140 共に生きる未来
エレノア様誕生の知らせは、一気に国中に広まった。
すぐに祝賀会の日程が決まって、一月後にお披露目となるようだ。その準備は出産前からすでに整っているけど、お天気や来賓の調整とかがいろいろとあるみたい。
でも今は、来賓の一番の上位者であるセリカの皇帝陛下が来ているので、話もかなりスムーズにいきそうだ。王宮にいるセリカの人たちからもお祝いが述べられて、後からすぐ本国からの贈り物が届く予定のよう。みんな準備がいいんだね。
それで、お祝いムードで騒がしくなった王宮だけど、国王陛下とリュシーお母さまにイリアス殿下と王子という、王族の家族会議の席に、私は肩身の狭い思いをしながら参加している真っ最中だ。王太子殿下は、イネス王太子妃様とエレノア様に付いているから不在だけどね。
極秘中の極秘の話なので、イリアス殿下がスキル「断絶」で一切の話声が漏れないよう厳重に結界を張っていても、どこからか漏れないかドキドキしてしまう。
まずは、事の顛末を国王陛下が王子に説明した。
自分は王弟のアルセイドであり、暗殺された兄であるアルフェリクに代わり国を治めていること。そのために、自分は子を残すつもりはなかったけど、リュシーお母さまと惹かれあって結ばれ、でも陛下の事情を酌んだお母さまが身を引いて王子を一人で生んだこと。
結構、自分のアイデンティティを揺るがすような事実を聞かされているはずだけど、王子は軽く目を大きくしただけで、特に疑問を投げかけることもなく静かに聞いていた。
その後は、リュシーお母さまが引き継いで話をし、「王の子」として最後に生まれた王子が、誰よりも濃い王家の色をした紫色の目をしていたので、王家の嫡流が「王弟」に移ったかもしれず、運悪く目を負傷したレイセリク王太子殿下が治療によって紫色の目を失い、国王の交代劇が明るみに出て国が混乱する危険性から、その失われる視力をどうすることもできなかったこと、それを偶然私とイリアス殿下が知るところとなり、私が特級ポーションで治したことを説明した。
セリカのレジェンドの白虎さんから、紫色の目が王家の色ではなく「女神の加護」を受けた証であることを聞いたのはその後だった。
そして、生まれたエレノア様が、レイセリク殿下と同じ赤みのある〝紫色の目〟をしていて、傍流には現れない女神様の加護を授かったことで、レイセリク殿下が女神様にも認められた嫡流であることの証明となり、国に無用の混乱を招かなかったことを伝えた。
私が、ユグドラシルで黒の森の遠い祖先の半神フレイさんから聞いた話をして、王子が生まれたことが奇跡的なことであり、王子の瞳が特別だったのだと伝えると、国王陛下とリュシーお母さまは驚いたようだった。黒の森と現王家は協力体制にはあったけど、どこか血が交わるのはタブーだという暗黙の雰囲気があったことを常々不思議に思っていたそうだ。
当の王子本人は、ちょっと迷惑そうな顔をしていたけどね。
でも、謀反を企てていたセウェルス侯爵や、セリカの内患だった白陵王と結んで権力を得ようと目論んだ神殿勢力が瓦解し、国内外の不穏分子がほぼ無くなった今、たとえエレノア様が紫色の目をしていなくても、レンダールの未来は揺るがないと確信をもって言える。
そう言ったリュシーお母さまの目が私に向いて、国王陛下とイリアス殿下も頷いた。
え? どうして?
「ハルちゃん。あなたがいてくれたから、築けた今なのよ」
レイセリク殿下の目の問題、セリカの謀反の白陵王の鎮圧、セウェルス侯爵の野望やそれらに力を貸していた神殿の暗部を一掃したこと。
「全て、あなたがいなければ成し得なかったことだ」
国王陛下もリュシーお母さまに続いておっしゃった。
その全部が私のしたことではなくて、そこに関わった人たちの誰が欠けてもうまくいかなかったかと思う。
でも、そこに私も確かにいたと、今なら言ってもいいかな?
改めて言われて、私は自分が誰かの役に立ったと堂々と言える気がした。
「オーレリアン、そなたには苦労を掛け通しだったが、私を恨んでいるか?」
国王陛下が、静かに王子にそう問いかけた。
息子にも話せなかった事実のせいで、王子が不遇を託っていることから守り切れなかったと、悔恨の表情で王子を見つめた。
王子は、少し間を置いた後、ふぅと大きな息を吐いた。
「何となく分かってた。レイセリク兄上とイリアスの魔力の質が、俺と親父の魔力と微妙に違ってたからな」
その言葉に、王子以外の全員が驚いていた。
王子は魔力の質の差を自力で発見して、半信半疑だったけど、自分がレイセリク殿下とイリアス殿下の弟ではないのでは、と思っていたようだ。血筋と同じく、魔力にも遺伝子のようなものがあるらしいけど、研究も進んでいなくて精度は違和感程度で、ずっと王子は胸に秘めていたそうだ。
「誰のことも恨みようがないだろ。ばばあが一回でも親父を恨むようなことを言ってたら分からなかったけど、そうじゃなかったからな。何か訳があるんだろうって思ってた」
「……オーリィ、あなた……」
二十二年間で初めて知ったのか、お母さまが泣きそうな顔で呟いた。王子の言葉には、リュシーお母さまに対する信頼と愛情があったから。
お母さまの国王陛下に対する愛情を、離れて暮らしている頃からしっかりと感じ取っていたんだね。
いつも思うけど、王子は誰かを非難してもいいような境遇でも、ちゃんと本質を見て受け入れることができる器の大きい人だ。それが、どれだけ凄いことか、本人はあまり気にしてないみたいだけど。
照れているのか、泣きそうなお母さまを殊更無視するように、王子はイリアス殿下に揶揄うように話題を振った。
「それよりも意外なのは、イリアスが全然騒がなかったことだな。お前なら絶対、俺が弟じゃなくて大喜びしそうなのにな」
普段のイリアス殿下なら、こんな憎まれ口を叩かれたら相当な報復 (毒舌)をしているところだけど、なんと、イリアス殿下は笑っていた。苦笑だったけど。
「不思議なものでな、お前が弟でないと分かってから、お前のことを弟として見られるようになった。世の中の兄が弟の世話を焼く気持ちが、多少なりとも分かった。そんな風に思えるようになったのも、どこかの世話焼きのせいかもしれんがな」
チラリと私を見ながらイリアス殿下が言う。それを見て、王子が「だからか」と何かを納得したようになって、私をジトッとした目で見る。なんで?
そんな私たちを見ながら、イリアス殿下が目を伏せて少しだけ頭を下げた。
「感謝している」
イリアス殿下がお礼を言った! 私と王子は、驚愕で目を見開いてしまった。
「……、おま、本当にイリアスか?」
「世の中の兄のように、たまに弟を躾けたくなる気持ちが痛いほど分かるようにもなった」
沈黙を守った私と違って、思わず本音を口にしてしまった王子にそう言って、イリアス殿下は王子の頭を鷲掴みにしてギリギリと締め上げた。
早速兄らしいこと(?)を実行していて、王子が若干おとなしくなった。そういえばイリアス殿下は、舌鋒鋭いだけじゃなくて、すぐ手が出る力で物言わすタイプだったね。すぐに解放したけど。
「チッ。兄貴面するようになりやがって」
王子が口をへの字にして文句を言うけど、その表情はどこか満更でもない感じだ。
するとイリアス殿下が、ふわりと優しく微笑んだ。
「ああ。お前は、私の自慢の弟だからな」
王子の紫色の目がさっきよりも大きく見開かれた。それからふいとイリアス殿下から目を逸らして、蚊の鳴くような小さな声が聞こえてきた。
「ばぁか。そんなの知ってたわ」
そう言った王子の耳が少し赤くなっていた。
昔の人が引き起こした暗殺という悲劇と、二人の間を割こうとする心無い周囲の大人たちのせいで一度は拗れかけた関係だけど、これからの二人にはなんの憂いもないと信じられた。
過去の辛いこともわだかまりも、こんなふうに昇華されたのが、自分のこと以上に涙が出るほど嬉しかった。
それからは、いろいろなことが飛ぶように過ぎて行った。
セリカの人たちの帰国から始まって、エレノア様のお披露目会、サンちゃん(リヴァイアサンさん)や東方レジェンズとの交流、綾人君が武器を作る時に素材を貰った他のレジェンドたちへのお礼参りと、目まぐるしく時間は過ぎていった。
その中で、レイセリク殿下の五歳の嫡男エルシス殿下が、「妹の名前〝ふぇんりえった〟にしたかったです」と言ってちょっと落ち込んだけど、エレノア様に会った途端、「エレノアがいいです!」と言って大人たちをほっこりさせた事件(?)があったり、セリカとの会談にサンちゃんと同じオネエさまレジェンド組合のアジ・ダハーカさんという竜が乱入して、「あら、ホントに好み♡」と言ってユーシスさんとファルハドさんを拉致しようとしたりという事件があったけど、概ね平和で穏やかな日々だった。
魔物の出現は極端に減ったけどまだ完全にゼロではなくて、その討伐も何度かあり、有紗ちゃんや綾人君も参加するそれに私も付いていった。有紗ちゃんもだけど、綾人君が本当に強くて、私の出番はほぼなかったけど、ご飯とポーションでサポートをしたよ。
過保護なお父さんもガルも一緒だったから、怪我人だけで死者が出なかったことで凄く感謝された。
魔物の討伐が、どれだけ過酷な現場かがうかがい知れて、その解決が何より待ち望まれるのが分かった。
秋になると、ファフニールが一回目の脱皮をして(竜って、成長する時に脱皮するんだ)レアリスさんと一緒に遠征にも出かけられるようになって、ちょっとニズさんが寂しそうにしていた。なんかレアリスさんのことはご主人様と思っているようで、ニズさんをお母さんだと思っているようだ。
あと、キノコ大根たちが紅葉(?)して、赤いキノコの部分が黄色く、大根の部分が赤く色づいて更に謎の生き物になっていた。この色が元に戻る頃に冬眠に入るらしく、この時期の花も絞り汁も大変貴重なもののようで、ユーシスさんが嫌々ながら毎日収穫していた。
月の半分はベースキャンプに遊びに来ている玄武のメイさんに言われて、王子は苦悶の表情を浮かべながら、更に黄色さを増したキノコ大根の絞り汁を、毎日二、三滴ずつ飲んでいる。
その他、ノームたちの二か所の巣を訪れて、貴重なものを貰ったお礼と、自分たちには価値のないものでも人間からしたらすごく貴重で、あげる人によっては危ない目に遭うかもしれないから気を付けるように伝えた。
なんか、転がったおにぎりの対価にお宝をもらった昔話をしてあげたら、みんな真剣に聞いてくれたけど、最後に「面白イ話ヲ聞カセテモラッタ礼ニコレヲヤロウ」と言って、なんかキラキラした石を出してきたので全然理解してないことが分かった。上から目線の強盗気質なのに、何故か物をあげたがるのはもう習性なのかもしれない。でも、丁重にプレゼントは断ったよ。
一緒に王子の領地に行ったメンバーとは、もう一度黒の森に滞在して、夏にできなかったゆっくりとした時間を過ごすことができた。秋の紅葉した黒の森は、夏と違って一瞬で過ぎる綺麗な景色だった。私たちが帰った一週間後には落葉と一緒に最初の雪が降ったそう。
そうして冬が来て、王子がまた発作で倒れた。
瘴気に関する対策の要である王子の不調は、共同戦線を張る各国にも不安を与えるから、王子はベースキャンプで極秘で療養することになった。
毎日飲んでいたキノコ大根の汁のお陰か、前の時よりも随分と症状は軽くて、半日ほどで目覚めたけど、玄武のメイさんが来てくれるまで、二日間起き上がることができなかった。
その間ユーシスさんは片時も離れずにお世話して、王子が回復すると、ようやく安心して王宮へ帰って行った。レアリスさんはユーシスさんの穴を埋めるために、代わりに忙しく動いていたようで、王子の無事を確認しがてらユーシスさんを迎えに来たからか、すぐにユーシスさんと行ってしまった。
王子は、一週間は安静するようメイさんに言い渡されて、暇を持て余しているようだ。
私は時々みんながいなくなる夜に、そっとスキルボードの取得スキル画面を開いて見ることが多くなった。
そこには、〝自己犠牲〟というスキル名がある。
最近は、この単語が見られても分からないように、日本語でボードの文字を表示している。有紗ちゃんと綾人君がベースキャンプにいる日は、絶対に開けないようにしていた。
〝自分の全てを犠牲にし、一つだけ願いを叶えることができる〟
このスキルの説明は、もう何度も何度も読んでいる。
今日の人間組は王子しかいなくて、その王子は部屋で仔犬化お父さんとメイさんと一緒に寝ているのを確認してから、リビングでそっとボードを開いて、またその文字を見ていた。
「……ハル。なんだよ、お前、そのスキル……」
不意に背後から声がした。
慌ててボードを消すけど、どうやら見られてしまったようだ。
「なんのこと? ただ明日の朝食を何にしようか迷ってただけだけど」
私が平静を装って言うと、王子が顔を歪めてソファに近付いてくると、座ったままの私の手首を拘束した。
「嘘つくなよ。〝自己犠牲〟ってなんだ。自分を犠牲にして願いを叶えるって何なんだよ」
王子は、書かれていた日本語を理解していた。そういえば王子は、夕奈さんの手記を綾人君から借りて熱心に見ていたから、その時にある程度の日本語を理解してしまったのだろう。王子のスキルに〝記憶〟というのがあるのを知っていたのに、油断していた。
「お前、まさかお前の命を犠牲にして、俺を助けるとか言うんじゃないよな。ふざけんなよ」
王子の紫色の目が怒りでキラキラしている。こんな時に不謹慎だけど、綺麗だな。
「お前は、元の世界に俺が無事に帰してやる。だからお前は、この世界で俺たちを救った分、元の世界で幸せになるんだよ」
ソファの背もたれに手を突いて、私を上から見下ろす王子は、これまで私が見てきた中で一番怒っているかもしれない。
王子の考えは分かっていた。
私にも有紗ちゃんにも、有無を言わせず自分の時間を奪って召喚したことで、ずっと重い罪悪感を抱いていたことを。だから、私たちの幸せは、元の世界にしかないと思っていることも。
「ねえ、王子。どうして王子は、私が元の世界に帰るって決めつけているの?」
私が王子の目を見て尋ねると、王子は明らかに声を詰まらせた。
「……だってお前、帰りたいって……」
「最初はね」
トーンダウンした王子をソファに座らせて、今度は私が王子の正面に膝をつく。
「王子。私、この世界に残ると決めたの」
初めて王子が倒れた日、心に決めたことだ。何があっても、これは覆させない。
「私はこの世界で、王子の傍で生きていきたいの。だから、スキルで自分を犠牲にしたりしない」
そっと王子の指に触れた。私のことは嫌いじゃないと分かってる。でも、この想いが王子の重荷になるんじゃないかと思って、ずっと悩んでた。
でも、言わなきゃ伝わらないよね。
「お前、それって……」
王子の瞳が今度は戸惑いに揺れている。
緊張で喉の奥が痞えそうだけど、私は王子の指先をそっと握って紫色の瞳を見つめた。
「王子のことが好きだよ。傍にいさせて」
一世一代の覚悟をもって伝えた。心臓の音がきっと王子に聞こえちゃうくらいうるさい。
私の言葉に、王子が茫然としながら、のろのろと私の方に手を伸ばしてきた。その指先が、恐る恐るという感じで、私の頬にそっと触れた。
「……夢、なのか?」
「ううん。夢じゃないよ」
王子の手に自分の手を重ね、頬を預けた。すると、王子がビクッと震える。
「だってお前、ユーシスやファルハド殿に。それに、レアリスやイリアスだって……」
レアリスさんとイリアス殿下のことは何のことか分からないけど、ちゃんと二人には王子のことが好きだと伝えた。
そう言ったら、王子がまた顔を歪める。
「こう言っちゃなんだが、普通、ユーシスやファルハド殿の方が女は好きなんじゃ……」
往生際悪く言って、自分が情けなくなったのか語尾が段々と消えていく。
普段、仕事や敵対している人には小憎らしいくらい自信満々なのに、王子はどうしてか自分のことに自信が持てないようだ。そんな様子が少し可愛く思える。
「そうだね。二人とも本当にカッコいいし、包容力があって優しいし、大人で気遣いができるし、王子みたくお姫様抱っこですぐにヘタらないし、酔っぱらって醜態を晒さないし」
「……おい」
私が王子に無い所を指折り数えていくとツッコまれた。とても情けない顔で。
でもね……。
「それでも、王子のことが好きなんだもん。仕方ないじゃない」
素直な気持ちで笑って見せたら、腕をグイッと引っ張られて、気付けば王子の膝の上に乗せられて抱きしめられていた。
「夢なら、覚めないでくれ」
「だから、夢じゃないってば」
肩口に顔を埋めた王子の言葉に私が苦笑して答えると、王子が少し顔を離して私を見つめた。その瞳は、ユーシスさんが私に向けてくれた熱と同じものが宿っていた。
でも、王子の口から直接聞きたい。
「王子は、私のこと好き?」
そう問い掛けると、一瞬目を瞠ってからコツンと額を合わせてきた。
「ああ、好きだ。お前のことが好きだ、ハル」
その言葉がずっと聞きたかった。嬉しさで胸が張り裂けそうで、私も額を擦り寄せた。
そんな幸せの中なのに、王子が突然体を離してしまった。
「ハル、お前、本当に後悔しないか? 帰りたいと言っても、もう離してやれないぞ」
まだ王子は、私が帰れるように選択肢を残そうとしている。もしかしたら、という不安があるようだ。その不安すら愛おしい。
「王子は、私がやっぱりやめた、って言ったら、離しちゃうの?」
私が苦笑しながら聞くと、少し呆けたような真顔になった。
「誰が、離すかよ」
そう誰にともなく呟いて、私に唇を重ねてきた。
少し強く押されるような温かい感触に、心臓が飛び出るほど高鳴ったけど、その感触はすぐに離れてしまった。
その余韻に、王子の吐息が唇に掛かる。ほんの一瞬の感覚だったから名残惜しい。
「もうおしまい?」
思わず尋ねたら、王子がちょっときょとんとしたら、その後険しい顔になって悪態を吐いてきた。
「クソッ! もう知らねぇからな!」
そう言ったと思ったら、今度は噛みつくように、でも性急な感じじゃなくてどこか優しく触れた。
それにたどたどしく応えると、私に教えてくれるかのように、何度も違う方法で口づけをしてくれる。体の芯が溶けそうで、思わず王子の首に腕を回して、体を預けていた。
しばらくお互いに相手に夢中になっていたけど、ちょっとコツンと歯が当たって目を見合わせると、どちらともなく笑ってしまった。
「ハル。俺と一緒に生きてくれるか?」
王子が私を見つめながら聞く。
私は王子に、嬉し泣きのような笑顔になってしまったけど、確かに答えた。
「はい」
その後王子は、私が望むだけ口づけをくれた。
冬至まで、あと十日という日だった。
前書きは、「書き忘れた」のではなく「書けなかった」です。うっかりネタバレしそうで。
ただ、✕(旧Twitter)ではポロッと言っちゃいましたけど。
89万字でようやくここまでたどり着きました。
でもまだ、「こいつがヒーローでいいのか」と疑問が拭い去れない部分もありますが。
ちなみに、紅葉したキノコ大根で尿酸値は解消されて、痛風の危機からは脱しています。
つくづく、異世界(恋愛)のヒーローやれて良かったな、王子。