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2 異世界生活スタート!

本日2話目です。

少し長めです。

 王子様の名は、オーレリアン・ヴァンウェスタ様というらしい。


 ヴァンウェスタは氏ではなく領地名で、王族だと最後にこの国の名前レンダールが付くらしいが、ヴァンウェスタ止まりなのは、王位継承権が無いためらしい。

 そして、妾腹の第三王子と自ら名乗ってらしたが、そこにはこだわりの欠片も無い。


 妾腹って、お母さんが王様の正式な奥さんにはなれなかったってことだろうけど、王子の顔を見ればお母さんがどれだけ綺麗か分かるので、「ああ、王様、めっちゃ面食いなんだなぁ」と思うのだった。

 私が、「そうですか」とだけ返すと、王子は一瞬だけ紫色の目を険しくした。ええ、何かマズいこと言ったかな?いや、言わなかったのが悪いのか?


 そう思ってはみるが、私には人を喜ばせるような気の利いたことを言うスキルは無い。私のいみふスキルがあるくらいだから、この世のどこかそういうスキルがあるはずだ。

 私は欲しい、切実に。


 そんな訳で、王子は王宮の片隅に私を住まわせてくれることになった。

 王子は、お母さんが平民だから王位継承権を持ってないらしく、他の2人いる兄弟のように王子宮に入れないそうで、王宮内にある、王子のお仕事である魔術を研究する「魔術庁」という舌を噛みそうになる部署の一角が私の部屋になった。

 何と1室10帖を超える1DKのトイレ、シャワー付だ。6帖1Kも珍しくない住宅事情に慣れた日本人には贅沢な仕様である。


 王子宮に入れないオーレリアン王子は、王宮の一角に小さい邸宅(日本では豪邸)をもっているらしいけど、そこに出入りを許されているのは、現在数人の腹心だけで、女性は家族か婚約者くらいしか入ることは許されない。私は当然除外なので王宮住まいという訳だ。


 で、不慣れな私のために、世話役として何故かユーシスさんが付いてくれることになった。


 ユーシスさんはフォルセリアという子爵?だかいう貴族のお家の人で、その容姿も優れているけれど、実力で近衛騎士という騎士の中でも憧れの職業に就いているらしい。


 もしかしなくても、ユーシスさんは貧乏くじを引いてしまったようだった。

 本来なら、北条さんの方のお世話に付くのが正しい凄い人なんだって。

 ハズレの私の世話役など、花形職業の有能な人がすることじゃない。


 私はそれを知った時、平身低頭で謝り倒し、王子にユーシスさんを外してくれるように頼みこんだ。

 結果、何故かユーシスさん自身がそれを却下したらしいので、現在なし崩しに世話を焼いてもらっている。


 彼はどうやら6人兄弟の次男坊で、自分の世話もできなさそうな私を見て兄魂に火が付き、気の毒に思っていろいろと面倒を看てくれてるらしい。いい、お兄ちゃんだ。


 午前中は、この国の事をいろいろと教えてくれて、午後には私と一緒にスキル画面を見てスキル伸ばしを手伝ってくれている。


 新事実だけど、自分のスキル画面は念じると、あの杖を使わなくても見られるのだ!


 もう一つの新事実。なんと皆さん私のことを少年だと思っていたらしい。

 まあ、髪は肩下くらいで、この世界では女性としてはかなり短いらしく、またタイトなジーンズを穿いていて、それも女性らしくない格好らしい。


 部屋に着いて暖炉に火を入れてくれていたらしく、温かい室内にダウンジャケットを脱いだんだけど、その時に男性二人の目が私の胸に集中したのは、まあ不可抗力だろう。

 安物のVネックのニットはジーンズ同様タイトだったので、中肉でそれなりにある私の胸は、その存在を主張していた。


 こちらでは女性は、あまり体の線が出る服を着ないそうで、ユーシスさんに身に着けていたマントをそっと肩に掛けられた。


 その後の気まずい空気を何に例えよう。


 それから、若干王子の態度は柔らかくなったが、まあ顕微鏡で確認できる程度の微々たる変化であったと添えておこう。


 そこから私が21歳の成人女性であることが分かり、更に二人を驚かせていた。二人とも私を15、6歳だと思っていたらしい。

 ついでに王子は同い年の21歳、ユーシスさんは28歳と判明した。この世界の暦はほぼ地球と一緒らしいよ。


 それで、謎の授業とスキル修行を頑張って、この国の通貨や物価、簡単な地理やこの国の情勢などは、大まかではあるけど何とか詰め込めた。


 なんか動転して後から気付いたけど、私たち召喚者は何故かこの世界の言葉が話せて、文字が読めるようだ。文字は書けないけど。


 私は一応大学生で、うちの学校は一流ではないけど、おしゃれで有名で学生数が多く、東京郊外の大学だったので倍率は結構高かった。

 ちなみに、私は法律学科で公務員を目指していたから、まあユーシスさんが教えてくれたような内容を勉強するのは嫌いじゃない。


 地味眼鏡っこで若干コミュ障が入っている私が、北条さんのような子も通うおしゃれ学校に何故通っているかと言うと、単にレベルに合って家から通学できたからだ。


 で、勉強はユーシスさんからもお墨付きをいただいたのだけど、如何せん、肝心のスキルがまったくうんともすんとも発動しない。

 ポイント交換って、スーパーとかネットショッピングとかで、お得なイメージがあるけど、それがスキルになるといったいどうやってポイントを得るのか、どうやって交換するのか、そもそも何が出来るのか分からない。


 ちなみに、私の宛がわれている1DKはこちら基準としてはかなり狭いらしいので、男女が二人で狭い部屋に閉じこもることは良くないと、午前は図書館の一角でお勉強、午後はお庭か近衛騎士の屋根付き鍛錬場で訓練している。


 そんなこんなで、ユーシスさんと私は今日もお庭でうんうん唸っていた。


 王子はというと、暇があれば顔を出す。本業はそれほどでもないようだけど、一緒に来た聖女の北条さんの世話があるみたいで、こちらに構う余裕があまり無いらしい。

 王子がいたところで、何がどうなるとも思えないので、私的には問題ない。

 取りあえず穏やかな性格のユーシスさんとの勉強会は、現在私をある意味ストレスフリーな生活へと導いている。


 その態度が出ていたのか、王子は4日ほど顔を出してくれたのだけど、その際の圧と言ったら、胃に穴が開くレベルだ。

 しかも、何故かずっと居座り続けて、なかなか帰らない。


 でも、私が生活に困らないように手配をしてくれたらしく、服や雑貨が十分なほど届いた。

 ありがたいことであるが、出来ればあの圧だけは改めてほしい。


 ちなみに、わたしはオーレリアン様を「王子」と呼ぶことになった。

 「殿下」と呼ぶと不機嫌になるオーレリアン様とちょっとした問答の末、いろいろ折衷した結果「王子」で落ち着いた。

 なんか、私が言う「王子」という響きが気に入ったらしい。

 全然敬称でもないから良くないと思うんだけど。


 それと、2人でいる時に過剰な敬語も禁止された。

 何故か、ユーシスさんと差を付けると不機嫌になる傾向があると分かった。

 その方が気楽でいいけど、人がいる前では敬語で話したいと言って、そこは了承を得た。

 普通逆じゃないかな?



 ある日、ユーシスさんは本業の方で二日来られなくなった。

 ユーシスさんは、本来王子の近衛騎士隊の副隊長なのだが、独断で王子が私の世話をするよう言い付けたため、こちらを優先した結果、いろいろと決裁やユーシスさんしか対応できない案件が溜まったらしい。


 ものすごく済まなそうな顔をして謝られたが、むしろ私の方が謝りたいくらいだ。

 そんな役職の人を成果の上がらない訓練に付き合わせて、ホントごめんなさいだ。


 で、手持ち無沙汰になったので、食堂に行った時に、賄いの人に自炊用の食材を分けてもらえるか尋ねてみた。個々の食事はとても美味しいのだけれど、少し量が多いのと、味が濃い目だった。


 私は両親が他界しているので、自炊歴が長いのと、少し趣味でもあったので、無性に自分でご飯を作りたくなったのだ。


 私が異世界人ということは知られていないらしく、少し怪訝な顔をされたけれど、いつもユーシスさんと一緒にいるので邪険にはされなかった。

 ただ、異国顔まる出しなので、珍しいものを期待されてか、興味津々で何を作るか聞かれた。

 食材の制限もあるので、融通してもらえる食材を聞くと、小麦、バター、牛乳という定番食材と、砂糖も使って良いらしい。


 この国は大きな山脈が北部にあり、結構牛やヤギの牧畜が盛んなようだ。それと、根菜から取れる砂糖が安定的に出ているようで、結構甘めの料理も多い。こちらも北部の特産みたいだ。

 そう言えば、ユーシスさんの授業でもやった気がする。


 これならシチューもいいけど、せっかく砂糖が使えるならお菓子を作りたい。クッキーなら日持ちして、賄いの人やユーシスさんにも渡せるだろう。

 王子は、いつ来るか分からないし、余ったらついでにあげよう。


 問題はオーブンだが、それを伝えると、夕食後の次の日の仕込みの時間なら火を使わないから、厨房を貸してくれるようだ。

 早速私は今晩借りることにした。


 約束の時間に厨房へ行くと、賄いの人……ノリクさんが待っていてくれた。

 私は簡単に材料と作り方を伝えると、こちらでは甘くないビスケットのようなものはあるが、それを甘く菓子にする発想は無かったらしい。

 アレンジで生姜やかぼちゃを入れても美味しいことを伝えると、俄然やる気が出たようで、ぜひ試したいと言われた。


 という訳で、先に伝えたプレーンと生姜とかぼちゃ、プラスオートミールクッキーを作りましたとさ。

 レシピ分かるのそれくらいだったんだけど。


 で、お菓子というのは不思議なもので、作っている途中のあの甘い匂いって、人間をおびき寄せるものなんだよね。厨房を出たら、数人の男性に囲まれてしまいました。

 騎士風の人が二人、文官みたいな人が一人、魔術師みたいなローブの人が一人いる。コミュ障の私にはすごい試練だ。


「あ、君、フォルセリア副隊長と一緒にいる子だ。何作ったの?美味しそうな匂いだけど、食べさせてよ」

 ふぉー。出た、人生勝ち組陽キャ騎士男子。私にとってはラスボス級の難易度だ。

 このままでは、生きて部屋に戻れそうにもない。


 ユーシスさんは、もの凄いイケメンだけど、ようやく慣れてきて直視できるようになったが、まだ他の人はちょっと目を見て話すのは怖い。


「ど、どうぞ」

 私はぎこちない動作で、俯きながら籠に入ったクッキーを前に出すと、それぞれが一枚ずつクッキーを取っていく。


「お、美味いな。君が作ったの?」

「……そう、でございます」

「もしかして、緊張してる?なんか、新鮮だ」

 プルプルしている籠を持つ手に気付かれて、そっと籠と手を取られた。

 失礼にも、思わずビクッとしてしまう。


「美味しいもののお礼に、部屋まで送ってあげるよ。って固まってる」

「お前、抜け駆けだぞ」

「だって、何かさ、最近あの『聖女』ばっかり見てたから、この子の反応が新鮮で」

「まあ、気持ちは分からなくない」

 騎士の人がため息交じりで言うと、魔術師の人が同意する。


 ん?何か「聖女」って聞こえたような。もしかしなくても、北条さんのことだよね。


「あの、聖女様って、今どうなさってるんですか?」

 ユーシスさんも王子も教えてくれない。北条さんは、一度私を軽く見捨てているが、この世界で日本人は私たち二人だけなんだ。彼女が今どうしているか知りたい。


 陽キャたちは一瞬顔を見合わせた。何かとても言いづらそうだ。

「……ええと」

「そのクッキーを差し上げたら教えてもらえますか?」

 そう言って籠を押し付け、どさくさで手も外した。

 それはユーシスさんとついでに王子の分だけど、また作るからいいや。


 と、思っていたら、急に陽キャたちの顔が青くなった。


「お前、そういうものは真っ先に俺に献上するのが筋だろうが」

「ひぃ」


 冷ややかで低い声が背後から聞こえた。ガシッとついでに肩を掴まれ、私は思わず声が出てしまった。


「殿下、ハルが怯えています」

 その横合いから、今度はユーシスさんの声が聞こえた。

 ざざっと陽キャたちは、慌てて敬礼した。


「ああ、挨拶なんていらねぇよ。それより、こいつ連れてくぞ」

 気さくなのかガラが悪いのか、砕けた調子で陽キャたちに王子は手を振ると、私の二の腕を掴んでその場から引きずられた。


「では、これも回収するぞ。ハルの相手をしてくれて礼を言う」

 なんかお礼を言ってるはずなのに、ユーシスさんの声が低くて怖く感じる。その後ユーシスさんが、騎士の人の手にあったクッキー籠をもらい受け、私たちの後に続いた。

 何故かユーシスさんを見ていた陽キャたちは、先程よりも顔が青ざめていた。


 そしてその後、引き摺られていく私を見送る陽キャたちの目が、憐れみを含んでいたのを忘れない。



 それで、私の部屋に着いたけど、私が鍵を開けるまでもなく、何故か王子がドアノブを回すと、普通にドアが開いた。鍵を閉め忘れたことはなく、この王子は絶対魔術でなんかしたんだと確信した。

 手慣れているので、この手のことは常習犯と思われる。


 いつもは部屋に入らないのに、今日はズカズカと乙女の部屋に入り込んで、そのまま1DKのDに置いてあるソファにドカッと座った。まだ私の手を離していなかったので、私もそのまま隣に座る羽目になる。


「ユーシス、それ旨そうだな」

 ちょいちょいと指で指示し、ユーシスさんから籠を受け取ると、無造作にクッキーを一枚口に入れた。

 毒見とか必要なんじゃないの、王族。


「まあ、お前が作ったにしちゃ、食べられなくはないな」

 言い方、悪!さすがに私もこれにはムッとした。


「あぁん?何で籠をよけるんだよ」

「王子様のお口には合わないようなので」

「では、全部私がいただきましょう」

 私が避けた籠を、流れるような動作でユーシスさんが回収した。

 我々の連係プレーに唖然とする王子だったが、クッキーを取り上げられて珍しくがっかりする顔をしたので、私は仕方なく許してやることにした。


 私が備え付けキッチンでお茶を淹れると、二人は結構な勢いでぼりぼりと食べていた。二人とも育ちが良いせいか、すごい勢いで食べても何故か優雅だ。


「で、お二人そろって何のご用ですか?」

 まあ、それが大事なとこだ。何か悪いことでもあったかとドキドキしていた。


「ん?別に」

「は?」

 王子はあっけらかんと言った。


「ああ、そうか。すみません。食堂で私が絡まれたと思われたんですね。ご心配いただかなくて大丈夫です。お気をつけてお帰り下さい」

「……なんで速攻で帰そうとするんだよ」

「用事が無いって言ったじゃないですか」

「用事が無いと来ちゃダメなのかよ」

「普通、用事が無いと来ないでしょ」


「こらこら。殿下と俺は、ハルの顔を見に来たんだよ。今日は一緒にいられなかったから。まあ、見に行って正解だったな」

 ユーシスさんがひょこっと口を挟む。王子には「私」と言うのに、私には「俺」っていうのが、何となく親し気でこそばゆい感じがする。


「そうですか。ありがとうございます。私は元気です。相変わらずスキルは駄目ですけど」

 確かに、ユーシスさんや王子は、異世界人の私のお目付け役でもあるから、一応健康観察的なものが必要なのかな。なので、私は簡潔に報告する。


「そうか、元気か。それは良かった」

 そう言って楽し気に笑うユーシスさんと、ムッとした様子でクッキーを頬張る王子を見て、「用が無くても来てくれる」人がいることは、少し嬉しいと思った。


「なんか、畏れ多いですが、お友達みたいですね」

 私が思ったことを口にすると二人は、呆れたような、感心したようなため息を吐いた。


「本当にお前は、欲が無いよな」


 それは何かと比較するような含みを持たせた言葉だったが、結局それが何か王子が語ることは無かった。


 その後しばらく、二人は私の部屋で我が物顔で寛いで、クッキーを食いつくしてから帰って行った。

波瑠は王子の髪の毛を白髪だと思っていますが、実際は銀髪です。

そして、紫色の目を見て、「ぶどう食べたいなぁ」と思っています。

あと、主人公はいつも髪の毛は一本に括っています。

異世界に来てから、二の腕と下っ腹がぷにぷにし始めたのを気にしてます。

そんな主人公ですが、呆れずにまだ見て下さると嬉しいです。


また明日、投稿します。


閲覧ありがとうございました。

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[一言] 誘拐犯の一味の癖に態度が悪すぎる王子と 料理が口に合わないから自作したいという話だったのに、周囲の男に配って媚びるための菓子なんかを作ってるヒロイン どっちもどっちであんまり信用がならない……
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