89 ハイスペックにも程がある
本業で1週空けてしまいました。
とりあえず、最近ちょっとお株が下がり気味のあの男のお家が出てきます。
なんか寝落ちで、修正原稿が間に合わなかったので、2/6 2:07に修正したものアップし直しました。
いやー、寝落ち怖い。
R6.5.18 諸事情により、幼女を少女に格上げしました。
背の高い男性に囲まれて、ジトッと背中に汗を掻きそうになった。
べ、別に、悪いことはしてないよ。ただ、ちょっと信じられないようなことが起こっただけで……。あと、すごい高価な物をもらってしまったけど。
「確か、ファルハド殿の故郷の辺りでは、髪に関する装飾品は求婚の時に贈るとか。とうとうやりましたね」
ドキッ。ユーシスさん、なんでそんな細かい事知ってるの?
っていうか、とうとう、って?
「やっぱりか!あいつ、なんか怪しいと思っていたんだ」
王子が盛大に眉間にしわを寄せた。
え?やっぱりって?
「ええ、殿下にぶーい。結構初めの方からちょこちょこ接近してたわよねぇ、リウィア?」
「俺は途中参加だ!」
「あ、ええと、私も分かりかねます……」
初めの方から!?セシルさんの言葉に詰まるリウィアさんを見ると、ぶんぶんと首を振った。
セシルさんって、私の睡眠薬事件で、結構序盤に離脱していたよね。って、それで分かるって、ほぼ出発地点……。
「ギョーザの時も過剰な接触だった」
レアリスさんが報告するのは、きっと自分が皇帝陛下の息子だとカミングアウトした時のことだ。
でもあの時は、レアリスさんが私の顔を餃子の具と粉まみれにしたから、それを取ってくれただけだったでしょ。誘われたのはリヨウさんのお嫁さんだったし。
「なんか、休憩の時、隣に座ったらすっごい距離近かったし、何気なくずっと近くにいたわよねぇ。特に魔獣たちと戯れてる時にあまーい顔してたわ!」
「何だと!?」
子供たちやびんちゃんと遊んでいた時のことを言われたら、それは小動物好きだからと言えるけど、セシルさんの言葉でふと、州城での夜のほっぺを撫でられた時のことを思い出してしまった。
あの時は、何か「黙らせたい」みたいなことを言われたと思ったけど、今思えば違う意味があったんじゃ……。
もう、無理。今、間違いなく、倒れそうなくらい顔が赤くなっている。
「……その顔、他にも何かあったな?」
冷ややかな声で問いかけてきたのがイリアス殿下だ。私が言葉に詰まって口をパクパクさせていると、氷のような目で見てきた。
「いま一つ、お前は自分の立場が分かっていないようだな。お前の婚姻は、もはやお前一人の事情とはいかない。国にとっても大事だ。実情を知らない馬鹿な奴らが、それでお前の所有を決めようとするやもしれんからな」
そんな馬鹿な。と思って周りを見たら、みんなが一斉に頷いた。
な、なんで?いつの間に私ってそんなことになってたの!?
「という訳で、詳しく聞かせてもらおうか」
イリアス殿下まで参戦された。
「……黙秘権は?」
「「「「ない」」」」
どなたか、人権擁護団体の方を連れて来てください!
私が進退窮まっていると、遠くから歩いて来た人と目が合った。
「波瑠!戻って来たのね!」
「有紗ちゃん!」
「ん?何か、私の名前と違う声が聞こえたような」
一瞬緩んだ包囲網から、私は多分人生で最速の駆け足で有紗ちゃんの下に走った。
「どうしたのよ」
有紗ちゃんの腰にギューッと抱き付いた私を、有紗ちゃんもギュッとしてくれながら、男性陣の方を睨んだ。
「アリサ。俺たちは正当なる権利を持ってハルを尋問していた」
「はぁ?私がちょっと目を離した隙に、ハルがちょっとプニッた罪より重いものなの?」
……プニッた。うん。ちょっと宴会とかやり過ぎて、ウエストが、ね。
「どこがプニッたか教え……いや、そんな場合じゃない!そいつが勝手に求婚されやがったんだ」
「波瑠。白状しなさい」
瞬で、いやむしろ王子に被せ気味で手のひら返しをした有紗ちゃんに、私は絶望の目を向けた。
もはや、これまでか……。
私に迫る人間が増えた中、背水の陣の私に、また奇跡が起こった。
「そなたたち、いつまで陛下をお待たせする気だ」
「レイセリク殿下!」
「ん?私の名前と違う響きが聞こえた気が……」
また、私史上最速更新の駆け足で、その包囲網を再び抜ける。
さすがに王太子殿下に抱き付く訳にはいかなかったので、ササッと殿下の後ろに隠れた。王子も言いくるめられないレイセリク殿下に、不服そうながら追及の手を緩めた。
陛下との謁見が、こんなに嬉しいと思える日が来るとは思わなかった。ありがとうございます、国王陛下。
ふふん、とちょっと浮かれていると、ちょいちょいとガルが私の裾を引っ張った。
『ああ、浮かれてるとこアレだけど、大変なことが起きたぞ』
「え?」
大変というから何かと思ったけど、ガルの深い溜息から、緊急性の高い事態や、深刻な事態では無い事は分かった。
でも、アレと言ったら、アレだ。さぁ、来い、レジェンドたち!
私たちは、上を見、下を見、左右を見た。でも、来ないよ?
私たちが首を傾げていると、私たちの荷物を整理してくれていた人たちから「な、なんだこれは!?」と、どよめきが起きた。
そして、その荷物の中から『よいしょ』と言って這い出て来たのは、なんと、セリカで別れたはずだった、小っちゃい玄武さんだった。
『どうも。お世話になります』
「お世話になります、じゃねーーーー!!!」
チャッと、右前足を挙げて挨拶する玄武のメイさんに、王子が渾身のツッコミを入れた。
常識的なクロさんは!?と思ったら、何故か蛇のクロさんは甲羅の上で気絶していた。
……どうやらメイさんがこっちに来るために、力に訴えてクロさんを黙らせたようだ。
辺りの様子を窺うと、沈着冷静な貴公子であるレイセリク殿下が、驚いたように目を瞠っていたのが印象的だった。イリアス殿下は、目頭を揉んでいる。頭痛がするんだね。
で、生温~い空気のまま、国王陛下との謁見となった。
広間に通されて、少し高くなった場所に据えられた玉座に、左隣に設えられた王妃の座があって、本日はその両方に人が座っていた。私は初めてお会いする王妃様だ。
近付いて分かったけど、レイセリク殿下は完全に王妃様似だ。エフィーナ王妃様は、もう「これぞ貴婦人」という言葉がピッタリな人だった。
やっぱりイリアス殿下は国王陛下に似ておられて、ああ、ってなんか納得したよ。そうか、王子とイリアス殿下もどことなく似ていると思っていたけど、三人とも口許がそっくりだね。王子はそれ以外お母さまに瓜二つだけど。
で、国で一番と二番目に偉いお二人が、ユーシスさんに抱っこされた玄武さんを見て、一瞬固まった。
最初に立て直したのは王妃のエフィーナ様で、サッと手に持った扇子で口元を覆って不動の姿勢となった。国王陛下は、レイセリク殿下と同じような表情だったものの、こちらは数瞬で立ち直って、今度はイリアス殿下そっくりに一度目頭を揉んで何事も無かったかのように振舞った。
さすが国のトップの自制心が凄い。
なんか、本当にすみません。
そうして、謁見の途中で目を覚ましたクロさんが、一瞬で状況を把握し、「何してくれたんじゃ!」と、メイさんに頭突きをした後、国王陛下に謝っていたよ。
セリカの神獣と呼ばれる玄武さんの謝罪に、謁見の間はちょっとざわついていたけど、これはセリカもレンダールも変わりないんだね。
そんなこんなで、玄武さんと子供たち以外、全員胃が痛い謁見を終えて、このままベースキャンプへ帰る運びとなったんだけど、一緒に転移しようとしていた王子が、イリアス殿下に首根っこを捕まえられて引き留められた。
「お前は、どこへ行こうというんだ?」
「俺も、迷いの森に帰るんだぁぁ!」
玄武さんに関する協議で、どうやら王族は居残りのようだ。イリアス殿下に引きずられながら、王子の心の叫びが尾を引いて、その後をアズレイドさんが付いて行った。頑張って、レンダール王家の皆さん。
「さて、そうすると、これからどうしよっか?」
セシルさんが楽し気に伝えて来るけど、みんな王子がベースキャンプに連れて帰る予定だったけど、これは明日まで掛かりそうなので、今日はベースキャンプに帰るのは見送りのようだ。
多分、王族の人が王宮に部屋を用意してくれるみたいだけど、迎賓館的な場所になるようなので私は全力でお断りしたから、ちょっと宙ぶらりんだ。
元の私がいた部屋でもいいんだけど、と言ったら、セキュリティに問題があるとのことで却下された。私以外、王宮での滞在場所があるからいいけど、私だけどうしたものかということで、先ほどのセシルさんの発言になった。
「残念だけど、あたしは実家から勘当されてるから招待できないわぁ」
どうやらセシルさんは、レイセリク殿下の最側近候補だったのに、十八歳の時に、「神の声が聞こえる」と言って出家してしまって、御当主が激怒して、実家は出入り禁止になっているみたい。
……凄いエピソードしか出てこないね、セシルさんも。
他のみんなも、一人暮らしで同じような状況だった。
「それなら、ハルはうちで預かろう」
そう申し出てくれたのはユーシスさんだ。
なんでも、王宮からほど近い場所にご実家のタウンハウスがあって、自由に使っていいそうだ。いつも忘れがちだけど、ユーシスさんって貴族の家柄だったんだ。それを言ったら、ここにいるほとんどの人が王侯貴族なんだけど。
「あら、だったら私も行くわ。波瑠とずっと会ってなかったんだもの」
と有紗ちゃんが手を挙げたら、セシルさんもレアリスさんも挙手をしたけど、ユーシスさんは、「部屋数だけはたくさんあるから」と苦笑してOKしていたよ。
『私たちも連れていけ』と、玄武のメイさんが言うと、クロさんも謝りながらもお願いしていた。もちろん、子供たちも一緒に行くよ。特にスコルは大喜びだ。
リウィアさんは、早く弟さんに会いたいのもあるけど、まだご実家でお父様と顔を合わせる心の準備が出来ていないとかで、家出した時にイリアス殿下が用意してくれた場所へ一度戻るようだ。
喧嘩したから気まずいのかなぁ、と思ったけど、どうやら勝手に家を出たことと髪を切ってしまったことがバレるとマズいようだ。「五体満足でいられるか……」とマジトーンで呟いたリウィアさんが怖い。
そんなこんながあり、ユーシスさんが先触れを出して、管理している人に準備をしてもらうみたい。ユーシスさんのお家の領地は遠くて、社交シーズンも終わりなので、お家の方たちは領地に戻っていると言っていた。
リウィアさんと別れようとした時、お城の衛兵っぽい人が駆けて来て、リウィアさんに声を掛けた。
「ファビウス公爵令嬢リウィア様でしょうか。鷹便がありまして、これをお渡しします」
そう言って渡された紙に書かれていたのは……。
〝一時間で行く。公爵邸で待っているように〟との文字。
「フォルセリア卿!私も匿ってください!」
も、って、私たちは匿ってもらうんじゃないんだけど。
イリアス殿下が用意した場所は公邸の一部らしく、公爵であるお父様の侵入を防げない場所のようだ。それでユーシスさんちの私邸であれば容易には入って来られないということで、リウィアさんが頼んだわけだ。
お父様の若かりし頃のあだ名が「深紅の猟犬」という猟奇的な名前だったことから、誰もがリウィアさんの懇願を大げさなものだとは思えなかったんだと思う。
そんな訳で、最速で馬車を用意してもらい、私たちは逃げるようにフォルセリア邸へ向かった。
ユーシスさんのお宅は、なんか、周りの貴族のお屋敷よりもお洒落で大きかった。
あと、王宮からめっちゃ近かったけど、王宮に近ければ近い程地価は高いらしくて、それだけでもなんか凄い額が掛かったお屋敷だと思われる。
どうやらフォルセリア子爵家と言ったら、有名な商会を複数持つ、レンダール有数の富豪のお家らしい。
どうりで、令嬢たちがなりふり構わず押し寄せるわけだ。カッコよくって、有望株で、実家がお金持ちだったら、それは肉食系な女子には逃がしたくないお相手だろう。おまけに強くて、お料理が出来て、時々ちょっと怖いけど優しいし。
え?宇宙人ですか?
「まさかの非人間扱いとは。女性からそういう目で見られるのは新鮮だ」
そう言って、私に向けるユーシスさんの笑顔が怖いのはなぜだろう。褒めてるのに。
そんなユーシスさんのエスコートで馬車を降りると、レアリスさんが門衛の人と挨拶をしていた。レアリスさんは何度かこのお屋敷に来たことがあるみたいだ。
聞いてみたら、神殿勢力から一時保護されていた時に身を寄せていたのがここみたいだ。このお屋敷のセキュリティは、この国でも指折りらしいから、匿うのには打ってつけだとか。
なんでも、お父様の家系は代々事業で財を成してきたみたいだけど、お母様が有名な武門の出らしくて、そちらの伝手で凄い厳重なお屋敷になったみたいだよ。お金持ちは狙われるってよく言うしね。
ポーチのような場所を歩くと、玄関でドアマンみたいな人が扉を開けてくれた。もう日本なら、ポーチだけで一軒家が建ちそうだよ。超高級ホテルと遜色ないよね。
「噂には聞いてはいたけど、予想以上に凄いわね、ユーシスの家」
子爵家って、貴族では低い方の爵位だけど、フォルセリア家は十五代続く古い家柄で、資産はトップクラス。実質、上から二番目の侯爵位くらいの権威はあるみたい。
ユーシスさんの肩書は、近衛騎士隊副長だけれど、レンダールの騎士団のトップクラスの実力がないとなれない近衛騎士は、隊とは言っても実質国の騎士団のトップだ。
現に近衛騎士隊隊長は騎士団長を兼ねていて、ユーシスさんはその補佐だから、ほぼこの国の軍人さんの頂点に近い人だ。
でも普通は、そういう高い地位には相応の爵位がないとなれないみたいだけど、今代のフォルセリア家に限っては、子爵家という爵位は足枷にはならないようだ。
何故、今代かというと、お母様の御出身というのが、昔から英雄を何人も輩出しているルハルト辺境伯家っていう、武門の名門中の名門だからだって。
玄関で、すでにおのぼりさん状態でお屋敷を眺めている私に、ユーシスさんは中に入るようにと、さり気なくエスコートしてくれた。
中に入ってもその驚きは変わらなくて、大きなホールのような玄関に思わず口開けて眺めいたら、パタパタと軽い足音が響いた。
「お兄さま、おかえりなさいませ!」
「フィオ、何故ここに? それに走るなんてはしたないぞ」」
「だって、お兄さまがいらっしゃるのに、じっとなんてしていられないわ!」
高い声と一緒に現れたのは、ユーシスさんとそっくりの金茶の髪と緑色の目をした、とびっきりの美少女だった。多分、十歳くらいだけど、とても快活で天真爛漫だ。
ユーシスさんの胸に飛び込んだその美少女を、ユーシスさんは仕方がないとばかりに片腕に抱き上げる。溺愛だ。
「お父さまもお母さまも、お兄さまのお帰りを待っていたのよ」
「そうか。ありがとう」
なるほど。領地にお帰りになったと聞いたけど、間違いなくユーシスさんのご家族のようだ。そういえば、ユーシスさんには年が離れた弟妹がいるって、前に言っていたのを聞いたことがある。
「あ、レアリスもいるのね!」
ユーシスさんの妹さんが、レアリスさんに気付いた。レアリスさんが滞在していた時に知り合いになったんだね。
「お久しぶりです、フィオナ嬢」
レアリスさんは、フィオナちゃん? に丁寧に挨拶する。それをユーシスさんに抱っこされながら、優雅に受け取った。既にレディの風格を漂わせている。何者!?
「やぁ、おかえり、ユーシス。お客様方もようこそ」
そこへ、よく通る低めで快活な声で労う、茶色の髪に緑色の目をした、ユーシスさんそっくりの甘い顔立ちで背の高い王子様のような女性。御当主の奥様、つまりユーシスさんのお母様。
「怪我などしなかったですか?」
たおやかに優しく微笑みかける、金髪で青い目をした、華奢なお姫様のような男性。フォルセリア子爵家御当主のお父様だ。
「ただいま戻りました。母上、父上。領地にお戻りではなかったのですか?」
なんか、ご両親のイメージが違った! でも、おそらく50歳前後だと思われますが、非常に若々しくキラキラしたご家族です。
「ああ、軍部から要請があって、十日ほど遠征に行ってきたよ」
と、お母様。
「社交が終わっても、国家予算の補正に意見を求められて、昨日まで予定があったんですよ。それに、来季のドレスや宝飾品の受注に忙しくてね」
と、お父様。
やっぱりユーシスさんのご家族だけあって、皆さん只人ではないようです。ツッコミたいことがいっぱいです。
「さあ、皆さん。どうぞごゆっくりなさってくださいね」
思わず見惚れるような御当主の笑顔は、間違いなくユーシスさんに受け継がれている。
うん。ここまでくると、もう主人公スペック?
ユーシスさんは、なんで王子の騎士をやってるんだろう。
というわけで、子沢山という前情報しかなかったフォルセリア家ですが、ちょっとフックが多めのご家族のようです。
そして、亀と蛇、なんでいるんでしょうね。
さて、先週は本業の都合により、一週更新が飛んでしまいました。この先も更新が危ぶまれております。
でも、出来るだけ頑張りますので、更新できたらぜひ見てください!




