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没落寸前の貧乏令嬢、お飾りの妻が欲しかったらしい旦那様と白い結婚をしましたら  作者: Rohdea


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閑話② 企む王女



「……ふんっ! やっぱり身分だけでなく見た目も何もかもが、芋女でしたわ」

「で、殿下?」


ユーリカ王女は私室で“カンツァレラ男爵令嬢”についての調査書を読み終えた後、それをぐしゃりと握り潰す。


「ギルバートはいったい、この芋女のどこがよくて結婚したというの……有り得ない!! やっぱり愛の無い結婚でしてよ!!」


(あぁ、今日も王女殿下のご機嫌は最悪だ……)


侍女達の心の声が一つになる。


「ねぇ? やっぱり、これはギルバートによる隣国の王子と婚約してしまった、わたくしへの当てつけかしら?」

「ど、どうでしょう?」

「……でもね? ギルバートがわたくしに求婚しないで、いつまでたってもモタモタしていたからこんな事になったのよ? わたくしは、ずっとずっとずーーーっと待っていたのに。ねぇ、あなた達もそう思うでしょう?」

「……ソウデスネ」

「ふふ」


ユーリカ王女は賛同の言葉を聞き、機嫌が良くなったので侍女達はホッとする。


「とりあえず、芋女の事はもういいわ、さぁ、あなた達! アレを持って来て?」

「は、はい!」


その言葉を受けて侍女達は急いで本棚へと向かう。


王女殿下の言う“アレ”とは。

それは、王女殿下のお気に入りの“恋愛小説”の事を指す。

ユーリカ王女は特にお気に入りの作家がいて、その作家の本が発売されたら何が何でも必ず取り寄せるようにと常に命じている。


「そうそう。一度、延期になったと聞いていた新刊のお知らせが出ていたわ。次のも必ず発売日、一番に手に入れなさい!」

「は、はい……!!」


それだけ命令してユーリカ王女は並べられた本の中から一冊の本を手に取る。

数あるその作家の本の中でもこの本が王女の一番のお気に入り。


「ふふふ、やっぱりこの話ですわよね。だって、この話は────」


ユーリカ王女がうっとりとした顔で読書の時間を楽しもうとしたその時だった。

部屋の扉がコンコンとノックされる。


「!?」


(わたくしの至福の時間を邪魔しようとするのはどこの誰ですの!?)


特に訪問の予定を聞いていなかったせいか、一気にユーリカ王女の機嫌が悪くなり、それを感じ取った侍女達は震え上がる。

こんな時に王女の部屋を訪ねる命知らずはどこの誰なのだと思いながら扉を開けると……


「やあ、こんにちは、愛しのユーリカ王女。ご機嫌はいかがかな?」

「……」


(……チッ! 出ましたわね、女好き王子!)


先触れもなく王女殿下の部屋を訪ねて来たのは、ユーリカ王女の婚約者である隣国の王子、サティアン殿下。

彼は、数日前からドゥバティランド国に滞在している。


「先触れのない失礼な方はどなたかと思えば……サティアン殿下でしたのね。ご用件は何かしら?」

「ははは! 愛しい婚約者殿の顔を見に来た、ではダメなのかい?」

「まぁ、相変わらず、お上手ですわね、ふふふ」

「……あぁ、今日の君は元気そうだね。毎日毎日“具合が悪いのでお会い出来ません”なんて事ばかり言うものだから、てっきり仮病かと思ってしまっていたんだよ。なので、ちょっと突然訪問してみたんだ」


サティアン王子のその言葉に、ユーリ王女はギクッと肩を振るわす。


「……まぁ、そうでしたかしら? 記憶にございませんわ」

「へぇ、確か、昨日は頭痛と熱があって、その前の日は腹痛、そのその前の日は歯が痛いと言っていたかな……」

「……」


(ネチネチしていますわね……)


「よくもまぁ、毎日毎日、代わる代わる色々な所が悪くなるものだと感心していたよ」

「……ホホホ、虚弱体質ですので仕方ありませんわ」


(いえ、仮病の事はバレていても病弱設定まではバレてはいないわ……! 何としてもこのまま隠し通さなくては……)


“ユーリカ王女”の病弱設定はとても大事だ。

ギルバートをこの手に取り戻す為にも絶対にバレるわけにはいかない。


(だって、病弱を理由にすればこれまでもお願い事は何でも叶えて来てもらったもの。だから、今度だってお願いは聞いてもらえるはず!)


そんなユーリカ王女を見ながらサティアン王子はため息を吐く。


「相変わらず素っ気ないなぁ、ユーリカ王女。一体何が不満なんだい? 君は確かに病弱だけど正妃として僕の元に嫁げるから、将来の王妃になれるんだよ? 嬉しいだろう?」

「…………そうは言いましても、サティアン殿下にはすでに…………コホコホ……」

「ユーリカ王女! 大丈夫かい?」


サティアン王子は心配そうな顔をした。

この王子も連日の〇〇が痛いというのは、自分と会いたくない口実で怪しいとは思いつつも、ユーリカ王女を病弱だと思い込んでいるのは本当だった。


(ふんっ! わたくし、知っていましてよ! この方は大の女好き! 貴族令嬢から平民女まで好みのタイプの女性に手を出しまくって、すでに側妃や愛妾がたくさんいるのよ!)


サティアン王子は一度でも手を付けた女性は妃か妾として召し上げるのだという。


「え、えぇ……大丈夫、ですわ……ケホッ」


(だから、わたくしもギルバートを連れて行って好き勝手しようと思っていますのよ。その為にも早くあの芋女とギルバートを何が何でも離縁させなくては!)


ユーリカ王女は、ここの所ずっとその方法を考えていたけれど、なかなか良い案が思い浮かばずに困っていた。


(ギルバートが振られるのではダメ。ギルバートの方から芋女に愛想を尽かさないと。ギルバートはわたくしだけを見て、わたくしだけに微笑むと決まっているのよ!)


ギルバートが自分以外の女に心を寄せる事はもちろん、心に残す事もユーリカ王女は許せない。

事実、ずっとそうだった。

だからこそ、これからもずっとそうでなくては……と、ユーリカ王女は思っている。


「ん? ユーリカ王女。それは? 君の近くに落ちているその紙は何かな?」

「え?」


サティアン王子はユーリカ王女が手の中でぐしゃぐしゃに握り潰した後、その辺に捨てていたカンツァレラ男爵令嬢に関する報告書を目敏く見つけ、それは何かと訊ねた。


「これは……わたくしの元・護衛騎士が最近結婚したそうですの、それで……」

「あぁ、何かお祝いでも贈ろうと奥方の好みを調べていたのかな? 元部下の為にそんな気使いまでするなんて……ユーリカ王女は優しいんだね」

「……そんな事はありませんわ」


(なんてバカな王子なのかしら。わたくしがそんな事するはずないじゃないの!)


「しかし、人妻か……さすがの僕も人妻に手を出した事は無いなぁ……どれどれ?」


そう言いながらサティアン王子はぐしゃぐしゃになった報告書を広げながら何気なくその書かれた内容に目を通す。

何故、ぐしゃぐしゃなのかは特に気にならないらしい。


「へぇ、可愛らしい令嬢……いや、奥方だね。ちょっと、ぽやんとしている感じが、また。……これまでに出会ったことの無いタイプだなぁ」

「!!」


サティアン王子のその言葉にユーリカ王女は、

「この芋女が可愛いですって!? どこがですの! どこからどう見てもただの芋女で、ブスでしょう!?」

と、反論したくなったけれど、そこでふといい事を思い付いた。


(あ! そうですわ! これなら……ふふふ、わたくしったら天才かも!!)


「……サティアン殿下」

「何だい?」

「わたくし、貴方にお願いがありますの」

「ユーリカ王女が、僕にお願い?」

「ええ!」


ユーリカ王女はとても黒い微笑みを浮かべながら、サティアン王子にお願い事を伝えた。



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