出されるか」

鼻で笑って話を終わらせる。


いくら幼子の時の思い出があったとしても、今は自国を乱す敵である。

まさか陳情も気を引くためとでも思われていたのか?気味の悪いことだ。




早々に話を切り上げて自国に戻り、託宣を出した。

【隣国との交わりを断つべし】





女王は驚愕し、その後狂喜した。

今まで女神からは隣国との関係を大切にするよう言われ続けていたからだ。であればこそ、何をされても苦情を入れることしかできなかった。

大切な民が拐かされても、強く言うことができなかったのだ。


しかし女神からの国交断絶の許可が降りた。

やっと縁が切れる。これで国際裁判にかけることができる。そもそも盗賊団とて国王の手先なのだ。証拠は揃っている。首を洗って待っていろ!




女王の行動は素早かった。

同様に被害にあっていた他国と連携し、国際裁判所に訴えたのだ。

裁判所は提出された証拠から、盗賊団は王の部下であることが疑いようもない事実と判断し、損害賠償ならびに人品の返還を隣国の王に命じた。

その賠償額は国の年間予算に匹敵するほどであったらしい。


「ちょっとからかっているつもり」だけだった隣国の王は、突然のことに焦り、怒り狂った。

隣国の女神は菓子折りをもって女王の国の女神を訪れようとしたが、国交断絶を理由に門前払いされた。

隣国は孤立していった。





拐かされた人々も戻ってきた。怪我をしていたものもいたが、全員の姿が見られた。女王は涙を流して喜んだ。

女神は彼らに祝福を与えた。

表立っての謝罪は立場上できなかったが、心中では大いに反省していた。








親の事情に子どもを巻き込んではいけないと



以下のように置き換えて読むこともできます。


女王・・女の子

女神・・女の子のママ

隣国の王・・隣家の男の子

隣国の女神・・隣家の男の子のママ

自国の民・・お人形

国際裁判所・・学校(の先生)

偉大なる父・・パパたち



隣家とのトラブルって今後のお付き合いも考えてなぁなぁにしてしまいがちですが、一番弱いものに皺寄せが行くから難しいよね、というお話でした。


性別に意図はありません。逆でも同性でもあり得る話です。

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