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第14話 お飾りの妻のはずなのに



───アリス、私は君のそんな、ぽやんとしてすっとぼけた所も可愛くて好きだよ。


(……ん? なんの話ですの??)


まるで、自分がいつも書いている小説のヒーロー様が口にするようなセリフが聞こえて来る。

いや、ぽやんとか、すっとぼけたとはどういう事って言いたいのですけれども!


───私はそんな君を、愛してしまったんだ。


(愛……?)


困ったわ。現実で得られない妄想をこれでもかと何年も書き綴って来たはずなのに、こんな幻聴を聞くのは初めてよ……

自慢にもならないけれど、私、愛の告白なんてされた事ありません!

それがまさか、夢の中で聞けるなんて……


(しかも、旦那様(仮)の声! なんてリアルな夢なのかしら───……?)



───という夢を見た所でパチッと目が覚めた。


「ん? 重っ」


起き上がろうとしたのに何故か起き上がれない。

何かが……何かが私の身体に……

そう思って視線を移すと、私の身体に腕がしっかりと巻き付いている。


「!? うっで!?」


何これ! そう思ったけれど、ぼんやりしていた頭がだんだん覚醒して来た。

そうなると、今度は後ろから自分を取り囲んでいる温もりをじわじわと感じ始める。


「……温かいわ」

「…………ん、アリス……」

「!!」


その声に心臓が喉から飛び出すかと思った。

すぐ後ろから聞こえて来たのは間違いなく旦那様(仮)の声。ついさっき夢でも聞いたばかり。

だけど、現実は妙に色っぽい……気がした。


(そ、そうよ……昨日の夜……私は旦那様(仮)を強引に寝かしつけようとしたら……)


反撃を受けたのだったわ────……



─────……


寝かしつけた……はずだったのに。


「……っ! アリス!」

「え?」


ちょっとだけ荒っぽい様子の旦那様(仮)の声が聞こえたと思ったら、私はそのまま腕を引っ張られて旦那様(仮)の上に倒れ込む。


「も、もう! 何をするのですか!」

「……」


慌てて退こうとしたのに、何故か旦那様(仮)は私を抱え込むように腕を回してそのまま私を抱き込んでしまい離してくれなかった。


「!?」

「……アリス」


旦那様(仮)が、私を抱きしめたまま耳元で優しく私の名前を囁く。

何故か胸がキュンとした。


(こ、この体勢は……色々間違っていますわよ! お飾りの妻と夫の距離では無いと思うの!)


しかも、ベッドの上……! そう言いたいのに声がうまく出てくれない。


「……だん……寝てくださ」

「あぁ、そうだね。アリスが寝ろと言ったんだ。だから横になったよ」

「そ!」


それはそうですけれどーー!


「旦……」


と言いかけた所で、ぐるりと私の視界が反転する。


「え?」

「……」


旦那様(仮)の顔が上にあったのでパチッと目が合う。

そこでようやく私は、自分が旦那様(仮)に組み敷かれた事に気付く。


(な、何故!)


「……アリスの書く話ではこの後の展開はどうなっているのかな?」

「え?」

「夫が妻をベッドの上で押し倒しているのだけど?」

「押しっっ!!」

「アリス……」


旦那様(仮)の手がそっと私の頬に触れる。

紫色だったはずの旦那様(仮)の顔は、ほんのり赤色に戻っていた。


(わ、私の方が、ド、ドキドキする……!)


今、私は間違いなくいつぞやかのように茹でダコ妻になっている気がする!


「…………アリス」

「~~~!!」


旦那様(仮)が再び優しく私の名前を呼ぶと、顔がそっと近付いて来て……



……─────と、私が覚えているのはそこまで。


その後の記憶がさっぱり。

だけど、私はハッと気付く。


(まさか! 旦那様(仮)あの後……寝ている私を……)


…………湯たんぽ代わりにしたのね!!?


だって今、こんなにもがっちり私にしがみついている。

それなら導き出せる答えは一つしかないわ!

湯たんぽ!


(そう……そんなにも寒かったのね、旦那様(仮))


だから、こうして眠っている今もガチガチに腕を絡めて全く離そうとしてくれない。

それなら、そうと言ってくだされば良かったのに!


(変な夢まで見て、ドキドキしてしまったじゃないの)


人騒がせな旦那様(仮)ですこと!

なんて結論に至った所で、


「……アリス…………」

「旦那様(仮)? 起きて…………は、いないわね……」


またしても、色っぽい声で名前を呼ばれたので、ドキっとした。なのに寝ぼけていただけみたい。

旦那様(仮)はサティさんを悪い男と言ったけれど、旦那様(仮)も中々だと私は思うの。


「全く旦那様(仮)は…………うっ!?」

「……あぁ……スベスベだ……」


旦那様(仮)は寝ぼけているのか、私を抱き込んでいた手が少しだけ緩むと、その手がちょっと不埒に動き始めた。まるで、メイド達の磨き上げた成果を一つ一つ確かめるかのように。


「~~~!」

「アリス……私の、さいあ……」

「っっっ! ギルバート様!! いい加減に起きて下さい!!」


恥ずかしさのピークが頂点に達した私の大きな声が部屋中に響いた。




◆◆◆◆◆




「……失敗した、ですってぇ? 本当に使えない王子!!」


(あんなのがわたくしの夫? あぁ、無理! 絶対に愛せない!)


一方のユーリカ王女は、サティアン王子から失敗したと言う話を聞いて、翌朝までずっと憤慨し続けていた。


「殿下、落ち着いて下さいませ」

「黙りなさい! これが落ち着いていられるわけないでしょう!?」


あの芋女、単なる芋のくせに鋭いとでも言うの?

何故、見抜いたの?

そして、渾身のシナリオのとおりに演じたのに胸キュンしないなんて!

やっぱりいもだからね!


───僕の正体に気付いたようだけど、彼女は全く僕を見ようとしなかったよ……


サティアン王子は、そんな事を口にしていたけれど。

それより芋女の事を語る時、頬を赤く褒めていたように見えたけれど……何だったのかしら?


(あぁ、もう! 不貞してくれなきゃ、ギルバートとの離縁が!)


もうこれ以上モタモタしている時間は無いわ。

サティアン王子が国に戻る時、おそらく婚約者である私も一緒に行くように言われてしまう。


(その前に何としてもギルバートと芋女を離縁させて、彼を取り戻さなくちゃならないのに!)


「…………」


ユーリカ王女は、すっと立ち上がる。


「決めたわ。もうこれは、わたくしが直接行くしかありませんわ!!」

「え? 王女殿下?」


(直接、ギルバートを取り返しに行くわ!)


だって、ギルバートもわたくしを愛しているんですもの。わたくしの婚約のせいで泣く泣く別れただけ。

わたくし達は深く深く心の奥底で愛し合っていたわ。

だから、ギルバートもわたくしにもう一度会えば……


「護衛騎士だった頃は、一線引こうと必死に頑張っていたようですけど、もう我慢しなくていいと言ってあげたい! ふふ、そうと決まったら……」


ユーリカ王女は侍女達を睨みつけながら言った。


「誰か! 早く、わたくしのランドゥルフ伯爵領を訪ねる準備を進めなさい!!」




勘違い妻アリス(作者)と、勘違い王女ユーリカ(大ファン読者)の邂逅の時は確実に近付いていた────……



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