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没落寸前の貧乏令嬢、お飾りの妻が欲しかったらしい旦那様と白い結婚をしましたら  作者: Rohdea


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第17話 崩れゆく理想と様子のおかしな王子様



(おかしいわ……そして、王女様の美しい顔が……歪んでいる)


私が噂で聞いていた“王女様と護衛騎士様”の様子と全然違う二人……

身分差の恋は? 王女様の婚約によって引き裂かれた恋人同士では無かったの?


(どういう事??)


そのあとも、旦那様(仮)と王女様の愛の会話……どころでは無い、いがみ合いはますます白熱していく。


「……私が笑う事に何か問題でもありますか?」

「あ、当たり前でしょう! 忘れてしまったの!? わたくしはあなたにそう命令を……」

「……あぁ、そうでしたね。ですが、私はもうあなたの専属の護衛騎士ではありませんので」

「……っ!」

「“誰にも笑顔を見せるな”は、王女殿下の護衛騎士だった私への個人的な命令だったと記憶しています。ですから、もう私はその命令は聞けません」

「ギ、ギルバート!!」


何と旦那様(仮)は、恐れ多くも王女様の言葉を遮ってまで強く反論を始める。

一方の反論された王女様の顔は怒りでますます醜く歪んでいった。


「……」


何という事!

旦那様(仮)が全然ワンコでは無くなっているわ!

トクンッ

ワンコ旦那様(仮)との違いすぎるその様子に何故か私の胸が高鳴る。


(ワンコはワンコで、可愛くて好きですけれど、こういう旦那様(仮)も格好良くて好……)


「……」


そこまで考えて一旦、私の思考が止まる。


(あら? ……今、私何を考えた……??)


慌てて自分の頬を抑えると、ほんのり熱を持っている気がする。

トクンッ

え? 何これ。

まさか、私……旦那様(仮)に惹か───



「───あぁ、違うのか……それは残念だ。せっかくこんなに綺麗な奥方に熱い視線を送って貰えたと思ったのに……悲しいなぁ」

「……!」


突然、私の思考を遮るようにして隣からそんな声が聞こえて来た。

私の思考に無理やり割り込んで来たのは、サティさん……にしか見えないサティアン殿下。

いつの間にか王女様の側から離れてこちらに来ていたみたい。


(この口調! そしてこのペラッペラの軽い感じ……髪色は違うけれど、やっぱりサティさんにしか見えないわ)


そう思ってサティアン殿下の方に視線を向けると、彼とバチッと目が合う。


「……」

「…………っっ!」


そして、目が合った瞬間、何故かサティアン殿下のヘラヘラした様子が消えて、頬がポッと赤くなり、ぐるんっと勢いよく目を逸らされた。


(はい……? な、何なんですの?)


しかも、サティアン殿下はたった今、思いっきり私から目を逸らしたはずなのに、直ぐにチラチラと私の方へと視線を向けてはますます頬を赤く染めて目を逸らす……という謎の行動に出てくる。


(ええぇえぇ……?)


何がしたいのかさっぱり分からない。サティアン殿下は完全に挙動不審になっていた。


(はっ! そうよ、サティアン殿下=サティさんだから、私の事を覚えていて戸惑っておられるのね!? それでそんな怪しい動きを……なるほど)


けれど、チラチラされている理由は納得したけれど、頬を赤く染めている理由だけはよく分からない。

もしかして、今日の私の装いは何処かおかしいのかしら? そんな疑問が浮かんだ。

まさかと思い、そっと自分の装いを確認する。


(ランドゥルフ伯爵家の使用人達が頑張ってくれたのだから大丈夫のはずだけれど……)


あ! だけど、旦那様(仮)も少し様子がおかしかった気がするわ。



────……



着替えとメイクを終えた後、顔を合わせた旦那様(仮)は少し放心した様子で、私の名前を小さな声で呟いた。


『アリス……』

『えっと、どこかおかしい所はありませんか? 王女殿下に失礼があってはいけませんもの』


私がぐるっと一周回りながらそう訊ねたら、


『あ、あるものか! だ、大丈夫だ! とても、かっ、か……かわ…………よ、よく似合っている!!』


と、顔を赤くしてワンコ顔で答えてくれていた。

ありがとうございます、と微笑み返したら今度は両手で顔を覆ってしまって……

ますますワンコみたいで可愛いと思ってしまった。



────……



(うーん、男性の心理って難しいですわ……)


いつもいつも、ヒーローの描写には悩まされて大変ですしねぇ。

なんて事を考えていたら、サティアン殿下の方から話しかけて来た。


「コホンッ、あー……………ランドゥルフ伯爵……夫人」

「はい」

「?」


(……えっと?)


返事を返したら何故か、サティアン殿下の表情がぱあっと華やいだ。

そんな反応される理由が分からなくて困惑する。


(……と、とりあえず、ここはサティさんの事を知らないフリをするべきなのよね?)


今、思い返せば、出会ったのは街だし殿下は偽名を使っていた。

あんなに奇抜な色にしていたのは変装の一つだったのかもしれない。

逆に目立ちすぎでしてよ!

と、言いたいけれど、殿下には殿下なりのお考えがあったのかもしれないので、私が口を出す事ではないものね。

そう思った私は、再びじっとサティアン殿下を見つめる。


「……ぐぅ!」


(……あっ!)


殿下が変な声を出された時にようやく、まだ自分が挨拶をしていなかった事に気付いた。

それに腹を立てているのかもしれないわ!

慌てて礼をとる。


「サティアン殿下。ランドゥルフ伯爵の妻、アリスと申します」

「あ、あぁ……」

「本日は夫と共に精一杯おもてなしをさせていただきます。とうぞ、ごゆっくりお過ごし下さいませ」

「あ、あぁ……」

「……?」


挨拶は終えたものの何故か、サティアン殿下は話しかけて来た時のペラッペラの軽い口調がまるで嘘のように口数が少なくなってしまっていた。


(お疲れなのかしら?)


私は心配になって、更にじっとサティアン殿下の事を見つめる。


「……うぅっ! ぐっ! くぅっ……何で……」

「??」


サティアン殿下は、ますます変な奇声をあげ始めた。


(何で……は私のセリフでしてよ。本当にいったい、どうされたのかしら?)




「……っっ! ギルバート! あなた、いったいどうしてしまったと言うの? 今まではわたくしに逆らう真似なんてしなかったでしょう!? 常にわたくしの事を大事にして……」

「王女殿下に仕える身として当然の行動をしていただけですが」


謎のサティアン殿下の行動に困惑させられていると、そこに、王女様と旦那様(仮)の揉めている声が再び聞こえて来た。

あちらはあちらで、もはや一触即発という状態。


(おもてなしとは……)


「だ、だけ? な、何ですってぇ!? 待ちなさい、ギルバート! あなたのわたくしへの特別な愛はどこにあると言うの!?」

「……愛、ですか? しかも特別な?」

「そう、愛ですわ! だって、あなたはわたくしの事をずっと愛……」

「失礼ながら! 王女殿下」


王女様の言葉をなんと旦那様(仮)はまたしても遮った。

大丈夫なのかしら、と心配になる。


「な、何ですの!」


王女様の眉が不快そうにひそめられた。

けれど、そんな王女様に向かって旦那様(仮)は怯む様子もなく堂々と言った。


「王女殿下、私はこれまでもあなたを一人の女性として愛した事は一度もありません!」

「は?」

「そして私は最近、ようやく“愛”というものを知りました」


(───ん? あれ? 王女様を愛して……ない?)


すでに壊れかけていたような気もするけれど、噂を聞いてから“ずっと現実にもあるのね!”と、思って喜んでいた恋物語が音を立ててガラガラと崩れていく音が聞こえた。




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