蜃気楼の体育祭
『なろうラジオ大賞4』参加作品です。
琢也に晩御飯を作る幸せに押され…エコバックをパンパンにしてアパート戻って来ると階段の脇にあの人が待ち構えていた。
「話せるか?」
「困る」
「場所を変えてもいい」
私はため息をつき…ズシリと重みを主張するエコバックを提げて踝を返した。
商店街のはずれにある…フランチャイズから忘れられたのではと見紛うばかりに古びたコーヒーショップ
狭いテーブルを挟んで黙り込んでしまった二人
「お前…カフェエオレなんか飲んでたか?」
「好みが変わって…バカみたいにコーヒー牛乳が飲みたくなるの! みんなアンタのせい!」
「なんで決めつける! アイツかもしれないじゃねえか!」
「琢也はドジしないもん! なんでアンタなんかに許したんだろう!!?」
「産むのか?」
「産めるわけないじゃん! だからカフェオレ注文するのも今だけよ!」
「お前からもアイツからも慰謝料取るぞ!」
「脅迫する気?! それって男としてみっともないと思わない?」
「不実を働かれたら当然の事だ!!」
「琢也とアンタじゃ月とスッポンなのよ! 誰が見たって『なびくのは琢也』って納得してくれるわ!!」
目の前の男は拳を握りしめた。
そう!そのままこのか弱い女を殴ってしまえ! 公衆の面前で! DVの証拠にしてやる!!
しかし男は震える拳をテーブルの下へ隠した。
「今、幸せか?」
「もちろん!!」
その時、自動ドアが不穏な音を立てた。
「店長~!! また壊れました!! 」
素っ頓狂なバイトの声と入れ違いに入って来た外の喧騒
『5組は今、バトン渡しました…3組速いです。ゴール!! 1位は3組でした…次は1年生の“初めてのダンス”です…』
「…そう言えば季節外れの台風が続いて…その年ガチで練習したソーラン節を踊れなくてさ。自分の子供が出来たら絶対観に行くんだって思ったなあ」
目の前の男がポツリと置いた言葉に私は嚙みついた。
「ああ、女々しい!! そんな根性に付き合ってくれるどこかのオンナを見つけな!」
あれから11年…
どの道が最善なのかはいまだに分からないけど…
「どうして“拓哉”と一緒にお弁当食べられないんだろう! ホントムリ!」
と嘆く…
相変らず女々しいこのオトコの“どこかのオンナ”は結局、私で…
コイツにビデオカメラを向けられハンドサインをくれてやる私は…
まあ…幸せだ。
んー なんと言いますか…
“私”が“憧れの琢也”になびく気持ちも分からなくは無いなあ…って感じの男と女の話。
産まれた子供の名前の拓哉にするのは音読上良くないのは重々承知しているのですが…
まず採用はされないであろうこの作品の“黒い”部分を選んでしまう黒楓でございます( *´艸`)
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