17 類は友とレジェンドを呼ぶ
タイトルどおりのお話です。
レジェンド追加。
昼食の和食は意外にも好評だった。
鮭の追加は子供たちしかしなかったけど、肉じゃがが恐ろしいほどの勢いでなくなった。
やっぱり肉かぁ。
そんな訳で、食後にまた私のスキルについて会議。
みんなの膝には子供たちも装備完了。
ちなみにハティはそのまま有紗ちゃん継続、スコルはもちろんユーシスさん、ガルはお情けで王子の膝に乗ってあげてる。
「つまり、何か素材とか品物をポイントにして、こちらとあちらの世界のものを交換できるわけね。それも結構ヤバいものまで。しかも完全にデフレを起こしていると」
まあ、要約するとそうです。有紗ちゃんが掻い摘んでくれた。
あ、私の方が年上って話したら、「北条さん」呼び禁止されたよ。呼び捨てはなんかしっくりこなくて、ちゃん付けになりました。
皆に飲み物を配ったけど、私とユーシスさんとレアリスさんは変わらずコーヒー、有紗ちゃんはロイヤルミルクティー、王子はりんごジュース、子供たちは水で希釈する乳酸飲料だよ。王子が何故か、「俺だけなんか子供っぽくないか?」と言っていたけど、果汁100%で高級だと言い切っておいた。
有紗ちゃんが私をジロジロと見てくる。
「分かったわ。内緒にすればいいのね。で、フェイクはどういうスキルにするの?」
私にじゃなく王子に尋ねると、王子は即答する。
「ああ、できればポーション作成の薬師スキルか、食糧限定召喚スキルでいきたい」
もしかして、前にここに来た時、男性陣で話をしていたのって、この事だったのかな。
「なるほど。物を限定して、対価が必要であることが前提なら、有用だし、無限に利用されることもないわね。それなら、ポーションの方がいいわ。食糧だと際限が無いもの」
「だな。それに、無限収納は絶対に秘匿だ。ハル一人で兵站を担えるとなったら、絶対に使い潰される」
「同感だわ」
王子と有紗ちゃんの話がサクサク進んでいく。私のスキルが劇物過ぎて、全面に公開するのは危険との判断だ。
それにしても、気は合わないけど、仕事の話はツーカーの仲と言えるほどスムーズだ。二人とも有能を絵に描いたような感じ。
それに比べ私は、頭から湯気が出そうだった。
「気をしっかり持て、ハル」
頭がパンクしそうな私を見て、ユーシスさんが気を使ってくれるけど、話が重くて心がついて行かない。
そうだよね。私って食糧庫と武器庫と医療施設が一緒くたになってる軍事施設みたいなものだものね。便利過ぎて使い潰したくなるよね。輸送コストとか、私一人分でいいんだもの。
取りあえず王子の考えは、ただでさえ有紗ちゃんに犠牲を強いて頼っているのに、この上私にまで使ったら、この国の人たちが堕落するから、私の力は使わないというものだ。
王子は、私たちの召喚は本当の緊急事態のこととして、レンダールの人たちで出来ることは自分たちでやると説明した。
目の前に、とても楽な道があるのに、王子はそれを選ばない。きっとそれは、誰にでも決断できることじゃないと思う。
ともかく、私からしたら願っても無い事だけど、国にバレたら王子が罰されないだろうか。
「だから、お前、死ぬ気で隠せ」
「……はい」
どこまでも王子は王子でした。
「しかし、この理屈どうなってるのかしらね」
有紗ちゃんが、私のスキルボードをしげしげと眺め、私にスクロールさせている。神話級の武器に行った時、半眼になってたけど。
「召喚の一種だと思ったけど、この神話級の武器って完全に創作よね」
「ほぼ神の領域だな」
そんな、大層なものかなぁ。
「分かってないのは本人だけね」
そう言って有紗ちゃんが私の手をギュッと握った。
「いずれにせよ、波瑠は私が必ず守ってあげるわ」
私の心臓がトゥンクと鳴った。
「有紗ちゃん、好き」
私は有紗ちゃんの細い腰に抱き付いた。
「おい、ハル、俺も守ってやってるぞ」
何か有紗ちゃんに敵愾心を覚えたらしく、取って付けたように王子が言う。
「うん、ありがと」
「何でだよ!」
頷いただけの私に、王子が激しく突っ込む。だって、心にもない様子でしたから。
「まあ、そうね。波瑠の変な噂の出所を潰したのは、オーレリアン様だし」
「え、うん。え?潰した⁉」
訳知り顔の有紗ちゃんが教えてくれた。
王宮に帰っていた4日間で、どうやら例の枢機卿とやらを追い込んだらしい。今は高級な監獄に収監されたということだ。首謀者っぽい大司教とかいうレアリスさんを動かした人のことは、すぐにどうこうできないって言っていた気がするけど。
取りあえず、私を葬ろうとした人は、しばらく身動きが取れないそうだ。
一体何をしたの、王子。
そう言うと、王子は出会ってこの方、最高に歪んだ笑みを浮かべ、「まあ、いろいろだ」とだけ言った。
……聞かない方が、きっと私の精神の安定にはいいのだろう。
「でも、危ないことだけは、しないで」
本当に、それが一番の願いだ。
そう伝えると、王子は肘で顔を覆って、私の反対側を向いた。袖の中から「しない」というくぐもった声が聞こえる。
「アホくさ」
「おい、アリサ、聞こえてんだよ」
「私なりに発破かけてんのよ」
「……絶対違うだろ」
あれ?なんか有紗ちゃんと王子、仲いい?
「二人とも、仲良くなったね」
「「その目は節穴か!」」
二人同時に怒鳴られた。え、めっちゃ仲いいじゃない。
取りあえず、ここに来たからには聞いておかなきゃならないことがある。アレだ。
「そういえば、今日はみんなお泊りしていくの?」
「お泊りって、ああ、もう。これで本当に私の一個上なの?していくしていくわよもちろん。いいでしょ、オーレリアン様」
何故か有紗ちゃんが私をギュッと抱きしめて言う。あれ?ほぼハティと同じ扱いだ。
「ああ、俺たちは、そのために来たと言っても過言ではない」
それは過言じゃないかなぁ。
「見ろ、ユーシスたちは寝間着の用意までしている。俺はこいつのせいで用意できなかったけどな」
ホントだ。前には見かけなかった背負い袋を二人とも持ってる。
あ、二人とも目を逸らした。
そっか、ここに来るの、楽しみにしてくれてたんだね。
キャンプ道具好きそうだし、珍しいご飯も食べられるし、モフモフ三昧だしね。
そう言えば王子は神官さんたちを撒いてきたって言ってたから、それで寝間着持ってないんだね。
後でジャージを交換してあげよう。
「そういえば、フェンリルを見ていないが、留守か?」
そうか。前回王子たちが帰ってからお父さんは出かけたんだっけ?
「なんかね、ブツブツ呟いてたんだけど、遠くに行くって言ってたかな」
「残念だ。フェンリルを見て、アリサがちびればいいと思ったんだが」
「あなたが王子じゃなかったら殴ってたわ」
やっぱり仲いいよね。
私が温かい目で二人を見ていると、突然、王子の膝の上からガルが飛び降りた。
「どうしたの?」
『おい、ふざけてる場合じゃないぞ。なんかヤバいのが来る!』
ガルもだけど、スコルとハティも毛が逆立っていた。
ほんの一瞬の出来事だったけど、王子とユーシスさんとレアリスさんは、私と有紗ちゃんを庇うように前に出た。
何故か王子は一番前に立つ。
「何が来るんだ!」
『分かんねぇ、でもすげえ気配がする。……ん?』
急にガルがトーンダウンした。
『あれ?お父さん?』
『そうだね』
何か、スコルとハティもトーンダウン。
お父さんがやべえヤツ?まあ、それは間違いないけど。
その直後、空からふわっとお父さんが現れた。相変わらずの優雅な登場。
『ふう、今回は長旅だった。皆、元気だったか?』
『『はーい』』
通常運転のお父さんと娘たち。
『つーか、父さん、何連れてきたんだよ⁉』
フェンリル一家の良心であるガルが突っ込むが、お父さんはどこ吹く風。
『まあ、古い知り合いだ。堅苦しくする必要は無い』
……お父さんの知り合いって、嫌な予感しかしない。
お父さんが言うや否や、凄い風が吹いた。
レアリスさんが咄嗟に抱えてくれなかったら、吹き飛ばされていたかもしれない。
その辺に舞う砂ぼこりに咽ながら顔を上げると、呆然としたレアリスさんが呟いた。
「……赤い竜」
私がその視線の先に目をやると、小さな平屋くらいある赤いものが見えた。
それは、ルビーみたいなキラキラした鱗に覆われたドラゴンだった。
金色の目がふと私を捉える。
『フェンリルよ。その娘か』
『いかにも』
竜が長い首を私の方へ向ける。
『会えて嬉しいぞ、異世界の娘』
ハスキーな渋い声。魔獣ってみんなイケボなのか?
いや、それよりも今は……。
暴風で椅子やテーブルや飲みかけのコーヒーが、大惨事だ。
「びっくりした!もう、せっかくのキャンプセットが飛んじゃったじゃないですか!着陸するときは静かにお願いします。あと、お父さんもお友達連れてくるなら、ちゃんと言っておいてください」
私は激オコだ。
『お、おう。すまなかった』
『う、うむ。つ、次からは、そうしよう』
「本当に、次からはお願いしますね」
私がそう言うと、信じられないものでも見るようなレアリスさんと目が合った。
「ハル、驚かないのか?」
「え?驚いてますけど?」
もちろん、あんな大きなものが空から降りてきたらびっくりするよ。
「オーレリアン様、あなたの言ったとおりになりそう。ちびりそうよ」
「いや、俺もだ。だがそれよりも、俺はあいつが時々怖い。何で平気なんだ。『赤い竜』だぞ。しかも、説教してやがる」
「もう、波瑠の感覚がおかしいとしか言えないわ」
王子と有紗ちゃんがこっちを見て何か話してる。ユーシスさんも、なんか微妙な表情をしてるね。
もう、ドラゴンが来たからって、みんな慌てて。こまったもの……。
ん?ドラゴン?ドラゴン‼
「んぎゃ!」
『今更か』
『今更だな』
トトトとお父さんが近付いて、気絶寸前の私の襟首を咥えて持ち上げ、レアリスさんから私を受け取って、赤い竜の前に置いた。
「なななななななんで⁉」
心臓出る、口から!
『そう怯えるな。取って食いやしない。ほれ、証拠に撫でていいぞ』
ドラゴンさんが笑い含みで言って、私が撫でやすいように、鼻づらをペトッと地面に着けた。お父さんを見ると、楽しそうにしているので、多分危険はないんだと思う。
じっと見てみれば、赤い鱗が綺麗で触ってみたくなってきた。
私は恐る恐るドラゴンさんの上顎の辺りを撫でた。うわ、スベスベだ。
気を良くした私は、鼻梁の方まで丁寧に撫でた。ガルとはまた違って、癖になる。
『うむ。なかなかに上手いな、娘』
「……はあ、どうも」
なんか、なでなでを褒められた。金色の目が細められて気持ちよさそうだった。
あ、竜って、下まぶたもあるんだね。小鳥みたいで可愛い。
「で、その、ドラゴンさんはどういった御用でしょう」
延々と撫で続けるのもアレなので、私はちょっと落ち着いたので思い切って用事を尋ねた。
『この赤いのはそなたに会いに来たのだ』
それにお父さんが答える。
「え、ええ、と。何で?」
私が首を傾げると、お父さんはドヤ顔で言った。
『もちろん、鑑定に決まっているだろう』
「ちょ、わざわざ言いふらしに行ったの?」
『私の素材がどれだけ素晴らしいかを証明する誘惑に、勝てなんだ……』
「いや、勝てなんだ……じゃなくて」
悩まし気に言ったって駄目だから。
『娘よ、我の大爪をやるから、こやつに我の価値を見せてやってくれ。ずっと寝床で自慢されて、このままでは収まらん』
ああ、それは腹が立つね。ガルじゃないけど、お父さん大人げないよ。
『そういう訳だ、娘。頼むぞ』
ドラゴンさんが期待に満ちた目で私を見る。
「いやいや、その立派な佇まい、どう見たってレジェンド級でしょう。鑑定しなくても分かりますから」
だから鑑定しないって言いたかったけど、なんか急にドラゴンさんが上機嫌になった。
『どうだ、聞いたか犬っころ。この娘は、我が大物だと見れば分かると言ったぞ。なかなか見どころのある人間ではないか』
鼻歌でも歌いそうなドラゴンさんに、お父さんは逆に不機嫌に鼻を鳴らした。
『ふん。褒められて、せいぜいいい気になっているがいい。ハル、早く鑑定してくれ。それでこのトカゲをぎゃふんと言わせるのだ』
勝手に鑑定する流れに進めないでほしい。
『ほう、やるか。犬っころ』
『望むところだ、赤トカゲ』
何かバチバチ火花散る感じ。うわー、二人とも大人げない。
でもこのままじゃ、怪獣大戦争になっちゃう!
「分かったってば!鑑定してあげるから、ここで暴れないで!」
私が怒ると、お父さんとドラゴンさんがニヤッてした。
あれ?騙された。
『よし、その言葉撤回させないぞ、ハル』
「仲悪いふりして、騙したの?」
『騙してはないぞ。我はこやつが嫌いだ』
『そうだぞ、私もこやつが嫌いだ』
説得力ない。嫌いな人の寝床には、普通押しかけないし、嫌いな人に誘われたってホイホイついてこないよ。
「もう、いいよ。その代わり鑑定したら返すからね、ドラゴンさんの爪」
『やると言っているのに、欲が無いのか?普通は奪いに来るものなんだがな』
だっていらないもの。お父さんの牙1個だけでもう十分。
『まあ、よい。気分がいいから、任せよう』
こうして、お父さんのお友達を鑑定することになってしまった。
本当にレジェンド素材は見たくないけど、実はポイント取得しなくていい裏技をみつけたから、お父さんの牙ほどのダメージは何とか回避できそうだ。
まだみんなには内緒だけどね。
「波瑠って、思った以上の大物だったわ」
「どんどん人外化しそうで恐ろしいですね」
「しかも、乗せられやすい」
「まあ、それをひっくるめて、ハルだな」
『お前ら、ハルのことちゃんと見てろよ、ホントに』
「……そうだな」
私の背後で、そんな会話がされていたと、後日聞きました。
いや、私は人外になった覚えないけどね!
素材じゃなくて、生を連れてきました、お父さん。
でも、「アレと、アレもいけるか……」と呟いていたので、竜だけじゃ……。
という訳で、次回何が出るかな。
再び御礼を!
3/6の日間ランキングで3位をいただきました。
この作品を読んでくださる皆さまに、感謝感謝の嵐です。
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と浮かれておりますが、またまたお話のストックがなくなったので、少しの間毎日更新じゃなくなりますが、頑張って書きますので、また閲覧よろしくお願いします。




