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28 トリセツは大切です

とうとう、アレを交換します。

 いつもの環境と違うのに、いつもどおりのレジェンドの横暴ですっかり注意力が散漫になっていた。


 そう、ここにはイリアス殿下がいたんだった。


 昨日、殿下の前でスキルを披露した時は、ササッと武器のカテゴリは飛ばしたから、まさかこんなアホみたいなやり取りで、神話級の武具が顕現するとは思っていなかったよね。


 そんな訳で、殿下による事情聴取が執り行われた。

 アウトドアテーブルを挟んで、殿下と向い合せに座らされているよ。


 ちなみに、衛兵さんたちに聞かれないよう、私たちの周りに殿下が結界を張っている。


「すると、何か。上位種の魔獣の素材が、強力な神話のような武具になると。それでお前は、その妙なスキルでその武器を創造できるというのか。あまつさえ、その素材となるものは、お前が拒んでも、その持ち主から勝手にお前に譲渡されると。そんなおかしな話があるか!」


 いや、あるんです。目の前に。


「何だろうな。俺は初めてイリアスに共感した」

「同じく」


 王子とユーシスさんが頷き合って、有紗ちゃんとレアリスさんは同情的に私を見る。


「それで、お前は何故その有用な武器を出さない。お前が持ちたくないならば、そこな鼠にでも渡してしまえば良いだろうが」

 怒りに近い感情で、アウトドアテーブルをバシバシ叩く殿下に、私はびくびくしながら訴えた。


「こんな、訳の分からない強力な武器が、ホイホイその辺に転がっていたら、それこそ危ないんじゃないんですか?」

 持ち主を選ぶものならいいけど、誰にでも扱えて、誰にでも超常的な力が発現できたら?

 もしそれが、正しい使い方をしない人間だったら?


「王子に管理を任せるとしても、世に出したからには、私にも責任があるはずです。だから、自分の手に負えないものは、できるだけ作りたくないです」


 ここが私が小心者たる所以だけど、戦時中に人の助けになるだけならいいけど、平和になった後に紛争の種になるようなことは嫌だ。


「お前が言いたいのは、その強大な力に見合った資質と、適切に扱える人間性を備えていない輩に扱わせたくないということか。それも後世に渡るまで」

 小さくこくりと頷く。


 イリアス殿下の青紫色の目が、私を見ながら眇められた。


「なるほど。考え無しの馬鹿ではないということか……」


 微妙に褒められているのかもしれないけど、すっごいモヤモヤする言い方です。

 ああ、今、不満が思いきり顔に出ているかも。


「私が褒めてやっているのだ。少しは喜べ。それに、私は馬鹿は嫌いだが、賢い女は嫌いじゃないぞ」

「いや、嬉しくないですし、嫌いで結構です」


 何言っているんだ、この王子様は。

 新手の嫌がらせだね。私が嫌がることを熟知している。


 私が心底嫌そうな顔をしていたのを見て、殿下は愉快気に言った。

「……なるほど、な」


「本筋に戻れよ、イリアス」

 急に王子が口を挟んでくる。いつの間にか、私の横に立っていた。


「狭量は嫌われるぞ、鼠」

「性悪よりはマシだ、お兄さま」


 この人たち、喧嘩してないとお話できないのかな、ホント。いや、いっそ仲がいいのか。


「王子も殿下も、イチャイチャなら他所でやってください」

「「誰がイチャイチャだ!」」

 何?シンクロ流行ってるの?


 私が、仲良し疑惑の目を二人に向けていると、パタパタとシロさんが飛んできて、私の膝の上に着地した。


『ハルよ。武器が誰かに悪用されるのを恐れるなら、紅血呪というものがあるぞ』

「こうけつじゅ?」

 私が首を傾げると、シロさんが説明してくれた。


『武器に使う者の血を登録するのだ。そうすると、登録者から一定の距離を離れると自動帰還する。従魔の契約と似たような理屈だ。儂が扱えるぞ』


 何それ、目から鱗が落ちる。そんなやり方あったの⁉


 従魔契約って、テイムと違って、魔獣側から「仲よくしよう」って持ちかける契約なんだって。主を定めるとその居場所が分かるようになって、逆召喚みたいにぴゅんって主の所に転移できるみたい。

 それを無機物にも応用できるんだって。魔法が得意な最上位種の魔獣ならできるっぽいよ。


『私もできるぞ』

 お父さんも参戦する。私を前から覗き込んだ。


『何なら、私と従魔契約をしてみるか?』

「ええ、やらないよ。だって、お父さんと私は主従じゃなくて、お友達でしょ?」

『ククク、そうだな。ハルとはそういう人間だったな』


 何故かお父さんは嬉しそうに、私の顔にスリスリと鼻先をくっつけてきた。


 みんな静かだったからふと見たら、人間組が何でか唖然としてこっちを見ていた。


 スリスリで気が済んだのか、お父さんは後ろに回って私の頭に顎を乗せて話を再開した。


『それに、平和になれば、その武器をそなたが亜空間収納内で『削除』すれば良いだろう』

「そっか、その手があった」

 お父さんの顎を頭に乗せたまま、私はポンと手を打った。


「「「「「「もったいない!」」」」」」

 お父さんの提案に、私を除いたその場にいる人間組全員が突っ込んだ。


 でも、そうだよね。リサイクルできないゴミとかを削除できるくらいだから、武器だってできそうだね。


「「神話級武具をゴミ扱いするな‼」」

「だって、槍だったら物干し竿的なものにはなるかもしれないけど、剣って置いとくだけになるでしょ。包丁にはならないし。あ、盾ならひっくり返せば物入れに使える?」

「「再利用するな!宝物庫行きだ!」」


 王子と殿下の見事な連続シンクロ攻撃。何故か私が強めに責められてる。

 何故か、みんなとの距離を感じるよ。


『どうだ?試しに何か武器を交換してみるか?』

 ワクワクしたお父さんの声。ああ、結局はそこだよね。ずっと楽しみにしてたもん。

 人間組も何だか期待しているっぽい。


 でも、ここで一度神話級武器がどういうものか、調べておく必要はあるか。


「殿下。先に言っておきますけど、人間の手に負えないような武器だったら、即廃棄しますからね。その判断は皆さんの意見を聞きますが、最終的には私に任せてください」

「私に指図か。……まあいいだろう」


「あと、使う人は、この中の誰かということで了承してください」

 使う人は、自分の目で確かめた人にしてほしかった。この中の誰かなら、人となりも知っているし、絶対に悪いように使わないって分かるからね。


「そうだな。ここはこの国屈指の人間が揃っている。いいだろう」


「最後に、このことを国王陛下にお伝えいただくのはかまいませんが、できれば知る人を絞っていただけるとありがたいです」

 キラッと、鈍く殿下の目が光ったように見えた。


「これは、お前が言った「ルール作り」というやつか?」

「そう、思ってください」


 取り急ぎだから後から変更はOKだけど、取りあえず今はこれくらいしか思い浮かばない。それでも、約束を守ってもらうことは、絶対に念押ししておきたかった。


「後は、秘密裏に進めるなよ。必ず俺たちを通せ」

 最後に王子が言った。殿下側の思惑だけ反映された勝手な「ルール作り」では意味が無いから。


「いいだろう」

 殿下の言葉に私はホッとする。


「だが、一つだけ言わせてもらおう」

 え、何か駄目なことあったかな。私はちょっと不安になって、殿下を恐る恐る見た。


「お前、その魔獣にいつまで好きにさせておくつもりだ?」


 すっかり失念してましたが、お父さんの顎がずっと私の頭の上に乗ってましたね。


『狭量は嫌われるのではなかったか?』

「気が散るだけだ」

 確かに気が散る、っていうか、気が抜けるよね、この絵面。


 お父さんが「ふん」と言って離れた。そうしたら「お前もだ」と言って、殿下はシロさんも指名したけど、どこ吹く風でそのまま膝に居座っていた。


「よし、じゃあ、どの武器を交換しようか」


『レーヴァテイン!』

『カラドボルグだ』

 真っ先にレジェンド二人が声を上げた。まあそうだよね、自分の素材を交換したいよね。


 今やレッドさんは中サイズになっていたので、お父さんと真っ向から睨み合っていた。

 二人とも一歩も譲らない気配。このままだと埒が明かないね。


「じゃあ、多数決にしよう。武器の名前を言うので、交換したいものに手を挙げてください」


 私は、一同を見回す。


「それでは、レーヴァテインがいい人」

 お父さん、有紗ちゃん、レアリスさんの3人。

 何かお父さんがガル達に「お前たちも手を挙げるのだ」と言っている。組織票を狙っているようだけど、残念!ここで締め切った。


「次、カラドボルグがいい人」

 レッドさん、王子、殿下の三人。やっぱり気が合うんじゃないの、この二人。


 そして、結果はまだ分からない。棄権票があるかもしれないからね。


「じゃあ、最後。グングニルがいい人」

 シロさんに子供たち3人。おっと、裏切られたお父さんがショックを受けている。

 あと、ユーシスさんに、ん?アズレイドさんもか。殿下に阿ると思ったら、意外としっかり自分の意見を打ち出してきたね。


「という訳で、結果は、圧倒的多数で『グングニル』となりました」

『何故だ!絶対、私の剣が一番カッコいい!魔剣だぞ!』

『フッ、負け惜しみを。我らは負けたのだ。ユグドラシルに』


 まさかの親族からの裏切りとその結果に項垂れるお父さんに、遠い目をしたレッドさんが声を掛ける。


 シロさんは多分一番高額だったからだと思うけど、ガルは『父さんを付け上がらせない方が身のためだ』と言っていた。妹たちは『何となく?』とのこと。

 お父さんの人望ゼロだね。


 という訳で、ユグドラシルの枝を投入口に入れる。12億Pが入った。

 ……ちょっとした有名地元企業の年商ですよ。怖いです。

 で、ピロリーンとなんか鳴った。無視。


 で、4億ポイントでグングニルを交換。

 ピロリーンとまたなんか鳴った。これも無視。


 取り出し口から手を入れると、結構な太さの柄を掴んだ。

 で、取り出し口から出した途端、ズシッと重くなって、思わずよろけてしまった。


「ハル、大丈夫か?」

 槍ごと後ろからユーシスさんに支えてもらって、なんとか転倒せずに済んだけど、なにこれ、重すぎて持つとか無理なんだけど。


 それを察したのか、ユーシスさんが引き取ってくれた。


 長さは、ユーシスさんよりちょっと長い。2メートルくらいありそう。

 木質にも見える淡い緑の柄に細かい装飾が施されていて、その太さは下手すると有紗ちゃんの手首くらいある。穂先は三叉がまとまって細い三角形を描いていて、根本に返しみたいな小さい刃が付いている。刀身はそれ自体が宝石みたいに淡く緑に光っていた。


 魔槍って言われているけど、凄い優美で神々しかった。


 そんな魔槍を、ユーシスさんは片手で持っていた。スキル、使ってる、よね?


「……素晴らしい」

 思わずと言った感じで殿下が呟いた。


「フォルセリア、そのまま何か動作してみろ」

 殿下がユーシスさんに指示を出す。ユーシスさんも無言で頷くと、みんなから離れて、斬る、突く、薙ぐ動作を一連でやってみた。


 ユーシスさんは、いつも剣を刷いているから剣が得意なのかと思ったら、一番は槍が得意なんだって。そう言えば、スキルも「炎槍」だったね。


 あまりに無駄のない動作は舞踏みたいで、思わず見とれてしまった。


 でも、風切り音はしたけれど、何も起こらなかった。


「もしかすると、魔力を込めるのか?」


 王子が気付いて言うのに、ユーシスさんは素早く対応する。で、構えた途端に、フォンって音が聞こえるくらい、槍に力が溢れたのが感じられた。


「凄い伝導率だ。少量の魔力だけでこれほど力が満ちるとは」

 どんなものか分からないけど、とにかくユーシスさんが言うには凄いらしい。


「振ってみろ」

 また殿下が指示を出す。


 で、振ってみた結果……。


 どかぁぁぁん、と轟音が響いた。


「「「「「「「………………」」」」」」」


 ……綺麗な庭園の地面が、10メートルくらい抉れたよ。殿下の結界内で良かったね。


『なんと、まあ』

 楽しそうにシロさんが笑う。人間組は全員ドン引きでしたけど。


「……ハル。確か交換履歴とかいう所で、何か情報が書いてあったんじゃなかったか?」

「……うん。見てみる」

 ちょっと呆然と王子が言う。


 履歴で「グングニル」を見てみると、『魔力を込めると、半径20メートルの爆風を生む。また、投擲すると手元に戻る』となっていた。


 やるまえに かならずよもう せつめいしょ


 思わず一句出来てしまった。


 取りあえず、心配していたよりは常識的な範囲の効果かもしれなかった。


「どうだ、ユーシス」

「練度は要求されますが、恐らく使いこなせるかと」


 王子が尋ねると、少し思案しながらも、ユーシスさんは明快に答えた。

 それを聞いて王子が私を見たので、私も頷いて見せた。


「よし。グングニルはお前が使え」

「かしこまりました」

「イリアスもいいな」

「ああ。フォルセリアより、槍を使いこなせる人間はいないだろうからな」


 こうして、グングニルは世に出ることになったけど、訓練の時以外は私が収納で保管することになった。一応所有は私のままで、ユーシスさんに貸し与える形だ。


 よし、これで全部用事は済んだぞ。さて、夕飯の準備に取り掛かろうかなぁ。


『ちょっと待て。先ほど、スキルから通知音がしたぞ』


 ギクッ。お父さんの声、聞こえなぁーい。


「な、なんのことかなぁ」

『無駄だ。ほれ、開いてみろ』

「鬼、悪魔、魔獣、レジェンド!」


 私が精一杯罵るけど、お父さんは涼し気に受け流す。


 私は、血涙を流しながら、新着通知を開いた。


 “10憶P換価特典 音声操作機能を取得しますか? YES/NO”


 アレ?凄い便利機能だった。両手が塞がってても操作できるってこと?


 私が安心してニヤッてすると、お父さんがチッと舌打ちした。これならきっともう一つの方も大丈夫だね。


 そしてもう一つの通知を開けた。


 “神話級武器初交換特典 武器・防具の強化・メンテナンス機能を取得しますか?YES/NO”


 ん?強化・メンテナンス?何だろう。

 説明をポチッとする。


 “上位素材を使用することで、ランクアップ、派生武器の作成が可能になります”


「ぎゃーーーー!」


 ただでさえヤバい神話級武器を、更にどうこうできる機能だった!


『ワハハハハ!ハルでかした!更なる上位素材を探しに行くぞ‼』


「やーーめーーてーー!」



 随分と太陽が低い位置になった空に、私の悲しい叫びが響き渡った。


最近、このジャンルの付け方があっているのか疑問に思い始めました。

恋愛って、なんですかね。

ジャンル詐欺にならないよう、降りてこい、糖分よ!


そんな訳で、また少し間が空きますが、その間に糖分の降臨を願っていてください。


閲覧ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ?これのジャンル、恋愛でしたっけ? すっかりコメディだとばかり…。(笑) 男性陣の巻き返し…無理な気がする。
[一言] れ、ん、あ、い? え?コントでしょ? 利用価値がないと理不尽な行為に耐える主人公 (ホンワカしすぎてストーリーに悲壮感がありません) 力がバレて拐かされる主人公 (全人類が総出でも勝てなさ…
[一言] いや、当分(糖分)このままでいいんじゃないかな…?なんて
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