1 魔王軍崩壊
「……よし。作戦は以上だ。」
今話しているのは魔王。会議室には円のテーブルがあり、魔王を含めて八人が座っている。
彼らはそれぞれ『傲慢』『強欲』『嫉妬』『憤怒』『色欲』『暴食』『怠惰』の称号を持っており、七つの軍をまとめる軍団長である。
明日の作戦は人間領での経済の中心である首都、ノートンを奇襲するというものだ。
殺しはしない。人間国との和平交渉をするための第一歩だ。貴族か王族を人質に取って国王と連絡をとらせるだけだ。
私、ローズ·アイバーは『嫉妬』の称号を持つ軍団長で、一番最初にノートンに乗り込む重要な役割を担う。
「分かってると思うが、『嫉妬』が動くまでは絶対に待機だ。失敗は出来ない。」
会議が終わりに近づくにつれ空気がピリピリしてくる。そのピリピリとした空気を壊したのは一発の発砲音だった。
「「「「「「「魔王様!」」」」」」」
魔王の左胸を弾丸が貫く。
「狙撃手がいるぞ!魔王様を守 パパンッ
『憤怒』と『怠惰』が頭に大きな穴を開けて倒れる。
窓から弾が打たれた方向を確認するとそこには銃を持った人間がいた。
「人間だ!人間が打ってるぞ!」
急いで情報を共有しようとしたが後ろを向くと剣を持った人間が八人いた。その足元では倒れた『傲慢』『色欲』『暴食』が赤い水溜まりを作っている。
「クソ!『嫉妬』逃げろ!俺が時間を稼ぐ!軍を動かせ!」
『強欲』を発動し相手の魔力をどんどん吸い取り時間を稼ぐ。
ローズは会議室を出て軍寮に向かった。そこで見たのは火事になっている城下町だった。視界の大半を火が埋めつくし黒煙が立ち上る。
パンッ ローズの右胸に穴があく。
痛い…どうしたらいいんだ?軍を動かす?それどころじゃない…。ここからどうやって……
(…ダメだ…私だけでも生き残らないと……。)
魔王城西にある森に逃げ込むが五人の人間と出会う。すぐに『嫉妬』を発動し相手の反応を鈍らせ、一人一人の首を剣で斬る。
(…一発もらった。逃げるのは厳しいか…)
自慢の大剣カラノを使い穴を掘る。その中にカラノを埋め転生魔法の準備に取り掛かる。
(見つかるなよ…)
「オイ!こっちに魔族の生き残りがいるぞ!」
すぐ見つかった。転生魔法の準備が終わるまで最短であと十五秒。人間が近づいてくる。
(…あと少し…。ダメだ。時間設定ができてない……)
体を弾丸が貫通し、矢が突き刺さる。
(イヤだ……死にたくない…まだ死ねない…あぁ…)
ローズは最期の望みをかけて、不完全な転生魔法を使った……。