6 ポイント交換はじめました
ようやくもう一つのタイトル回収です。
目を覚ますと、もう辺りは暗くなっていた。
私は丁寧に小屋の中に横たえられていた。服が入った布袋を枕にして、ローブは着たままだったけど、その上から自分のものではないコートが掛けられていた。
私の全身がすっぽり入る。もしかしなくても、レアリスさんのものだ。どうりで寒くないと思った。
髪を手ぐしで整えようとして、ふと、左の頬周りの髪が一房短くなっているのに気付いた。
そういえば、レアリスさんが触った辺りだ。
困るわけではないからいいけど、もしかしてレアリスさんが何かしたのだろうか。
そういえば気を失う前に取られた眼鏡がない。あたふたしていると、枕元に硬い感触がした。
あった、眼鏡だ。良かった、壊れてない。
でも、眼鏡はあったけど、髪ゴムはないや。
もしかして、私が倒れるの分かってたから、髪を解いて眼鏡を取ったのかな?
と、眼鏡を慌てて掛けようとして、先ほどあったことを思い出した。
そうだよ。髪を解いて目元を拭われて、頬を撫でられた。
そして、……耳元で囁かれた。
声には出さずに、私はギャーッとなった。あんなこと男の人にされたのは初めてだったから。
それでもプラマイで言ったらまだ断然マイナス値だ。いくらイケメンでもこの状況は惚れる要素壊滅だ。しかも、物騒なこと呟いてたし。
確かに殺さないとは言われたけど、これは完全に死ねと言われているから。
だからこれは、ただ恥ずかしさに悶えてるだけだ。
幸い(?)なことに、荷物はちゃんと持って来たまま残っている。これが武士の情けというやつか。
私は俄かに空腹に気付き、こんな時でもお腹は減るんだと妙に感心した。
荷物の中から焼いたショートブレッドを取り出して、一つだけ齧った。貴重な食糧だから、できるだけ大事に食べることにする。
暗闇に目が慣れてくると、屋根や壁から普通に外の様子が窺えることに気付いた。明るい時見たら、ボロボロだったもんね。
取りあえずお尻が痛いので何とかしたいと敷物を探すが、ふと手にしたレアリスさんのコートを見て、ふぅと大きい溜息をついた。
疑問とか怒りとか、いろいろと頭を過ったが、自分が寒いだろうに、これを掛けてくれた心情を何となく想像して、粗末に扱うことができなかった。
多分、根っからの悪人やサディストという訳ではないんだろうね。
とにかく私は生きてる。誰かを恨むよりも、前向きになろう!
とりあえず、ここで生き延びるために必要なことを考えなくちゃ。
第一に食料の確保。第二に暖を取る方法の確保。第三に帰る方法を探す。
水は確か、湧き水みたいなのがあったからOKだ。
この国の生水を思い切って飲んでみたが平気だったので、試す価値はある。お腹を壊したら、それはそれだ。
食べ物はショートブレッドがある。細身に見えて大ぐらいの王子と、大きな体に合った量を食べるユーシスさんの分に作ったから、ちびちび食いつなげば、あと一週間は持つだろう。
「スキル開け」
そう唱えると、音もなく明るいスキルスボードが現れた。唱えなくてもいいんだけど、何となく口に出てしまう。
半透明で光源が何か不明だが、辺りもふんわりと明るくなる。相変わらず画面には『ポイント交換』とだけ出ている。
「はあ、何だか分からないスキルでも、使えたらこんなに心細くなかったんだろうな」
ふと、温かい光を放っているので、もしかすると温度があるのでは、と深夜テンションでバカなことを考えた。
「どれどれ」
失敗しても、どうせ自分しかいないんだと、触ってみることにした。
恐る恐る指先で画面にタッチしてみると、フォンと音がして画面が変わったのだ!
”ポイント交換を開始しますか?”
「……マジか」
思わず呟いてしまった。
こちらの概念では、スキルボードは単に内容の表示だけだと言っていた。ボード自体が力を持っているという記録は今までないとユーシスさんが言っていた。
ちなみに、この国の人は触ってみても何も起こらないらしい。
最初の時に、ユーシスさんが私のボードに触っても何も反応しなかったし。
それでこれまで一度も「触る」という発想が浮かばなかった。
でも、よく考えたら、私が自分で触ってみたことはなかったな。
触ってみて展開した画面を見ると、大きく「初回ログイン特典」と出ていた。
ゲームか、ゲームだな。
で、それをタッチしてみると、今度は「亜空間収納」と出ていた。
なんだそれ。
取りあえず、出た文字をまたタッチしてみると、画面が展開して説明が出てきた。
“ポイント交換のために収集したもの、交換後の物品等を収納できる。ただし、生きているもの、自分以外が所有するものは入れられない。収納容量∞”
「……マジか」
本日2回目のマジかです。
取りあえず、説明画面を消してもう一度「亜空間収納」の下にある「取得」ボタンをタッチすると、ピロリーンと音が鳴って「取得しました」と出た。その画面を消すと、いよいよ本画面が出てきた。
ノートパソコンより一回り大きい画面だ。
左側にポイント化が可能なもの、右側に現在のポイントと交換できる物品なんかの画像が映し出される枠があった。物品はカテゴリ別となっていて、こちらの世界の物と元の世界の物とそれぞれ交換が可能らしい。
試しにこちらの世界「レンダール」を開けてみると、ずらっと表題が出てきた。
「なになに?食料、薬品、衣料、雑貨、家具、武器……うん、私は使えないやつ」
で、試しに食料を開けると、ずらっと品目が展開したけど、スクロールしていくと一部「???」となって表示されないものがある。それも触ってみると、「開放レベルに達していません」と出た。
もう一度トップ画面に戻ると、左上に「Lv1」と出ていた。
なるほど、これを上げて行けば交換できるものも増えるという訳か。
そして「Lv1」を触ると、説明が出た。
どうやらポイント交換元の物品を調達したり、それで得たポイントで交換をしたりしていくとレベルが上がるようだ。
「なにこれ、テンション上がる」
普段あまりゲームをする方ではないが、こつこつとレベル上げをするこういうのは嫌いじゃない。
「でも、これ、どうやってポイントに交換するんだろう」
”ポイント取得”の文字を触ると、今度は画面が下方に広がって、「投入口」という枠が出来た。
なんだこれ。ワクワクだ。
何か交換できるものは、と探すが、持ってきた物資はおいそれと交換に出すことはできない。おそらく、一度交換してしまうと戻ってはこなさそうだ。
立ち上がろうとして、手の先にこつんと何かが当たった。石ころだ。
私は試しに、その石ころを投入口に近づけてみた。
「す、吸い込まれた」
石ころは枠の中にするりと吸い込まれ、画面に石の3D画像みたいなのと説明、ポイント額が表示された。
“ただの石ころ 同じ大きさのものを10個揃えると1ポイント“
ということで、石ころ一つではまだポイントは獲得できなかったけど、交換の基礎は分かったぞ。
「ほほう。適正な価値が勝手に鑑定されるのか。で、その履歴とその物品のポイントは、品目名から確認できる、と」
そして画面下にある、「収納」の文字に気付く。それにも触れてみると、交換用と取得後の二種類が出てきて、「交換用」をタップ。マスの目の左上に石があって、「石ころ×1」となっている。投入口にもう一つ拾った同じような石を入れると、マス目の表示が「石ころ×2」と個数が増えた。おう、マーベラス。
「ふふふ。スキルめ、手こずらせおって」
謎の深夜テンションは、私を大いに良い気分にさせた。
今度は「日本」という方を開けてみた。カテゴリの中に、なんと家電があるではないか。
それは取りあえず置いておいて、喫緊の課題である食べ物を調べる。
同じく食料をタップする。展開すると、穀類、野菜、肉、魚、果物、調味料、菓子、飲料……となっている。
「うわ!お米とお味噌がある!お醤油も!」
こちらに来て、贅沢にも食事に困ったことはないが、やはりふるさとの味というのは恋しくなる。これで、何とかポイントさえ獲得できれば、ここでも食料に困ることは無い。
つまり、最低限餓死はせずに済むと言うことだ!
「いみふスキルとか言ってごめん。好き」
思わずスキルボードに頬ずりしてしまいたくなった。
が、指で操作しているときはタップの感触があるのに、抱き付いたらスカッと素通りしてしまった。……つれない。
とにかく、生きる途が見えてきた。私はこんな状況下なのに、思わず笑ってしまった。
そんなに簡単なことではないとは分かっているけど、多少の困難なら切り抜けてやる、と意気込んでいた。人間、いざとなると意外と図太くなれるものだ。
私は、明日に備え、寝ることにする。
お布団の代わりにレアリスさんのコートに包まると、温かさもだけど、ほんのりと服に染み込んだ人の香りに包まれた。
少し気恥ずかしく感じたが、安堵と共に眠気がやってきて、その日は夢も見ずに眠ったのだった。
前話から雰囲気一転しました。
無人島行くなら何を持って行く?と言われて「猫型ロボット」が理想の答えだと思っています。
そんな夢に及ばずとも、未開の地で楽に暮らすには?と思い付いたポイント交換。
次話は何を交換しようかなぁ。
また明日、閲覧よろしくお願いします。