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最高神の〝依代〟 〜転生後も不遇で虐げられた公爵子息の、最高神成り上がり譚〜  作者: 蒼波季京
第二部 第一章 ヴィンテリオ公爵と王家

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47.復讐を「していない」理由、そして

「どうして、あんな条件をつけた?」


 王弟の屋敷の庭園には、見事なまでに花が咲き乱れている。

 その庭園の隅で、テオドアと公爵は相対していた。


 問われた意味が分からず、テオドアは目の前の公爵を見上げる。

 相変わらず、表情からは、感情がさっぱり読み取れなかった。


「お前にとって――ローゼルとパウロは、良い家族ではなかったようだが」

「……公爵も、復讐しろと言うんですか?」

「そうじゃない。が、わざわざアイツらを気遣う必要もないだろ。お前は、特に」

「ああ……」


 自分と話した後、彼らとも話す時間を設けて欲しい。

 テオドアがそう言った意図を、図りかねているようだ。


「許してるのか?」

「――いいえ。それだけは、絶対にないです」


 物心ついたときから、彼らにはさんざん酷い目に遭わされた。

 第一夫人とツィロからは侮蔑(ぶべつ)を、パウロからは加えて、魔法や殴る蹴るなどの暴力も。

 おそらく、テオドアが()()「テオドア・ヴィンテリオ」として生まれていれば、今ごろは極端に卑屈か怒りっぽい少年になっていたと思う。


 ――前世の記憶があってこそ、今の状況と、自分の恨みを、切り分けることができたと言おうか。


「さっきは、僕だけ貴方に優遇されると、後が面倒だと思っただけです。あの人たちのことは、嫌いです。恨んでいます。おそらくは、一生許しません」

「なら、どうして」

「……復讐の方法が思いつかないのが、本音です」


 テオドアは、良い人間ではない。

 すべての罪を慈愛で許す心など、持ち合わせていない。

 だが、仮に復讐をするとして、どうすればいいのか?


 同じように侮辱するのか? 完膚なきまでに痛めつけるのか? 王家に真実を打ち明けて罰してもらうのか? 洗脳して自意識を奪うのか?

 それとも、許可を得て殺してしまうのか。


 ダメだ。

 どれもこれも、一瞬でカタがついてしまう。()()()()()()()()()()()


 どころか、やり方を間違えれば、〝依代〟としての自分に泥を塗ることにもなりかねない。


「本当は、僕の手でやり返したいんですけど。僕はもう、一個人の感情で動いてはいけない身分になりました。……その自覚はあります。だから、今のところは、復讐のことを、あまり考えられていないです」

「そうか」


 公爵は、じっとこちらを見下ろしたまま、頷いた。


「優しいな、お前は」

「……話を聞いていましたか?」

「ああ。テオく……テオドアくんは、立派な人間に育ったんだな」

「あの、呼び方、どっちもあまり変わらないですよ」


 〝テオくん〟という呼び方を嫌がっている――ように見えたのだろう――から、〝テオドアくん〟と呼ぶ。

 気遣いが少しズレている。今も、テオドアの指摘に首を傾げているし。


「……まあ良いです。それで、なんのご用ですか?」

「そうだった。俺がいない間の、リーザの様子を聞かせてくれ」


 リーザ? と考えて、思い至る。

 第二夫人――テオドアの母の名前だ。

 身の回りで、彼女のことを名で呼ぶ人はおらず、テオドアも「母さん」とだけ呼んでいたので、忘れかけていた。


「それこそ、合間を縫って会いに来れば良かったじゃないですか」

「悪い。仕事が立て込んでいて、まともに帰れなかった。手紙は送ってたんだが、返事がなくてな」


 十中八九、第一夫人の仕業だろう。

 母が手紙を受け取っているところを見たことがない。あのボロ小屋にも、それらしきものは見当たらなかった。

 第一夫人か、その勢力下の者が、手紙を勝手に差し止めて、処分していたに違いない。


「……豊かな暮らしではありませんでしたし、変わり映えもしない毎日でしたから、面白いことは言えませんよ」

「それでいい」


 テオドアは、一度溜め息をついてから、母との思い出をかいつまんで話した。


 幼少期のころから、ごく最近の話まで。自分の視点から見た、気丈に振る舞う母を――ひどい境遇に押し込められても、気遣いと笑顔を忘れなかった母を。

 仕事をしているときや家事をしているとき、笑ったり叱ったりしているときのことを。

 時系列もなにもなく、思いついた順に聞かせた。


 ――母とテオドアをいびっていた第一夫人たちの所業を、少し話の中に織り交ぜたが。許される範疇(はんちゅう)だろう。


 公爵は、話を聞き終えると、「ありがとう」と言った。


「話が聞けて良かった。俺は、リーザのことを放っておいてしまったから。無理を言って妻に迎えておいて、結局は我慢を()いてしまった」

「……」


 今度は、テオドアが、彼をじっと見る番だった。


 今の口振りからして、公爵は、「自分と同程度の魔力持ちが生まれないことが嫌になって」帰ってこなくなったわけではないようだ。

 どころか、魔力や魔法などに、まったく頓着(とんちゃく)していないように見える。


 テオドアは、思い切って、口を開いた。


「公爵」

「なんだ?」

「僕に、魔力が無いと言われていたとき。貴方は、どう思っていたんですか?」


 それは、もう一度生を受けてから、彼にいちばん問い掛けたかったことだ。

 自分が魔力を潤沢に持っていたのなら、母はここまで酷い目に遭わなかったのではないかと、ずっと考えていた。


 結果、魔力は「あった」のだが。

 

 公爵が、魔力の無い自分をどう思っていたのか。本当に、母の苦難は自分のせいではなかったのか。

 それが知りたい。


 問われた公爵は、目を少しだけ見開いた。

 そうして、口を開く――


 

「ヴィンテリオ公爵!! 〝依代〟さま!! どちらにおいでですか!!」



 彼が答えるより早く、若い男性の声が、庭園に響き渡った。

 だが、こちらを呼んでいるのに、姿が見えない。

 テオドアが声のほうを振り返り、辺りを見渡していると、公爵が事もなげに指を鳴らした。


 いきなり、二人の目の前に、神官服を着た男性が現れた。


 彼は、体勢を崩して地面に突っ込み、公爵の足元に転がる。

 ――公爵が、遠くにいた彼を引き寄せたのだろう。今のは、魔法を使う気配すら感じ取れなかった。


「なにがあったんだ」


 公爵が、青年神官を見下ろす。

 蒼白の顔色をした神官は、土埃にまみれながらも、震える唇をなんとか動かして言った。


「よ――〝依代〟さまの、ご――ご、ご母堂(ぼどう)が――」

「リーザが?」

 

「――な、何者かの手によって、(さら)われてしまいました!!」




 知らせに来てくれた神官、曰く。

 

 その時、『最高神の母神』の神殿にいた神官は、全員気絶。

 いち早く意識を取り戻した者の証言では、犯人は女。

 神殿内の、関係者以外は立ち入りを禁じられている区域を、悠々と歩いていたらしい。

 見掛けない姿だ、と拘束しようとしたところ、目の前がものすごく眩しくなって、そのまま気絶してしまったのだとか。


 また、ある者は言う。

「この世の者とは思えないほど、美しい女性だった」

 ――と。


「一度でも、例えすれ違っただけでも、絶対に忘れられない姿だった。あれは、人間にはあり得ない美貌だ。それに、存在そのものも、ひれ伏したくなる威容(いよう)と、圧倒的な()()に溢れていた」


 ある者は、ためらいつつも、こう断言した。


 ()()()()は、(おそ)れ多くも、女神であらせられたのではないか――と。

 

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