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文字数まばらでごめんなさい!!
「相川さん、少しお時間ありますか」
「何かあったか」
お昼休み、めんどくさくて近くのコンビニでお昼を買ってきていたから、それを社食で食べようかなと袋をぶら下げて歩いていた。職場の人たちは基本的に俺の事を頼ってくれることが多い。
「気になっちゃったんで質問してもいいですか?」
「立ったままだとあれだし、食堂行くか」
「いや、人がいないほうが話しやすいかなって思って」
言いにくそうにしている後輩は何度か仕事を教えたことがあった。
裏表が少なくて、気立てのいい奴。同じ職場じゃなかったらもしかしたら付き合っていたかもしれない。
「実は先輩が男の人と争いになっていたの見ちゃったんです」
探るような視線に持っていたビニール袋を落としそうになる。人気が居ない所を選んでくれたことに感謝した。職場から離れたところで言い争っていたから安心していた。陽翔の登場で余計な事全部すっ飛んでしまっていた。
人目を気にしているならどこか違う場所で話し合えばよかった。
「悪い、忘れてくれ」
「相川さんも男の人が好きだったんですね」
「“も”って」
薄々感じていた違和感があった。女性社員と話しているよりも男性社員と話している時の方がどこか嬉しそうに見えていた。俺は正確には男が好きというのか、陽翔が好きで、他の人に恋愛感情を抱いたことが無い可哀そうな人なのか、判断が出来なかった。
恥ずかしそうに頬を赤らめている後輩は、伺う様に俺に視線を合わせた。
「僕も本当は男の人が好きなんです」
会社では隠していた。作品として受け入れられるようにはなってきたけど、リアルで男子同士の恋愛を受け止めてくれる場所が少ない気がした。
「言い争いを見ただけでどういて俺にそれを言ったんだ」
同類だと感じるものがあって、何となくそんな気がしていたけど、突っ込んで聞かなかった。
噂にされると、営業として外に出ている時に要らぬ話が出てしまう可能性がある。
陽翔と再会したけど、それを仕事に持ち込んでしまえば今後の仕事に響く恐れがある。
本当なら引きずる気持ちを、ハッキリとさせてしまえば楽になるのに。
「会社では隠してるんだ」
言葉にすると狡い人に感じてしまう。好きだと口に出さないで生きていて、心のままに生きている人が肩身の狭い思いをしている。
「相川さん男性にも人気ありますよ」
飲みに誘われることがあった。何となく視線の先に何かあるときがあるなと、感じる時は合った。人気と言ってもそれが憧れから来ていと感じていた。そうでなければ人類は誰一人としていなくなってしまう。
「俺が人気あるのは、冗談だろう」
「冗談じゃないですよ。僕も少しきになってました」
カミングアウトをされるとは思わなかった。俺が人気になる理由が分からない。人として足りない面が多いだけの人間。魅力を持っているわけがない。
「俺なんかよりいい奴は沢山いる」
それなのに、年下の彼は俺を選んで、捨てられない様にと縋ってきた。バーの店主さんに頼み込んで彼には詫びを入れよう。多分二人きりで話していたら俺が断り切れないかもしれない。嫌われるのが怖い。
「相川さんは自分の魅力に気が付いてないんですよ」
「人気がある人間が人前で恋人に嫌われる様な事するか」
「女性の社員にも人気あるんですよ。告白されてたことありませんか」
「告白、されたことないと思うけど」
バレンタインにチョコを多く貰ったことはある。メッセージカードが付いていたことがあった。愛の告白じみた内容があった気もするが、気にしない様にしていた。
「聞きたくなかった」
小さな呟きに、後輩は首を傾げる。
「モテるののどこが悪いんですか?」
することから逃げている俺には偉そうなことは言えないけど。
「ただ一人の人に好かれるのがどれだけ大変か、歳を重ねても答えが見えない」
「相川さんに振り向かない人がいるんですか」
意外だと大げさに驚く後輩。
職場では完璧人間に見えるように努力をしてきたのがちゃんと効いているのかもしれない。擬態化している。弱い俺をもう二度と出さないように。
「俺のことを好きになる人に逆に聞きたいんだよね、なんで好きになったのかなって」
「人を好きになるのに理由が必要ですか」
「必要じゃないな」
俺自身がそうだった。気が付けば好きになっていたから。
高校時代に心を置いてきてしまって、どうしていいのか、わからない。
どうしたいのかも、わからない。
好きという感情しか残っていない。
後輩が言いにくそうに口を開いた。
「付き合っていた人は・・・」
「告白されたから付き合った」
本当は告白をされた訳ではない。一夜を共にして、それがきっかけだった。連絡先もちゃんと交換をしていない。いつでも切れるような間柄にしていたのは俺がハッキリしていなかったから。
「意外でした。僕は相川さんもっとクールなイメージでした」
自分の事をあまり見せていなかっただけ。会社で本音をさらけ出せるわけない。
自分が屑なのを知られてしまったら、一緒に仕事もできない気がする。
「俺は付き合っていた相手を傷つけた、最低な奴」
甘えていい範疇を超えていた。超えたせいで、悲しませた。
「モテるのに、無自覚なのも、問題なんですね」
「俺がモテてるのが可笑しいんだよ」
屑な俺がかっこよく見えるのが変なのだ。
初恋をこじらせた俺はもう恋をしない、したくない。陽翔に対する自分の気持ちがコントロールできなくて、誰かを傷つけるくらいなら、恋しないほうが世界が平和だ。
「相川さんかっこいいのに、不器用なんですね」
「不器用でまとめていいような性格かな」
俺よりも他人の気持ちに敏感に察知できて対応できるやつはいるはずなのに。それなのに、俺のことを気にするやつが多すぎる。
「こんな話して、告白したいと思う?」
イメージを崩している自覚はある。言い争いを見られた時点で俺がきっと恋人を大切にできる人ではないのがバレたきがする。
「僕は仕事がかっこよくこなせている相川さんの事、かっこいいと思いますよ」
「仕事ができる自信はあるけど、それだけの人間だって分かったろ」
プライベートなことをいう必要はない。いったところで誰が喜ぶというのだ。
「今まで相川さんと仕事以外の話あんまりしたことなかったので、印象変わりました」
「この性格だから、俺がモテる理由がわからないんだ」
内面的なものを見てくれていないと言うことになる。こいつは俺が言い争いをしていたのを見て、話しかけてきた。そうじゃなきゃ仕事以外で距離を置かれていたことになる。
「自分から告白とかしないから自信満々になれるんですかね」
「違うよ、告白できる勇気が俺には無かったんだ」
「相川さんに告白されたら僕も付き合っちゃいますよ」
「好みはそれぞれだろ」
「確かに」
柔和な笑顔を見せる。こいつも男が好きと言っていた。確かにこの優しい雰囲気だと男子
にも人気があるように思える。
「初めにも言ったけど、俺会社では隠してるから」
「ごめんなさい、どうしても気になっちゃって」
「人気のあるところで言い争っていたのが悪いんだけど」
あそこまで俺に懐いてくれているとは思っていなかった。
気が付けば陽翔を追いかけていた俺は女子からの視線を気にしたことがなく、社内で人気がある自覚もなかった。今後はどこかで入りするときもう少し注意しないと目撃される可能性もある。後輩みたいに実は男が好きで、という時に出入りする場所は限られてくる。普通に生活をしているとどうしても相手を見つけるのは難しい。
「お前は俺みたいなやつ好きになるなよ」
何より、自分の心が一番理解できていない人間だから、好かれる意味がわからない。
「何言ってるんですか。相川さんみたいなかっこいい人、気にならないほうが難しいですよ」
「実は破滅的に片づけできない男でも」
「逆に母性本能、この場合は父性かな?ギャップは良いと思います」
「それじゃお前、悪い男に捕まるぞ」
俺は決していい男じゃない。未練たらたらで、女々しくて好かれる価値が分からない男。俺が告白したところで、陽翔は困る以外の選択肢がない。
薬指に光る指輪を見たのに諦めきれていない自分。区切りを付けないと、俺自身前に進めない。
「すみません。貴重なお昼休みに。自分以外にも男の人を好きな人に出会えたことが驚きで」
「俺も職場でそんな話をするとは思ってなかった」
仕事だけしていればいいと思っていた場所で、己の羞恥をさらけ出す時が来るだなんて想像していなかった。
どこか嬉しそうな後姿でお昼に向か後輩とは別で、食堂に向かって歩き始めた。
自分の好きと向き合うと決めて、陽翔にどう自分の気持ちをぶつけようかな。
ここまで読んでいただきましてありがとうございます!!