表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/148

4 ニセ聖女と思われているようです

投稿日間違ってました。

慌てて修正したので、時間ズレてしまいました。

すみません。

少しシリアス入ります。

 不穏な噂を耳にした。


 それは、ユーシスさんが私のところへやって来る前の朝のことだった。朝食は一人で食べていたので、その食堂からの帰り道。

 王宮のメイドさん的な人たちが、井戸の側で井戸端会議をしていた。この上も無く正しい単語だね。


 何でも、聖女を騙る悪い人間がいるらしい。

 聖女でないことは明らかなのに、第三王子に因縁をつけて王宮の一室を占拠し、ただ飯を食らうだけならまだしも、有能な美形騎士を日がな一日不当に侍らせ、あまつさえ第三王子に高価なものをねだっているとか。


 私だよね、それ。


 でも私は言いたい!

 王子に因縁は付けられてもこっちは付けてないし、ユーシスさんを侍らせている訳でもない。むしろ補助についてくれるのを断った。


 そして最大の間違い。私一度も「聖女」なんて名乗ってないからね。

 むしろこちとら誘拐された被害者で、何ならすぐにでも元の世界に返して欲しいくらいなんだけど。


 ものは、まあ、貰った。こちらからねだってはいないけど、結構高価なものだ。


 まあ、傍から見たら完全に事実に見えるだろうな。

 ここに来てひと月経って、ようやくユーシスさんと王子に慣れてきたところで、気を付けてはいたけど、もしかしたらそれが馴れ馴れしくしているように見えたのかもしれない。


 うわぁ、余所さまが見たら、微妙な地味っこが、カッコいい人に囲まれて鼻の下伸ばしているようにしか見えないね。

 もしそんな子いたら、私でも「うわぁ」って思うかも。


 自己嫌悪で反省していると、よほど注意力散漫だったのか、廊下の向こう側から来る、華やかな一団に気付けなかった。


「あ、やっと見つけたわ」

 ハッとして顔を上げると、そこには世にも麗しい北条さんがいた。

 腰近くまである明るい栗色の髪に、瞳も明るい茶色。ハーフの人特有の、二つの民族のいい所を掛け合わせた異国情緒ある顔立ち。何でも着こなすスラリとした長身に、少しハスキーな色っぽい声。

 天は二物も三物も与える典型的な人だ。おまけに実家も金持ちと聞いた。


 そして今は、物を知らない私ですら高級と分かる服をまとい、目に眩しいでっかい宝石がついたネックレスや髪飾りや指輪をつけて、歩く宝石箱みたいになっている。

 でもそれが似合っていて、全然成金みたいな感じじゃなくて、洗練されて見えるから凄い。


 お供を引き連れ、女王のような堂々たる振る舞いに、ポケッと見惚れていると、はあっとため息を吐かれた。


「私が誰か分からないとか言わないわよね」

 誰もが自分に注目していることを疑わない言葉。


「……北条有紗さん」

「何か本当に野暮ったいわね。オーレリアン様もユーシスも、この子のどこがいいのかしら」

 面と向かって悪口言われた。私はパニックになる。


「ええと、名前なんだっけ」

 堂々とため口だ。一応年上だけど、北条さんは知らないよね。


「結城波瑠です」

「ちょっとこっちに来て」

 そう言って北条さんは、私をお付きの人から離れた場所に連れて行き、突然、険のある声で吐き捨てられた。


「結城さん。はっきり言わせてもらうけど、わたし、あなたに迷惑しているのよね」

 面と向かって悪口言われた×2。それプラス奈落の底に落とされた気分。


「確かに、あの時は驚いてあなたの手を掴んでここに連れてきちゃったけど、それをいつまでも根に持たれても困るのよ」

「はい?」


 何でだろう。言葉は分かるのに、言っている意味が全然分からない。

 私がいつ北条さんに不満を言ったのだろう?


「そのことを口実に、何も出来ないふりして、働きもせずにオーレリアン様に甘えて、ユーシスをずっと拘束しているんでしょ?あの人たち、そんなことに時間を割ける暇な人間じゃないのよ。本来なら、私と魔物討伐に出る訓練をしているはずなのよ。同じ異世界人として恥ずかしいわ」


 つい先程聞いた噂そのままのことを言われた。ただ、出だしが衝撃的過ぎて、噂と同じことを言われてもどこか他人事みたいに聞こえる。


 彼女の中で、私を巻き込んで異世界に連れてきてしまったことには、まったく罪悪感を抱いていないようだ。

 それどころか、私がわがままを言って王子を困らせて、ユーシスさんを引き留めてるって思われてる。


 いや、あの二人には甘えてはいけない、と自分でもどこかで薄々感じてたことだから、それは妙に胸にストンと落ちてきたのだけれど、北条さんには迷惑掛けてないし、北条さんにだけはそんなことは思われたくないと、嫌な気持ちがもたげて来た。


「……あ、わ、たしは……」

 コミュ障発動。私は喉が詰まって何も言えなくなった。


 両親の事故を目の前で見て以来、強いストレスを感じると言葉がうまく出てこなくなるんだ。


「これあげるから、さっさとここを出てってくれない?それだけあれば、街でもしばらく暮らせるでしょ?」

 そう言って、床に放り投げられたのは、くたっとした革袋だった。

 じゃらっと音がしたので、もしかするとお金が入っているのかもしれない。


「わたしの護衛を一日だけ付けてあげるから、今日中に出て行ってほしいのよね。この後部屋に迎えに行かせるから、それまでに荷物をまとめておいて。分かったわね」

 命令することに慣れた口調だった。いつだって、自分の願いが聞き届けられなかったことがないのだろう。


「あ、それと、オーレリアン様とユーシスには黙ってなさいよ」

 北条さんは私にそう言うと、振り返りもせずにスタスタと歩いて行ってしまった。

 私を去り際に見るお付きの人たちの視線が冷たい。


 ああ、あのお付きの人たちの冷たい視線は、北条さんが私のことをさっき言ったように伝えているからなんだなぁ。


 私はパニックになっている頭で、とりあえず、と思って床に落ちた袋を拾った。

 思ったより軽いその手応えに、改めて私の価値の低さを思い知った。

 この世界では、私は間違いなく不要な人間だった。


 ノロノロと歩いて、私の部屋の前まで辿り着いたところで、後ろから声を掛けられた。


「ハル、どうかしたのか?」

 振り返ると、そこには迎えに来たユーシスさんがいた。

 私の顔を見ると、途端に顔を顰める。


「何があった?」

 私はただ首を振った。

「少し、体調が、優れなくて。……今日の授業、お休みして、いいですか?」

 やっとのことでそれだけ言えた。


「一緒に医務室に行こう。酷い顔色だ」

 こちらに手を伸ばされたので、少し遠ざけるように身を引く。

「だい、じょうぶ、です。いつものことなの、で、寝ていれば、治ります」

「駄目だ。こんな君を一人にしておけない」

 今度は逃がさないとばかりに、ユーシスさんの大きな手に、ギュッと手を握られた。


「お願い、です。人が、周りにいると、怖くて、ダメなんです」

 無理に笑って見せた。本当のことを言った。

 そしたら、ユーシスさんの手が一瞬離れた。


 その瞬間に、私は部屋に滑り込み、慌てて鍵を掛けた。

「ハル!」


 ドアにもたれながら、ズルズルと床に座る。胸が苦しい。


 ドアの外でユーシスさんの声がする。

「俺がいない方がいいのか?」

 いつもの穏やかな声じゃなくて、とても傷付いたような声だった。


 いつだってユーシスさんは私の最良を探してくれる。

 だから、改めて言われた北条さんの言葉が突き刺さる。この人や王子を、私が拘束してはいけないんだ、と。


「はい。すみません。……本当に、すみません。すぐ、良くなりますから」

 消えそうな声だったが、多分しっかりと伝わったはずだ。


「分かった。だが、昼には一度様子を見に来る。その時までに良くなっていなかったら、このドアを蹴破ってでも医者にみせる」

 やがてため息交じりの声が聞こえた。物騒なのに、私を気遣う優しい言葉だ。


「はは。お手柔らかに。でも、大丈夫です」

 ユーシスさんと会話をしていて、少しだけ痞えが取れた。

 少しだけ、自分が不要じゃないのかも、と思えた。


「では、また来る」

「はい、ありがとうございます」


 ドアの外で人が去って行く気配がする。私は大きく息を吐いた。

 逃げ腰でいいことなんて一つもないのは分かっている。

 まだ震える膝を手で支えて、私はクローゼットへ進んだ。


 いくら王子やユーシスさんに良くしてもらえるからって、そのことで誰かの悪意を感じながらここに居続けるのは、もう無理だ。

 それに、その悪意に二人を晒すのはもっと嫌だ。

 ここを出ようと、はっきりと決意した。

 北条さんに言われたからじゃなく、自分の意思で。


 街へ下りたら手紙を書こう。

 この世界の文字は、ユーシスさんに教わったからある程度書けるようになった。

 居場所を知らせて、私がなんで街へ下りる決心をしたか綴っておけば、帰れる算段がついたらきっと迎えに来てくれる。


 元の世界から着てきた服に着替える。安物だけど、丈夫なのは間違いない。

 その上から冬用のローブを纏った。

 こうすれば、中が変な服装でも全然目立たない。冬で良かった。


 ダウンジャケットは小さく丸められるから荷物として持って行く。他には大きめの布袋に、北条さんから貰ったお金と数着の着替えと、昨日王子用に作ったショートブレッドを入れた油紙を詰める。


 そして、久しぶりに一緒に転移してきたリュックを開けると、充電の切れたスマホと財布、イヤホンとハンカチ、ティッシュ、化粧ポーチとメモ帳とペンケース、銀行の封筒に入った現金が入っている。


 そこに、ユーシスさんからもらった辞書と、王子の小さな図鑑を入れ、先ほどの布袋に詰めた。

 リュックは異世界感丸出しなので、街で見られたら浮いてしまう。

 外には出さないように隠す必要があった。


 ある程度準備ができると、今後の事に思いを馳せる。

 街で生活するなら、言葉や食べられるものの知識は必要だ。これまでは食堂に行けば調理されたものが出されたけど、これからは自炊が必須だろう。


 小麦やバターや卵なんかの、地球と同じ食材だけじゃなくて、この世界特有のものがたくさんある。

 こちらの料理を勉強したら、その後日本風にアレンジをしてみるのもいいかもしれない。

 それは、これから慣れない環境の中に飛び込んでいく不安の中にも、微かな楽しみとして感じられた。

 それをよすがに、自分の気持ちを無理やり引き上げた。


 北条さんに投げ寄越されたお金だけでは、あまり長くは生活できないだろう。

 であれば、何か職を見つけなければならない。


 文官のような知識は教えてもらったが、市井でそれが役に立つとも思えないので、手っ取り早く生活を安定させるには、恐らく食堂のような場所で給仕か調理をすることだろうと思う。出来れば調理がいい。切実に。


 ”今まで親切にしてくださり、ありがとうございました。

   少し1人で頑張ってみます。心配しないでくださいね。

    お二人には感謝しています”


 そんな展望を夢見つつ、メモ帳にこちらの文字で、王子とユーシスさんに感謝の意を綴る。


 それを三人で謎のお茶会をしたダイニングのテーブルに置いた。

次のお話まではちょっと暗めです。

聖女側の人間と対峙します。


また明日投稿します。


閲覧ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 概要から判断すると、まだまだ導入部分でこれから本格的に物語が動き出すんだろうけど 初っ端から本命っぽいキャラにだけ主人公補正が効きすぎで、なのに主人公の性格が卑屈すぎて・・・ こういう…
[一言] メガネだから地味+不細工ってわけじゃないよね? メガネスキーからするともにょもにょします
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ