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52 パーティには魔物が潜んでいる

大惨事です。

心に傷を負います。

主に主人公と王子と殿下が。

 今日王宮での用事は、顔見世だけじゃなかったみたい。

 明日の出発が早いから、出立式が出来ない代わりに壮行会を開くって。そんなに盛大にはしないと言っていたけど、有力家門の人や関係者が出るので、ちょっとした夜会くらいにはなるって言ってた。


 立食式のパーティで、正式なものらしいけど、どうやらこの国のパーティはダンスを踊らなくていいと聞いて、私はホッと胸を撫で下ろした。


 正直に言って、フォークダンスもまともに踊れないんです。

 高校の体育祭の最後に、全員でフォークダンスを踊るんだけど、絶対にパートナーの男の子の足を踏みそうになったり、コケて抱き付いたりしてしまうので、いつも辞退したかったんだ。

 だけど、その度にクラスの子たちが「見学なんて淋しいじゃないか。一緒に思い出を作ろう」と、私をフォローしてくれていた。何人かのパートナーの子に迷惑を掛ける結果になったけど、その子たちは「いい思い出になったよ」と言ってくれたよ。

 みんな優しい人たちだったな。


 そう言うと有紗ちゃんが、「体操着の波瑠、ヤバいわ。確実に奴らはラッキースケベを狙ったわね。燃やしたいわ」と何かブツブツと言っていた。他の人たちからは、何故か怖い空気が流れてきて、「異世界で命拾いしたな」と誰かが呟いた。私が聞き取れなくて問い返すと、いい笑顔でみんなに「何でもない」と言われた。


 そんな思い出話をしていてあることに気付いた。私、この服じゃ出られないよね。


「波瑠。私がその点で手抜かりがあるとでも思っているの?」

 失礼しました。有紗ちゃんはファッションリーダーでしたね。


 そうして、私は有紗ちゃんに連れられて、王宮の一角でお着替えをした。その後は、会場に一番近いイリアス殿下の控室に一度集合だ。

 廊下を歩いていると特徴的な王子の髪が見えたから、声を掛けて手を振った。おお、王子もいつもと違ってカッコいいね。


 そこで合流して、控室に入ると、その場にいた人たちがこちらを一斉に振り向く。イリアス殿下にアズレイドさんにユーシスさん、レアリスさんにセシルさんと、今度の使節団のメンバーがいたよ。もちろんガルもね。


 うわぁ、ちょっと眩しすぎて、みんなを直視できない。


 ベースキャンプにいる時のラフな格好を見慣れているから、盛装すると別の人みたいだ。ユーシスさんとアズレイドさんは近衛隊の正装で、あとのみんなは夜会用の正装だ。セシルさんの男装、すごい似合ってる!


 イリアス殿下は、普段からあまり着崩さないから、いつもよりちょっと小綺麗になった感じで、髪型がちょっと違うだけで、ほぼいつもどおりだ。パーティなのに。


「おい。今、不快な感じがしたんだが」

「何のことですか?」

 油断ならない。


 それにしても、みんな足が長い!その中で並ぶと、王子はちょっと……。

 アレだね。一番小柄だからだね!


「今、すっげぇ、イラッとしたんだが」

「だ、大丈夫⁉きっとタイがきついんだよ!」

 何?やっぱりみんな読心術かなんかできるの?

 っていうか、心の中とはいえ失礼なことを、スミマセンでした。


「イリアス殿下は華が無いし、オーレリアン様はみんなと並ぶとスタイルに差が出るわ」

「あ、有紗ちゃん⁉」

「何⁉どういうことだ、聖女!」

「……クソ!人が気にしていることを!」


 私が思っても言わなかったことを、有紗ちゃんが堂々と言ってしまった。気色ばむ殿下に崩れ落ちる王子。

 ああ、王族以外の人たちが、視線を逸らして聞こえないふりをしている。

 みんなもちょっと思ってたのかな。

 いや、きっと本当に聞こえなかったんだね!


『人間の価値は外見じゃないぞ』

「……ガル!」

「何故私は、魔獣に慰められているんだ……」


 王子が感動してガルにガシッと抱き付き、イリアス殿下が絶望に光を失った目をしていた。

 いやぁ、ガルも大概酷いこと言ってるよ、王子と殿下?


「あ、あの、殿下も王子も十分カッコいいので、それ以上何もしなくても大丈夫です!」

 私が必死にフォローのつもりで言ったら、殺気立った目でイリアス殿下に睨まれた。


「では、この中であれば、誰を付添人にするか言ってみろ」

「……ええぇぇ」


 良かれと思って言ったことが裏目に出た。


 そう言えば、ダンスはしなくていいけど、こういう正式な場に初めて出る場合、誰か付添人が必要なんだって言われた。有紗ちゃんはとっくにデビューしてて、最高位の聖女として、なんと教皇様が付き添いをしてくれたんだって。教皇様はあまり詳しく知らないけど、女性の方だと聞いている。


 私は困って泣きそうになったけど、我関せずの表情のアズレイドさんと笑いが堪えられない様子のセシルさんを除いた全員がこちらを見ていた。


 どうしよう。プレッシャーで吐きそう。

 そんな中、青い目とバチッと目が合った。


「ガルで!」

「「アホか!付き添い「人」だ!」」

 兄弟から同時に突っ込まれてしまった。ご、ごもっともです。


『俺は、人間の宴会には出ないぞ』

 ついでにガルからも断られてしまった。


 進退窮まった私は、思わず、近くにあった腕に縋りついた。



 そして、本番。

 壮行会の会場の入り口で、ガチガチに緊張した私の手をそっと握ってくれた温かい手に、思わず力を入れて握り返し、少し相手を見上げた。


「大丈夫よ、波瑠。私がついているわ」

「有紗ちゃん、ありがとう」


 入場すると、一斉に私たちは注目を浴びた。聖女が付添人なんだもんね。

 特に痛い視線が、先に入場した使節団のメンバー及び王子から浴びせられる。


 いやぁ、冷静に考えてみて?あの男性陣のエスコートなんて無理だよ。全員と身長が合わなくて、木にぶら下がったナマケモノみたいになる。王子でもギリでアウトだ。


 そんな訳で、針の筵のような居心地のパーティが始まりました。



 パーティの入場は、賓客で主役のセリカの人たちが入場して終了した。


 リヨウさんもセリカの正装で出席していてゴージャスで、両脇を固めるサルジェさんとファルハドさんも勇壮な軍衣の正装をしている。

 全部で6名のセリカの人たちが並んだ。

 多分、こういう場には、威厳のある見栄えの人を連れてくるのだと思うけど、そこだけで一国家があるかのように見えるのが凄い。


 その点で言えば、うちのメンバーも凄い顔ぶれだと思う。私以外はね!


 10人中6人が正規メンバーで、あと4人は馭者などの従者の人という構成は、レンダールもセリカも一緒だ。


 向こうも凄い役職の人で6人は構成されているので、うちではレアリスさんだけが何も役職を持ってなかったけど、レイセリク殿下とセシルさんで、神殿の「武官指南役」という謎の役職をでっち上げ……期限付きの任命をしたんだって。

 それもこれも、私のあれやこれやを内緒にするためなので、もうすいませんとしか言えない。

 お手数をお掛けいたします。


 そうして、魔獣対策親交使節団壮行会と銘打たれたパーティは、国王様とリヨウさんのあいさつで始まった。

 偉い人の話って長いことを覚悟していたけど、お二人とも簡潔明瞭でもおざなりではないあいさつだった。無駄を省いても礼節を欠かないスピーチって、聞いてるだけでその人の有能さが伝わるよね。


 あいさつさえ終われば、後は各自の交流の時間だ。

 貴族の人とあまり関わりのない私とレアリスさん以外の人は、あっという間にあいさつを求める人の波に攫われてしまった。


 二人で目を見合わせて肩を竦める。

 積極的に交流した方がいいセリカの人たちも人に囲まれて空かないようなので、取りあえず腹ごしらえとばかりに二人で壁際に置かれた立食スペースに移った。少しゆっくりできるようにソファもいくつか置かれている。


「私が取って来る。ハルは気疲れしただろうから座っていてくれ」

 私が食事を取り分けようと動いたら、レアリスさんが用意してくれるみたい。正直、先ほどまで拷問を受けていたようなものなので、ありがたく厚意を受けることにした。


 柔らかいソファに身を預けると、思わずため息が出てしまった。そこに、スッとフルートグラスに入ったオレンジ色の鮮やかな飲み物が差し出される。


「ありがとうございます、レアリ……」

「可愛らしいお嬢さん。お疲れのようですが、おひとついかがですか?」


 レアリスさんかと思ったら、聞いたことの無い声に驚いて顔を上げると、やっぱり知らない若い男性がいた。こちらの作法では、特に異性から渡される飲食物に意味を持たせるようなことはないから、これを受け取っても何かある訳じゃないみたいだけど、ちょっと受け取りづらい。


「あの、別の方が今用意してくださっているので、結構です」

 私にしてはちゃんと断れたと思う。普段からイリアス殿下で拒否の練習をしていた甲斐があった。だけど、相手はもうちょっと上手だった。


「残念です。これは甘くて疲れを癒してくれるので、心配でお持ちしてみたのですが」

 そんなに疲れた顔をしているのかぁ。何か断るのも罪悪感が湧いてきた。


「では、少しだけ」

 そう言って受け取ると、相手の男性は凄くいい笑顔になった。口を付けてみると、ジュースかと思ったけど、甘いリキュール系のお酒だった。凄く飲み口が良くて、キュッと飲み干してしまった。


「美味しいです。ありがとうございます」

「……あれ?ご気分はいかがですか?」

「はい。美味しいので疲れが取れるようです」


 素直に感想を言ったのに、その人は小首を傾げていた。すると、その人を除けるようにして、別の若い男性が私に別のドリンクをくれた。


「お嬢様、こちらもいかがですか?また違う味わいですよ」

 今度はカクテルグラスに入った、これまた青くて綺麗な飲み物だった。


 そう言えば、レンダールのお酒ってあまり飲んだことがなかったっけ。いつもポイント交換で出しちゃうから、たまにこちらのお酒もいいね。


 私は試したい欲求に駆られて、受け取ってしまった。やっぱり美味しい!今度は、ブルーハワイみたいなお酒だね。

 また飲み干してしまったら、その人も小首を傾げた。


 また別の人から差し出されたのは、マティーニみたいなお酒だ。

 ここの人たちは、みんなお酒が好きなのかな?キレがあってこれも美味しい。

 あぁあ、また無くなっちゃった。


 それから何杯飲んだだろう。全部お酒だったけど、どれも凄く美味しかった。


「おい、あんたら、どういうつもりだ?」

 もうお腹が水分で苦しくなりそうになった頃、急に上から声を掛けられた。

 それは私にじゃなくて、周りの人たちに掛けられたみたいだ。気付けば10人くらいいる。


 見ると、何と、セリカのファルハドさんだった。

 レアリスさんも背が高いけど、ファルハドさんはもっと高いね。


「いえ、我々は別に……」

「なら、もう用はないな?」

 そう言ってファルハドさんがみんなを見回すと、お酒をくれた人たちは回れ右をした。


 そのすぐ後に、レアリスさんが戻ってきた。そのレアリスさんに向かって、またファルハドさんが険のある声で問いただした。


「あんたもどういうつもりだ?」

「どういうつもりとは?」

 レアリスさんが問い返すと、ファルハドさんは眉間にしわを寄せて言った。


「あんた、この娘のツレだろう?なのに、あいつらがこいつに酒を飲ませているのを黙って見ていただろう。何で止めなかった。疚しいことを考えていたんじゃないのか?」


 ん?何か、ファルハドさん怒ってるけど、もしかして、私のことを心配してくれてる?


「あの連中と同じく、酔い潰れるのを待っていたと?」

「実際そう見えたぞ」

 静かにレアリスさんが言ったのを、ファルハドさんが肯定した。

 飲み過ぎは良くないってことかな。そんなに飲んだ訳じゃないんだけど。


 でも、最初の印象も悪くなかったけど、優しい人なんだな。

 ほとんど初対面の私のことを心配してくれて助けようとしてくれるなんて。


 私が感動していると、レアリスさんが私に小さく笑って言った。


「ハル、あれで酔ったか?」

「え?いいえ、特には……」

「……嘘だろう。あの強さで、あの量だぞ」

 ん?あのお酒、度数が強かったの?


「ここまで歩いて来られるか?」

 5歩くらいあったけど、普通に歩いてレアリスさんの所まで行った。なるほど、ファルハドさんに私が酔っぱらってないことを証明したいのか。


「この前、オーレリアン殿下にやっていた言葉を言ってみてくれ」

「かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこ、あわせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ?」

「……何言ってんだ、あんた」


 ああ、早口言葉って言っても分からないか。私はファルハドさんに、言葉が明瞭に言えることを証明したことを説明した。試しに教えてあげたら、ファルハドさんはめちゃくちゃ噛んでたけど。ちなみに王子は、飲酒の後、「かえる」も怪しかった。


「という訳だ。ハルを潰したいなら、一樽は必要だ」

 言い過ぎです。

「化け物か?」

 真に受けないで。


「だから助ける必要はなかった。叶うなら、酔い潰れたハルを介抱したいというのに」

「本人目の前に、正直者かよ⁉ひどいな、あんた!」

 え、私を潰したかったの?

 もしかして、前に飲み比べして勝っちゃったのを根に持ってるの?どうしよう。


「おい、あんた、こいつとの付き合い考え直せ」

「いやぁ、正々堂々と勝負した結果なので、遺恨も受け止める所存です」

「……全然分かってねぇな。ヤバいぞ」


 何故か顔を青くするファルハドさんと、勝ち誇ったような顔をするレアリスさん。そして、首を傾げる私。


「なあ、ハルと言ったか?一緒に旅をする誼だ。何かあったら俺を頼れ?」

 言葉はぶっきらぼうだけど、やっぱり面倒見が良さそうだ。


「あ、はい。ご親切にありがとうございます。明日からよろしくお願いします」

 私がペコリと頭を下げると、頭上から大きなため息が聞こえた。


 何かを諦めた様子のファルハドさんだったけど、私にとっては収穫だ。旅を共にする人がいい人だって分かったんだもの。


 そんな感じで気分良くお酒が飲めたので喜んでいたけど、いろいろあった後にようやくお開きになった壮行会の帰り道。王子が苦い顔で私に伝えた。


「お前、俺たちから離れている間に、酒豪伝説作ったんだってな」

「はい?」


「あの場で酒樽一個空けたと聞いた」

「……なんですか、それ?」


「酒で20人返り討ちにしたとも聞いた」

「誰、それぇ!」


 絶叫するしかないじゃない。私は慌ててレアリスさんに駆け寄り、事の真偽を王子に説明してもらおうとした。


「それは間違いです。大きなデキャンタ1本分の酒精と10人の返り討ちを、片手間にやっただけです」


「いぃぃやぁぁぁぁぁ!!!」

 夜空に、再び私の長い絶叫が響いた。


 今すぐこの記憶を抹消しないと、恥ずかしいという感情で命を落とす。


 もう、今後一切、パーティでお酒は飲みませんから、誰かみんなの記憶から消してください!

シリアス持久力の無さが露呈してしまいました。

大事な旅の前に何をやっているんでしょうか。

早く出発したいのに、まだパーティ話、続きます。おかしいなぁ。


そんな訳で、また次話も閲覧をお願いします。

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[良い点] 酒豪の立場から言わせてもらうとだな お酒が大量にのめるってのはプラスにならんぞい? 酒豪あるある体験談 1 オレはつよいんぜ?的な奴が飲み比べを挑んだ挙げ句に勝手に撃沈して二人分の飲み…
[良い点] 更新お疲れ様です。 有紗の腕を取った瞬間だけは、あの部屋にいたガル以外の面々は「いや何でやねん!?」と思いを一つに出来たでしょうね(笑) そんな波瑠ですがかつてのクラスメートがラッキース…
[一言] ザルはなぁ…。 ザルだから… 食いもんしか残らんけぇ…。
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