145 聖女召喚に巻き込まれましたが、幸せに生きていきます
本編の最終話です。
迷宮が崩れたのを心配して、レジェンドたちが抜けた天井から駆けつけてくれた。
四獣のみんなは、龍だった神様が浄化されたのを感じたのだと言う。
『ハル。本当にそなたには、言葉だけでは尽くせぬが、心より感謝申し上げる』
代表して白虎さんがお礼を言ってくれて、他のみんなが私に頭を下げた。
「私はほとんど何もしてないです。だからこれは、今まで頑張ったみなさん全員の勝利です」
『聞けば、これまで末代まで遊んで暮らせるような価値の物を、すべて犠牲にしたと聞いた。そう言ってくれる人間はそうはないと思うぞ』
「元々、レジェンドの皆さんが下さった物がほとんどですから。私はほんの少しだけ、お手伝いをしただけですよ」
怖くてどうせ手を付けてなかったし、とは、感謝モリモリの雰囲気上言えない。
『まあ、そんな無欲も含めて私のハルだな』
「はあ? あんたのじゃねぇよ。俺のだ」
『まず、俺を下ろしてから言った方がいいぞ、人間の王子』
私から離れないお父さんの言い方に、王子がいきり立って抗議する。それにガルが指摘を加えた。王子はガルを抱っこしながらだから、確かにあんまり絵的には良くないね。
でも、分かる。今のガルは、冬毛が気持ちよくて離し難いよね。
そんな攻防に、綾人君が「はい」と手を挙げた。
「ちょっと、『俺の』ってどういうこと? 詳しく聞かせてよ、王子」
おっと。女子には報告したけど、その他の人たちにはまだだった。
でも、改めてこういうことを言うのって、なんか恥ずかしいね。
私がチラッと王子のことを見ると、王子はちょっとバツが悪そうに視線を外してしまう。いつもは涼し気な顔なのに、ほっぺと耳が赤くなっている。
「……ああ、もういいや。ご馳走様。って、みんな知ってたの?」
綾人君が少し意味ありげな視線をユーシスさんとファルハドさんに送ると、二人はちょっと顔を見合わせてから小さく笑った。
そこに玄武さんが小さいサイズで歩いてきて、メイさんが『大丈夫。お前たちは腐る道がある』と男性陣みんなに言っている。『導くな!』と安定のクロさんのツッコミで、シナエとエスファーンの人たちが引いてる。
場所は非日常だけど、なんだか普通が戻ってきたみたいで、本当に終わったんだな、と実感が湧いてきた。
少しみんなから離れた所にいるウルズ……ウルスラさんが見えて、私は駆け寄った。
「ウルスラさんのお守りのお陰で、役目を果たすことができました。ありがとうございます」
「うむ。そなたには私に縁ある者も関わっておったからな。こちらこそ世話になった」
誰か分からなかったけど、「妹だ」とだけウルズさんが言った。
今の姿は人間に擬態しているから若干色彩が違うけど、元は色白の金髪で……。
「……あ……」
たった一度、こちらを向いて微笑んだ人を何故か思い出す。
あの人は豪奢な金髪だったけど、似ている。
「内緒だ」と言って指を唇に当てる仕草をするウルズさんに、私は頷く。
「それでは、全て終結したな」
ここにいる人間の中で一番身分の高いイリアス殿下が、全員をまとめるように声を上げた。
一斉に視線が殿下に集まり、殿下もみんなに視線を送った。
「帰還!」
本当に全てが終わった号令に、各国それぞれに呼応の声を上げた。
帰ろう。みんなの待つ場所へ。
帰って来てからは、怒涛の日々だった。
まずは、世界の脅威が取り除かれたことの確認が行われた。
以前のように瘴気が湧き出る場所を確認し、そこからの流出が止まったことを。
魔物は、まだすべてが浄化された訳ではなくて、討伐はしばらく続ける必要がありそうだけど、もうこれ以上増えることはないから、いずれ終わりが来る。
各国はそれぞれの現状について情報共有するため、頻繁な交流が取られた。
私も何度かそういう場に呼ばれ、緊張しながらも偉い人たちと面識を得た。王子と一緒に過ごすなら、外交は嫌でも付いてくる。だから、ちょっと頑張ったよ。
瘴気関連の終息の目途が立った時、冬至から三か月経っていた。
ようやく国を挙げてのお祝いが設けられ、その中で、私と王子の婚約も伝えられた。
その間、様々な論功行賞も行われた。
イリアス殿下は没収されていた領地が戻り、保留だった王位継承権も復活した。それ以外は相変わらずで、王宮では怖い睨みを利かせている。
イヴァンさんは王都の兵団入りになり、主要な一団を任されることになった。近衛騎士の話もあったけど、性に合わないと言って、一般兵士や衛士のまとめ役になったんだ。そこで、オクタヴィア様とイヴちゃんを呼んで、正式に家族になった。
ユーシスさんは騎士団長のポストを打診されたけど、今のままで、と固辞した。その代わりに、交易関係の派遣騎士団のまとめ役になり、セリカやエスファーンへ訪問している。なんか、ファルハドさんと仲良くなったみたいで、ファルハドさんが転移でこちらに来る時は二人で飲んでいるみたい。ただでさえご令嬢が騒ぐのに、ファルハドさんとセットだと、王宮を歩いているだけで変な人だかりができるという噂を聞いたよ。
レアリスさんも同じく、騎士団幹部の話が出たけど断って、ユーシスさんに付いて交易で飛び回っている。どうやらエスファーンにコーヒー豆らしきものの販路拠点があるらしく、派遣騎士団なのに買い付けとかしていた。いつ仲良くなったのか、何故かアシュラフ王子と気が合うみたいで、たまにレッドさんや白虎さんと一緒に遊びに行っているようだ。
リウィアさんは、有紗ちゃんと話していた女性兵の組織を作り、正式に王宮の騎士になった。女性兵の需要拡大を見込んで、その初代隊長になったんだ。それと、元気になった弟のレナトス君を連れて、朱雀さんと玄武さんに挨拶に行ったりと忙しそうだ。
私と王子も、いろいろな場所に出かけた。ガルやスコル、ハティも一緒で、たまにお父さんが事件を起こしたりするけど、概ね平和だと思う。
私は、王子のための『万能の霊薬』を作るため、また材料を一から集め始めた。
まずは、『果ての迷宮』で回収したミスリルノームたちを巣に帰しに行ったら、自分たちが入れられていたレジ袋をいたく気に入って、数枚あげたら狂喜乱舞していた。そこでお礼にまたキノコ大根の喜ぶ土をくれた。
ここのノームたちにも、前に価値観について教えてあげたけど、「タダノ土トモ知ラズ愚カナ人間ダ」とコソコソ話していて、価値観の差を説明したことが生かせていない。
王子の誕生日にダンジョンに行った時にも言っていたけど、貴重なキノコ大根たちを煮込んで出汁を取っているくらいだから、私たちの常識をあまり当てはめてはいけないのかも。
そのキノコ大根は、決戦前に毎日エキスを提供していたためか、王子と友情が芽生えた(一方的に)ようで、本当は冬眠するみたいだけど、私たちが決戦から帰るのを待っていてくれた。主にユーシスさんのためだと思うけど。
ユーシスさんが出掛けにキノコ大根たちを閉じ込めるのに固めた土を掘り起こしたら、すぐに冬眠しようとしていたから、新しい土に変えてそれまでの土をもらった。今度はチョコだけじゃなくて、スナック菓子の食べかすも混ざって熟成されていたけど。綾人君が面白がってあげちゃうんだよね、お菓子。
後は、冬眠する前に紅葉したお花が残っていたので、それもくれたよ。
もうすぐ春だから、そろそろ目を覚ますかもしれない。
後はノームの巣とユグドラシルにも行った。
ノームたちは火酒の一件で何故か私を見てビクビクしていて、『賢者の石』が必要だと説明したら、ひれ伏しながら五個もくれた。一個でいいんだけどなぁ。
お礼にミスリルノームもお気に入りのパン型スクイーズとレジ袋をあげたよ。こっちでもその二つは大人気だった。
ユグドラシルの泉の水は、お父さんと王子の三人で汲みに行ったら、何故か今回もフレイさんがいて、「うわぁ、本当に俺と瓜二つじゃん」と言って王子に抱き着いていた。
ウルズさんが頭を叩いたら離れてくれたけど、フレイさんは王子を気に入ったみたいで、「後で遊びに行ってもいい?」と言っていたけど、私たちは丁重にお断りをした。そしたら、今度はウルズさんが「なるほど、それはいいな」と言って、フレイさんと盛り上がっていた。
もう王子は腹を括ったらしく、「事前に連絡してから来いよ」とやけくそ気味に約束していた。苦肉の策だね。
泉を覗いたら、今日もやっぱり蛇たちが来ていて、一斉にこっちを見た。前にあげたペットボトルがいい仕事をしていて、あまりユグドラシルの根っこには近づかないみたい。
王子はドン引きしながら「ユーシス、頑張ったな」と、この泉の水を加工した『聖水』を飲んだユーシスさんを讃えた。もしかしたら、王子も飲むことになるから、他人事じゃなく感じたようだ。
そんなありがたい(?)貰った泉の水をしまおうとしたら、ウルズさんがここで『甘露』に調合していくよう言った。確かに、神様たちが見守ってくれている方が心強いね。
まずは泉の水とマンドラゴラ成分入りの土を聖水にして、それから龍がくれた聖杯に聖水を注ぐと、『甘露』ができた。それを亜空間収納の中に入れたら、ピロリーンという通知音が鳴る。
私と王子は顔を見合わせたけど、神様二人はなんかニヤニヤしていた。
もしかして……。
急いで通知を開けると、そこには嬉しいお知らせが載っていた。
〝万能の霊薬の材料 万能の霊薬の調合素材:賢者の石、マンドラゴラの花が収納内にあります。万能の霊薬を調合しますか? YES/NO〟
もちろん、YESだ。
あっという間に調合が終わって、そのお知らせが届くと、収納の中から聖杯が消えた。SSR級のアイテムだったから、これはたった一度の、世界を危機から救ったご褒美だと分かる。だから惜しくはなかった。
できた万能の霊薬の説明を見てみた。ここまできても、本当に王子の命が助かるのか不安だったから。
神様たちも見守る中、スキルボードにある『万能の霊薬』の文字を押した。
〝万能の霊薬 全ての状態異常、全てのステータス、全ての欠損、魔術やスキルの行使で失った生命力を正常な状態に戻す〟
結果は、私たちが求めていたものだった。
「王子、……やったよ。奇跡、起こしたよ」
「ああ」
王子にぎゅっと抱き着いて、それを王子も抱きしめ返してくれた。
そんな嬉しさも束の間、王子がその後の文に気付いた。王子から一度体を離して、画面をスクロールする。
〝注意 万能の霊薬は全ての状態異常を修復するため、体組織全体を再構築するため、修復が完了するまで、生命活動が一時停止する。活動停止期間は不明〟
スキルボードの字を無言で見ていた私たちに、ウルズさんがそっと教えてくれる。
「失われた命数を戻すことは、我々でも禁忌とされている。おそらく、広大な砂漠で数粒の砂金を拾うような労力がいるだろう。我々でも、どれほどの時間が掛かるか分からぬのだ」
ウルズさんがそっと空を見て言う。
「だが、その理を曲げても、そなたたちの願いを叶えたいのだろうな」
私が王子を見ると、王子も私を見ていた。なんとなく、考えていることが分かった。
「そんなの、俺がすぐに目覚めればいいだけだな」
「うん」
やっぱり王子は私と同じことを考えていた。
王子の眠りは終わりのない眠りじゃない。
私はいつまでも待てるけど、きっと王子なら私をそれほど待たせないと思うの。
フレイさんとウルズさんにそう言うと、神様二人が思わず顔を見合わせてしまった。
そして、後ろからお父さんが「クク」と笑う。それに釣られるように、神様二人も笑った。
「なるほど、な。これは、我らも応援せねば気が済まぬ」
そう言ってウルズさんが王子を呼ぶと、ファルハドさんにしたみたいに王子の額に口づけた。
五秒くらい掛けた祝福に、運命の女神様の気合いがうかがえた。「恋人にすまぬな」とウルズさんは謝ってくれたけど、王子のためにしてくれたことに感謝しかないよ。
私が感謝を伝えると、ウルズさんは破顔して、私の頭を撫でてくれた。
そんな中、フレイさんが「じゃあ、俺も!」と言って、王子の顔をガシッと両手で挟んだ。
え? フレイさんも王子のおでこにチューなの?
フレイさんが、私たちの考えているような常識に収まることはなかった。思いっきり、マウスtoマウスで加護を授けてきた。
「#$%&*<>!!!!」
声にならない王子の悲鳴が響き渡った。しかも長い。多分十秒くらいはあった。
「ぷはっ! これまでで、いっちばん凄い加護をあげたよ、子孫君!」
「アホか! 重たいわ! 加護くれるんなら、手段を選ばせろよ!!」
王子が、ペッペッと唾を吐きながらブチ切れて、袖で口をめっちゃ擦った。「ああ、こんなに加護が邪険にされたの、初めて」と言ってシュンとしたけど、王子の気持ちも分かる。
私にうがいするものを要求してきたので出そうと思ったら、フレイさんが何故かペットボトルの水を差しだした。それをしゃがんで見てない王子が受け取ると、お口をその水でぶくぶくする。
……そのお水、泉の底にあった生水のやつじゃ……。
ふと、王子が気付く。ペットボトルとフレイさんを見て、王子の中で何かが繋がったのか、次の瞬間、ブーッとお水を噴き出した。それで、「やってられるか!」とペットボトルを地面に叩きつける。
私に「ハル、水!」と要求し、今度こそちゃんとしたお水でお口を濯ぐ王子に、ウルズさんとフレイさんは微苦笑した後に、優しい顔を向けた。
その顔に、王子も毒気を抜かれてしまう。あんな仕打ちを思わず許しちゃうくらい、神様らしい慈愛に満ちた笑顔だったから。
「幸せにおなり。愛しい子たちよ」
フレイさんが、言葉でも私たちに祝福をくれた。
私たちには、もう怖いものはない。
だって、神様たちから、こんなに凄い祝福を貰ったんだものね。
王都へ戻ると、王宮へ行って国王陛下とリュシーお母さまに、王子の命を繋ぐ手段が見つかったことを報告した。
そして、王子が一度眠りに就くこと、それがどのくらいの時間になるか分からないことも。
国王陛下とお母さまは、少し驚いたようだったけど、神様たちに劣らない優しい笑みを浮かべた。
本当は泣きたいのかもしれないけど、国の上に立つ人としての矜持で、しっかりと王子を見据えて、これまでのことを労った。二人とも、立派な人だと思う。
そして、その夜は遅くに、二人でベースキャンプに帰った。
子供たちは先に寝ていたし、お父さんはどこかへ行ってしまった。
静かな夜だった。
二人でログハウスのリビングのソファに並んで座ると、温かい紅茶に少しブランデーを入れて飲んだ。体の底から温まる。
王子は多分これから、政務の引継ぎとかで、眠りに入る準備が終わるまで忙しくなるだろう。その後は、長い間、言葉を交わすこともできなくなるんだ。
そう思うと、いくら王子の体を治すためとはいっても、胸が苦しくなる。
しばらく二人で無言でいたけど、カップをテーブルに置いて、私は王子に寄り掛かった。
「ねえ、王子。何か、お話しして」
沈黙も悪くないけど、今は王子の声が聞きたい。
王子の膝にあった手を、指を絡めるようにして繋ぐ。王子もそれを握り返してくれて、寄り掛かった私の頭に、王子の頭をコツンと寄せた。
「ああ、そうだな。俺の名前の話でもするか。俺を含め、黒の森の人間の名前は、どこかの古い言葉が使われているらしい。元は、レンダールの西の方の地の言葉らしいんだが。今は、ばばあが『オーリィ』って呼んでるが、王宮に来る前は、別の名前で呼ばれてた」
考えるようにしながら王子が話してくれる。
「何て呼ばれてたの?」
「笑うなよ。『リアン』だ」
少し照れたように言う王子だったけど、「変だろ」と言って先に自分が笑った。
全然変じゃないけど、本人は恥ずかしいみたい。
「どういう意味なの?」
今度こそ、王子は少し黙ってしまった。でも、それほど間を置かずにポツリと言う。
「……絆……」
ああ。お母さまの、王子への深い愛情が伝わってくる。
「リアン」
私がそっと口に乗せると、その名前はとても神聖なものに思えた。
「リアン」
「……ああ……」
覚えたての言葉のように繰り返して声にすると、それにぎこちなく返事をする王子だったけど、また私が名前を呼ぶ前に、そっと唇を口付けで塞いだ。
すぐに離れそうになったけど、今度は私が王子の唇を追いかけて重ねた。
そして、少ししてから離れる。
「王子。ほんの少しでも、離れるのは寂しいよ」
こんな時なのに、ううん、こんな時だから我儘が言いたい。
「王子が目覚めるまでちゃんと待つ。でも、私もそれまで頑張れる絆が欲しいの」
私が言いたいことが伝わったのか、王子が紫色の目を大きく瞠った。
「今夜は、傍にいさせて」
一瞬も離れずにいたい。ずっと触れていたいし、触れられていたい。
王子は、吐息を短く吐いて、お互いの額を合わせた。
「……ハル。本当にいいのか?」
「うん。お願い、王子」
軽く鼻の頭を合わせて懇願すると、王子は私を抱き上げる。王子の首に腕を回し、私は体を王子に預けた。
そしてそのまま、一階の私の寝室に二人で入り、扉は閉められた。
一週間後、王子は全ての引継ぎを終え、ベースキャンプの自分の部屋で、私やユーシスさん、レアリスさん、有紗ちゃん、それとフェンリル一家と玄武さんに見守られながら眠りに就いた。
それからの日々は、ゆっくりと流れた。
私は毎日、朝目覚めたら王子におはようといい、寝る前に額におやすみのキスをする。
王子の体は時間が止まったようになり、髪も爪も伸びない。生命活動が止まっているから呼吸もなくて、肌は気温と同じ温度で、それでも触れると確かにそこにいて、私は日に何度も王子に触れて過ごした。
春になって、窓の外に見える木々が青く芽吹き、夏になって、空に浮かぶ雲が高く積み上がり、そして、秋になって、風が木々の葉を攫っていく。
私は毎日、その日にあった出来事を眠る王子に伝える。
お父さんがレッドさんと暴れてお庭をボコボコにしちゃったとか、レアリスさんがとうとうハティを抱っこできたとか、ファルハドさんがセリカの皇帝陛下のお見合い攻撃から逃げてベースキャンプに来たとか、エスファーンのアシュラフ王子がノームも気に入ったスクイーズ欲しさに金塊を持ってきたとか。毎日王子に報告することに事欠かない。
今日はユーシスさんが、セリカのお土産を持ってきてくれて、ガルたちと一緒にお茶をした後、午後は王子のベッドの隣で編み物をしていた。
今日は窓から入る日差しが暖かくて、私はいつの間にかベッドの端に、腕に顔を埋めて眠っていた。
幸せなまどろみの中、誰かが私の前髪に軽く触れた。その感触に私は目を覚ます。
顔を上げた先で、まだ重そうな瞼がゆっくり開かれると、綺麗な紫色の瞳が私を見つめた。
少し薄めの形の良い唇が柔らかく弧を描く。
私はそっと伸ばされた手を握り、心の底からの笑顔を浮かべた。
「おはよう。リアン」
波瑠と王子が辿り着いた先は幸せでいっぱいなことでしょう。
残すところエピローグ1話となりました。
どうぞ最後まで、この物語をご覧ください。




