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閑話 ① 暴れる王女様



「……ギルバートが婚約……いえ、結婚したですって!?」

「ひぃっ!」

「お、ユ、ユーリカ王女殿下……! お、落ち着いて下さい……」


ドュバティランド王国の王宮では、美しいと評判の姫君、ユーリカ王女が侍女相手に大暴れしていた。


「どういう事なのよーーーー! わたくしそんな事を許した覚えはなくってよ!」


侍女達は、とにかく困っていた。

そもそもとして、ユーリカ王女は暴れると手が付けられない。

こうなった王女を宥める役目を担い、かつ昔から王女の扱いがとても上手かったのが、話題の……今、まさに王女が暴れる原因となっているギルバートだった。


「そもそも、わたくしは護衛騎士を辞める許可すら出した覚えはなくってよ!」


(ギルバート様……どうして辞めてしまわれたのですか……私達には手が負えません……)


侍女達は心の中で嘆き悲しむ。

今からでも構わない。ぜひぜひ、戻って来て欲しい。そして暴れるユーリカ王女を宥めて欲しい……

叶わないと分かっていても、それが、全侍女達の心からの願いだった。


「お、王女殿下……」

「何処の馬の骨の女ですの!?」

「は……? うま、のほね……」


すぐに自分の言いたい事を理解しない侍女にユーリカ王女はまたも苛立つ。


「ギルバートの相手ですわ! どこの馬の骨の女かと聞いているんですのよ!」

「は、はい、えっと……」


そう言われて侍女の一人は慌てて手に入れた資料を読み上げた。


「お相手は、カンツァレラ男爵家の娘の……」

「男爵家ですって!?」


王女は、まだ途中なのに話を遮って更に怒り出した。


「まさか、その芋女はこの王国一の美姫と謳われているわたくしよりも美人だとでもいうのかしら? 有り得ないわよね?」

「あ、いえ……至って普通でこれといって特徴の無い令嬢のようです……平凡……」

「……! なら、若さかしら?」

「あ、いえ……王女殿下よりも二つ年上の20歳のようです」

「若くない! むしろ適齢期が過ぎているではありませんの!! どういう事!?」

「……」


(そう言われましても……)


侍女達は返答に困る。


「なら、お金ね! お金にものを言わせてギルバートに無理やり結婚の話を……」

「あ、いえ……それがカンツァレラ男爵家は没落寸前で借金だらけのようです。むしろ、ギルバート様が借金の肩代わりをしたそうで……」

「ギルバートが借金を肩代わりですってぇぇ!?」


プッツン。

王女の中の何かが切れた音がする。

侍女達はこれはマズイ……と思った。


今日の犠牲者は誰になるのか……侍女達がそんな覚悟をした時だった。

コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえる。

天の助け! とばかりに侍女達は扉へと急いだ。


「やぁ、ユーリカ。さっきから元気な声が僕の部屋まで響いていたような気がするのだけれど、何かあったのかい?」

「お兄様!」


ドュバティランド王国の王太子、ローハンの登場だった。

先程まで、ブチ切れ寸前だったユーリカ王女の顔がパァッと喜びの顔に変わる。


(た、助かった……ローハン様……ありがとうございます……)


侍女達は王太子殿下の登場で自分達が命拾いした事を実感する。


「そんな事はありません。お兄様の気のせいですわ。ですが……そうですわね、ちょっと侍女達とお話していたらあまりも楽しくて、つい白熱してしまいましたの……ゴホッゴホッ」

「! ユーリカ! ほら、あんまり長く起きて無理してはいけないよ。君は身体が弱いのだから」

「コホコホ……ええ、お兄様……ありがとう」


ローハン王子がユーリカ王女をベッドに寝かせる。


(ちょっと生まれた時が少し病弱だったからって、お父様もお兄様も過保護なのよね~わたくしは、もうすっかり元気なのに……まぁ、そのおかげで我儘を聞いて貰えて、ギルバートを護衛騎士に任命出来たのだけど……)


すっかり健康的な王女へと育ったはずの王女はこうして、弱いフリをしながら生きていた。


「コホッコホッ……ところで、お兄様。わたくしの護衛騎士だったギルバートの事なんですけど」

「あぁ。彼は無事に伯爵家を継いだようだね」


ローハン王子は、特に気にした様子もなくそう答える。


(もう! 察しの悪いお兄様ね!)


「ねぇ、お兄様。ギルバートをわたくしの護衛騎士に戻してもらう予定はありませんの?」

「何で? 他の者じゃダメなのかい?」

「……やっぱり昔からそばにいてくれたギルバートでないと……わたくしの心が休まらないのです……うぅ……」


ユーリカ王女は、兄王子がとにかく自分に甘くなるという、上目遣いのウルウル攻撃を使う事にした。


「んー、ギルは忙しいと思うよ? もしかして、ユーリカは聞いていないの? ギルは結婚……」

「聞きましたわ! それでもですの! ギルバートには、ぜひ! わたくしの嫁ぎ先までついて来て欲しいのですわ!!」


ユーリカ王女は兄王子に縋り付くようにして頼み込む。


(どこぞの芋女になんか絶対に彼を渡さないわよ!)


「んー……それは、サティアン殿下が嫌がるんじゃないかな?」


ローハン王子が顔を顰める。

サティアンと言うのは、この度、ユーリカ王女が婚約した隣国の王子の事だ。

マメに手紙を王女宛に送ってくれているものの、肝心の王女が返事を返した様子は一度も無い。

ローハンからすれば、これ以上関係を悪くする様な事は遠慮願いたい所だった。


「……そんな事は関係ありませんわ。わたくしはどんなに反対されてもギルバートは連れて行きます!」

「いや、だからギルはもう結婚……」

「そんなの! 何か理由があるに決まっていますのよ!」

「理由?」

「ええ! ですからギルバートのこたびの結婚は愛の無い結婚に決まっていますの!」

「えっと? ……ユーリカ? 何を言って……?」


ローハンは可愛い妹王女の言葉に戸惑う。


(あの、バカ正直で実直な男が愛の無い結婚? 無理だろう? そんなの相手にすぐバレるに決まっている……それでも、もしもギルがユーリカの言うように、本当に愛の無い結婚をしたと言うのなら、それは相手の令嬢が超がつくほどの鈍感か、もしくは風変わりな令嬢だった場合のみだろう……)


更にローハンは思った。


(そんな令嬢がその辺に都合よく転がっているとは思えない)


だからこそ、ローハンは可愛い妹王女が何を言っているのか分からず困惑していた。

しかし、ユーリカ王女の方は自分の考えは間違いないと確信していた。


(だって、ギルバートが愛しているのは、“わたくし”よ! 結婚相手の芋女は絶対に愛されてなどいないわ!)


────なぜなら……

この国の誰もが知る有名なとある“恋物語”

その主役が……このわたくし、ユーリカ王女で、ヒーローがギルバートなのだから。



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