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 物理的に距離を取れば断ち切れると思って、陽翔が知っている連絡先も全部変えた。


 俺が地元の企業に就職したけど、県外の大学に行ったと聞いていて、その場所で就職もしたと友達伝手で聞いていたのですんなり再会するとは予想していなかった。同窓会などにも参加しなければ再会しないと思っていた。


「おれは、会えて嬉しかったよ、仁」


 その、タラシなところが本当に昔から変わっていない。自分の感情を隠さないで話していく。純粋な人。


 俺が汚してはいけない純白な存在。


「俺は会いたくなかった」


「なんでだよ」


「甲子園行けなかったの、俺のせいだし」


 エースだった俺の相棒のお前。甲子園に行く約束をしていたけど、最後の夏。練習のし過ぎで俺は肩を壊してしまった。チームとして初戦敗退。


 期待されていた分、俺は申し訳なくて、逃げるように野球部に近づかなくなった。


「それも全部ちゃんと話したかったから、そろそろ観念してもいいんじゃない」


 学校も気まずくて逃げるように生活していて。俺の代わりに所詮投げたやつには責められた。誰もがエースを目指して練習してきたけど、四番も任されていた俺に対するチームからの信頼は高かった。


 勝ちたい気持ちで練習していたのに、それが引き金となって、試合に出ることすらならなくなって。


「陽翔は俺が憎くないのか」


 突然の怪我を憎む性格ではないのは知っているけど、恨み言を言われた方が気持ちが楽なんだ。責めて欲しい。時間を無駄にさせた。


 夢を奪った。


「泣きそうな顔している。仁は責任負い過ぎ」


 俺のが少し背が高いので、見上げるようにして手を差し伸べてくる陽翔は、俺の頭に手を伸ばした。ポンポン撫でてくるその手のぬくもりが、求めていたものなのに、どうして今のタイミングで陽翔はくれるのかな。


 愛しいと思ってくれた彼に俺は与えることができないのに、俺ばっかり欲しいものを手にしてもいいのかな


 撫でていた手を外した陽翔は、控えながら出した俺のスマートフォンの画面から友達登録をし始める。


「同窓会に来てなかったろ。心配していたんだ。真面目なお前は自分を簡単には許してあげないと思っててさ」


 変わらない優しさ。


 お前を嫌いになれない自分が嫌になる。


「女々しくて悪かったな」


 振り向いてもらえない相手を好きで居続けているのも嫌になる。前に進むためには、高校時代のトラウマ、甲子園だけじゃなくてきっとお前に対する感情もハッキリ区切りを付けないといけない。今回みたいに付き合った後に相手を傷つけるくらいならば、一層恋に落ちなければいい。


 俺が変わらなければ、不毛な恋を相手にさせてしまう。貴重な人生を棒に振らせてしまうことになりうる。本気の想いに遊びの返答しかできない、最低な俺。


「分かった、陽翔、時間みて飲み誘うよ」


 飲みに誘われるとは想像していなかった。夢には見ていたが、実際に相手から誘われるとは思わなかった。

しっかりと振られて、前に進もう。


「仁は、おれと飲みたくないの、お酒」


「飲みたいよ」


 お酒でほろ酔いになっり、とろんとした瞳を見てみたい。紅く染まる頬が、お酒によるものだとしても俺は釘付けになる。


「仁、今度逃げようとしたら会社に乗り込むから、覚悟しておけよ」


 クライアントとして出会っているから足がついている。


「会社に乗り込まれるのは、ちょっと困る」


「なら、今度は逃げないで、ちゃんと話聞かせてくれよ」


 陽翔は俺の肩をポンポンと叩いた。


 俺は触られた箇所に熱を帯びるのを感じながら、悲しませてしまった“彼”に謝罪する。俺の我儘に振り回してしまった。今度は素敵な恋が出来ることを願う。


 俺は目の前にいる陽翔に、初恋の人に想いを告げるが来るまで、君に二度目の初恋を捧げよう。恋しているのは、絶対に口が裂けても言えないけど。


 だって君は僕には絶対振り向いてくれないのを分かっている。

キラリと光るものを意識するのが辛くて。繋いだ手を握り返したくても、気持ちが伝わってしまいそうで、手が離れた時は正直ほっとした。


 これ以上は近寄れば俺の方がきっと離れるのを躊躇ってしまう。


 学生時代は進路の事もあり、自然と離れることができた。


「陽翔も、俺に会っていない間の事教えてくれ」


 奥様との惚気話を聞ける自信が正直無いけど。会っていない間どんなことがあったか知りたい。最後は潔く決着をつけるけど、それまでの間、幸せを噛みしめてもいいですか。


 銀の光が俺の感情を伝えなくても拒絶してる。


「今日はもう遅いし、解散しますか」


 颯爽と現れた俺のヒーローは来た時と同じような雰囲気で連絡先を交換したスマートフォンを片手に持ち、駅のフォームに消えていった。

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