14 心はいつまでも少年のままです
投稿間に合いました。
引き続き温いアウトドア生活です。
ちょっと早めの夕飯は、ガッツリ日本食だったから男性3人のお口に合うか心配だったけど、そんな心配は無用だったみたい。
結構大盛だったけど、ユーシスさんとレアリスさんは2杯、王子に至っては3杯食べてたからね。
まあ、王子は例のごとく「まあまあだな」と言ってたけど。素直じゃないね。
ご飯を食べ終わると、お父さんはいつものごとく帰って行った。そう言えば、お父さんは一度もここで泊まっていったことないな。
泊まる、と言えば、突然気付いたけど、辺りも暗くなってきたし、王子たち、今日はこの後どうするんだろう。このまま森を歩くのは危険だよね。さすがに王子たちを帰らせる訳にいかない。
「皆さん、今日はここに泊まっていかれるのでしょう?」
「あ、……まあ、そうだな」
帰ることをすっかり忘れてたっぽい。なんか王子が、「やべぇ」みたいな顔してる。
「私は、不寝番をします」
何となく泊まることを想定していたらしいユーシスさんが護衛を申し出るけど、ガルが「俺らがいるのに必要ねぇから。寝ていいぞ」と言ったので、ユーシスさんは感動してガシガシとガルを撫でていた。
うちの子たちがいれば、見張りを立てる必要ないからね。本当にみんなに感謝だね。
というわけで、全員が一緒に就寝できることになったけど、一つ問題があった。
「皆さん、一緒にログハウスでいいですか?」
そう、寝る場所だ。ログハウスはワンルームなんで、みんなでお布団敷いて雑魚寝になる。
そう言うと、男性3人は、私を凄い目で見てきた。
「いけない、ハル。一緒になど、そんな軽々しく言っては」
いち早くユーシスさんが、ガシッと肩に手を置いて私に言う。レアリスさんも頷いている。
王子は、ん?舌打ちした?
「あ、そっか。王族って、雑魚寝とか失礼……」
「いや、全然大丈夫だ。むしろ雑魚寝でいい!」
「……う、うん」
なんか王子が被せ気味で言ってきた。私はちょっと引き気味で返事する。
でも、王子って本当に気さくだよね。
「良かった。男性3人だとちょっと狭いけど、温かいお布団用意するから」
「ん?……お前は?」
「え?私は外でテント張って、ガル達と寝るけど?」
「何でだよ!」
なんかめっちゃ怒られた。ユーシスさんとレアリスさんもなんかため息ついてる。
「え、だって、狭くて私とこの子たちまで入れないし、テントって結構あったかいから、この子たちいれば全然大丈夫だよ」
「女を外に寝かせて、俺らが家の中で寝られるか!」
おっと、すごいフェミニストだ。でもそれを言ったら、王族外に寝かす方がどうかと。
私は良識的に提案したつもりだけど、王子は名案とばかりに手を打った。
「よし、折衷案だ!俺とお前と魔獣たちをログハウスに、その他を外に寝か……痛い痛い!」
「……殿下、冗談はそのくらいに」
王子の背後から、優し気な声なのに何故か寒気のするユーシスさんの声が聞こえた。王子がその直前に急に痛がりだしたのでよく見ると、王子の両肩をユーシスさんとレアリスさんが掴んでいた。王子の服がすごい皺よってたから、多分結構力入ってたんじゃないかな、二人とも。
王子が私から随分離れた所に、ズルズルと二人に連れて行かれた。どこに誰が寝るか、決まったら教えてくれるかな。
で、すぐ話し合いが終わったっぽい。
「できれば、その『テント』というのを見せてほしい」
ユーシスさんがもっともな事を言う。確かにそうだよね、見たことないだろうし。
こっちだと天幕っていうのかな。
私は、一度テンションが上がって、ガルとキャンプごっこをした時に交換した、2人用の簡単組み立てテントを披露した。ピョンってするとポンと組み立てられるやつ。
ここから男性3人のテンションがうなぎ上りだった。クールに見えて、レアリスさんもすごい食いつきだよ。
まだ本格的に寝る訳じゃないのでペグは打たないけど、中にキャンプ用のエアベッドを敷いて、ダウン素材のシュラフを出した。
空気は、ピコピコハンマーみたいな踏む空気入れで注入。
交替で一生懸命にピコハンを踏む3人の姿が微笑ましい。
試しにユーシスさんがシュラフに入ってみると、私の210センチのシュラフはちょっと縦寸が窮屈そうなので、ユーシスさんとレアリスさんには上のサイズが必要っぽい。
王子は、まあ細身だし、私ので大丈夫だろう。
あとは、LEDのミニランタンと枕を渡すと、3人は満場一致でテントで寝ることになった。1人1個ずつテント必要だよね。2人用とは言っても、みんな日本人の規格じゃないからなぁ。
という訳で、私はいつもどおりログハウスで就寝だ。
しばらく、渡したキャンプ用品を囲んで、ああでもないこうでもないと議論している3人を眺めていた。
レアリスさんは、王子とは違う派閥の人だったし、ここに来た経緯が経緯だったけど、どうやらいがみ合って孤立するような感じではなかった。
なんか、結局3人とも似たような少年の心を持った人たちで、気は合うみたいだ。
しっかり者の長男のユーシスさんと、無口な次男のレアリスさん、やんちゃな末っ子の王子と3兄弟みたいな感じで、私はこの雰囲気が好きだなぁと思った。
うん、まだ話し合いは続きそうだね。さて、私はお風呂の支度をするかな。
お風呂はログハウスを交換したすぐ後に、ユニットバスを交換した。簡易浴槽だと、野晒しですぐにお湯が冷めちゃうのもあるけど、石鹸を含んだ水を流すのは環境に良くないと思って、交換できるものからいろいろ探してみたら、あったんだ。
なんと!ユニットバスに、脱衣所と洗面台を備えた夢の設備。
あと忘れちゃいけないのはトイレ。勿論、水洗。
大容量の貯水タンクと給湯器で給水し、浄化槽付きの排水設備完備。お水はハティちゃんが、一日一回給水してくれて、ガルがお湯にしてくれるから、ほぼ電気要らず。
お値段しめてなんと300万P。このくらいの贅沢は許してほしい。
そしてそれを成し得たのは、施工業者いらずの神スキル。自分で言っちゃうけどね。
お風呂は、洗い場でワンちゃんを洗えるから、あまり湯船に抜け毛が出なくていい。ちなみに、スコルとハティは湯船が好きだけど、ガルは洗うだけで逃げてしまう。
で、それを備え付けたのが、ログハウスの前に寝泊まりしていたあの小屋だ。水回りがシンデレラフィットした。入り口が一つしかなかったから、トイレのドアだけは頑張って壁板をのこぎりで切って、後はポイント交換で付けたよ。
「ホント、お前、むちゃくちゃだな」
話し合いを終えた王子たちを水回りに案内して、使い方を説明したら、いつぞやのガルみたいなことをいいなさった。心外だ。
取りあえず、ここまで不眠不休に近い状態で働いていた王子たちに、お風呂に入ってゆっくり休むように伝えた。特にレアリスさんは、ポーションで治ったとはいえ、ずっと理不尽な目に遭っていたのだから、自分を労わってほしいと思った。
一番風呂には王子が入った。出てきた時に髪が濡れていたので、ドライヤーの使い方を教えるのを忘れてたのに気付いた。
「いまいち分からない。お前がやってくれ」
まあ、こっちの世界にしたら電化製品なんてオーパーツもいいところだもんね。今日は特別にサービスだ。
立ってると手が届かないから、洗面台の前に椅子を置いて座らせて、後ろからドライヤーで王子の髪を乾かした。ツヤツヤの白髪は、見た目に違わずサラサラして気持ちいい。
他の二人に比べて少し長めだけど、私よりはずっと短いので、それほど時間が掛からずに乾いた。美容室でもそうだけど、頭って他人にやってもらうと気持ちいよね。
王子も少しうとうとしている。
王宮にいた時もずっと忙しくしていたから、今日くらいは寛いでほしいね。
「王子は若いのに、苦労してるから白髪なのかなぁ」
思わずポロッと言った言葉に、王子の閉じていた目がカッと開いた。
「お前、言っておくが、俺のこの髪は銀髪だぞ。魔力が強い人間に稀に出る色だ。人を年寄りみたいに言いやがって」
……知らなかった。若白髪じゃなかった。
「え?……ごめん。でもとっても綺麗だよ」
気まずくなって褒めると、急に立ち上がってクルッと私の方を向くと、何か壁際に追い込まれた。それで、私の一房だけ短くなった髪を指で掬われる。
「お前の髪だって、綺麗だろ」
……空耳かな。
私の髪は、北条さんほどじゃないけど、あまり黒くない。レアリスさんの方が黒いくらい。
この世界でも珍しくないし、中途半端な色なんだけど。
「それに、いい匂いだ」
どどどど、どうしちゃったの、王子⁉
同じシャンプー使ってるから、今、王子も同じ匂いですけど?
王子の紫色の目が、お風呂の熱のせいか少し潤んで見える。それが、少し近付いた。
探しに来てくれた時もそうだったけど、今日はみんな距離感が近い。
ポカンと口開けて、綺麗な王子の顔を見上げてしまった。
ゴンゴン!
少し乱暴にドアがノックされた。
「殿下、随分長いようですが、大丈夫でしょうか」
ユーシスさんの声だ。その声にハッと我に返る。
「はぁい、終わりました」
私が返事をしてドアを開けると、いい笑顔のユーシスさんが立っていた。後ろにいる王子の方から、チッという舌打ちの音が聞こえた。なんで不機嫌になった?
「殿下、申し訳ありませんが、後がつかえますので」
「悪かったよ」
と、そんな訳で、続いてユーシスさんがお風呂にイン。
同じようにユーシスさんにもドライヤーサービスを提供。この流れだから、レアリスさんだけやらない訳にいかない。
結果は、ユーシスさんの髪は柔らかくて、レアリスさんの髪は硬質だということが分かった。
誰得情報だろう。
とりあえず、お風呂を出た3人は、焚火を囲んでまた話し合いをするそうで、私は湯冷めしないように温かい毛布と、ちょっと度数の高いお酒とおつまみを差し入れた。
おつまみは、子供たちも喜んで食べるビーフジャーキーだ。
「よぉし、みんなお風呂入ろう」
『『はぁい』』
いいお返事のスコルとハティ。ガルは耳が下がって項垂れてる。
「待て。マーナガルム、お前も一緒なのか?お前、オスだろう」
『……子供の魔獣に嫉妬するなよ、情けないな』
「む……。何も言い返せん」
私の後を項垂れながらついて来るガルを捕まえて、王子が何か言ってる。
「ガル、行かないの?」
『ああ、俺はちょっとこいつと話をする。風呂は休みだ』
何か嬉しそうにガルが言う。昨日もお風呂に入ったし、まだ汚れてないからいいけど、ガルは本当にお風呂苦手だよね。
楽しいお風呂タイムを終えると、ハティがドライヤーの途中でうとうとし始めた。
午後に王子と遊んでいたからかな?
私は、よいしょ、とハティを抱っこする。ハティは軽い方だから助かるよ。
外に出ると、ガルは王子の膝の上にいた。目が合うと、ガルは気まずそうに王子のお膝からピョンと下りた。……話し合いって言ってなかったっけ?
それを見て、スコルはユーシスさんの所に走っていった。昼間の抱っこが気に入ったのかな。
こちらは見つめ合ってニコリと笑う。蜜月だ。
「二人とも、今日は王子とユーシスさんのところにお泊りする?」
『うん!』
『……まあ、もうちょっと話があるしな』
という訳で、今日は私とハティの二人だ。念のため、ハティにお泊りするか聞いてみる。もちろんレアリスさんのテントは除外だよ。
「ハティは、どうする?王子かユーシスさんのところにお泊りする?」
私が尋ねると、ハティは寝ぼけて私の胸の辺りに上着の隙間から鼻先を潜り込ませた。
『ううん、ハティはハルと寝る。ハルのお胸、柔らかくて気持ちいい』
え、ちょっ、くすぐったい!っていうか、そこはっ!
「ひゃん!」
変な声が出てしまい、ハッとして私がみんなの方を向くと、王子は口を手で覆って明後日の方を向き、ユーシスさんは目を閉じて腕を組みながら空を見上げ、レアリスさんは左手を腰に右手を額に当てて俯いている。
……聞こえてたよね。
私は居たたまれなくなって、みんなに背中を向けて一目散に逃げた。
「お、おやすみなさい!」
逆セクハラで訴えられても文句は言えないと、泣きそうな心地で布団に入った。眠れなかったらどうしよう。
そう悩んでいたのに、ハティのすぴーっという寝息を聞いていたら、いつの間にか眠っていたよ。
翌朝、目を覚ますと、みんなも起きてきた。
それぞれ、何事も無かったかのように挨拶をする。大人のスルー力って大切ね。
そうして身繕いも終わって朝食の準備に取り掛かる頃、お父さんがいつものごとく颯爽とやって来た。
『ハル、昨日は良く眠れたか?』
「ははは、お陰さまで」
お父さん、もしかして聞いたのかと疑いたくなる。
『今日も土産を持って来たぞ』
「……わ、わぁ、な、なにかなぁ」
朝からあまり良い予感がしなかった。上機嫌なお父さんってロクなことが無い、という短期間に培った法則がある。
私が冷や汗をかいていると、お父さんがポトッと何かを落とした。デジャヴ。
果たしてそれは、手のひらほどの大きさの白い円錐状……。
「ぎゃーーーーーー!」
そう、それは、恐怖のあの素材だ。
「ななななななんでー⁉」
『ククク、牙が何故1本だと思った?』
ですよね!犬歯って確かに1本じゃないですね!
『さあ、これで心置きなく魔剣を交換できよう!』
……ここにも、心が少年のままの大人がいたね。
言うまでもなく、お父さんの牙は、私の収納に封印された。
『何故だ。何故駄目なのだ!』
駄々をこねるお父さんに、私は断固たる態度を貫く。
「交換は、絶対に、しません」
こうして、不必要な伝説は製造されず、世の平和は保たれたのだった。
お父さんは、どうしても魔剣が生で見たかったようです。
我慢できるといいですね。
ここで御礼を。
皆さまに応援していただき、3月5日の異世界転生・転移(恋愛)部門で日間5位にランクインしました。
ヒャッハー!と叫びたい衝動でいっぱいです。
このようなテイストでよろしければ、引き続き閲覧いただけると嬉しいです。