98 ぶはっ
お久しぶりです。
三週間ぶりの更新になりました。
再開一発目は、青いネコ型ロボットが大活躍です。
レジェンドたちもベースキャンプから解散したけど、お父さんと玄武のメイさんが、リヴァイアサンさんの所に集合を掛けたのに、興味津々だったのが怖い。
できる大人のイメージの白虎さんやレッドさんさえも乗り気だった気がする。絶対、一波乱ありそうだ。
それから四日間かけて、王子とイリアス殿下は自分の仕事を調整したみたい。セリカに行った時みたいに、イリアス殿下はある程度紙でできるお仕事を持ち込むようだけど。
今回の王子の領地行きは、大々的に王族のお成り!って喧伝して行く訳じゃなくて、どちらかというとお忍びの旅行だ。肩が凝らなくていいかな。
王宮に集合だったので、私と玄武さんはリュシーお母さまに転移でお迎えに来てもらった。お父さんと子供たちは、走って来たよ。他の人たちは、王宮に前泊だ。
私がいるから、みんなの荷物はお着替えと身の周りの物くらいでいいと思われるけど、さすがに王子がシャツと細身のズボンの「コンビニ行くの?」ってくらいラフすぎる格好で、キャンプセットと一緒にあげたボディバッグ一個で来た時はびっくりした。どうやら旅の間中、街に寄る時以外は、私が保管しているジャージで過ごす気満々のようだ。
お忍びとはいえ、気を抜きすぎなんじゃと心配したら、王子は大丈夫大丈夫と笑っていた。
あ、イリアス殿下がすっごい怖い顔して王子を見た。
で、ちょっと説教してる。テーマは、お忍びでも王族の品位を保つ重要性についてだ。王子はどこに行っても目立つからね。
イリアス殿下はお忍びなのに、相変わらずカチッとしてて着崩してない。さすがだ。
自分が持ってきたジャケットの一つを王子に着せて、取りあえず品位を保てたみたいで、イリアス殿下は満足したようだ。イリアス殿下の方が、王子より少しだけ体格がいいくらいだから、王子はそれなりに着こなせている。
なんか、少しイリアス殿下のお兄ちゃんらしい所を見て、本来は世話好きなのかなと思った。そういえば、「オレリアちゃん」にもいろいろと気を使っていたものね。
それはさておき、今度の旅行はフェンリル一家とレジェンドの玄武さんも付いてくるので、留守の間にベースキャンプが動物に荒らされないよう、迷いの森の結界をお父さんが強化しておいてくれた。
私たちがいなくても、時々他のレジェンドたちがやってくる相談をしていたから、動物が侵入する心配はないと思うけど。なんか、ベースキャンプが、どんどんお年寄りの街角サロンみたいになっていくね。
子供たちは基本的には駆けて行くと言っていた。で、たまに馬車でお昼寝するスタイル。
お父さんは、セリカの旅での教訓を生かし、昼間はこっそりついてきて、夜に合流のパターンになった。
せっかく玄武さんも同行してくれるんだから、お父さんも小さくしてもらって馬車に乗ればいいのにと言ったら、お父さんが身震いして『最終手段だ』と言っていた。そうか、お父さんが小さくなると、王子が壊れて吸われるからか。
馬車は王領地を出るまで箱馬車だけど、次の領に入ったら幌馬車に変える予定だ。イリアス殿下は、公務でもあるので箱馬車で馭者やお付きの人もいるけど、私たちは景色もみんなで楽しむのに箱馬車じゃつまらないからね。
ちなみに、イリアス殿下の馭者の人はセリカ行きにも同行した人たちで、実力も気心も知れていて安心感いっぱいだ。
王子のお母さまも誘ってみたけど、王子が大反対したのと、お母さまが「私が王都を離れるとアルが寂しがるでしょ」と国王陛下との惚気を聞かされてしまったので、今回はお留守番になった。ご馳走様です。
その代わりお母さまは、黒の森の魔女さんたちに困ったらこれを渡すように、と言って、何やら厳重に保管された黒い箱を貰った。
「あ、それ、ちょっと前の騒動の時に、アルに送られてきて、王宮の保管庫に封印されていた呪いの額冠よ」
「おい、魔女。私は初耳だが?」
サラッと恐ろしいこと言うお母さまに、イリアス殿下が睨んで声を荒げる。
そうだよね、国王陛下が呪われそうになったってことだもの。
「大丈夫、私がやっつけておいたから!」
とお母さまは朗らかに笑っていた。呪いより、一番怖いのはお母さまだと思いました。
私は、そのどさくさに紛れてそっとお母さまに箱を戻そうとしたら、笑顔で押し返され、無理やり持たされた。
「あいつらこういうの大好物でお土産にしたら喜ぶから、こっちはゴミを処分できて一石二鳥ってやつ。それに、ハルちゃんの収納なら呪いも防いで一石三鳥よ!」
確かに私の亜空間収納は、瘴気でべちょべちょの飛竜の魔物を収納しても平気なくらいだから、呪いのアイテムくらい大丈夫だろうけど……って、便利収納にされかけてる!
王子に助けを求めると、ちょっと考えていた。
「黒の森のばばあ達は間違いなく欲しがる。いい餌になるから貰っとけ」
と言われたので、私は仕方なく受け取って素早く収納に入れた。
チャリーンと収納音がなって、勝手に鑑定結果が出てくる。
〝呪いの額冠を封じた箱 一〇〇〇万P(額冠込み)〟
……結構いいお値段の呪いだ。
「逆に、その呪いの効果が気になるわね。波瑠、鑑定できそうじゃない?」
ちょっとワクワクして有紗ちゃんがツッコんできた。
確かに、スキルさんがまるで誘導するかのように、「呪いの額冠」の文字を赤文字にしている。またやられた。
とりあえず、見ないのも不完全燃焼なのでポチッとする。
〝呪いの額冠:身に着けた者の意識を奪い、術者が身体を乗っ取るもの。強制的に外すと装着者は死亡するため、装備を外すには聖魔術で浄化もしくは「聖水」が必要〟
「「……わぁ、えげつない……」」
私と有紗ちゃんが思わず同時に言ってしまった。
「よし、俺にくれ。フェンリルかシロが暴走した時に使う」
『何故だ!?』
即決の王子に、お父さんがツッコんだ。
まあ、王子の気持ちは、分からなくはないよ。七星剣の「隷従」の能力の時も試そうとしてたし。そんな王子に、お父さんは前足を王子の顔に押し付けた。肉球が王子のほっぺをムニッとしているよ。
「しかし、人工遺物の一つか?」
そんなお父さんの肉球攻撃に、むしろ身を任せながら(ワンちゃんの肉球好きだものね)、王子はその呪いのアイテムを検証している。
王子が教えてくれたのは、先人が残した強力な効果をもたらす物を「人工遺物」というとのこと。勇者綾人君の武器もこの「人工遺物」に分類されるらしい。それに対応して、出所が分からない古い不思議道具は、「古代遺物」と言うんだって。
「この『呪いの』というの、お前の瘴気ポイントのヤツに似てないか?」
ずっと忘れたふりしてたけど、王子は覚えていた。
私のスキルは、魔物の素材を集めると、その瘴気の汚染度によって「瘴気ポイント」っていう怖いポイントが貰える。そのポイントを使うと「呪いの〇〇」という装備とかが作れちゃうんだった。
「でも私のは、使った人の体力とかが削られるけどパワーアップアイテムだったよ?」
だから、こんな、誰かを不幸にするためだけのアイテムじゃないと思うけど。
「まあ、お前のはそもそも相手を呪うことが目的じゃないからな」
そう、それ大事なとこ。
『人間は呆れたものを作る』『まったくだ』
玄武のメイさんもお父さんもため息交じりに言った。確かにね。
『まあ、一番人間が恐ろしいと思ったのは〝奴隷紋〟を作った時だがな』
いつもは快活なクロさんが、かなり不快そうにそう言った。
「ドラ〇もんを作ったの!?」
「ぶはっ!!」
私が思わず聞き返したら、有紗ちゃんが盛大に噴いた。で、「そんな訳あるか!」とツッコまれた。だって、さっきクロさんが言ったよ?
「〝ドラ〇もん〟じゃなくて、奴隷紋だ。百年ほど前まであった奴隷制度で、奴隷の逃亡防止と絶対服従のために、激痛や死を与える非人道的な魔術だ。今それは禁術で、使えば厳罰が下される」
イリアス殿下が丁寧に教えてくれたけど、心臓の上に魔術で刻まれる紋様で、奴隷が所有者に叛意を抱くと激痛や酷い時は死を与えるようになっていて、これを刻まれると人間と見做されなくなるそうだ。
クロさんが不快に言い捨てるのも分かる気がしたよ。
「それにしても、何なのだ、ドラ〇もんとは」
有紗ちゃんが、イリアス殿下がドラ〇もんって言ったら爆笑しちゃって転げまわるものだから、とうとうイリアス殿下が興味を持っちゃった。
「いやぁ、何だと言われても、私たちの世界の架空のお話に登場するキャラクターで、何でも入るポケットから不思議で便利な道具を出して、友達を助けてくれるという存在です」
そう説明したら、全員が一斉に私を見た。
「「「「ハルの話か」」」」
「なんで!?」「ぶはっ!」
私が咄嗟にツッコむのと、有紗ちゃんが三度目を噴き出すのがほぼ同時だった。
どちらかというと、私のスキルはネットショッピング的な感覚だ。心外です。
有紗ちゃんが、持っていた短剣で地面にひぃひぃ笑いながら絵を描いて、みんなに「こんな感じ」と説明していた。
……有紗ちゃんも中々の画伯ぶりだ。
ほとんどが歪な丸で構成されたその絵を見て、王子とお父さんが「似てる」と言って爆笑した。心外です!
私が怒って王子の肩をぽかぽか殴っていると、そろそろ出発の時間だとイリアス殿下のお付きの人に言われたので、仕方なく王子を解放する。
みんなさっさと馬車に乗り込んでいって、私だけちょっと不完全燃焼だ。
ブスッと膨れながら馬車に乗り込もうとする私にお母さまが近付いてきて、ほっぺをツンツンとつついた後、徐にそのほっぺにチュッとキスされた。
「この旅の無事をお祈りしました。ハルちゃん、オーレリアンのことよろしくね」
ほっぺから、お母さまの唇が離れる間際、小さな声でお母さまがそう言った。
そうだね。お母さまの分まで、王子を治すための素材を探してきます。
私は、声に出す代わりにお母さまの細い身体に腕を回して抱き付いた。
「行ってきます、お母さま」
お母さまに挨拶をしたら、頭を撫でられた。くすぐったくて、少し照れくさい。
それじゃ、出発だ!
セリカへの旅と違って、とても穏やかな旅程だった。
ゆっくりと進む馬車の中で、他愛もない話をしたり、おやつを食べたり、こまめに休憩を取って、別の馬車のイリアス殿下たちと交流したりと、ゆったりと過ごすことができた。
馬車は、王都を出て最初の宿場町で、大きな幌馬車に変えた。
幌馬車と言っても、雨に備えてしっかりと覆いが掛けられるものだ。馭者は、イリアス殿下の馬車と合わせて、専属の人たちが付いていてくれるから、私たちは日よけ分の幌を残して、側面を解放して景色を楽しみながら進んだ。
今は、農村のような所を進んでいるけど、あと二日もすると、今の王都に遷都する前の旧王都アルテに着くようだ。
そこは国の南北を繋ぐ要衝で、未だに王都に劣らない賑やかな都市みたい。
何といっても、そこは地中海のような内海に面しているから、お魚が有名らしい。楽しみだ!
今日は、途中の道で、昨夜降った雨の影響で流木が橋に引っ掛かって、少し通行止めで足止めされた影響で野宿することになった。
普通王族がいたら、日程をどれだけずらしても野宿しないものらしいけど、そこは王子とイリアス殿下だから、全然問題ない。王子はむしろキャンプ道具を使いたがるくらいだ。
そんな訳で、街道横の森がちょっと開けた場所にキャンプを張ることにした。
暗くなってきてからお父さんも合流だ。
馭者の人たちはセリカ行きで慣れているけど、今回初めて参加するイリアス殿下のお付きの文官の人は、お父さんを見てびっくりしていた。
「あの者の反応がまともな反応だぞ」
そう言って、自分がまるで常識人かのようにイリアス殿下が教えてくれたけど、殿下も普通にエアマットを自分で空気入れしていて、キャンプ道具を違和感なく使っているから説得力がない。まあいっか。
今日の夕飯はカレーだ。野宿、いや、キャンプと言ったらカレーだよね。
お野菜がゴロゴロでひき肉たっぷりのヤツ。
今日は夏野菜を素揚げにして、ルーにトマト缶を入れて少し酸味を足した。暑い日にはこのカレーが好きなんだ。
お父さんや子供たち用に甘口も用意したよ。
あとは、有紗ちゃんリクエストの、簡単で美味しいさっぱりお豆腐サラダと、海鮮のガーリックバター炒めだ。手間が掛かってないのに美味しいヤツ。
相変わらず、カレーの匂いはテロだ。でも、周りに全然人がいないからOKだよね。
お父さんやガルたちがいるから、見張りもいらないから、お堅いイリアス殿下からアルコール解禁の許可が下りた。今日は、みんな缶ビールで乾杯だ。子供たちとお父さんにはラッシーを作ってあげたら、王子と有紗ちゃんも飲みたがったよ。
白米もカレーもびっくりするくらい無くなっていくね。
今度は暑い日には中華もいいなぁ。麻婆豆腐とか回鍋肉とか。
そんなことを考えていたら、ふとお父さんが耳をパタパタした。
『人間が森から近付いてくるぞ』
真面目な声で言っているけど、口の周りがカレーだらけだ。濡れたタオルで拭いてあげると、青い目をスッと細めて森の奥を見た。
『人数は二人だが、一人は子供だ。あと、変な気配がする』
その言葉に、ユーシスさんとアズレイドさんが森に向かって立って、他のイリアス殿下の護衛の人たちとレアリスさんが私と有紗ちゃん、王子とイリアス殿下の前に立った。
『俺が見てくる』
ガルが偵察を申し出てくれた。
そして、森の中に入って五分もしないうちに戻って来た。後ろに、大きな人影を連れて。
『この人間、怪我してる』
そうガルがユーシスさんに言うと、ユーシスさんが王子に目で尋ねる。王子が頷いて、ユーシスさんがその人の前に出た。
ガルは人間の悪意にも敏感だから、その人には私たちに対する敵愾心はないと思われたから、王子が許可を出したようだ。
二人が並ぶと、背の高いユーシスさんよりも、その男の人はもっと背が高く体格が良かった。
「何者だ」
ユーシスさんが静かに尋ねる。
その人は、身体に巻いていた縄を外すと、背中に背負っていた何かをユーシスさんに「頼む」と言って渡した。それは、ボロボロの服を着た五、六歳くらいの小さな女の子だった。
顔色はよく見えないけど、ぐっすり眠っているようだ。
そしてその人自体もボロボロの服で、特にシャツの前が刃物で切られたように大きくはだけていた。
女の子を預けて安心したのか、その人がドッとその場に倒れた。そして一言。
「……腹減った」
俯せに転がったその人のお腹から、ぐぅ~という音が盛大に鳴った。
よく見たら、その人の腰には、私の身長くらいありそうな長いものが布に巻かれて括られていた。
ユーシスさんは、女の子をレアリスさんに渡すと、その人の横に膝を突いた。
「悪いが、その剣は預からせてもらう」
ああ、その布に巻かれたの、剣なんだ。でもそうすると、相当大きいものだね。その人の体格くらいじゃないと扱えないものだ。
ユーシスさんが頷いたその人から慎重に剣を外すと、その人はゴロッと仰向けになった。その拍子に、その人の胸が大きくはだけて、見るとはなしに肌が見えてしまい、思わず息を飲んだ。
無数に走った傷は、古いものからまだ血が滲む新しいものまであった。元は白かったと思われるシャツが茶色く変色しているけど、皮脂や泥だけじゃなくて、多分血が乾いて付いた色が一番多そうだった。特に、お腹のあたりに、深い傷が見て取れる。
それもだけど、それよりも嫌な予感と一緒に目についたのが、体格に見合ったすごい分厚い胸板の真ん中のやや左寄りに描かれた、赤い蛇が自分の尾を噛んで円を作った刺青のようなものだった。
『ほう、奴隷紋か。久しぶりに見たな』
玄武のメイさんがその人の模様を見て言った。予感が当たって、その模様が今は禁術となっているあの魔術だと分かった。その場に緊張が走る。
その人は、ぼさぼさの赤い髪をして、顔中髭だらけで力なく目を瞑っていたから、どういう表情をしているのか、いくつくらいの人なのか読みにくかったけど、玄武のメイさんが喋ったことに目を開いた。目の覚めるような金色の目だった。
なんか、この人の色彩、どこか竜のレッドさんを思い出す。
シンと静まり返った空気の中、ポツリと有紗ちゃんが言った。
「……ドラ〇もん……」
「「「「「「ぶはっ!」」」」」」
イリアス殿下とその男の人以外、その場にいた全員が一斉に噴き出した。
緊張感が、台無しだね。
体調を崩していた時に、なろうの他の作品を読んでいて、〝奴隷紋〟という言葉が出てきた時に、ピシャッと天啓が降りてきてしまいました。
パク……オマージュした結果、また寄り道をすることになりましたとさ。
月100時間ペースで残業していると、ちょっと頭がおかしくなるようですので許してください。
さて、そんな訳で、連休中に書き溜めができるといいのですが、もうそろそろ本業もひと段落すると思うので、できるだけ週一更新は続けていきたいと思っておりますが、いつ執筆できるかが読めない状況です。
更新の際は閲覧よろしくお願いします。




