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 人当たりがいいのは知っているじゃないか。決まった人がいたとしても他の人が放っておかないのも、それだけ陽翔が素敵である証拠じゃないか。


 自分の好きな人が魅力的なのを認められない心の狭い俺なのか。


 そんな男だったら陽翔に嫌われちゃうだろう。


 陽翔は足元に置いていたカバンに手を伸ばし、俺の目の前に一枚の紙を差し出した。


「昨日、おれのディスクの上にこれ置いてるの見かけた。直接言ってくれればこんなにモヤモヤしないのに」


 黄色い花柄の可愛いメッセージカードに「お仕事頑張ってください」と男の文字のように力強い筆圧で書かれていた。


 アンバランス。ここは可愛いギャル文字で頑張って勝負してみるほうがいいと、思ってしまった。いや待て、男の字?どうしてそこは女性の文字ではないのだ。


 俺はテーブルに置かれたメッセージカードから陽翔に視線を移す。陽翔は両手で顔を覆っていた。


「優しくした自覚はある。でも仕事上であって恋愛的意味は全く無かったんだ」


 優しくされて絆されるはよくある光景。俺が陽翔を好きになったのはそれだけじゃないんだけどね。優しくされたら恋に落ちちゃうなら、誰にも優しくできなくなる世界ができあがっちゃいませんか。少しの優しさはその人の、人柄。簡単に落ちちゃダメだと思うよ。男の子みたいな字を書く女の子さん。我慢が足りないな。


 俺は平然を装う。


「仕事に支障きたす前に言えばいいんじゃないか」


「慕ってくれる後輩は嬉しいんだけどね」


 陽翔はカバンから出したメッセージカードを持ち上げカードを睨みつけていた。


「常務の息子なんだ、そいつ」


「息子・・・??」


「そう息子。本当は他の会社で修行をさせてから連れ戻す予定だったんだけど、就職先でトラブルを起こしちゃって、連れ戻すしかなかったんだって」


「トラブル起こすって、問題児ってことか」


 他の会社を見て学ぶことは多くあると思う。連れ戻すほどの問題とは、一体どんなことをやらかす子なんだ。

 俺の顔に疑問符が浮かんでいるのを読み取ったのか陽翔は困惑した顔をした。


「当人が恋頼体質らしくて、相手には猪突猛進にアタックしていく結果、会社に居づらくなったらしい」


「社内恋愛が禁止なわけじゃないだろ?」


 表立って社内恋愛禁止にしているところは少ないかもしれない。例えば別れたと聞いたら気まずい思いをしないために、推奨をしていないだけだと俺は思っていた。


「同性だったから気まずかったみたいだよ相手が。常務の息子さん仕事はできるから余計に」


 同性と言う言葉に無意識に反応してしまう。俺が好きなのも同性の相手。陽翔が同性愛に対して嫌悪感を抱いているようには見えなかった。


「おれは常務の息子だから特別優しくしたりしたわけじゃないんだど、どういてか気に入られた見たくて。少し前からメッセージカードとか食事に誘われた時も一回だけ一緒に行ったけどそれだけかな。常務が、ほっておいて大丈夫。むしろ権力に頼って迫ってきたら報告しなさいって言ってくれてる」


「指輪してるの気が付いてないのか」


 俺が感情を伝えるのを心に決めても一歩踏み出せない理由。指輪をしていればどうあがいても俺のような人の気持ちを受け取ってもらえるわけがない。


 陽翔は左手の薬指の光るものを電気にかざすようにして、目の高さまで上げたた。瞳の色は嬉しそうではないのが少し気になった。結婚生活がうまくいっていないのかな。


「気づいていないというよりも自分の想いを大切にしている感じに見えるんだよね。相手にどう思われているか考えてないっているか、馬鹿というか、素直というか」


 褒めているのか、少し悩ましい評価だけど、陽翔は目を細めて指輪を見ていた。


「好かれたいと思って距離詰めていくわけじゃないけど、おれのどこに好きになる要素があるのかな」


 惚れる要素ありまくりですが、という言葉を飲み込んだ俺偉い。俺の方が人気がない自覚はあるから、どうすべきか。


 お前人気だよって、伝えていいべきか悩んだ学生時代の感情がジワジワと湧いてくる。


 自惚れてみてほしいと思う。陽翔自身がどうなるのか、知りたい。


「陽翔がどうしたいか、でいいんじゃないか。仕事での付き合いだろう」


 仕事上の付き合いであればそれ以上の付き合いが必要にならないこともある。俺も会社では一定の距離を保っている。職場で恋愛が発展してこじれているのをみたことがあった。もちろん男女の間柄。男性同士で拗れた場合きっと思っている方向よりもあたりがきついきがする。カミングアウトをしてくれた後輩くんには驚いた。


 正直に生きられる人が羨ましい。


「おれ自身が好きがわからなくて」


「結婚しているのに」


 好きだから高校時代の子と結婚したのでは。俺だが女の子で高校時代から付き合えていて結婚したからって、嫌いになるのが分からない。付き合っている時に色々相手を見ていくのではないのかなって。なんとなくで結婚していたら、世の中に結婚していない人はいないのではないか。


「結婚はタイミングもあるから、仁も良い人居たらしていたんじゃないのか?学生時代浮いた話なかったけど、恋愛してないわけじゃないだろ?女性にもモテる見た目してるのに」


「陽翔だってモテる見た目してるじゃんか」


 浮気を推奨しているわけではない。むしろ浮気絶対ダメと考えている。俺が言えた立場じゃないけど。


「やっと見つけました」


 どこかで聞いたことのある声に、俺たちは振り返る。少し高かった頃の声を知っている気がする。


「久我さん」


 陽翔が声をかけてきた二十代半ばくらいの男性の名を呼んだ。


 サラサラとした黒髪で、ほっそりとした体型。幼さの残っている表情からは陽翔だけを見つめている。

困ったように俺の方に視線を向けてくる。メッセージカードを机の上に置いていった新しい人なのか。

女性から人気がありそうな見た目。どこかみたことがある気がするのはどうしてだ。営業先で見たことがあるのかな。


 久我と呼ばれた男性は、俺の存在に気がついていない。真っ直ぐ陽翔のことを見て言った。


「探してたんですよ。お昼一緒に食べようと思っていたのに」

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