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文字数まばらでごめんなさい!!!!

 陽翔に再会して、自分がどうして野球を始めたのか思い出した。父親が夜ご飯を食べながら見ていたプロ野球中継。父親の隣に座り、食い入るように見ていたら、「やりたいならやってみろ」と言う一言で一式買ってもらい、直ぐに学校のスポーツクラブにも入部した。


 小学校二年生の秋ごろに、陽翔と出会った。先輩達や、同じ学年の子もいる中で、自己紹介をしたときに、一番に声をかけてきてくれたのが陽翔だった。


「こんにちは、どのポジションにするの」


 この時から俺よりも少し目線の低かった陽翔は、新入部員の俺に瞳を輝かせていた。


 テレビで野球を見ていても、それまで公園でキャッチボールなどはしたことが無かった。父親が野球好きだからと言って、野球遊びをしてもらえるとは限らない。


 野球自体の練習には初めての参加だったため、右往左往していた俺に声をかけてきてくれた。教えられたとおりにトレーニングをしていけばいいだけなのに、体が強張ってうまく動けない。監督にも「初めてなら、ゆっくりで良いよ」と優しく声をかけてもらっていた。


「まだ、決めてない」


 かっこいいからという理由でピッチャー用のグローブを買ってもらっていたのはカバンの中にしまっていた。


 陽翔以外のチームメイトも俺に優しく話しかけてくれて、年上の人も優しかったけど、この時の俺は陽翔がとても優しそうに見えた。どうしていいか分からない猫は、初めて優しくしてくれた人に懐く感じ。


 クラブ活動で一緒になって、クラスが違うことに驚いた。


 まずはボールに慣れるために、クラブ活動以外でも陽翔と遊ぶようになっていた。

活動がない日の小学校のグラウンドに集まってキャッチボールの練習をしたり、河原を走って基礎体力向上と称してランニングをしたりした。


「クラス替えもあるから、一緒になれるの楽しみにしてるよ」


 気が付いたら隣にいることが当たり前になっていた。


「陽翔が一緒に居てくれると心強い」


 俺がピッチャーになった理由は、陽翔がキャッチャーを選んだからかもしれない。自分の投げた球が無ければ試合が始まらない、一番の重要なポジション。注目されるのが苦手だったけど、監督からの勧めもあって、ピッチャーとして練習をスタートさせていた。


「仁といるの楽しいから」


 にっこり笑う笑顔が眩しい。陽翔のミットめがけて投げるだけの毎日。


「陽翔は、他のやつと組みたいとかないのか」


 自分の適性とか、チームのバランスとかで、ポジションは変動する。俺もいつピッチャーじゃなくて他の場所を守ることになるか分からない。


 俺の投げるボールを取る姿が見慣れてしまってる。俺以外のボールを取るのを想像したくないと考えていたあたりから、きっと俺は初めから陽翔の事が特別だったのかもしれない。


「監督が決めたら多分そうなるけど、おれは仁のボールを取っていたいな」


 時々打たれたけど、陽翔といれば自分はどこまでも投げ続けられると信じていた。


「俺もずっと陽翔に向かって投げ続ける」


 約束にもならない言葉だったけど、今後俺の人生を決める一番の理由になった。


 陽翔がいるから頑張れる。


 高校も無意識に二人で一緒の場所を選んだ。もちろん二人でバッテリーを組みたいと言う気持ちから。


「高校に行っても野球するなら、甲子園目指さないとな」


「仁の投げる球は俺が全部受け止めるから」


 陽翔が隣にいることが当たり前になって、クラスが違くても側にいることが当たり前になった。バッテリーを組むのも自然に組んでいた。


「そんなこと言って、俺よりもうまいやついるじゃんか」


 同じチームの中でも俺よりもうまいやつはいる。陽翔の方が俺よりも野球の試合を組むのもうまい。努力で補いきれないセンスを、陽翔は俺に教えてくれる。


「仁の努力くをおれは身近でみてるから」


 欲しい言葉をくれる。努力は誰もがしているのに、それなのに一番だと褒めてくれる。

正直野球を始めた時に、レギュラーになれる自信を持っていなかった。

小学校から始めた野球は誰にも県内でも強豪と言われた県立の学校に入学してチームメイトと切磋琢磨して毎日を過ごしていた。


「俺だけがレギュラーになるなるなんて嫌だからな」


「それは、おれも同じだから。一緒にならなきゃ一緒の高校に来た意味ないから」


 スポーツに力を入れている都会の人気高校だけあって、推薦入学はできなかった。学校でエースに選ばれていたとしてもお互いに勉強を頑張って、何とか入学にこぎつけた。


「入学してもレギュラーになれるとは限らない」


 陽翔は入学試験の発表の張り紙を凝視しながら、真剣な眼差しで見ていたのを覚えている。


「分かってる。ここがスタートラインだよな」


「中学校の時で、自分たちよりうまい奴はいくらでもいた」


「敵チームに居たやつとか同じ学校になるのかな」


「そうなったら仁はレギュラー諦めるの」


 合否発表で賑わう中で、陽翔はやっと俺の顔を見た。結果によって両親に話ずらいかもしれないからと言って、自分たちだけで結果を見に来ていた。


 同じチームメイトでも合否発表で涙を飲むやつもいる。


「俺達が超えられたのは第一関門。これからはチームメイトだけど、ライバルだ」


「バッテリー組めるよう、頑張ろうな」


 握り拳をお互いにぶつけ合う。チームメイトは何人いようと、試合に出られるのは九人だけ。補欠になりたいわけじゃない。


 自分たちで掴み取りに行くしかない。


「仁は学業の方も頑張れよ」


 推薦が通らなかったため受験勉強を必死でした。今まで野球漬けで両親もさほど学業に力を入れていなかったため、甘く見ていた。


「おれが教えてあげなかったら受かってたかな」


「その節はお世話になりました」


 相手チームの癖を覚えるのが得意だった陽翔。元々頭のいい奴で同じ学校を受けるのを周囲に止められた。陽翔は野球よりも学業に精を出して進学すべきだとか、俺は頭が悪いから、甲子園を目指さずに楽しく野球をやれる環境の高校を選べだとか。


「仁は大人達を黙らせるために、勉強を頑張った。おれは頭のいい高校を受験するよりも仁との野球をしたくて高校を選んだ」


「ごめん」


 後から教えてもらったのは、陽翔は進学の件で両親と大喧嘩して、実は俺に秘密で別の私立の高校を受けていたらしい。一緒に行く予定の高校に俺が落ちたら有無を言わさずそちらを通う予定だったと、試験に受かったから話すことができると言っていた。


「おれが仁と野球したいって思ったんだ。高校も受かったから後は、全力で野球やっていこう」


 目標は明確にあってそれを絶対に叶えたくて。


 一度きりの人生を全力で頑張っていきたい。


 奇跡的に二年生で正捕手とエースの座に君臨した俺達。二年目の時は甲子園まで行けなかったけど、三年生で行こうと必死になって練習していたのが仇になり、肩を壊した。


「陽翔、ごめん、約束守れなかった」


 それだけしか伝えられなかった。それ以上の言葉を伝えられれば、もしかしたらわだかまりは残らなかったかもしれない。


「仁、おれは、」


「ごめん」


 それ以上の言葉を伝えるほど精神的に強くもなくて、何かを言いたそうな陽翔の声を聴くのも辛かったから、卒業まで逃げ出した。


 チームメイトの誰も俺の事を責めなかった。


 何か言いたそうな奴らもいたけど、俺が逃げていたせいか、途中からは誰も俺に構おうとしてこなかった。


 弱い奴なんだ、俺は。




 ピピピピピッ。


 朝を伝える独特の音に俺は目を覚ました。


「久しぶりに、高校時代の夢見たわ・・・」


 俺はベッドの上に起き上がりながら、先ほどまで見ていた夢を思い返す。

 肩を壊し野球を続けられなくなって、逃げ出した俺。


 初恋が忘れられなくて、引きずっている中で新しい恋なんて成就するわけがなくて、相手を傷つけた。


「変わってなかった」


 安心すると同時に恋焦がれていたアイツが俺の事を覚えていたことに自惚れてもいいだろうか。


「今度、飲みに行く約束したけど、大丈夫かな」


 お酒を飲んだら自分が本音をポロリと言ってしまい、高校時代の気持ちを吐き出してしまいそう。

 知りたいけど、知りたくないそんな心境。


「仕事行きたくないな」


 休めれば楽かもしれない。


 心の整理をしたい。超えられない壁があるのを久しぶりに感じながら、俺はスヌーズ機能で再度なった目覚まし時計を止めた。

ここまで読んでいただきまして誠にありがとうございます

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