88 スキル無双
いやー、投稿できてよかった。
そして、スキルいっぱい使います。
レンダールへ帰る日。私は完全に寝不足だった。
ガルが迎えに来てくれた後、私が持っていた髪留めを見て何かを察したガルが、『とりあえず明日考えろ』と言って部屋に連れて行ってくれた。ガルくん、君は本当に、「体は子供、頭脳は大人」だね。
部屋に戻って、貰った髪留めをナイトテーブルに置くのもどうかと思って、どうしたらいいか分からずに、思わず亜空間収納にしまったら勝手に鑑定が働いてしまった。
うっかりしてたけど、そうだった!!時すでに遅し。
〝求婚の髪留め(女性に人気の高い意匠でファルハドの魔力入り) 500万P 使用魔石は最高級品 年収の一割よりちょっと高めで、急ぎの割にまあまあ頑張った〟
「ブッ!」
スキルさんが勝手に分析している。しかもなんか変なルビが見えるよ。それも上から目線の感想入りの鑑定だね。
大学にもこういう人いたなぁ。ブランドに詳しくて、パッと見だけですごい精密な鑑定してちょっと辛口な人。スキルさんって、絶対女子だよね。
っていうか、スキルの「天恵」が働いているから、500万って言ったら元値250万。さすが、セリカの高官のお給料……って、そこじゃないよ、私!?
わざとじゃないけど、なんか、凄い罪悪感が……。人に貰ったものの価値を見ちゃうとか、最低だ。もうなんか、もう、なんか……。
『ハル。全部忘れてもう寝ろ』
かなり遅くまでソファでグルグルといろんなことを考えてしまった私に、ガルが隣に来て、肉球をペタッとおでこにくっつけて言った。
なんか眠れる気がしなかったけど、お布団に入ったら、いつもは妹たちがいると足元にしか寝ないのに珍しく私の左に寝てくれたから、久しぶりにガルをギュッとして寝た。耳もモミモミさせてくれたよ。
それで朝、身支度を整えた後、応接室みたいな所でハティのお腹に顔を埋めていたら、寝不足で顔がむくんでいる私に、レアリスさんが濃いめのブラックコーヒーをそっと差し出してくれた。
そんなに顔に出てますか?
朝食の時に食堂に行ったら、ファルハドさんがリヨウさんと談笑していて、私と目が合うとふわりと笑った。ぐぅ、目がぁ!
目を押さえて悶絶していると、トコトコとガルがファルハドさんに近付いて、おもむろにアグッと足を噛んだ。
「……マーナガルム。なんだろう。既視感が凄いんだが、リヨウ」
『これは一応みんなにやってるからな』
「ファルハド、あなたハルに何かしたんですか?」
「……ああ、そういうことか」
何か納得したように頷いて、目線を合わせるようにしゃがむと、「悪かったな」と言ってガルをガシガシと撫でた。
最初ファルハドさんはガルを「殿」を付けて呼んでいたけど、今は呼び捨てになってるね。って、そんなことどうでもいい。
で、ファルハドさんは、私に視線を向けて、ニッと笑った。うぐっ!
「ハル、死相が出てる。取りあえず息をしろ」
レアリスさんが、私の肩を叩いて言った。どうやらいつの間にか息を止めていたらしい。
そんなこんなで味の分からなかった朝食を終えて、私は皇帝陛下とイリアス殿下と王子にお父さんたちのいる庭に呼ばれた。そこには、今回の使節団メンバー全員とレジェンドみんなも集まっていた。
「この滞在の最後の最後まで悪いが、そなたのスキルで生成した武器を、わが国に一振り貸与してもらいたいと思ってな」
陛下が私に直接お願いをしてきた。
ここに来るまでの旅程で、魔物を一掃したユーシスさんのグングニルとレアリスさんのレーヴァテインの威力を知って、この国の防衛に使いたいと仰った。私がイリアス殿下と王子を見ると、二人とも頷いている。私に話が来る前に、ある程度両国で話を詰めていたようだ。
『私が紅血呪で貸与者を設定すれば悪用はされまい』
そう言ってお父さんが申し出てくれた。
紅血呪は、ユーシスさんもレアリスさんも武器に自分が主だよ、と登録しているヤツだ。どうやらお父さんにも話は済んでいるようだ。
神話級武器は、私が持っていてもはっきり言って宝の持ち腐れだからね。活用してもらった方がいいのは間違いないし、それに使う人もお父さんが設定するって言っているから、きっとこの中にいる人に貸与するんだろう。それならちゃんとした人たちだって知っているから安心だね。
『何にしても、下手な使い方をしないよう、俺たちがちゃんと見ていてやるよ』『お前、自分だけ良い格好しいだな』『今、〝俺たち〟って言ったよな!?』
私の安心を保証するように、玄武のクロさんが言った。その言葉に、すぐにメイさんがツッコんで、更にクロさんがツッコんだけど。
「分かりました。でも、今貸与できるのって七星剣だけですが」
問題は、貸与する人に合った武器なのかどうかだよね。
私が思案していると、パタパタと小さいバージョンのレッドさんが私の所へ飛んできて、私の腕に収まった。
『ハル、我のカラドボルグを出してはくれぬか?』
ああ、そうだった。今度レッドさんに会ったら、カラドボルグを交換しようと思っていたんだった。私が頷くと、ニズさんも飛んできて、私の肩に止まった。
『あの、レンダールにはイリアス様のスキルがありますが、セリカには、もしよろしければ私のスヴェルをお役立ていただければと』
ニズさんの天鱗は、そういえばスヴェルという盾になるんだったっけ。
もう一度皇族、王族に確認するように視線を送ると、「願っても無いことだ」と喜んでくれた。
「そうしたら、白虎さんと朱雀さんのはどうしましょうか」
『あたしのやめとく~。必要になったら、あんたたちの判断で交換して』
朱雀さんのは、例の白虎さんを拘束した「羂索」だ。保留がいいね。了解です。
『俺のは使える人間が限られそうだな。だが、興味はある』
少し考える素振りを見せた白虎さんだったけど、最後には交換することになった。でも、なんか白虎さんは思う所があるようだった。
そんな訳で、一気に三つの神話級武具の交換になった。
結果はお次のとおり。
〝カラドボルグ(聖剣) 交換ポイント:3億2千万P 魔力を込めると超高温の光を放ち、あらゆるものを焼滅する。込めた魔力量に応じ、光の距離が伸びる。閃光としても使用可〟
……もう聖剣って言うか、大量破壊兵器だよね。使徒とか呼ばれそうな。
で、見た目は両刃の大剣で、白い刀身に赤い蔦模様が絡んでいて金色の柄と鍔、大きな赤い宝石が柄の先に嵌まっている。見た目はとっても聖剣っぽいけど、さすが元素材が竜族最強のレッドさんな破壊力だね。
レッドさんは『さすが我が剣!』とすっごいご満悦で、ユーシスさんに持ってもらった剣の平を、小さなおててでペシペシと叩いていたよ。
〝スヴェル(聖盾)交換ポイント:4億P 魔力を込めると五メートル四方の氷壁が展開し、攻撃を反射する。特に炎熱系の攻撃に強く、込める魔力量に応じて氷壁が拡大する〟
……盾なのに、カウンター機能が付いてるんだ。
で、見た目はひし形で氷の結晶のような装飾のある大盾で、氷山のように透明な縁から中心に向けてアクアマリンのグラデーションになっていて、中心に黒いひし形の宝石が埋まっていて、金の持ち手がある。もう、見た目は宝石というか芸術品です。
ニズさんが『まあ』と言って、目を輝かせていた。確か竜って、光モノが好きなんだっけ。
〝盤古の斧 (創世神が世界を切り拓く際に使用した神器の模造品) 交換ポイント:6億P 天地開闢の理:魔力量に応じ、大地を沈ませ、天を押し上げるほどの重力操作が可能〟
……なんか、技名みたいなのが出て、効果が天災級だ。あとカッコ書きがおかしい。
形は、バルディッシュに近い形の戦斧(とユーシスさんが教えてくれた)で、艶を消した銀の柄に波打つような長い刃が付いていて、全体が私の身長くらいある。今まで見てきた武具の中で一番シンプルだけど、柄にある模様はどの装飾よりも繊細だった。
一気に10億越えの交換をしてしまった。
そして、獲得ポイントも、レッドさんの大爪で8億、ニズさんの天鱗で4億、白虎さんの霊毛で13億。……吐きそうです。
「これは、また……、エラいのが出て来たな」
皇帝陛下でさえ目を丸くしていた。イリアス殿下は目頭を押さえている。他のみんなもすっごい無表情でこっちを見ている。
いや、私のせいじゃないよ!?
『ワハハハ!それで、誰がこれを使うのだ?』
実にお父さんが楽し気に笑った。いつも本当に楽しそうだよね。
「剣と盾はともかく、戦斧は扱いに慣れた者でないとな。アルジュン、どうだ?」
皇帝陛下がアルジュンさんを指名した。どうやらアルジュンさんは、どんな武器でも使いこなす凄い人みたい。ただの可愛いもの好きのお兄さんじゃなかったのね。
でも、当の本人は無言で、もげちゃうんじゃないかと思うくらい首を振っていた。ですよね。
魔力込めたら天災が起きるような武器、やだよね。
「カラドボルグは、思ったよりも大きいな。重量も相当だ。セリカで使えるのは首都に残してきた連中くらいか。と、すると、やはり七星剣を借りるようだな」
カラドボルグは、グングニル程じゃないけど、刀身はそれほど幅はないけど長さは一メートルは超えているから、重量もそれなりにあった。私が収納から取り出す時に、両手じゃないと持ち上がらなかったからね。
「それなら、やはりファルハド、お前が七星剣を借り受けろ」
「御意」
ファルハドさんは、陛下に深くお辞儀した。なんか、初めてファルハドさんが陛下に恭しい態度を取ったのを見たよ。
私は七星剣を取り出すと、ちょっと緊張しながらファルハドさんに渡した。
「感謝する、ハル」
「どどどどどど、どういた、しままままして」
思いっきり声が裏返った。王子が「何か変なものでも食ったのか?」と怪訝そうにしていた。王子じゃあるまいし、そんなことしません!
そんな私を苦笑して見たファルハドさんだったけど、お父さんが所持者の設定をするって言って、例の指をスパッとするやつをやっていた。
ぎゃーー!だからなんでみんなそんなに潔くやるの!?ホント、心臓に悪いからやめて。
私がプリプリ怒りながら、いつものように血が出ている指に、素早くポーションを掛けて傷を治した。
「ハルって、いつも鈍くさいのに、ポーション治療はびっくりするほど素早いよな」
「ええ。クレイオスの『神速』より早いですね」
そこ、鈍くさいって、聞こえてるから!
コソコソと話をする王子とユーシスさんに、私がジトッとした視線を投げていると、急に指先をキュッと握られた。見たら、ファルハドさんが私の手を取っていた。
「わざわざ治してくれたんだな。ありがとう」
「どぉーーい、たしまし、てぇーーー!」
思わず手を万歳して拘束から抜け出すと、ひゃんとお父さんの後ろに隠れた。し、心臓が口から出るかと思った。
チラッとファルハドさんを見ると、みんなの視線が集中したのを、肩を竦めて見せただけで受け流していた。
『そんなことより』と言って、お父さんが尻尾で私を前に押し出した。
『ハルよ。盤古の説明で開ける文字があったな。もちろん見るだろう?』
お父さんが余計なことを言った。あえて無視していたカッコ書きの所だ。
「そうだ。この際だ、些細なことでもハルのスキルがもたらす情報は知っておきたい」
一番近くにいたイリアス殿下が、ため息を吐きながら言った。
見る前から、何故か疲労感が漂っている。ならやめようよ。
周りを見ても、全員が無言で私を見ていた。開けってことね。泣いていいかな?
本気でちょっと泣きそうになりながら、交換履歴から盤古の斧を選択した。
青い文字で存在を主張している〝創世神〟を、ポチッとな、と押した。
〝創世神:地球の神々がエルセを創造する際に作った概念〟
「……え?」
なに、これ。
先ほどとは違う沈黙が下りた。
「……地球って、ハル、お前がいた世界だよな……」
「うん」
王子が恐る恐る私に聞く。
「じゃあ、何か?この世界は、お前たちの世界の神々が作ったってことか?」
思わず私は首を振った。分からない。そんなこと、聞いたことも無い。
お父さんを見ると、不敵な顔でニヤッとしていた。まただ!また知ってたんだ。で、私に披露させたんだ。
『いやぁ、そなたのスキルは、相変わらず胸がすくようだな』
心底愉快、といった感じでお父さんが笑った。
見れば、レジェンドたちも呆れてはいるけど、お父さんと同じように何故かスッキリしたような顔をしていた。
レジェンドたちは世界の秘密を知っていても、何かの制約みたいなので私たち人間には何も話せないと言っていた。だから、その表情は、レジェンドたちもお父さんのやりようを咎めるものじゃなく、よくやった的なものだった。グルだ。
「俺は、これまでの人生で、胃が痛くなったことが無いのが自慢だったんだがなぁ。創世神話まで関わるのかぁ」
皇帝陛下が胃の上あたりを摩りながら、しみじみと私を見ていった。だから、私のせいじゃないですよ!
あと、陛下はちょっと仮病だと思います。本当に胃が痛いと思ってるイリアス殿下の顔色を見てください。と言ったら、イリアス殿下から物凄い蔑みの眼差しが返って来た。
「おい、フェンリル。他にも知ってることがあったら吐け」
『まあ、機会が来れば教えてやろう』
王子がお父さんに詰め寄ってるけど、お父さんの言うとおり、多分私たちは機会が訪れた時にちょっとずつ知っていく他無いんだと思う。
とりあえず、さっき出た情報は雲を掴むような現実味の無い話だったから、当初の予定どおり、各国でできる調査から始めようという事になった。
あと、聖盾のスヴェルの貸し出しは、直接皇帝陛下が所持者になった。
皇帝自ら前線に出る気満々のようで、お付きの人たちがざわついていたけど、本人も息子たちもどこ吹く風だった。うちの王族もだけど、普通に偉い人が実戦に行くんだね。
帰還の転移陣は、この離宮の一角に設置することになったようだ。州城だと人の出入りが多すぎて良くないみたいで、ここなら本当に特定の人だけが使うような場所だから好都合だって。
そうこうしているうち、お帰りの時間になった。転移陣を使うのは、人間と子供たちだけで、お父さんとレッドさんとニズさんは自力で帰ってくるらしい。もうぎゅうぎゅうだしね。
みんなが陣の上に集合して、最後に私と王子が乗り込むところで、ファルハドさんが私を呼び止めた。
「ハル、返事を強要するつもりはないが……」
少し言葉を切ったあと、風が吹いて、ファルハドさんの燻したような銀の髪を揺らした。
「次に会う時は、あの髪留めをしたハルに会いたい」
「ふぇい?」
あれ?変な声しか出ない。そんな私に向けられた、悪戯っ子みたいなニッとした笑顔に、私はしゅわ~っと音が出そうな程顔が熱くなった。
未知の事態に、ガクガクとする私の腕が、不意に引っ張られた。王子だ。
「じゃあな、ファルハド殿!」
王子の声が聞こえて、あっという間に陣まで行くと、目の前が暗転した。その直前に目にしたのは、苦笑して手を振るファルハドさんの顔だった。
次の瞬間には、見知った王宮の風景があった。私たちが半月かけて踏破した旅程が、王子に掛かればほんの一瞬の出来事になるんだ。
まだほっぺの熱も冷めないうちに着いてしまったレンダール王宮で、私がホッとため息を吐くと、グイッと手が引かれた。そういえば、まだ王子と手を繋いだままだった。
「で?髪留めって、何の話だ?」
「ええ、実に興味深い」
王子とユーシスさんが私の前に立ち塞がった。
「あの、国王陛下にご報告が先……」
「いいや、こっちが最優先事項だ」
後退ろうとしたら、真後ろにいつの間にかレアリスさんが。
前門の美女とゴリ……騎士、後門のバリスタ。逃げ道がない。
「さ、じっくりと話を伺おうじゃないか、ハル」
「ふぐっ」
四面楚歌。
私に味方してくれる人は、その場にはいなかったのだった。
タイトル。主人公がスキルを使って無双すると思った方すみません。
スキルさんが無双しました。
そんな訳で、訳分からん情報が小出しで出て来ます。
そして、とうとうセリカ脱出しました。
そしてそして、70話ほどを経てようやく陽の目を見たカラドボルグ。でも貰い手無し。
混沌としてまいりましたが、また頑張って続きを書こうと思います。




