表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最高神の〝依代〟 〜転生後も不遇で虐げられた公爵子息の、最高神成り上がり譚〜  作者: 蒼波季京
第二部 第二章 攫われた母

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/251

53.本心を隠す二人

「うーん……」


 深夜、広い寝室にて。

 机に置いたランプの明かりのもと、テオドアは白紙を広げて唸っていた。

 公爵子息でありながら家庭教師など付かず、学校にすら通っていないが、前世の記憶と今世の母のおかげで、読み書きくらいはできる。


 考えをまとめるために書き出そう、と思ったのだが、まず書き出すことを考えるのが難しい。

 基本、テオドアは、勉強というものに興味がないからだ。


「だから、魔法の鍛錬にも身が入らないんだろうな……」


 そも、魔法が使えることを、心の奥底では「便利だ」以上に思っていないのだ。

 もともと使えなかったものだし、降って湧いたような力だから、どうもしっくりきていない。

 使えそうなのに使えないから、もどかしい。


 魔法を使う感覚が身体に馴染めば、あるいは――大規模な魔法さえ、()()()扱えるようになるかもしれないけれど。

 そこまで努力を重ねたいとは――正直言って、思えないのである。

 

 自分の怠惰さに嫌気が差すが、嘆いてばかりもいられない。

 テオドアは、はあ、と溜め息をつきつつ、持っていたペンの先をインク壺に浸した。



 王弟と第一夫人たちの不審な挙動。

 公爵の振る舞いについて。

 母が誘拐されたこと。

 それを実行したと主張する女神。

 ここへ来て急に怪しくなってきた少年。



 『試練』が終わり、山を降りてからたったの一週間足らずで、これだけのことが起こった。

 テオドアは、書き出した文字を再三読み、日数を数え、「やっぱりおかしい」と思う。


「こんなに短期間に、偶然起きるものなのかな」


 王弟と第一夫人たちが繋がっているかも、なにかを企んでいるかも証拠がないが、仮にそうだったとして。

 考えられうるのは、テオドアに意趣返しをすること。または、〝依代〟の座からなんとしてでも引きずり下ろすこと。くらいだ。

 

 翻って、『知恵と魔法の女神』。

 彼女はテオドアに、「〝依代〟にならないでほしい」と思っている。永遠に失われてしまうから? だそうだが、いまいちよく分からない。

 だが、なぜか、テオドアに愛情を持っているらしいことだけは分かる。「魂」と言っていたから、あるいは、前世がバレているのかもしれない。


「だとしたら、僕に愛情なんて持つのか……?」


 前世で神獣の餌にした程度の男に、今さらなぜ?


 まあ、それは置いておこう。

 肝心なのは、()()()()()()()()()()()()()()だということである。

 

 もしも、彼らが手を結んでいたとしたら?

 

 だとするなら、これだけ一気にいろいろなことが起こっているのにも頷ける……が……。


(でも、これまで以上に憶測だし、関係のありそうなことを無理やり結びつけているだけだ。……飛躍し過ぎたかな)


 想像力が豊かなのも考えものだ。前世も今世も、それで切り抜けられた場面があるから、一概には言えないけれど。


 なんだかもう、誰もなにも信じられない。

 いろいろな思惑が混ざっているというか、絡まっているというか。各々が好き勝手に動いている気もするし、すべてが裏で繋がっている気もする。

 

 公爵が誘拐された母に冷淡だったのも、あの時は頭に血が上って気付けなかったが、ちょっと違和感がある。

 どうでも良い第二夫人に手紙など出さないだろうし、息子をわざわざ呼び出して様子を聞かずとも良い。

 それらすべてが対外的なアピールだと言うなら、やり過ぎだ。


 リュカは……うーん、リュカは、本当になんなのか。

 分からなすぎて、もらった花になにか細工でもあるのかと疑ってしまう。女神がなにも言ってこなかったので、たぶん、大丈夫だとは思うが。


「うう……考えることが多過ぎる!」


 テオドアは頭を抱え、背凭れにだらりと体を預けた。

 ただ粛々と、〝依代〟としての務めを果たせば良かったはずなのに、周囲がそうさせてくれない。

 本人たちにその意図があるにせよ、ないにせよ。嫌でも、テオドアの意思を試し続けてくる。


 お前は本当は、どうなりたいのか、と。


「はあ、今はなにも考えたくない。ぼんやりしていたい。一日中天井を眺めて過ごしたい」

「結構な夢だな」

「うわあああああっ!?」


 すぐ近くから声が聞こえたので、テオドアは考えるよりも先に紙をぐしゃりと掴み、結構な火力で燃やした。

 こういうとき、魔法は便利である。


 灰を握ったまま振り返ると、薄暗闇の中、ルクサリネが立っていた。

 彼女は、突然に紙を燃やしたテオドアに驚いているようだったが、すぐになにかを「察した」ようで、にやりと笑う。


「お前が眠れないのなら寝物語でも、と思ったんだがな。不要だったようだ。悪かった、男には知られたくない秘密のひとつや二つあるものだよな」

「な、なにを想像なさってるんですか!? 違いますよ!」

「違ったのか? てっきりハンナに恋文でもと……」

「意外に健全ですね!? いやそれでもないです! あの――状況の整理を!」


 とりあえずそう言って誤魔化す。まあ、あながち嘘でもない。

 だからだろうか。女神は疑う素振りもなく、「そうか。驚かせて悪かった」と言い、大きな寝台の方に歩いて行った。

 そうして、端にぽんと座る。


「だが、夜も遅い。早く寝なければ身体にも障るぞ」

「はい……」


 テオドアは素直に頷き、ランプに手を伸ばした。手をかざし、中の火を「吸い取る」感じで、消す。

 魔法とは感覚であると、実感する。


 寝台に行って寝転がると、女神も当然のように隣に寝そべった。


「あの」

「なにもしない。私の方からはな。無理強いなど楽しくはないだろう?」

「……僕が寝たら、ご自分の部屋にお戻りくださいね」


 はいはい、と笑う女神は、どこまでも美しく、無邪気だ。

 暗がりに目が慣れずとも、彼女は光をまとっているため、当たり前のようにはっきり見える。その姿を眺めて、テオドアはふと、思い至った。


 ――今ここで、『知恵と魔法の女神』のことを、打ち明けてしまえば。


 きっと、女神は内緒話を察して、防音の魔法か何かを施してくれるだろう。その上で、二人だけの話に留めてくれるし、一緒にいろいろと考えてくれる。

 『知恵と魔法の女神』の思惑に、ルクサリネだって巻き込まれるかもしれないのだから。彼女を危険に晒したくはない。

 今だ。今しかない。今を逃せば、言い出せなくなる。


 だが――


 テオドアの口は、意思に反して、別のことを言った。


「……ルクサリネさま。ひとつ、お願いが」

「どうした?」

「今から、僕が眠るまで、絶対に嘘をつかないでください」


 女神は微笑ましそうに目を細めた。テオドアが、戯れを言っていると思ったらしい。


「良いぞ、なにが聞きたい? 言ってみろ」

「……先日から、そのように明け透けになさっていますが……えっと、以前の〝依代〟にも、そのようなことを……なさっていたんですか?」


 言いながら、だんだんと顔が熱くなっていく。

 なんということを聞いているのかと思ったが、一度口から出た言葉は、もう取り戻せない。尻すぼみになりながらも、なんとか言い切る。


 個人的な交際のことを聞かれたというのに、女神は気分を害すことはなく、あっさりと答える。


「ないな。このような誘いを掛けるのは、お前だけだ」

「……ええと」

「ふふ、こう見えて、純粋なる処女(おとめ)だ、と言ったらどうする?」


 女神は、テオドアと向かい合うのを止め、ごろんと仰向けになった。天井を見上げながら、「昔から――」と言う。


「昔から、恋愛を自分ごとと思えなくてな。他者と契るのにも興味がなかった。だが、周囲からは、ずいぶんと奔放に見られたものだ。神も人間も、男はみな、一度は私の恋人か夫に名乗り出た」

「誰とも付き合っていないのに、奔放……?」

「滑稽だろう。神も噂や偏見に踊らされる。知性を持つ生き物が集まった社会は、得てしてそのようになる」


 テオドアは、ごくりと唾を飲み込んだ。無意識だった。


 では、なぜ、自分には誘いを掛けるのかと――


 聞くことはできない。

 踏み込んだら、この危うい均衡を保つ関係が、今度こそ崩れてしまうような気がした。


「女神さまは、僕のこと……どう思っていらっしゃるんですか」


 すると、女神は一瞬だけ眉を下げた。

 すぐに元に戻ったが、言い表すならば、とても〝申し訳なさそうな〟表情だった。


「……好いている。本当だ。でなければ、わざわざ追って地界に降りたり、世話をしたり、純潔を捧げたりしようとは思わない」

「そう、ですか」


 その言葉に嘘はない。

 声音からも、表情からも、隠し事は窺えない。


 ――でも、好きというだけではなくて。

 どこかに「罪悪感」があるから。言っていないことがあるから。だから、ご自分の身体を使って、僕を慰めようとしているのではないですか。


 そんなことを、少し――ほんの少しだけ、思ってしまった。

 ルクサリネを疑ってしまった。


 だから、『知恵と魔法の女神』のことは、終ぞ言い出すことはできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ