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39 コロッケ、好きかな?

前話の感想で、ジャガイモはナスの仲間という衝撃の事実を知りました。

 ジュッと小気味のいい音を立てて、油の中にコロッケが滑り込んでいく。

 大量のお芋を使っての調理は、イリアス殿下の希望で異世界仕立てに。


 本日は、お芋祭りを開催中です。


 サラダは、定番のポテトサラダに簡単タラモサラダ。前に男性陣に好評だった肉じゃが。付け合わせにフライドポテトと、一度殿下にも出したジャガイモのポタージュ。それに、メインはコロッケ。おまけのおやつ用にチップスも準備。


 レアリスさんの大量の皮むきを見て、セシルさんが「……レアリス、あんた……」って呟いていた。なんか、すいません。


 ユーシスさんも器用にポテトサラダやポタージュを作るのを見て、またしてもセシルさんが「……「鉄壁」のフォルセリア卿が……」と呟いていた。なんか、すいません。


 それはさておき、コロッケは飽きが来ないように少し味を変えたものを作る。カレー味とチーズインのやつ。スタンダードコロッケは、お芋を甘くしたのと胡椒が効いたもの。合計4種類のお味です。

 それぞれの味をたくさん食べられるように、一つ一つは少し小さめに。


 カラカラと鳴っていた油がパチパチと高い音になる。いい頃合いで引き揚げると、熱々のうちにカレー味を小さくカットした。


「ガル、スコル、ハティ、おいでー」

 ログハウスの日陰で寝ていたガルとスコル、王子と遊んでいたハティを呼ぶと、ぴゅんと私の足元に来た。お座りをして私を見上げている。


 まずはお兄ちゃんのガルに味見してもらう。甘めにしてあるけど、香辛料を使ったから大丈夫かの試食だ。ふうふうしてからガルのお口に入れる。


「どう?」

『ん。大丈夫だ』

 よし!じゃあ、次はスコルとハティだ。

 二人にも同じようにあげると、「おいしー!」と喜んでくれた。風味くらいなら大丈夫みたいだね。


 4個に切ったうちの一つを私もパクッとする。サクッとした歯ごたえの後、ほくほくしたお芋とカレーの風味がお口に広がる。甘みの少ないお芋だったけど、予想より上手にできた。


「ハル、自分だけズルいな。俺にも味見させて」

「私も味見がしたい」

 お手伝い組のユーシスさんとレアリスさんも所望されたので、新しいのを切って味見用のフォークに刺して渡そうとしたけど、二人ともお芋をマッシュしたり、衣付けをしたりしてくれているので手が塞がっていた。

 仕方ないのでガルたちと同じように食べさせてあげると、サクッといういい音が聞こえた。


「こうして食べると、格別に美味いな」

「もっと食べさせてほしい」

 二人ともすごく気に入ったみたいだけど、味見ってなんか美味しく感じるよね。仕方ないから残りの二つも食べさせてあげた。でも、お昼がちゃんと食べられなくなっちゃうから、これでおしまい。


「あらあら。泣く子も黙る「鉄壁」と「闇夜」が、可愛いワンちゃんみたいね」

「リュシー、よく「闇夜」なんて知ってるわね。でもホント、人って変わるわぁ。あの仕事しか頭になかったレアリスがねぇ。そうだ、殿下も混ざってきたら?」

「……くだらん」

「じゃあ、私行ってくる」

「じゃあ、あたしも」


 テーブルの方で、お母さまたちがお話しているみたいだけど、揚げ物台の向こう側に王子が来たので、「鉄壁」と「闇夜」って単語は聞こえたけど、あとなんて言ったか聞き逃した。


「俺も食べたい」

 まあ、大食いの王子が味見を我慢できるはずないね。自分の手で食べる気は無いのか、油跳ねガードの向こう側で大きく口を開けているので、また出来立てを切って食べさせてあげることにする。ちょっと距離が遠いから、お行儀は良くないけど、菜箸で差し出した。


「ハルちゃん。私にもちょうだい!」

 お母さまが背後から私に抱き付く。


「あ」

「ぅぁっちぃ!」

「王子ぃ⁉」


 揚げたて熱々のホクホクコロッケが、口を大きく逸れて王子のほっぺに激突した。粘度のあるお芋が、王子のほっぺにべっとりと貼りつく。


 私は思わず悲鳴を上げて、王子の方へガス台の向こう側に回り込むと、サッと取り出したポーションを王子の顔にぶちまける。恐らく交換時間の最短記録が出たと思う。

 コロッケの形に赤くなっていた王子のほっぺが、見る見るうちに元のスベスベのお肌に戻る。これで、不慮の事故ではあるけど、実行犯の私の罪は消えただろう。私はふぅと額の汗を拭った。


「ばばぁ、ふざけんな!ハルもとりあえずポーションで解決するのやめろ!」

 王子の綺麗な顔を守ろうとしたんですが、お母さま共々、正座で説教されました。


 結局王子は、ポーション塗れでびしょびしょのまま、ぷりぷり怒りながらカレー味以外のコロッケもまるまる1個ずつ食べて、王宮へ残りの人たちを迎えに行きました。

 お母さまには、王子から火の周りへの接近禁止命令が出たよ。



 王子が帰って来るまでの間に、残りの食事作りを再開することにした。


 鳥の雛のように口を開けて待っているお母さまとセシルさんに、一つずつコロッケを食べさせてから「よし」と腕まくりをすると、ふと不機嫌に森を眺める殿下が目に入った。


 まあ、イリアス殿下が素直に、「食べたい」と言って列に並ぶ訳ないよね。やれやれ。


 小さめのお芋を一つ皮付きのまま綺麗に洗って、新しいログハウスのキッチンで数分レンチンした。熱々のうちに切れ目を入れて、そこにバターとお醤油を少々垂らす。殿下は異世界風の味を食べたいって言っていたみたいだから、お醤油で異世界アピールを。

 バターがあっという間に溶けて、お醤油と混じり合ったいい香りがする。塩辛でも美味しいけど、取りあえず癖が少なめのもので様子見だ。それを殿下の目の前に出した。


「皆さんが揃うまで、どうぞ。お口に合わなかったら違うものを作りますから」

 私がそう言ってフォークを差し出すと、殿下はそれを無言で受け取って、また無言でお芋を食べ始めた。そして、あっという間に食べきる。

 どうやらお気に召したみたいだ。


 残りの食事を作るのに調理場に戻ろうとすると、殿下が私を鋭く睨んだ。

「私が領民から領主として受け取る最後の献上品だ。不味いものを作ったら許さぬ」


 そうだった。

 殿下は、お父さんを呼び込んで王宮の結界を壊させる原因を作った罪で、領地を取り上げられる予定だった。混乱を招くから、すぐには実行されないけど、来月には領地にその沙汰が伝わるみたい。


 レアリスさんのお腹を刺したことはまだモヤッとするけど、レアリスさん個人にも何か償いをするだろうって王子が言っていたから、やっぱり領地没収の罰は適当だったのか、私にはまだよく分からない。

 殿下の領地は、王様の直轄地に組み入れられて、殿下は引き続き領地経営の仕事は残るみたい。つまりは、以前と同じ仕事をしていても、領主としての収入はなくなり、得られるのは文官としての事務報酬だけになるって。


 それでも殿下は、領地を見守りたいと、それを望んで受けたと聞いた。


 個人としては思う所もあったけど、もしかしたら領民にとってはいい領主様だったのかも。だって、とっても美味しそうなお芋だもんね。

 領地の人たちの気持ちの入ったお芋だ。気合入れて作らなくちゃね。


「はい。頑張りますね」

 私がそう返事をすると、疲れたようにため息を吐いて、追い払うように私に手を振った。

 はいはい、ちゃんとどっか行きますよ。


 私が料理場へ戻ろうとすると、トコトコとハティが殿下に近付いて来た。

『あそぼ』

 ハティが可愛すぎる。


 スコルは殿下と私の出会いを見ているから少し距離を置いているけど、ハティは王子に少し似ている殿下に人見知りしなかった。さすがの殿下も面食らったようだったけど、天使の可愛さに腹黒人間も邪険にはできない様子。


 満更でも無さそうな表情の殿下に、私からお願いする。どうせ暇だろうしね。

「もし良かったら、これで遊んであげてください」


 亜空間収納から、ゴムのボールとフライングディスクを取り出して殿下に渡した。

 私が投げると何故か、ボールは地面に叩きつけられ、ディスクは後ろに飛ぶ。見かねて王子が代わりに遊んでくれるようになったので、今子供たちのお気に入りの遊びだ。


 イリアス殿下は、私の拙い説明と、形を見ただけである程度の使い方を把握したらしく、2回ほど投げるとコツを掴んだみたいだ。

 私には、未だにアレらが何故ちゃんと前に飛ぶのか理解できない。


 私たちもやりたい、というお母さまとセシルさんに同じ物を渡して、ガルとスコルの相手をしてもらうことにする。たくさん人がいると役割分担が出来ていいね。

 子供たちは、なんか物を追いかけるのが好きみたいで、みんなでウィンウィンの関係だ。


 そうしてユーシスさんとレアリスさんがいる調理場へ行くと、ユーシスさんが優しい目で迎えてくれた。

「君のお陰で、壊れかけたものが少しずつ修復されていく」


 王宮では、お母さまと殿下が一緒の空間にいることは想像もできなかったことみたい。

 距離感半端ないし、すごいトゲトゲしているけど、ここでは一応嫌々でも会話しているしね。

 まあ、殿下一人では帰れないっていうのもあるけど。


 実際私がしていることは、ここでオーパーツと料理を提供しているだけ。

 それまでに殿下を案じていたのはアズレイドさんだし、殿下をここに連れてきたのはお母さまだ。それに今、殿下を癒しているのはハティだよ。


 私は軽く否定するように肩を竦めたけど、ユーシスさんは小さく首を振った。

「君の前では、みんな素直で穏やかな気持ちになれるんだ。それに、ああして魔獣と心を通わせることが出来るなど、君無しでは想像もつかないことだった」


 確かに、最上位の魔獣とは言葉は交わせても、生活が交わることはなかったのかも。知性のない魔獣は人間にとって脅威だし、そもそもの生活圏が違うんだ。軍馬や猟犬などで一部魔獣の血を取り入れた使役動物もいるけど、対等の立場で向き合うことは困難だったことは想像できた。


 それなら、私がこの世界へ来たことにも、聖女の召喚に巻き込まれたただの「おまけ」じゃなくて、何か意味があったんだと思っていいのかな。


「そう思えるところが、君の何にも増して得難い部分だ。もう、オーレリアン殿下もレアリスも俺も、君が召喚されなかった世界など、考えられない」


 そうだね。私もあのまま大学を卒業して、どこかの行政や企業に就職して、ただその他大勢の日本人として埋没して生活する世界を想像するのが難しいよ。


 王子たちや有紗ちゃんがこの世界を救ったら、私は有紗ちゃんと元の世界に戻ることをふと思い出した。


 今までずっと忘れていた。いいや、違う。考えないようにしていたんだ。


 何でかな。ここに来たばかりの時は、一刻も早く帰りたくて仕方がなかったのに、今はその時が来ることが怖かった。


 帰りたくない訳じゃない。向こうにいる友人や両親を亡くした時にお世話になった人がたくさんいる。その人たちに会いたいと思う。

 だけど、一度帰ってしまったら、ここへはもう来られないんじゃないか。


 だって、そんなにすぐに召喚できるなら、前の聖女召喚から300年も時が空くはずがないもの。そう考えると、急に身体が竦んでしまった。


 私は、この世界から離れがたくなっている。

 でも、今は、どちらの世界を選択しても、どちらも後悔してしまいそうだった。

 両親の眠る生まれ育った日本を捨てるのか、私を受け入れてくれて家族みたいになってくれたガルたちに別れを告げるのか。


 多分、私の気持ちはこの世界に傾いている。


 でも、もし私がこの世界にとって仮初の存在だったとしたら……。


 不意に、私の手が温かいものに包まれた。

 ハッと気付いて、俯いていた顔を上げると、そこにはユーシスさんとレアリスさんの心配げな顔があった。

 そして、緊張からか冷たくなっていた私の手を、ユーシスさんがそっと握ってくれていた。


「ハル。どうした?」

 深い色合いだけど、日の光の下では鮮やかにも見えるユーシスさんの緑の目を見ていたら、ふと、私の頭の中に浮かんだものがあった。

 先例があったのを思い出した。


「私、先代の召喚された「聖女」と「勇者」のことが知りたいです」

 前置きも無く切り出した話だったから、多分、ユーシスさんとレアリスさんには唐突すぎる話だっただろう。

 でも二人は驚くでもなく、それを受け入れてくれる。


「そうか。それならば、王宮ではオーレリアン殿下が最も詳しいだろう。だが、先代「聖女」様は、当時神殿側が召喚したから、恐らく神殿側の方が資料は多く持っているだろうな」

 ユーシスさんが言うと、レアリスさんも頷いた。


 私は、ユーシスさんの手の熱で温かさを取り戻し始めた手に力を込めた。それに気付いて、ユーシスさんは手を外してくれた。


「俺たちは、何があってもハルの側にいるから」

 手が離れきる間際に、少しだけ指先に力を入れて、ユーシスさんがそう言った。


「だから、一人で悩まなくていいんだ」


 そうだったね。もう、王宮を去ろうとした時のように、一人で抱えてしまわなくていいんだ。どうせ私一人が考えたって、大した答えが出せる訳じゃないもの。


 私って、多分結構図太くなったよね。

 でも、人見知りをして、周りを気にしておどおどしていた前の自分より、今の自分の方が嫌いじゃない。そう思えるようになったのは、この世界のみんなのお陰だ。


「ありがとう」

 不安があっても、きっと大丈夫って思えるよ。


 私がお礼を言って笑うと、二人とも少し驚いた顔になったけど、すぐに笑い返してくれた。


 ユーシスさんたちに元気を貰っていると、また俄かにお庭が騒がしくなった。

 王子が帰って来たんだね。


 ん?でもなんか、もめてる?


「お前、なんでついて来てるんだよ!」

 王子の大きな声が聞こえた。でもそれは、怒っているというより、困惑している感じ。


 駆けつけると、王子の隣に見慣れない人が。もしや、王太子殿下?


 イリアス殿下と同じミルクティブロンドを長めに伸ばして緩く結んでいて、赤みのある紫色の目をした、「これぞ貴公子!」っていう外見をしていた。国王様に似ているイリアス殿下と血縁であることが分かる程度には似ているけど、王子とは全然系統が違うので恐らく王妃様似なのかもしれない。


 その王太子殿下は、驚くほど冷たい眼差しを王子……ではなく、王子の腰にくっついているちびっこに向けていた。


 なんでちびっこがいるの?


 私と一緒に集まったユーシスさんとレアリスさんが、二人を見て素早く膝を突いた。

「レイセリク王太子殿下、エルシス殿下」


 殿下って言った?エルシス殿下って、きっと王子にしがみついているちびっこのことだよね。


 ユーシスさんの声に、王子の腰に顔を埋めていたちびっこが、ようやく顔を上げた。

 うわっ、うちの子供たちと違った意味で、マジ天使。


 うーん、髪も短いし、服もズボンだし、こっちの世界の男性名は、最後に「ス」が付くことが多いから、男の子だよね。めちゃくちゃ可愛いんですが。


 王太子殿下やイリアス殿下と同じミルクティブロンドで、目は、王子のような真紫をガラスのように薄くした紫だ。その零れ落ちんばかりの大きな目にうっすら涙を浮かべている。

 きっと王子に怒鳴られたと思ったんだね。


 それを見て王子は、何かを諦めたように大きなため息を吐いた。


 ええと、お子様ってコロッケ好きかな?

突然ですが、他の作家さんが後書きで「いいねランキング」をやっているのを見て、真似してみたくなりました。面白そうなのは、どんどんパクっていく所存です。

ちょっと長いですが、お付き合いください。


1位 21話「忘れないよ」 242いいね

2位 25話「召喚って、向こうから来ることじゃないよね」 208いいね

3位 19話「みんな、なんかおかしいね」 207いいね

4位 28話「トリセツは大切です」 201いいね

5位 17話「類は友とレジェンドを呼ぶ」 198いいね


1位の「忘れないよ」は、僅差の2位以下と差が付きました。作者納得の結果です。

2位は、作者には未だに謎なお父さん人気の賜物か。

3位はセクハラ回ですね。特にバリスタがひどいですね。

4位は神話級武器の初交換回です。カッコいいユーシスを書きたかったはずなのにな。

5位はレッドさん登場回です。初っ端から主人公に怒られたのが功を奏したのか。


と、そんな訳で、皆さんにはご覧いただけない「いいね」の中身でした。

いかがでしたでしょうか。

作者はこれを見ながら、いつもニヤニヤしています。

また、何かのランキングをやりたくなったらアップしてみます。

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