141 迷宮の扉
新しい部署に異動になり、ちょっとバタバタしている毎日で、更新が不安定で申し訳ないです。
あいさつ回りで新しい上司にお昼を奢ってもらい、「次は焼肉(高級和牛)でお願いします」と言ったら「またまた~」と言われました。
そんな想いをぶつけた一話です。
本格的な迷宮探索に備えて、代わる代わるベースキャンプに人が来た。
大体レジェンドはここに居座っているからね。たまに東方のレジェンドのみんなも集まるから、いい会議場所になっているかも。
王子もほぼ万全の体調になって、王宮とベースキャンプをたくさん行き来している。
あの日以来、普段の王子の態度は変わりないけど、お酒を控えるようになって、筋トレも増やしたみたいだ。私が言ったことをちょっと気にしているみたい。
でも一番変わったのは、人目がない場所でなら、遠慮がちだけどキスをしてくれるようになったことかな。
出発の三日前に、女子会と称して有紗ちゃんとリウィアさんがお泊りに来てくれた。レジェンドは、朱雀さんとニズさんと玄武さん(相変わらずクロさんは強制参加)が来てくれたけど、今回セシルさんは遠征準備でお休みだ。
子供たちとフニちゃん――ファフニールって呼びづらいから試しに呼んでみたら気に入ったみたいでキュイキュイと喜んでいた――以外の男性陣は、全員追い出されていたけどね。
みんなで楽しく食べて飲んで、それぞれのことをたくさん話した。
有紗ちゃんとリウィアさんは、遠征関係でずっと一緒にいるみたいで、すっかり意気投合していて、最近は女性騎士たちと女性騎士団を作る勢いらしい。今は各隊にバラバラに配属されているけど、女性の警護や魔物討伐の一般市民の保護とかで、やっぱり女性特有の配慮が必要な場面が出た時に、個々の対応じゃなくて組織的な動きができるからだって。
この二人は本当にバイタリティがあって、どんどん新しいことをやっていける力がある。
ニズさんは、ちょっとレッドさんといい感じだな、と思うことが増えた気がする。それを朱雀さんが言うと、『ドライグ様はお優しいので……』ともじもじしながら言ったけど、レッドさんが上機嫌でクルクルと喉を鳴らしている時は大体ニズさんといるので、前よりもずっと親密になったと思うよ。
楽しくて時間があっという間に過ぎて、私の膝でハティがウトウトし始めて、子供たちを寝かせる時間になったのに気付いた。
寝ぼけ気味のハティを抱っこすると、フニちゃんもあくびをしながらパタパタと飛んで来て、私の肩に乗った。いつもは宵っ張りのフニちゃんだけど、子供たちと一緒に寝てるので、ちゃんと学習しているようだ。賢くて可愛い。
ハティを運ぼうとすると、寝ぼけて甘えてきた。
『ハル。いつも王子としてる、お口合わせるのやって~』
「ハ、ハティちゃぁん!?」
ちゃんと隠れてたつもりだったのに、み、見られてたの!? しかも、いつもって、何回も!?
慌ててハティのお口を塞ぐけど、出てしまった言葉は戻らない。お口を押えても、「念話」でお話するハティちゃんの声は聞こえちゃうけどね!
「波瑠? 詳しい話、聞かせて貰おうか?」
ああ、有紗ちゃんの低い声が聞こえる。やっぱり、見逃してもらえないよね。
振り返ると、舌なめずりしている女性陣(レジェンド含む)がいた。
私は泣く泣く正直に話したら、有紗ちゃんは、「あのヘタレめ。とうとうやりおったか」と感心したように呟いた。他の人たちは、玄武さん以外ぽかんとしていたけど。
え? そんなに意外だった? どうやらみんなの中では、王子はダークホースだったようだ。
恋バナ大好き女子会の洗礼で根掘り葉掘り聞かれ、大人な口づけはちょっとしたけど、それ以上はまだ何もないことを吐かされた。「そこで押し倒さないところがヘタレね」と有紗ちゃんが辛辣に言うので、私もそう思うけど一応王子を擁護しておいた。
その後、王子と将来を約束したこと、すぐに王子は国王陛下とリュシーお母さまに報告して、二人からいい返事をいただいたこと、王子はちゃんと結婚というけじめを付けてから進展させたいと思っていることを、ね。
私は、同じく召喚された有紗ちゃんに、ようやく私の意思でこの世界に残ることを伝えられた。全部が私自身の選択で、有紗ちゃんは有紗ちゃんの選択をしてほしいと。
玄武のお二人は、元から私の決意を知っていたけど、他のみんなも特に驚きはしなかった。
「なんとなく、そうなるかな、とは思ってた」
有紗ちゃんが言うのには、最初の頃の私は流れでここにいたように見えたけど、今ではしっかりと地に根が張ったようにこの世界に馴染んだそうだ。
そうか。私の気持ちだけじゃなくて、周りの人にもそう見えるんだね。嬉しいな。
「ねえ、有紗ちゃん。私ね、有紗ちゃんに会えて良かったと、ずっと言いたかったの」
これまで有紗ちゃんが、私の手を掴んで召喚されたことを蒸し返したらどう思うか分からなくて言えなかったけど、みんなの酔いに任せて言ってみようと思った。
「この世界に連れてきてくれて、ありがとう」
隣から、有紗ちゃんが息を飲む音が聞こえた。それから目元と口元が少し歪むと、一回鼻をすするような音がして、「本当に、あなたって……」と呟いた。私が望んでないと察して、いろいろな罪悪感や謝罪とかを飲み込んでくれた。
それから、いつもの強気な顔に戻ってから、私の頬を指でつついた。
「感謝してよ。私のお陰で生涯の伴侶が見つかったんだから」
「うん」
そう言ってから、二人で自然と笑いあった。周りのみんなも釣られて笑う。その笑いが収まると、有紗ちゃんが私と向かい合った。
「おめでとう、波瑠。絶対に幸せになるのよ」
少しお酒で上気した顔だけど、優しい笑顔で有紗ちゃんがそう言ってくれた。
「うん。絶対に幸せになるよ」
有紗ちゃんの励ましが嬉しくて、私は有紗ちゃんに抱き着きながら顔を肩に埋めた。
この世界で放り出された私を探しに来てくれて、初めて有紗ちゃんと向き合った時とは逆で、今度は有紗ちゃんが私の背中を優しく撫でてくれた。
有紗ちゃん、大好きだよ。
いよいよ明日は、「龍の道」から「果ての迷宮」の入口に臨む。
表には扉の結界を空けるセリカとシナエのレジェンドの四獣、白虎さん、朱雀さん、玄武さん、青龍さんがいて、私たちが転移してくるのを待っていてくれた。
そこには、各国の精鋭軍らしい、様々な甲冑や衣装を纏った人たちがいる。各国の元首もこの世界の一大事に集まっているけど、みんなレンダールの王宮に待機だ。何かあった時に、トップまでここにいたら、瘴気の前に世界の政治機構がおかしくなってしまうから。
レジェンドたちも集まっていて、シロさん、レッドさん、ラタトスクさん、フレースヴェルグさん、お父さんとガルだ。スコル、ハティ、フニちゃんはベースキャンプにお留守番で、そのお守りでニズさんがいてくれる。なんか、レッドさんがさり気なく残るよう言っていた。何故か聞いたら、『あいつは、まだ〝名前持ち〟になってから日が浅いからな』と言っていたけど、完全に危ない所に連れて行きたくないというのが駄々洩れだった。
あとキノコ大根が、私の服に隠れて付いて来ようとしたけど、ユーシスさんが「危ないから駄目だ」と言って、四匹を一つに縛って鉢に植えておいた。後でリュシーお母さまに放してもらうよう頼んでいたけど、しっかりとユーシスさんの腕力で土を固めていたので、リュシーお母さまに掘り起こせるかなぁ。
それぞれが一度顔合わせをして、シナエの将軍という人や、アジ・ダハーカさんがいる砂漠の国エスファーンの第二王子という人、ダハナプラというシナエの南の諸島国の王配とか、大小様々な国の偉い人たちがいた。
でも不思議なもので、色々な偉い人に会っても、前のように震えて何もできないということはなかった。さすがに緊張はするけどね。
宴会は不謹慎だから、軽い会食でのあいさつだ。
私の本当のスキルは非公開だった。一緒に紹介された有紗ちゃんと綾人君も正確な能力は伏せられていたから、それほど変な印象はなかったと思う。
そこでセリカの人たちや、神殿の人たちとも合流する。
セリカの人たちは、一緒に地下迷宮を探索した人たちで、後はなんとセリカの白陵王さんの反乱の時に、皇帝陛下の間諜として暗躍していたテンショウさんがいた。
テンショウさんはあのリュウキ将軍の傍系の末裔で、セリカで魔力抜きなら三指に入る武術の達人のようだ。テンショウさんって偽名だった気がするけど、皇帝陛下以外本当の名前を知らないらしく、「テンショウと呼んでください」と言っていた。
そして、次の神殿側の人達で、一番の問題が勃発した。
神殿からは治癒魔法が使えるセシルさんと、あとご新規様でウルスラさんという褐色のお肌にプラチナブロンドの首席神官という美女が代表で来てくれた。セシルさんが言うのには、ウルスラさんは偉い人だけどあまり表に出ない凄い治癒力のある神官さんらしく、ひと月前に北方の神殿から派遣されてきたようだ。
そのウルスラさんだけど、私とファルハドさんは思わず目を擦って二度見してしまった。
――あの顔、絶対にユグドラシルのウルズさんだ。
なんか知らないうちに、半神の女神様が混じっていました。
本人(?)は、私たちが気付いたのに気付くと、人差し指を唇に当てて「黙っていろ」のサインを送ってきた。やっぱり間違いない。レジェンドたちも気付いているようだけど、何故か知らんぷりしている。神様の何かの力を使って、身分を捏造したんだ。
ウルズさんが王子の顔を見て私たちに、「ヤツでないと分かっていても、気に食わん顔だ」と漏らしたのを、ファルハドさんが前に立ちふさがり、私がサッと口を塞いでブロックする。王子がフレイさんに似ているのが不満らしい。ああ、恐れ多いことをしてしまった!
私がガクガクと震えていると、王子が「大丈夫か?」と聞いてきたけど、ウルズさんは私とファルハドさんの顎の下を両手で撫でて「なんでもありません」と笑っていた。
初対面のはずなのに、何故か親密な様子の私たちに、みんな怪訝な顔を向けていた。スイランさんは「ファルハドがどこぞで手を付けた女人か。すまぬ!」と何故かあらぬ誤解をして力いっぱい謝罪していたけど、ウルズさんは「フフ」と意味深に微笑んで事態はややこしくなる。そのままファルハドさんが有罪となるところだったけど、私が慌てて、ユグドラシル行きの時に、城砦都市ルミリンナの最北の神殿でたまたま出会ったと言っておいて、なんとかその場を収拾した。
二人一緒に目線でウルズさんに猛抗議するけど、「肉体的接触は間違いではあるまい」と楽し気に笑った。確かに、泉に落ちそうになってたウルズさんを、ファルハドさんが抱っこしたし、ウルズさんはファルハドさんの額にチュッてしたけど、あれは人命(?)救助と神様の加護だよね。
そんな訳で、先行きがちょっと怪しくなってきた一行だけど、神様一人にレジェンドもいて、世界でも屈指の実力がある人たちが一緒にいてくれるから、こんなに心強いことはない。
その晩は、遅くまで様々な意見の交換と、レジェンドたちとの顔つなぎがあって、明け方にみんな就寝した。どうせ本番は夕方からだからね。
次の日は、日が中天から傾き始めてから動き出した。
そして、辺りが暗くなってきて、いよいよ冬至の夜が始まる。
遠巻きに見て、岩肌に不自然な光が灯っている所が、例のユーシスさんを呪った結界だ。暗くなると普通光は目立ってくるはずなのに、太陽が沈むのと比例して暗くなっていく。
その様子を見て東方レジェンズが配置に就く。今日は玄武さんも青龍さんも可愛いフォルムじゃなく、立派な姿を見せている。青龍さんの実物(?)は初めて見たけど、サファイアを連ねたような神秘的な青い竜だった。
青龍さんが東、朱雀さんが南、白虎さんが西、玄武さんが北。東から順番に「クォーン」という金属の澄んだ響きにも似た声を上げると、光の柱が立った。最初は青、次は赤、白、黒と柱が立って、それが一つに収束する。そして、それが一つの白金色の球体になり、結界の張られた岩戸へと吸い込まれた。
辺りを吹く風の音以外、誰も吐息すら漏らさずにいる静寂が支配する中で、どこか遠くで、「カチャリ」と音がしたような気がした。
目の前に、急に開かれた岩戸があった。
ぽっかりと開いた五メートルくらいの口は、私たちが焚いた松明もあるのに、扉の境界線から真っ暗だった。重たく粘度のある黒い水が、入り口いっぱいまで満たされているようだ。
数人の解呪師が入口に向けてスキルを使うと、薄い膜が破れたかのように、ドロリと黒い瘴気がこちらへ流れ出た。そして、まるで羊膜を破って出てくる動物の出産のように、ナニかが湧き出てきた。
ワームと呼ばれる芋虫型の魔物に似ているらしいけど、その姿は人間の腕くらいの芋虫に、ヤツメウナギの口を取り付けたような姿で、あまり見たことがない形のようだった。
どのみちワームだって、嫌悪感を催す形に変わりないけど!
「第一陣、前へ!」
各国で編成された攻撃隊が魔物を無力化して、その後聖属性を持った人が浄化を行う。
この浄化ができる人が少ないのが難点だけど、有紗ちゃんと同じ「聖女の浄化」と言われる〝聖なる炎〟を使える人がやる浄化は、桁違いの効果があった。これに当たる人は、各国でも聖職者としての地位の人が多かった。
気持ち悪くて、思わず後ろに下がると、お父さんにふわりとぶつかった。
『なんだハル。そなたあのような虫が駄目なのか?』
「……ちょっと生理的に……」
『なに。見慣れてくれば可愛いものだ。なんなら慣らすのに集めてきてやろうか』
「そんなことしたら、お父さんのごはん、全部白ご飯だけにするからね」
『……すまぬ。ちょっとした冗談だ』
お父さんがしょんぼりする間に最初の攻撃はすぐに終わって、入り口が入れるようになったので、最初の斥候の役割の人たちが入って行った。
斥候には、レーヴァテインを持ったレアリスさんを筆頭に、各国で〝隠密〟などの隠蔽系のスキルがある人たちとガル、小型化したレッドさんとラタトスクさんが付いていく。
十五分くらいで斥候の人たちが戻ってくる間、岩山から染み出てくる瘴気から、また魔物が出た。
魔物は普通、生き物に取り付いて変質させるものなのに、出てきた魔物は瘴気だけで出来た個体のようだった。ということは、瘴気が沁み出す隙間があれば、いくらでも魔物が湧く可能性があった。それも、この岩山のどこから湧くかも予測できないので、ある程度の人数で見張る必要がある。
それで、戻ってきたレアリスさんたちも、あまり良くない情報を持ってきた。
迷宮は大軍が入れるような広い造りじゃないらしく、少数での進軍が必要らしい。
外は人海戦術、中は少数で行動。人数の配置は何とかなるけど、中と外の戦力のバランスが大切になりそうだ。
ほんの少しだけ協議があって、中に入る人が決まった。
異世界組は私と綾人君だ。有紗ちゃんは、広範囲系のスキルが使えるから、外組にかなり必要とされるものだ。
有紗ちゃんは、自分も中に行きたいという気持ちを抑えて、残ってくれた。その護衛には、神話級武器で主戦力にもなるアズレイドさんが残ることになった。イリアス殿下がアズレイドさんを外すのは珍しいけど、対人警護のスペシャリストだからね。
レンダール側はもう定型化したメンバーで、この世界で最強の攻撃力を持つ王子と、最強の防御力を持つイリアス殿下。神話級武器を持つユーシスさん、レアリスさん、リウィアさん、イヴァンさんだ。
セリカ側は、神話級武器を持っているファルハドさんとアルジュンさん、スイランさんの三人。それと、護衛の双子の姉メイシンさんにテンショウさん。ラハンさんとメイリンさんはリヨウさんの護衛で居残りだ。
レジェンドからは絶対に行くと言い張る不動のお父さんとガル、レッドさん、白虎さんが参戦だ。レッドさんと白虎さんは、東西レジェンズで最強のお二人で、ガルはお父さんのストッパー役だ。みんなそうだと理解しているけど、お父さんにだけは「ガルの今後の勉強のため」と言っている。よろしくね、ガル。
あとは、シナエの第一軍団長のカイディンさんと、エスファーンの第二王子アシュラフ様、その護衛の女性隊長のファイデュメさんが参戦するらしい。
カイディンさんはシナエで一番強い人で、シナエの将軍閣下からの信頼も厚い軍団長さんのようだ。短く刈り込んだ灰色っぽい黒髪と青い目をしていて、体格はイヴァンさんくらい大きな男性だ。年齢もイヴァンさんと同じらしい。あまり喋らないけど、表情が豊かで優しく笑う人だ。ファルハドさんが面識があって、人柄に間違いない人と教えてくれた。
アシュラフ王子は、癖のある長い黒髪を一つにまとめた、灰色の目で綾人君を少しがっしりさせたような人で、甘い顔立ちをして人懐っこい感じの人だ。
初対面の私とリウィアさんに「素敵なお嬢さんたちとご一緒できて嬉しいです」と言って手を取ろうとしたら、護衛のファイデュメさんに背後から剣を顎先に突き付けられて、「無暗にご婦人に触れぬようお願い申し上げます」と冷たく言われていた。
ファイデュメさんは、エスファーンで屈指の強い兵士だけど、クールな感じで、長身でもくびれが凄くて大変女性らしいセクシーな体型の方です。王子様が「もう、やきもち妬かないで。僕はファイ一筋だから」と言ったら、「その目は節穴のようなので、石でも詰めた方が役に立ちますね」と返されていた。
……うん、何となく二人の関係性が分かった。
最後に回復要員だけど、外にセシルさんを置いて、中はウルズ……ウルスラさんが一人で担当することになった。まあ、ウルスラさんを超える能力がある人がいたら、その人はもう人間じゃないからね。
先頭をガルとレアリスさん。その後をユーシスさんとファルハドさんが固め、レッドさんを抱っこしたイヴァンさんとメイシンさんとファイデュメさんが、王子とイリアス殿下とスイランさん、アシュラフ様たち王族の周りを固める。その後ろにテンショウさん、綾人君、リウィアさん、アルジュンさん、カイディンさんが並ぶ。殿は、ウルスラさんと白虎さんと私とお父さんだ。後方の戦力が過剰だ。
斥候の役目をレアリスさんからテンショウさん、アルジュンさんが交代するくらいで、概ね隊列を崩さずに先に進む。
時折、恐ろしい魔物が何度も襲ってきたけれど、魔物の方が可哀想なくらいほとんど瞬殺でした。逆に、張り切りすぎるスイランさんを、ファルハドさんとユーシスさんが抑えているくらいだ。こちらの戦力は、瘴気を消滅させられるスキルや武器を持った人が大部分を占めるからね。
それから、何度か休憩を挟んで、四時間ほど歩いた時だった。
少し狭くなった隧道を抜けると、そこはまるで外に出たかのように広い空間だった。多分何かの幻術だと思うけど、地平が見えるような果てしない空間だった。
ただ、そこはがらんとしていて、何もない空間だった。
私たちは少し気が抜けたようになったけど、白虎さんとお父さんが耳を動かし、レッドさんがイヴァンさんから離れて元の大きさになる。ガルも毛を逆立てた。
急に辺りに緊張感が漂った。
『来るぞ』
お父さんの声に、全員が前を見据える。
私の目には、平らな白茶けた大地に、小さな黒いシミが生まれたように見えたけど、それは今まで見た中で、何故か一番の禍々しさを感じた。
いよいよ最終決戦の地にやってまいりました。
このお話も残すところ数話になります。まだ、何話になるか未定ですが。
懲りずにまた新しいキャラが出ていますが、そんなにお話は膨らまないのでご安心を。
しかし、何故主人公二人はこうも糖度が上がらないのか……。不思議だ。
そんな訳で、頑張って連休である程度形にしたいとは思っていますが、思うように筆が進まないため、更新もお約束できない状態ですが、頑張って書いてまいります。




