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27 殿下にバレました

前回の反動か、真面目になれませんでした。

 私たちは今、広い王子宮の庭園を占拠しています。

 ああ、衛兵さんたちの視線が痛い。


 何せ、美しい庭園の一角に、いい匂いをさせてまったりする、場違いも甚だしい一団がいるのだもの。


 まあ、視線の痛さが一番集中しているのが、白と赤の大きいのがいることだけど。



『ほう、ここが人間の国で、一番栄えている場所か』

 興味津々で、芝生の上に優雅に降り立ったその人(?)が、開口一番でそんなことを言った。


 お父さんは「じじい」呼ばわりしていたし、3千歳って聞いてたけど、声は若い。

 涼し気で、物腰柔らかな感じの美声。


 赤いドラゴンさんが、30歳前後のワイルド男性だったら、その人は多分30代前半くらいの貴族みたいな感じかなぁ。魔獣さんって、みんな声がいいよね。


 そして、その人は、圧倒的に白かった。

 目はドラゴンさんと同じ金色で、その他全身が洗剤のCMもビックリの白さだ。


 同じような白でも、お父さんはキラキラしてて、白い竜さんは透明感が半端ない感じ。


 隣に並んだドラゴンさんよりも、ちょっと小さめサイズだけど、なんか気品が凄かった。


 ちなみに、ドラゴンさんたちは、修復中の結界を壊さないように、そぉーっと入って来てくれたよ。

 遠くで王子が、「結界、意味ねぇ」って言ってたけど、ま、そういうこともあるよ。


 そういえば、白い竜さんは竜の王様なんだよね。様づけして呼んだ方がいいのかなぁ。


 直接聞いてみると、『堅苦しいのは無しだ』と言われたので、いろいろ呼んでみた結果、「シロさん」がいいって。……ホントにいいの?


 そしたらドラゴンさんも『我も愛称で呼べ』と言うから、なんやかんやで「レッドさん」になった。なんか、ヒーローっぽいね。


 遠くで有紗ちゃんが、「センスないわぁ」って言ってたけど、本人たちがそれでいいって言ってるんだよ。


 で、なんでここに竜の二大巨頭がいるかというと、迷いの森のキャンプ場に二人で遊びに来たんだけど、出かけているからって、ガルとハティが案内してきたみたい。


 うぅん。レジェンドってみんな暇なのかな?


 そんな訳で、フェンリル一家と紅白の竜で庭園がみっちりしています。

 せっかく遠くから来てくれたし、お昼も近いので、盛大なお食事を作ることにした。


 ニンニクたっぷり、甘ダレと塩ダレの2種類のスペアリブとローストビーフの塊肉フェアだ。

 ローストビーフは、王道のグレイビーソースとイタリアンドレッシングの2種類の味付けだよ。


 解毒ポーションという存在を知った私は、もはやニンニクを恐れることはない。


 そんな裏技を披露したら、餃子を食べたことが有紗ちゃんにバレた。

 「ずるい!」とブーブー文句言ってたけど、一昨日の夜に食べたばかりだから我慢してもらった。その代わり、夜はカレーにしろとのご要望。ガル達には甘口カレーを作れば大丈夫かな。


 そんな訳で、衛兵さんたちへの飯テロと相成った次第です。


 ニンニクの良い香りが辺りに漂い、みんなが「いただきます」をしようとしたところで、衛兵さんたちが急に動き出した。


「この騒ぎは何事だ」

 あ、この声。イリアス殿下だ。


 垣根の向こうから出てきた殿下は、ズラッと並んだレジェンドたちを前に一瞬怯んだけど、すぐに持ち直して小憎らしい表情になった。紅白竜はサイズこそ中くらいになっていたけど、威圧感はそう変わらないのに、そういうところは凄いと思う。


 後ろに控えるアズレイドさんは、まったく表情を動かさなかったけどね。


「何の用だ、イリアス」

「殿下のことは呼んでませんけど」

 王子はもう殿下を呼び捨てだ。今更取り繕っても仕方ないとのこと。

 で、私も思いきり迷惑そうに言った。有紗ちゃんの後ろに隠れながら。


「……ここは私の庭だぞ」

 びっくりするほど普通に返された。もっと悪態吐かれると思ったのに。疲れてるのかな?


「何か言いたそうだな」

「いいえ、別に」

 鋭いことを殿下に言われたけど、私は誤魔化した。


『なあ、ハル。まだ食べちゃ駄目なのか?』

 ガルが私に声を掛ける。お預けを食らった形のみんなが、私を一斉に見る。


「ごめん、ごめん。さぁ、召し上がれ」

「私を無視するか。いい度胸だ」

 私が言うと、みんな一斉に食べ始めた。殿下の声は聞こえないふり。


 お肉は、スペアリブは甘ダレが、ローストビーフはイタリアンドレッシングが好評だった。


 魔獣さんたちはともかく、まあ、王子と有紗ちゃんもともかくだけど、さすがにユーシスさんとレアリスさんは、殿下の手前立ち上がって食事に手を付けなかった。身分ってそんなものだけど、面倒だよね。


 私は仕方なく、しかめっ面の殿下をちょっと豪華なアウトドアテーブルに招いた。

 なんか、折りたためるテーブルが珍しいみたいで、しげしげとそれを眺めていた。こうしている時は、王子とやっぱり兄弟なのかな、って思うくらい似ている。


「殿下も召し上がりますか?」

「王子たる私に供さぬ道理があるか」

 また難しいこと言って。結局食べたいってことね。


 殿下用にお肉を用意すると、毒見もなしにすぐに食べ始めた。

 王子といい、殿下といい、そんな無警戒でいいのかな。解毒ポーションはあるにしても、思い切りが良すぎるよね。


「アズレイドさんもどうぞ」

 私がテーブルに誘うと、少しだけ私に視線を送ってきたけど、何も言わずに呆れたようなほんの微かなため息を吐かれた。うーん、やっぱり嫌われてるのかな。


「護衛任務中だ」

 そうですね。敵対したのはつい昨日のこと。そう簡単には割り切れないよね。


 気持ち、私がシュンとしていると、もう一度小さなため息が聞こえた。

「だが、ありがとう」


 びっくりして顔を上げると、アズレイドさんが少しだけ目を細めて私を見てくれた。


 忠義に厚すぎて、殿下の非道な行いに助勢していたけど、もしかすると普通に常識的な人なのかも。取りあえず、殿下が絡まなければ、無用な敵対はしなくて済むかな。


 衛兵さんたちもそうだけど、後で食べられるように、少しお肉を包んでおこう。

 私がアズレイドさんたちにお裾分けを用意するのを、殿下がジッと見ていた。


「なんですか?」

 居心地が悪いので嫌々尋ねると、「くだらない」と言ってそっぽを向いた。


 でも、やめろ、とは言わなかった。



 何だかんだ言って、殿下は食べ終わった後もその場から動かなかった。


 みんな(王子も含めて)が後片付けをしている間も動かない。いつまでいるんだろ。


 とうとう食後のお茶も出さざるを得なくなった。


 レアリスさんが淹れたコーヒーを出したら、レアリスさんに含むところがあるとでも思ったのか、「毒物か‼」って言って怒ったので、そう言う飲み物と説明した。

 レアリスさんが、珍しく黒い笑顔を浮かべていた。

 うん?殿下のコーヒー、なんか濃くない?


 ……まあ、見なかったことに。


 でも、王子と同じカフェオレを出したら気に入ったみたい。もう、似たもの兄弟でいいよね。

 王子がすっごい嫌そうな顔をしたけど。


 このままだと、おやつの時間まで居座るのかな?


「そうだ。シロさんと初めてお会いしたので、シロさんのお好きなおやつを作りますよ」


 私がそう尋ねると、「おやつとは?」と首を傾げたシロさんに、レッドさんが説明してくれた。

 レッドさんは既にプリンを体験済みだったからだ。


『では、リンゴがいい』

 ちょっとキュンとした。レジェンドの中でも更にレジェンドなシロさんの、意外にも可愛らしいリクエストに、私のハートは撃ち抜かれた。

 お花を摘んできてくれたレッドさんといい、なんで竜の人たちって可愛らしいのだろう。


『長よ。「ぷりん」もなかなかに良かったぞ』

 レッドさんがちょっと自慢げにシロさんに助言している。その凛々しい姿と声でプリン推しとか、ギャップが甚だしいですね!


 そんな訳で、二人のリクエストをまぜまぜして、カスタード焼きりんごを作るよ。


 りんごの芯をくり抜いて、砂糖とバターとカスタードクリームを入れて焼くだけ。ちなみにりんごの芯は、レアリスさんがちゃちゃっと取ってくれた。相変わらず、「剣術」って万能だね。


 おやつを初めて見るみたいで、シロさんが見学していたけど、ガタイが大きくて威圧感が半端なかった。気になると訴えると、何故かレッドさんと一緒に幼体化して、私の両肩に乗っかって来た。


『これなら気が散らぬであろ?』と、ちょっと舌足らずな感じで気遣われ、私の腰が砕けなかったことを自分で褒めたいと思った。


「おい、『灰色鼠』。あの娘は、本当に魔獣使いではないのか?」

「スキルのことを言っているなら魔獣使いではないな。だが、魔獣が勝手に懐いてくる」

「……恐ろしいな」


 兄弟の会話、聞こえてるよ!口調から、ディスってるの分かるからね!

 私がジトッと王子様兄弟を睨むと、王子は肩を竦めて、殿下は鼻で笑った。


 もう、出来上がったおやつあげないよ。


 優しい私は、そんな怒りを堪えつつ、王子にも殿下にもおやつを渡した。


 食べる段になって、いつの間にかちゃっかりシロさんが私の膝でスタンバってます。前回のプリンで、レッドさんがこれがお作法だと思ったのかな。可愛いからいいけど。


 シロさんが、『なるほど、これは確かに癖になるな』と食べながら言っていた。シロさんも、甘い物がいけるクチのようだ。


 そうやって、シロさん、レッドさんの順番で焼きりんごを食べさせていると、食べ始めたばかりのレッドさんを突然お父さんがパクッとして、ポイッとした。デジャヴ。


『まだ食べ途中だ!』と今日はさすがに怒ったレッドさんを、お父さんはしれっと無視して、私の前で大口を開けた。わがままし放題だけど、今回はお父さん大活躍だったから、仕方ないな。


 ちょっと大きめのりんごなので、半分に切ってお父さんの口にインした。『うむ。美味』と言って、お父さんは非常に満足げだった。


 プリプリ怒るレッドさんに「まあまあ」と有紗ちゃんが交替してくれた。お膝に乗ったレッドさんと有紗ちゃん。

 美女と魔獣、再び。


『娘。そなたも中々悪くはない。ハルと比べるとちと物足りんが』

「……殴るわよ」


 ああ、何でか喧嘩腰になってる。


 それにしても、この焼きりんごもアズレイドさんたちのお土産にしてあげたいけど、冷めると美味しさ半減なんだよね。どうしようか、


 私が悩んでいると、「任せてくれ」と言ってユーシスさんが熱々のリンゴを引き取った。


 そして、アズレイドさんに近付くと、電光石火の動きでフォークに刺したリンゴを、アズレイドさんの口に突っ込んだ。いや、めっちゃ熱いよ、それ!


 でもアズレイドさんは全然動じなかった。静かにもぐもぐと咀嚼すると、非常に真面目な表情で苦言を呈した。


「美味い。が、お前でなく、ハル殿が良かった。あと熱い」

「何故卿にそんな褒美をくれてやらねばならんのだ。甘んじて火傷しろ」


 ああ、こっちもなんでか喧嘩になっている。


 レアリスさんに続き、ユーシスさんも黒い笑みを浮かべた。ユーシスさんは、きっとおでんみたいなノリで、アズレイドさんをバタバタさせたかったんだね。でも、何の恨みだろ。


 そんな光景を、王子と殿下が眺めながら同時にため息を吐いて、お互いに殺気の籠った目で睨み合った。


 もう、みんな、好きにしたらいいよ。



 ふと、シロさんに聞こうと思ってたことを思い出した。

「そう言えば、シロさんたち、私に何か用があったんですか?」


 キャンプ場まで遊びに来てくれたとは言っていたけど、お父さんが「遠かった」というくらいだから、結構な距離をわざわざ来てくれたんだよね。


『一度、そなたに会いたかったのもあるが、実は儂も見てもらいたいものがあってな』

「お断りします」


 シロさんの言葉に被せ気味で断った。

 ちびモードの声と一人称の「儂」との違和感に構うどころじゃなく、無理なものは無理だ。


『なんでも、かの勇者が言うには、その素材では盾ができるらしい』

 シロさん、人の話聞いちゃいない。しかも、また出た、勇者。


 分かった。私の最大の敵は、その勇者だ!


「だから!私みたいな小市民は、高額なものを持っているだけで、心臓が縮むんですってば!」

『それでだ。儂は気付いてしまったのだ』

 シロさん、聞こえないふりで押し切るつもりだ。


『そなたは今、剣を2本と槍を1本、盾を1つ持っているだろう』

「はあ」

『ということは、だ。武器と防具の数のバランスが悪い!』

「……ドヤ顔で言ってますけど、全然合理的な説明じゃないですからね」

 いくら可愛くても許容範囲の外だ。私だって無視だ、無視。


 だが、私はまだ、齢3千を超える竜の厚顔さを甘く見ていた。


『ハル。儂はそやつの立派になった証拠を見たいのだ。そやつは、ニーズヘッグという黒い竜なのだが、引きこもりの根暗なやつでな。ようやく、最近になって人々から伝説と言われるようになったのだ。そなたの鑑定でそのことを証明して、自信を持たせてやりたい』


 小さな両方のおててで私の人差し指を握って、大きなおめめをウルウルさせた。


 なんか、可愛がっていたちょっと心配な子を成長させてあげたいなんて。

 くっ!泣かせる気ですか⁉


「分かった。分かりました。ただ、レジェンド素材か見るだけならいいですよ」

 涙を堪えながら言うと、どこから取り出したのか、黒い鱗を差し出された。

 レジェンドの人たちって、絶対亜空間収納持ってるよね。


「ん?なんか、……血、付いてません?」

『ああ、『自分なんて!』と言って素材を渡さんから、引っぺがしてきた』

「ポーションあげるから、今すぐ戻してあげて!」


 突き返そうとしたら、もう治して次の鱗が生えたから手遅れ(?)と言って、受け取りを拒否された。シロさんって、治癒魔法使えるんだって。

 だから、結果を見ない事にはヤツも浮かばれない、と言っていた。

 ……死んでないでしょ、ニーズヘッグさん。


 私は、本当に渋々と、恨みがましく受け取ると、黒い鱗を鑑定に掛けた。


 “ニーズヘッグの天鱗(状態:不良)4億P 聖盾『スヴェル』の開放条件 『スヴェル』交換ポイント4億P”


 はい。立派なレジェンドでしたよ。


 一番新鮮なはずなのに、どうやら無理に手に入れた素材は状態が悪いみたい。それでも驚きの価格。

 それに、カラドボルグより何気に交換ポイントが高い。レッドさんがチッと舌打ちした。


 私は、もう息も絶え絶えだった。

 ごめんね、まだ会ったことのないニーズヘッグさん。


 違う意味で涙ぐむ私の肩が、誰かにギュッと掴まれた。

 ドキッとして、ゆっくり後ろを振り返る。


 そこには、最大限まで温度を下げた眼差しを私に向ける、イリアス殿下がいらっしゃった。


「おい。どういうことか、説明しろ」


「…………はい」


 レジェンドのせいとは言え、私は開けてはいけない扉を開けてしまったことに気付いた。



 イリアス殿下に、バレちゃった!


白さに定評のある人(?)がヤヴァイ人(?)でした。

この中に入ると、何故か殿下が一番の常識人に見える不思議。

お父さんが素材を持ってこなくても、他の人(?)がそうはさせませんでした。

あとは、新しいレジェンドに幸あれ!


感想をありがとうございます。

時間の都合上、すぐに返信はできませんが、できるだけお返ししたいと思っています。

感想、評価、ブクマ、PV、その全部が作者のモチベーションアップにつながっています。

本当に、皆さまには感謝しています。


また、次話も見てやってください。

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― 新着の感想 ―
[一言] あーんをするイケメン二人… 細かいことは置いといて眼福ですね!
[一言] 今後の展開ですが まあ、浅く考える大臣とかだったら、皇太子の嫁とかに無理やり持っていくんでしょうね。 自分なら秘匿しますわ(笑) だって、他国からも狙われるし、派閥争いにも絶大な効力ある…
[良い点] 更新お疲れ様です。 衛兵さんズ「私共素人でも貴女の側にいる方々は王族の皆様より遥かにヤベーのが分かるので、出来るだけ早急にお帰りやがり下さい。あ、でもお土産ありがとうございます!」 ··…
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