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32 レアリス氏のおねだり

本作が、4/25ネット小説大賞十の期間中受賞となりました。

いまだに信じられない気持ちでいっぱいです。


なのに、今話は下ネタになってしまった。

決して食べ物で遊んでいる訳ではありません。偶然の産物です。

 王宮での結婚騒動が収まって、夕方近くにユーシスさんとレアリスさんが有紗ちゃんを連れてやってきた。

 王子は何だかツヤツヤして元気になっていたよ。


「王宮でのこと聞いたわよ。大変だったわね、オーリィちゃん」

「やめろ」


 有紗ちゃんがすかさず王子をからかって、せっかくの王子のご機嫌が斜めになってしまった。

 そんな王子に朗報です。


「まあまあ。今日は前に有紗ちゃんとユーシスさんが食べられなかった餃子パーティしましょ。王子が気に入ったあのビールも出すから」

「何だと!よし、すぐ準備にとりかかるぞ!」


 意気揚々とする王子だったけど、きっと食べるまであなたに出来ることはないと思うよ。


「王子は洗い物専門なんでしょ?」

「うぐ。いや、できる!」


 やる気だけは人一倍だけど、まあ、具材のまぜまぜならできるか。


 ん、待てよ。餃子なら、アレができるじゃない。


「ねえ、いつから王子は洗い物専門になったの?」

 王子と同じく、いつもは子供たちのなでなで係だった有紗ちゃんが不審げに聞いてくる。


「あ、それね。今度みんなで、王子の領地まで馬車で旅をしないかって言って、野宿するなら王子は洗い物くらいできるって言ってたの」

「……みんなで?」

「うん。ガル達も一緒に」


 説明する私に有紗ちゃんが確認するように尋ねたので頷いた。すると、有紗ちゃんはもの言いたげな顔で王子を見やる。


「ふぅん、みんなで、ね」

「本心だぞ。言いたいことがあるなら言えよ」

「言っていいの?」

「……いや、いい」


 何かの攻防があって、何か有紗ちゃんに軍配が上がったみたいだった。王子が項垂れている。それを見て、ユーシスさんもレアリスさんも軽く苦笑している。


「ま、いいわ。それなら私も洗い物専門になるから」

「ふふ、よろしくね。でも、今日はそんな二人にもやってもらうことがありました」

 私が宣言すると、王子と有紗ちゃんがパチクリと瞬きをする。


「今日はみんなで餃子包みをします」

「「やる!」」

 王子と有紗ちゃんが同時に声を上げる。ふふ、二人ともやる気満々だね。


 基本形の餃子はひだひだ作りが難しいけど、小さい子でも作れるやり方があるのを忘れていた。簡単だけど可愛い形になるやつ。


 じゃあ、みんなで餃子作りを開始することにしよう。


 最初はレアリスさんのキャベツやニラのみじん切りから始まり、大量に作るから生姜もニンニクもたくさん擦り下ろしてもらって、4人でタネをまぜまぜしてもらう。

 3分の1は荒く刻んだエビを入れた。そう、エビ餃子も作るよ。


 今日はつけダレで食べようと思うから、味付けは程々にね。


 で、出来上がった具で、いよいよ餃子包みに移る。


「じゃあ、丸型餃子をやってみよう」

 生徒二人は興味津々で私の手元を見る。やり方は簡単。


 大さじより少なめに具を取って、皮の真ん中より少し上に配置。ここで、あまりたくさん具を乗せないのがコツ。それで、皮の端の半分にお水を付けて、そのまま端と端をくっつける。出来た半円の端をまたまたぐるっと丸くなるようにくっつけておしまい。


 不器用2名でも綺麗にできたよ。


 器具みたいなので、パタンとサンドするのもあるけど、あれって楽しいけど具の調整が難しいから、絶対にこっちの方が二人に合っていると思ったんだ。


 感動してしばらく自分の作品を眺める2人を置いといて、今度はユーシスさんに基本の包みかたを教える。やっぱり思ったとおり、ユーシスさんはすぐに私よりも上手に包めるようになった。レアリスさんが珍しくユーシスさんに対抗意識を燃やして、2人ですごい勢いで餃子を包んでくれたよ。


 王子と有紗ちゃんが10個包むうちに、2人はその3倍近く包んでいたと思う。形も綺麗だし、ホントすごいよね。

 その間に私は、餃子のお供のタレとスープを作った。干しエビとネギとナッツが入った食べるラー油と柚子胡椒、ポン酢と酢醬油。ラー油はあまり辛くないから大丈夫だと思うけど、フェンリル親子には、低刺激のめんつゆマヨも作った。

 それと具を拝借して肉団子と春雨のスープ。付け合わせに棒棒鶏サラダも作ったよ。鶏肉多めでね。

 餃子は焼き餃子と水餃子。エビは水餃子ね。


 餃子が出来上がる頃にはすっかり日も暮れて、ライトをつけていると、ようやくフェンリル親子が帰って来た。なんか、みんなスッキリした顔をしていた。


「じゃあ、みんな召し上がれ」

『『『『「「「「いただきます!」」」」』』』』


 人間組には、あのクリーミーな泡のビールを出したけど、私とユーシスさんは餃子を食べる前にグラス半分を一気飲みしてしまった。駆け付け一杯じゃないけど、美味しいよね。

 夏には絶対ジョッキが必要だ。


 結構大判の皮で作ったから、私と有紗ちゃん、スコルとハティは7個ずつ、レアリスさんとガルが15個、ユーシスさんが20個、王子が25個にお父さんが30個。200個作ったから、余った分は今度シロさんとレッドさんにあげよう。


 作った餃子を収納に入れたら、ピコーンといって鑑定が入った。


 “ハル、ユーシス、レアリスの作った餃子(美味) 5個800P  アリサ、オーレリアンの作った餃子(美味) 5個300P”


 私はそっとスキルボードを閉じた。


 そして恒例の解毒ポーションで臭い消しだよ。


 今日もお腹いっぱい食べたね。

 ごちそうさまでした。



 次の日の朝、有紗ちゃんは早朝からランニングしてくると言って、私が出してあげたマウンテンパーカーとレギンスとショートパンツとランニングシューズで走りに行った。それにハティもついて行くって楽しそうだった。


 有紗ちゃんのスレンダーな体型はそうやって維持されてたんだね。


 そう言えば男性陣は、その体型をどうやって維持しているのか聞いたら、寝る前にテントで筋トレと早朝鍛錬をやってるんだって。


 なんてこった。私がぐっすり寝ている間に、みんなそんなことをしていたとは。


 私が自分のお腹に手を当てていると、ユーシスさんが最近は私の食事が美味しくて弛んだかもと言っていた。

 ご飯が美味しいと言ってくれるのは嬉しいけど、服の上からでも分かる完璧な腹筋に、軽い自慢かなぁと思って口を尖らせると、「触ってみる?」と言ってきた。

 一瞬手を出しかけたけど、ハッと我に返って全力でノーサンキューした。


 ユーシスさんは、たまにセクシー小悪魔のような時があって困る。


 そんな事件もあったから、朝食はかなりヘルシーになっちゃった。

 コーンフレークと牛乳、果物のヨーグルト掛け、青菜とバナナのスムージーだ。


 完食してくれたけど、みんなちょっと納得してない感じだった。見て見ぬふりをする。

 身体にはこの上も無くいいご飯だからね。


 そんなこんなで食後に、フェンリル親子はホットミルク、人間組はレアリスさんが淹れたコーヒータイム(王子はカフェオレタイム)をしていた時だった。


「レアリスのコーヒー、凄く美味しいんだけど、たまにカフェラテが飲みたくなるのよ。ふわふわミルクの」

 有紗ちゃんがしみじみと呟いた。


 レアリスさんは凝り性なのか、私がいくつか豆の銘柄を出したら、独自ブレンドとかしてくれた。挽き方とかも工夫しているみたいで、ブラック派の私は非常に贅沢な気分を味わっているのだけれども、まあ有紗ちゃんの言う事も分からないではない。


 王子のカフェオレは、ドリップコーヒーと牛乳でササッとできるけど、有紗ちゃんの言うやつは、エスプレッソとフォームミルクが必要だ。ここにある道具だけでも出来なくはないけど、きっとチェーン店みたいなやつを言ってるんだろうなぁと思う。


 私がブツブツ言っていると、レアリスさんの目の色が変わった。

「ハル。その『カフェラテ』とはどういうものなんだ?」


 普段自己主張をしないレアリスさんには珍しく、食い気味で聞いてくる。私が説明するけど、いまいちピンとこないみたいで、私はスマホでレシピと動画を見せることにした。


 レアリスさんは、多分初めてスマホの動画を見るはずだけど、なんだか意外とすんなり受け入れられてしまった。逆に王子たちの方が興味津々っぽかった。


 スマホは、Wi-Fiをポイント交換できるけど、こちらからの発信はできなくて、情報を受け取ることしかできなかった。それもニュースとかSNSも見れなくて、有紗ちゃんの見解では、私たちが召喚された時点で開示されている「誰かが選別した」情報だけを見られるようになっているのでは、ということ。


 ポイント交換では、私がこうして与える以上に形として残る情報、つまり誰でも閲覧できる本を交換することができないので、恐らくオーパーツは手に入れられても、それをこちらの人が原理を理解して作ることはダメ、と「誰か」が制限しているとしか思えない、らしい。


 残念だけど、駄目なものは駄目なのだから、あるもので出来ることをすればいいか、と私が開き直ったら、有紗ちゃんは呆れていたけど笑ってもいた。「そういう波瑠だから、この力がもらえたんだろうね」と言って。


 カフェラテ動画は、どうやらその規制には引っ掛からないらしく、カフェラテの作り方をレアリスさんに見せていると、急にレアリスさんにガシッと手を握られた。


「ハル。私はレーヴァテインが見たいとはもう言わない。だから、このエスプレッソマシンを交換してくれないか」

『おい!勝手に私のレーヴァテインを要らぬとか言うな!』


 お父さんが尻尾でレアリスさんをバシバシしている。気を使って尻尾で攻撃しているみたいだけど、レアリスさんはビクともしないから効果はないみたい。あまりに真剣なので、レアリスさん、お父さんが触ってるのに気付いてない。


「え、レアリスが淹れてくれるなら、私からもお願い」

 そこへ有紗ちゃんも乗っかって来た。うう、圧が凄い。私も飲みたいと言えば飲みたいしね、お父さんの意見は特に必要を感じないから別にいいんだけど。


 私はなんだか分からない圧に負けて、カプチーノにも対応できる、1度に2杯作れるマシンを所望された。もちろんスチーム機能付きのね。メタリックで、確かに見た目はカッコいい。


「私がいないと動力が無いから作れないですけど、いいんですか?」

「ああ。あなたたち以外に振舞うつもりもないから」

 そうですか。


 なんだかんだで10万Pくらいのマシンを交換した。

 そのマシンを目にしたレアリスさんの頭とお尻に、犬みたいな耳と尻尾の幻覚が見えるようだった。本当に尻尾が生えてたら、ぶんぶん振ってただろうなと思うほど、表情を変えないのに喜びの波動が伝わってきた。


 レアリスさんは、キリッとした犬顔だからそんな幻覚が見えたのかなぁ。


 目の前に置かれたマシンに、レアリスさんは手をそっと置いて撫でていた。


「ハル。一生大事にする」

「…………」


 いや、エスプレッソマシンのことだから。一生は使えないけど。

 それに、私に潤んだ眼差しが向けられているけど、その真意はレアリスさんのコーヒー愛に起因するものだから、しっかりしろ、私。


 結果、レアリスさんは動画を見ながら挑戦すること3回目で、ラテアートのリーフをマスターしてた。私たちと会話するのとは違って動画の日本語は通じないみたいだし、字幕の日本語も読めないみたいだけど、なんでかそれで説明が分かったみたい。理解力が凄すぎる。

 本当に、なんで私の護衛なんて引き受けたのか分からないほど、ハイスペックだよね。


 最初のウニョっとした形の一杯は、一番身分の高い王子に供された。

 ……ちょっと口では言えないというか、口にしてはいけないものをデフォルメしたような形に見える。

 あ、有紗ちゃんが死んだ魚のような目をしている。やっぱりそう見えるんだ。


 王子の引き攣った顔が目に焼き付いた。多分意味は知らないだろうけど、なんか不穏な形だから躊躇してるっぽい。有紗ちゃんが、そっとそのアートをスプーンでかき混ぜてあげてた。

 2杯目はユーシスさん。王子よりマシになったけど、同じ表情をしていた。


 いや、本当に偶然にそうなっちゃったんだと思うよ?分かるのはきっと私と有紗ちゃんだけだしね。


 もちろん3回目の成功ラテは有紗ちゃんのものだ。ホッとしている有紗ちゃんが印象深かった。


 最後に私に差し出してくれたカップの表面には、リーフじゃないものが浮いていた。


 んんん?

 これって……、ハート?


 あ、そうか。リーフの動画の次がハートか。なぁんだ。

 こちらの世界の人はハートの意味なんて知らないもんね。

 ふう、また誤解するとこだった。


 私がハートにそっと口を付けると、レアリスさんと目が合った。


 ヘーゼル色の目が、柔らかく細められて、口元も微かに微笑んで見えた。


 え?何で?


 意味、知らない、よね……?

レーヴァテイン<エスプレッソマシン

謎多き男、レアリスの回です。


謝るくらいならやるなと思いましたが、ラテアートの動画見てたら、どう見ても一瞬アレに見えてしまったのです。本当に申し訳ございませんでした!

怪訝そうながらも、ちゃんと美味しくいただいたので許してください。

多分アレはもう世に出ないものと思われます。イリアス殿下には分かりませんが。


さて、前書きや活動報告にも書かせていただいておりますが、この度ネット小説大賞の期間中受賞となりました。

まさかという思いから抜けきれません。こんな話ですが、もらっていいんですよね?


皆さまの応援があって書いてこられた作品ですので、改めてお礼申し上げます。

今後も閲覧よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 3Dラテアートでフェンリルを!
[良い点] 更新お疲れ様です。 ハートマーク···いや絶対レアリスさん解ってますよね(笑) まぁでも出逢いがあんなんだったのに、波瑠の今までの彼への対応を考えたら特別な感情を抱くのは必然的ですよね。…
[一言] サムネいろいろ見てきたけどわかりませんでした…… ミミズ? ちがうな……
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