76 どこへ行こうというのかね
前話の感想欄は、納豆が席巻していました。
今話は、公開直前のギリギリ投稿でした。
王子の死闘と同じくらいの死闘を、作者も繰り広げております。
晩餐に出席していた人たちが帰ってきた。セシルさん以外、みんなちょっと疲れている。
それで、ラハンさんと腕相撲をしている王子に、ちょっと恨みがましい目を向けていた。
「随分と楽しそうだな、オーレリアン」
「お、帰ったか。イリアスもやるか、腕相撲。お前になら勝てそうだ」
「ちなみに、現在オーレリアン殿下が最下位でーす」
「何をぉ⁉よし、もう一回勝負だ、ラハン!」
冷ややかなイリアス殿下の様子に、酔った王子は気付かない。そこに同じように酔っ払ったラハンさんが、余計な情報を入れて、王子が憤慨する。
「あ?ラハン、お前いつのまにか固くなったな」
そう言って王子が掴んでいるのは、卓上にある燭台だ。
「殿下こそ、いつの間にこんなに大きくなったんですか?成長期ですか⁉」
ラハンさん、それアズレイドさんですよ。
「……嘲笑する気力も湧かん」
燭台と戦う王子と、「どうやったんですか!」と絡むラハンさんを「寝る子は育つ」と言って長椅子に沈めるアズレイドさんを眺めて、殿下が珍しく疲れた溜め息を吐いた。子供たちは早めに就寝させておいて良かった。
「お帰りなさい。どうなさったんですか?」
私が出してあげた抱き枕をギュッとして、床に転がって眠るアルジュンさんを蹴りながら、殿下が王子に向けた以上の冷ややかな眼差しで、身動きの取れない私を見た。
「お前こそ、何故そんなことになっている」
殿下は私の現在の状況を見て、何だかちょっと怒っている。
私が動けない原因は、私の肩に青い顔を埋めて、私の体に腕を巻きつけて眠るレアリスさんと、私の膝にうなされながら頭を預けて眠るファルハドさんのせいだ。
「みんなで楽しくお酒を飲んでいたら、いつの間にかこういうことになってました」
アズレイドさんは、キャッキャと楽しく暴れる王子とラハンさんを捕まえるので忙しく、レアリスさんとファルハドさんは、吐きそうになっていたので私が介抱していただけだ。
「どういうことだ、アズレイド」
「レアリスとファルハド殿は、ハル殿と飲み比べをして返り討ちに遭いました」
「……お前は、当面飲酒を禁止する」
「なんで⁉」
殿下は、床に林立した酒瓶を見て、私に冷酷な判断を下す。
すると、ユーシスさんが近付いてきて、ファルハドさんを右肩に担ぎ、レアリスさんを左脇に抱えた。
うわ、大人二人抱えて表情一つ変えない。……と思ったら、私を見て、それは美しい笑みを浮かべた。
「前に俺が言ったことを忘れてしまったようだ。後で覚えていなさい」
え⁉もしかして、使節団出発前のパーティのこと?あれって、知らない人からアルコールをもらっちゃダメってヤツじゃ?
悠然とした足取りで二人を寝室へ連行するユーシスさんを見送りながら、私が恐怖で身震いすると、リウィアさんが「なるべくハルのお側にいます」と、何故か慰められた。
リヨウさんとサルジェさんとツェリンさんからは、深々と謝罪され、サルジェさんがアルジュンさんを背負って、リヨウさんとツェリンさんがラハンさんを「帰りましょうね」と優しく諭しながら、両脇をがっしりと固めて部屋を後にした。
残されたレンダール組は、まだ燭台と戦っている王子を放置し、殿下とセシルさんとリウィアさんは、それぞれ籐の椅子に腰かけた。
私が薄荷入りの爽やかなお茶を温めに淹れて出すと、みんなはそれを飲んで大きく息を吐いた。
晩餐のお呼ばれで、そんなに疲れることがあったの?私が心配すると、セシルさんがそれは楽しそうに教えてくれた。
「それがね、州侯が殿下やフォルセリア卿へ遠まわしに『お側に美女はご入用?』と聞いたら、殿下が『毎夜、寝所に侍る美しい女に不自由していない』と言ったの。そうしたら、リエン殿下が不機嫌になって険悪になっちゃったのよ」
コロコロと笑うセシルさんの言う事には、どうやら第七皇子はオレリアちゃんをいたく気に入ったみたいで、イリアス殿下とオレリアちゃんの仲を疑ってイラッとしたようだ。
あっちはオレリアちゃんを、自分たちへの「お土産」だと思っているからね。まあ、国境でこの腹黒殿下がそう言ったんだけど。
「そうしたら殿下が、『スコルとハティは、一族でも群を抜く美しい狼だ。他はいらん』とおっしゃって、もうその時のリエン殿下のお顔ったら、ハルちゃんにも見せたかったわ!」
はぁ、それは何と言うか、最初にハニートラップを仕掛けたのはあっちだけど、ある意味気の毒な感じ。「侍る」って言葉は悪いけど、確かにスコルもハティも、殿下やユーシスさんと一緒に寝ているものね。でも、ユーシスさんはともかく、殿下の「毎夜」はちょっと盛ってるけど。
完全にコケにされた形の第七皇子は、それは腸が煮えたぎったことだろうなぁ。
その後追い打ちを掛けるように、殿下が「他に私との仲を疑うような女がいるとでも?」と第七皇子に言って、ぐうの音も出ないくらい黙らせたようだ。
だって、同格の皇子であるリヨウさんの宮に無断で入って、オレリアちゃんにちょっかい出したと公式の場で言っちゃったら、いくらお兄さんだって、お城の中の中立派や反勢力の人たちにいろいろ勘ぐられるものね。
その情報を暴露しなかったのは、殿下の優しさじゃなくて、単に第七皇子への嫌がらせのためだろうな。悪そうな顔で笑う殿下を見て確信する。
で、ここからが本題だね。殿下とセシルさんの表情も真面目になる。
「そんな些末なことはさておき、予定通りの日程で、白虎との会同は行われることになった。明日、ガルかスコルに頼んで、白虎に繋ぎを取ってもらおうと思う。場所は、瓊枝堂という白陵王の膝元の北部の祭祀場だ」
いよいよ、この旅の終着点だ。
瓊枝堂は、代々皇室が国の四方に置いている神様を祀った場所らしい。
セリカやシナエは龍神信仰が元々あって、そこからの派生で四獣を崇めているようだ。ちなみに東方を拠点とする四獣の青龍さんとは別の龍なんだって。
皇室は、その龍神の末裔だと言われていて、だから皇帝は天命を受けて天下を治める「天子」を名乗っているとか。
私たちは白陵王さんが待ち構えている支城には行かずに、直接瓊枝堂へ集合のようだ。そこで白虎さんの到着を待つんだって。
私たちが真面目な雰囲気で頷き合っていると、ようやく燭台に勝利したと思われる王子が、私が座った長椅子の隣にどっかりと座って、「なかなか手こずったが、期門も大したことないな」と、とっても嬉しそうだった。期門って、セリカの皇族警護の役職名で、ラハンさんのことだ。
無機物に辛勝した王子に、私たちの間にどうしようもない空気が流れた。お酒の席の黒歴史は見ぬふりがマナーだ。このことは、王子には黙っておいてあげよう。
王子は私のお茶を勝手に取って飲むと、そのままコテッと私に寄り掛かって寝てしまった。肩に体重が掛かって重かったので、膝枕をしてあげたら、凄い幸せそうな顔で寝ている。
「お前は、レアリスといいファルハドといいそいつといい、甘やかしすぎだ」
殿下がムッとした口調で言った。お父さんやガルたちで膝枕に抵抗感がなくなったので忘れていたけど、そういえばそうなのかな?でも、ガルたちにもやっているからね。
私がそう言うと、みんなの間に一瞬沈黙が下りた。
コンコン、とその沈黙を破るように、控えめなノック音が窓から聞こえた。窓には高級な玻璃が入っていて、それを誰かがノックしたようだった。こんな夜中に誰だろう?
アズレイドさんが確かめに行くと、その手には青い鳥、びんちゃんが止まっていた。こちらも本格的に動き出すということだね。
今日も綺麗な声でピピピと言っていたけど、翻訳機であるガルが不在だ。そのガルを呼んで来るために、私たちの寝室で寝ているガルを起しにリウィアさんが席を立つ。
アズレイドさんの手から飛んできて、私の肩に止まって髪の毛をもしゃもしゃし、次いで膝枕で寝ている王子の顔に止まってピピピと鳴くけど、起きる様子が無くて私に残念そうな視線を送ってきた。ごめんね、酔っ払いで。
殿下が目配せすると、セシルさんもリヨウさんを呼ぶのに腰を上げる。そう言えば、リヨウさんにも関わりのあることだったね。
リヨウさんの部屋までそんなに遠くないので、その間に私は、びんちゃんにお疲れさまと言って美味しいお水を出す。
王子を起すのを諦めたびんちゃんが水を飲んでいると、すぐにガルがやって来てガルに挨拶していた。そしてその後間をあまり空けずにユーシスさんとリヨウさんを連れて、セシルさんが戻って来た。
ユーシスさんは、戻ってきた途端、王子を笑顔で担ぐ。どうやらまた寝室を往復してくれるようだ。と思ったら、部屋の別の長椅子に王子を下ろして、ユーシスさんは私の隣に座って、自分の膝にガルを乗せた。
さて、とりあえず全員が着席したので、会議の開始だ。びんちゃんのお話を、ガルが通訳する。
『なるほど。どうやら、この間ので玄武が満足したらしいぞ。で、リウィアに協力してくれることになったけど、交換条件っていうのが、…………武器の交換らしい』
ああ、ね。東方レジェンズはいい人たちで武器をねだらなかったから忘れてたけど、まあそうなると予想しておくべきだったな。
「マーナガルム。明日頼もうと思っていたが、白虎との繋ぎと、玄武と朱雀にも使いを頼んでいいだろうか」
イリアス殿下がそう頼むと、ガルは快く頷いた。
『分かった。取りあえず、今から行ってくる。急ぎがいいだろう?』
そう言ってガルは、リウィアさんをチラッと見た。本当に気が利く子だ。
今回は、一度ガルが玄武さんの所へ行って素材を貰ってきて、明日その武器を生成して届けて、その足で白虎さんのねぐらに向かうことになった。
「ガル。気を付けて行ってきてね。びんちゃんも」
またしても強行軍になってしまったびんちゃんが不憫で、ガルのおやつと一緒に乾燥木の実も包んで渡した。朱雀さんたちのお土産もアイスボックスクッキーを包んだよ。
風呂敷を首に結んだガルに、風呂敷に入ったびんちゃんを見送りながら、今度こそゆっくりしてもらいたいなぁと思った。
翌朝、同室だったリウィアさんがソワソワして、結構早い時間に起きてしまった。
そして、スコルとハティとリウィアさんと四人で昨日酒盛りをした部屋に行くと、イリアス殿下とリヨウさんとサルジェさん以外は、みんな起きていた。アズレイドさんは殿下を起しに行ったみたいだけど。
昨日の居残り組はどんよりとした雰囲気で、晩餐出席組は溌溂としていた。
王子とラハンさんは謎の筋肉痛に苛まれており、レアリスさんとファルハドさんはまだ青い顔色をして、ツェリンさんとユーシスさんが用意した白湯を啜っていた。王子は死闘を繰り広げた結果で、ラハンさんはアズレイドさんにサブミッションを掛けられていたせいで、レアリスさんとファルハドさんはただの二日酔いだ。
私たちが挨拶をすると、四人から「あ゙あ゙」とゾンビのような挨拶を返された。
そのうち残りの人たちも合流して、セリカ名物の朝粥と揚げパンの朝食を食べていると、ちょっとした悪戯心で海苔の佃煮を出したら二瓶無くなった。
その後のお茶の時間に、ガルが帰って来た。びんちゃんも一緒だ。『みんなと一緒にいたいって言うから連れてきた』と言ったら、びんちゃんが風呂敷から出て来たよ。
それで、私と王子の肩を往復したんだけど、ちょっと具合の悪そうな王子を見て、びんちゃんが心配そうに鳴いた後に、あの素敵な歌を歌ってくれた。
「まさか、あの迦陵頻伽の歌が聞けるとは」
感動していたセリカの人たちだったけど、それがただの歌じゃなかったのに気付いたのは、青い顔をしてお粥もちょっとだけ啜っていたレアリスさんとファルハドさんが、何故か徐々に回復したからだ。今ではすっかり顔色が戻っていた。
「不老長寿の歌とは聞いたことがあるが、まさか本当なのか……」
『いや、そこまでじゃないけど、軽い回復効果はあるって言ってるぞ』
ファルハドさんが呆然と呟くと、ガルがびんちゃんの言葉を通訳して答えた。
解毒ポーションを渡そうかと思っていたけど、その必要もなくなって良かった。
王子も筋肉痛が良くなったらしく、びんちゃんにお礼のなでなでをしていた。ラハンさんなんて、ラタトスクさん以来の咽び泣きようで、びんちゃんに「尊い」「ありがとう」を連呼していた。
ほのぼのした一幕が終わったけど、そう言えば、ガルが背負っていた風呂敷の中身って、アレだよね。
「ガル、それがもしかして玄武さんの素材?」
『そうだ。玄武は『冥甲』と言っていたな』
何か、凄い武器が出そうな名前だね。私はガルの風呂敷を解いてあげると、そっと中身をみんなに見せた。
パッと見は黒いけど、よく見ると光の加減で七色に見える固い甲羅の一部だった。
「さっそく交換してみろ」
イリアス殿下が代表して言うと、みんなが固唾を飲んで見守った。
冥甲を収納に入れると、すぐに答えが出た。
〝玄武の冥甲(状態:最良)11億p 聖剣『七星剣』の開放条件 『七星剣』交換ポイント5億p〟
「…………予想以上の価値でした」
これは、12億のグングニルに次ぐ価値だ。これ、交換しなきゃならないんだよね?
「ガルくん。玄武さんは鑑定とか交換するところが見たいって言ってなかったんだよね」
『ああ、そうだな。結果の現物を見せてくれればいいって言ってた』
どうやら淡白な方のようだ。あまり興味津々も怖いから、そっちの方がいいか。
それじゃあ、心置きなく交換します。私的には心置きなくないけど。やだな、11億。
私は震える手を何とか制御して画面を操作しようとしていると、横からそっと手を支えてくれる人がいた。優しい眼差しをしたレアリスさんだ。
こんなこと、前にもあったね。でもね、レアリスさん。それは決して、優しさではないよ。何度でも言うよ。
しかしながら、やるべきことはやらなければなので、私はそっとそのまま操作をした。
チャリーンと音がして11億ポイントが入る。ため息。
次に神話級武器を開いて、「七星剣」をチョイス。5億ポイントを消費。震えが来る。
ピコーンと音がして、交換が完了する。脱力。
そして、ピロリーンと通知音が最後に鳴った。無視だ。
「武器を見せてみろ」
心なしか、命じるイリアス殿下の顔がワクワクしている。殿下もお嫌いじゃないものね。
レーヴァテインほどじゃないけど、七星剣はそんなに重くない剣だった。
両刃の直刀で、鋼の刀身に爪くらいの大きさの黒い宝石みたいなのが7個埋め込まれている。白い柄と鍔で、柄の先には絹のような房が付いていて、その先に大きな黒い宝石みたいなのが付いていた。
間違いなく「聖剣」に相応しい美しい剣だった。
「……まさか、このようなスキルがあるなんて……」
呆然としたリヨウさんの声がして、見るとセリカの人たちの顔が固まっていた。
やっぱり私のスキルは、この世界でも普通のスキルじゃないの確定か。ちょっと涙が……。
「そう言えば、ハル。何か通知音が鳴ってたよな」
私がわざと気付かないふりをしていたのに、王子が親切にもそう言った。
分かってるよ。どうせ見なくちゃいけないことくらい。
もう一度スキルボードを操作して、お知らせを開く。
〝交換ポイント10億ポイント達成。レベルが4に上がりました。スキル『調合(合成)』を取得できます〟
また、スキルが生えた。
そうか、とうとう10億行ったか。グングニル、レーヴァテイン、特級ポーション×3個、お家とエクステリアで約9億5千万くらいは行ってたものね。それは10億いくよね。
はぁ。日本にいたら、10億使うとかって、絶対有り得なかったよ。
「放心するのは分かるが、最後まで確認した方がいいぞ」
ため息を連発しているけど、王子は「調合(合成)」を開くように言う。
逃げられないのは分かっているけど、もうちょっと現実逃避したかった……。
私はスキル名をタップすると、展開した内容を読んだ。
〝『調合(合成)』:収納内にあるアイテムを組み合わせ、上位アイテムを生成または新しいアイテムを生成できる〟
「いやぁぁぁ、もうお腹いっぱいです!!」
まだ武器のメンテナンス機能も使ってなかったのに、今度は武器に限定しないアイテムのレベルアップができるようになりました。
このスキル、いったいどこに行こうとしているのでしょうか。
とうとう10憶ポイント行きました。
スキルレベルも4になり、お話もどんどん進んで……行ってないな。
もうすぐ終わると思って書いているのですが、どんどん伸びてしまう不思議。
すぐにふざけてしまうキャラクターたちのせいですね。
何とか完結まで頑張ります。
次回投稿も不定期になるかもしれませんが、投稿しましたらまたお読みください。
Twitterでもお知らせいたします。




