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3 王子は何をしたいのか

スキル説明は作者独自の解釈です。

 私はこの世界の事を少しずつ覚えていった。


 まず、このスキルというものだけど、この世界の人は必ず一つは持っているらしい。

 そのレア度によって職業もある程度左右されるっていうから、このスキルっていうのはとても大切みたいだ。


 みんな大抵二つ三つは持っているようだけど、私は一個。

 しかもポイント交換という訳の分からなさ。そもそもポイントって何よっていう話だろう。


 スキルにも隠しスキルというものもあるそうで、条件が揃うと現れたり、後発的にスキルを取得したりすることもあるらしいから、私もまだ有用なのを持っている可能性もあるそうだ。

 それが分かる前にきっと、私は帰ることになるだろうけど。


 そう言うと、ユーシスさんは少しハッとしたように、「そういえば帰るんだったな」と言った。なんか、帰るのを惜しまれている気がして、ちょっと嬉しく思うのは酷いのかな?

 ここまで良くしてもらったから、私も帰る時には寂しく感じるんだろうな。


 ちなみに、ユーシスさんのスキルを見せてもらったけど、「鉄壁」と「剛腕」、「炎槍」というのを持っている。もう字面だけで天性の職業軍人って感じだよね。どれだけかっこいいの。


 スキルは階位があるようで、ユーシスさんの「鉄壁」は「守護」というスキルの上位互換らしい。「剛腕」は「膂力」の上位互換で、「炎槍」は火系の攻撃スキルの上位種だって。これは低い階位でも、熟達度とかで成長することも可能みたい。


 北条さんの「白き裁き」は、対魔物戦では最強のスキルらしい。っていうか、浄化スキルと呼ばれるものの中でも、伝説級のレア度だ。それと「聖なる炎」は、ユーシスさんの「炎槍」のさらに上位種だって。


 分かりづらいのだけど、スキルは北条さんのように周囲に物理影響を及ぼすものと、「鉄壁」のように任意発動するバフ系のスキル、「剛腕」のようなパッシブスキルといろいろある。

 でも、全てのスキルはオンオフが可能なんだそう。じゃないと、ユーシスさんがいつも「剛腕」を発動していたら、カトラリーやドアノブをいちいち粉砕してしまうものね。


 他にも、職能系のものやデバフ系のもの、容姿や運を上げるものとか、それこそ数えきれないほどあるそうだ。

 長い歴史の中、スキルは研究しつくされてきたらしいが、そんな中でも私のスキルは見たことも聞いたこともないようだった。

 ある意味伝説級の「白き裁き」よりも珍しいと言える。

 

 全然嬉しくないけどね。




 そういえば、クッキーを作ってから、王子が私にいろいろと要求するようになった。

 何か、いつも小腹を空かせているようで、何か食べさせろと言うから、持ちのいい食べ物を何か作るようにした。今日はパウンドケーキだ。


 バターと小麦と卵と砂糖があれば出来る簡単なケーキ。少しお腹に溜まるように、ドライフルーツとちょっとお酒を入れてあげた。

 先にユーシスさんに味見してもらったら、全部食べそうな勢いだったので、余った野菜で野菜チップスを作って足しにする。これも無くなってしまいそうだったので、王子が来るまで半分はお預けにした。


 大体王子が来るときは、ほぼ午後で訓練場だ。

 最近は1時間でも必ず時間を見つけてやって来る。私の成果が出なくてやきもきしているのかも。


 お菓子をバスケットに入れると、サッとユーシスさんが持ってくれる。やっぱり紳士だね。

 っていうか、訓練場の階段の段差が凄くて、一度私がすっころんでからの措置である。


 荷物とは別の方のユーシスさんの手は、しっかりと私の手を握っている。エスコートっていうヤツらしいけど、これはどちらかというと介護だね。


 そうして訓練場まで下りてくると、今日はもう王子がいた。

 私たちの姿を発見すると、つかつかと近付いてきて、ユーシスさんからバスケットと私の手をひったくると、サラッと何か呪文のようなものを唱えた。


 グンと何かに引っ張られるような感覚がして、私はこの世界に来た時の感覚を思い出した。

 咄嗟に掴まれていた王子の手にしがみつく。


 気付けば辺りの風景が変わっていた。先ほどまでの訓練場の石組みの無機質な円形闘技場みたいな場所から、冬でも枯れない常緑の枝葉が茂る大木の立つ小高い丘にいた。

 遠く眼下に光っているのは、王都の東にある湖だろう。

 結構な距離を一瞬で超えたらしい。


 この世界には、スキルの他にも魔法がある。スキルは完全に個人の資質に左右されるけど、魔法はこの世界にある理を表すものだから、魔力さえあれば誰でも使えるみたい。

 ただし、それを魔術と呼ばれるまで使えるのはひと握りの人間だけで、その理論をちゃんと理解できて、それを実践できるだけの魔力がないと使えないって。

 地球でも、走ることはできても、それをより早く走る理論と技術と身体能力がなければ、オリンピアンのように走ることは出来ないのと一緒だ。


 そして、この俺様王子様は、その複雑な理論を理解する頭脳と巨大な力の両方を持った稀な人だった。


 ちなみに、私たち異世界人は魔力を持っていないから魔法は使えない。非常に残念だ。


 王子のこの転移は、別次元というか、別の世界から人間を二人も連れてこれるのだから、こんな目の届く範囲を飛ぶのは朝飯前のことなんだろうね。


 でも、自分がそれに慣れているからと言って、他人がそれを平気だとは思わないで欲しい。

 私は空間を跳躍するあの感覚がトラウマだった。

 またどこかへ飛ばされてしまうのか、今度辿り着く場所はここよりも安全な場所なのか。そう思うと、確かにそこにある王子の手を離せなくなった。


「きゅ、急に、やめて!」

 私は王子に苦情を申し立てる。このところ、何故か王子にだけは、遠慮なく意見できるようになった。同い年だからだろうか。


 私が声を震わせて、王子の手にしがみついていると、王子はバツが悪そうに目を逸らした。

「そんなに怖かったのかよ。俺がヘマするわけ無いだろうが」

「王子の能力を疑ってるんじゃなくて、私の気持ちと心の準備の話!」


 蚤の心臓だってリスペクトするくらいの私の心臓の小ささ、見縊らないでほしい。

 事前に言われても多分駄目だろうけど、言われなかったら本当に心臓止まる。

 その優しさが必要だよ、ホントに。


「……そうか」

 私は心底怒っているのに、王子は少しニヤついている。なんか、嬉しそうだ。私の醜態がそんなにおもしろいのか。


 ジト目で睨んでいると、王子は徐に私の手を引っ張って歩き出した。相変わらず動きが唐突すぎて、私はついて行くのがやっとだ。


 やがて、丘のシンボルのような木の下に辿り着くと、有無を言わせず私を座らせ、その隣に自分もドカッと腰を下ろした。

 そして、持ってきたバスケットから食べ物を取り出すと、パウンドケーキから無言でもぐもぐ食べだした。もうマイペース過ぎて怒るのも疲れる。


「美味しい?」

「うん。まあまあだな」

 すごい勢いで食べてるのに、相変わらず素直じゃない。いいけど。


 ユーシスさんの分まであったパウンドケーキを食べつくすと、野菜チップスまで平らげて、今度はゴロンとその場に寝転がった。地面は冬枯れの芝っぽいから汚れないけど、お行儀良くないよ、王族。


「食べてすぐ寝ると牛になるんだよ」

「何だよそれ。呪いか?」

「体に良くないからやらない方がいいよっていう、私たちの故郷の戒め」

「そんなやわにはできてねえよ、俺は」

 結局やりたい放題ってことで落ち着いた。しばらくは無言で過ごす。


 王子は疲れているのか、目を瞑っている。あまり顔色も良くないし、寝不足なのかな。

 眠っているのかと思って、むしった草の先端で鼻をくすぐると、ガッと手を掴まれて凄い目で睨まれた。寝てなかった。


「お前、俺に悪戯するってことは、お前もされる覚悟があるんだろうな」

 王子は起き上がると、私の手を引っ張って間近で私の顔を覗き込んだ。顔が怖いです。


「……ありません。さっきの仕返しのつもりでした。すみません」

 私が素直に頭を下げると、何かが気になったようで、私の頭や手を急に確認しだした。


「お前、何で貧乏くさいのかと思ったら、装身具なにも付けてないじゃないか」

「ちょっと!」

 貧乏くさいって、ちょっと酷いな。事実だけど。


「お前用のをあつらえるよう王宮の女官をやったんだが、聞いてないのか?」

 そういえば、ここに来た三日後くらいに何か言われた気がする。


「ああ、確かに来たけど、『聖女』様の予算だとか言われたから、私から断った」

 あれ、今から考えれば、「聖女予算使うなよ」って釘刺されてたのかな。

 それに王子も気付いたようで、かなりご立腹な様子だった。

「何でだ。微妙だけど、お前だって聖女かもしれないだろうが。正当な権利だ」

 微妙って言われた。

「……自分で言ってて無理あるって思わない?でも、実際私に使うのはもったいないよ。それなら北条さんに気分良く使ってもらって、この世界に貢献してもらった方がいいじゃない。税金を使っているなら、その方がみんなも喜ぶと思うよ」


 北条さんの名前を出したら、王子は少し顔を顰めた。あまり仲良くないのかな?

「それなら、俺が贈る。税じゃなければいいんだろう」

「いや、それこそなんか違うでしょ。どうせ似合わないんだから、気を使わなくていいよ」


 やっぱり分相応って大切だと思う。高価なものを身に着けていたら、いつ壊したり無くしたりするか心配で、絶対に恐くて固まってしまう。贅沢をするのも覚悟がいるんだ。

 そう説明すると、王子は盛大に不機嫌になった。


「似合わないって誰が言った?」

「自分で分かるよ。それに、今、十分に良くしてもらっているから、これ以上何かしてもらったら贅沢だよ」


 不可抗力で連れてこられた場所だけど、寝る場所もご飯にも困らなくて、親切にしてくれる人がいる。やりたくないことをやらされている訳でもない。本当はお返しに何か役に立てたらいいけど、それには目を瞑ってほしい。


「……お前は、本当に自分が分かってない」

 王子の紫色の目がさらに険しくなる。何で何を言っても怒るんだろう。


 掴まれている手に力が込められた。

「痛い、王子、手、痛いから」

「うるさい。俺が連れてる女が何も着けてないとか、俺の沽券にかかわるだろうが」

 結局そっちか!


「連れて歩かなきゃいいでしょうが」

「面倒看るって言ったのに放置してたら俺がとやかく言われるんだよ」

「そんなこったろうと思った。もう、いらないったらいらないの!」

「なんでこんな所だけ強情なんだよ。可愛くないぞ」

 カチンときた。可愛くないのは自分でも知ってるけど、でもカチンときた。


「あっそ。じゃあ不細工には、余計アクセサリーなんて必要ないよね」

「ちが、そういう意味じゃねぇよ」

「はい、この話はもうおしまい。次、話を蒸し返したら、絶交だから。おやつも無し」

「……絶交。……おやつ無し」


 何故か、王子には「絶交」の文字が効いた。そっか、友達いなさそうだもんね。それにこうやって小腹を満たせなくなるのが余程堪えたようだ。


 こうして私と王子の後から考えたら変な攻防は決着がついたけど、王子は他に欲しいものはないかと尋ねてきた。後に引けない性格なのだろう。


「いやぁ、必要なものはもう貰ったし、ユーシスさんから辞書もいただいたから、今のところ特に必要無いかなぁ」

「……ユーシスめ」

 何故か怒りの矛先がユーシスさんに向いたが、ぼそぼそと「なるほど、そっちの方面か」と呟いて急に機嫌が良くなった。


 その後は、なし崩し的に仲直りして、王宮へと帰ったのだった。


 帰りは歩きを主張した私だったが、私の鈍足に業を煮やした王子が例の転移を使った。

 今度はちゃんと断りを入れられたのだんだけど、怖いと言った私に配慮してか、腰に腕を回された形で、がっちりとホールドされたうえで転移した。

 できれば、そのスタイルにも配慮が欲しかった。心臓が持たない。


 急に現れた私たちを見て、ユーシスさんが怖い笑顔で出迎えてくれたのだけど。

 私はともかく、誘拐紛いの行動に、王子はユーシスさんにこってりと怒られていた。



 後日、私の元に、一冊の綺麗な本が届いた。

 誰からとは書いてなかったけど。


 この世界の植物が載った図鑑だった。小振りで私の手に馴染む大きさで、表紙も綺麗な装丁だった。

 何より中身が、こちらの独特な単語に不慣れな私の為に、図で詳細に説明されている美しいものだった。


 多分、とても高価なものだと思う。装丁もだけれど、使われている紙も多分魔法で保護を掛けてあるっぽい。


 贈り物は、値段で価値を測るものではないけど、この本は私のことを最大限に考えて贈られたものと分かる。


 無駄遣いだと怒れないじゃない、王子。


 私の為に何かしたいと思ってくれた、そのことだけでも涙が出るほど嬉しかった。

この世界の魔法は、火も水も土も風も取りあえずみんな使えます。

魔術は、めっちゃ頭のいい人が使える、みたいなイメージです。


ここで凡ミスのお知らせです。本作の騎士と別作のスパダリ系王子の名前が被ってたのに気付きましたが、このままで行きます。

どうぞ、(生)温かい目で見てやってください。


明日も更新します。

閲覧ありがとうございました。

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