138 魔王降臨
主人公にいろいろな危機がある……ようなないような
フレイさんとウルズさんの見送りを受けて、私たちはユグドラシルを後にした。
でも、なんでフレイさんはあそこにいたのか不思議だったから聞いてみたけど、「神様の勘?」って言われた。どうしてかフレイさんの言っていることは、おどけているのに無視できない感じがした。そうしたら「お嫁さんになってくれたら教えてあげる」と言われて、すぐにファルハドさんにお父さんに乗せられ、お父さんが後ろ脚でフレイさんに土を掛けて飛び去ってしまったので、ちゃんとした答えを聞けなかったけど。
帰りもまた、一晩休んでから戻った。今度はちゃんと半分の距離になるように配分して、アルテとルミリンナの間の森が拓けた場所で一休み。その代わり、前よりも朝早く出て、少しでも早くユーシスさんに『聖水』を届けることにした。
その晩の野営で、私は意を決して私の胸の内をファルハドさんに伝えた。いつまでも、ファルハドさんの好意を宙ぶらりんにしておけなかったから。
人や魔獣たち、その他たくさんの大切なものができて、この世界に残ろうと思ったこと。
ユーシスさんとのこと。そして王子のこと。
ファルハドさんには、感謝してもしきれないほど感謝している。
セリカ行きの荒野で、初めて打ち明けた私のスキルの秘密を、国の損得抜きで守ってくれようとしたことも、私が望むなら添い遂げると言ってくれたことも全部。
話し終えると、ファルハドさんがスッと手を伸ばしてきたので、びっくりして目を大きくしていると、ピンと柔らかく鼻の頭を指で弾かれた。
「あんたが少しでも揺れる素振りを見せていたなら、俺が攫ってしまおうと思ってたんだがなぁ」
残念だ、と言って屈託なく笑ったファルハドさんに、私は救われる思いがした。
ファルハドさんの笑顔は、私に気まずい思いをさせないためのものだと分かったから。
ユーシスさんといいファルハドさんといい、本当に「私でいいの?」と不思議に思うくらい素敵な人で、罰が当たりそうだ。
ふわふわと優しい雰囲気のまま、夕食は私の故郷の味が食べたいと言われた。「納豆以外な」という言葉に思わず笑ってしまったけど、思いつくのってお母さんが作ってくれた料理が多いから、何がいいか聞いてみた。そしたら、お豆腐のお味噌汁と肉じゃがとポテトサラダを食べてみたいとのことだ。
ファルハドさんは、ユーシスさんやレアリスさんのように慣れてはいないけど、結構器用でスルスルとジャガイモの皮むきをしてくれた。ちょっと皮は厚めだったけどね。
それを見たお父さんは、普段は味見専門だけど、なんか張り切って皮むきをやりたいと言い出した。
絶対何かやると思ったけど、お手伝いの意思を尊重したら、案の定風の魔法で跡形もなく玉ねぎを切り刻み、ついでに風下で玉ねぎのエキスに目と鼻を攻撃され、盛大なくしゃみをした瞬間に出た風魔法で、前にあった木をなぎ倒していた。
私はお説教をしてお父さんはリタイアさせると、王宮からもらった私の外套に顔を埋めてシュンとしていた。多分、多少は反省したと思われる。
そうして夕食の匂いが辺りに漂い始めると、私は、何者かの視線に晒されていることに気付いた。私が気付いているなら、お父さんもファルハドさんももちろん気付いている。
『チッ、ここはヤツ等の縄張りだったか。無視しろ』
「ここにもいたのか。ハル、関わり合いになるな」
と、二人から忠告されるけど、私は好奇心に負けて視線を向けると、ナニかと目が合った。
『イイ匂イダ。ソレヲ寄越セ、〝らっぷ〟ノ娘。ソレト、ソコノ男ヲ婿ニクレ』
「…………お久しぶりです」
そこにいたのは、以前スニーカーと調理用ラップと乾電池で〝賢者の石〟をくれたノームたちだった。そうか。ここは王子と来た泉の近くなのか。
ここのノームたちとファルハドさんは初めましてだけど、相変わらずファルハドさんはノームに婿にされそうになっているので、こっちのノームたちにもスクイーズをあげて諦めてもらった。
やっぱりこっちのノームたちもスクイーズを凄く気に入って、今度は何かお酒をくれたよ。
怖いから鑑定に入れたけど、〝ノームの火酒(状態:熟成)一升一万P取得〟となっていた。ちょっといいお酒だけのようで良かった。
そんな感じで、夕食はノームたちも加わって思いのほか賑やかになった。
火酒は結構強かったけど飲み口が良くてコップで飲んでいたら、ノームたちが「アレダケ飲ンデ倒レナイ生キ物ガイルトハ!」と恐れおののいていた。何で?
不審に思って問い詰めたら、私たちを強いお酒で酔わせて前後不覚にしたあとに、ご飯を全部強奪しようとしていたようだ。相変わらずの強盗気質だ。
ハッと気付いて周りを見回したら、同じように飲んでいたファルハドさんが、お父さんに寄り掛かって、てろ~んとなって寝ている。
火酒の鑑定をよく見たら、アルコール度数が九十くらいあった。
怒って「お酒は危ないから悪用しては駄目」と説教すると、四十匹くらいで土下座するノームたちが「スマナカッタ」と震えながら言って、ファルハドさんの掌くらいの金にもプラチナにも見える金属を、「詫ビダ」と言って、ヨイショヨイショと運んで渡してきた。すると素早く、「屑石ダガナ!」と捨て台詞を吐いてワラワラと逃げ散って行く。
私とお父さんは呆れながらそれを見送ったけど、そういえば前も屑石と言ってくれたものは危ないアイテムだったのを思い出し、私は恐る恐る鑑定してみた。
〝オリハルコン(状態:最良) 百グラム五お……「わあああ!」〟
鑑定の途中で、あまりの恐ろしさに悲鳴を上げて鑑定を切った。
『とりあず、貰っておけ』
「……うん。また、思わぬ所で役に立つかもしれないしね」
今度時間があったらノームたちに、人間とノームたちの価値観の差を教えてあげよう。
じゃないと、悪い人に見つかったらノームたちが危ないからね。
そんなこんなで、寝る前にアルコール中毒にならないようファルハドさんに解毒ポーションを飲ませることにした。
お父さんに寄り掛からせたまま仰向けにして口を開けようとしたら、少し目が覚めたのかとろ~んとした顔で私を見つめた。
そして、口を開けさせようとしていた態勢を何かと勘違いしたのか、「俺を選んでくれたのか。嬉しい」と言って笑ってグイと私を引き寄せると、私に顔を近づけながら艶めかしく少し口を開いた。
焚火に照らされて煌めく瞳から、目が、離せない……。
「ハッ! ご、ごめんなさい、ファルハドさん!」
そこに私はすかさずポーションの瓶を突っ込む。ムグッと変な声がしたけど、中身を飲み込ませると、ふら~っとまた倒れて寝てしまった。
危なかった。色気ムンムンのファルハドさんは、本当に危なかった。酔ってポロリと出たファルハドさんの言葉に、罪悪感と大人の雰囲気で、危うく防御を忘れるところだった。
その後は、ちょっと離れた場所にファルハドさんを置いて、昨日の夜と同じくお父さんのお腹を枕に就寝した。心臓のドキドキが収まるまで、結構時間が掛かりました。
何回も寝返りを打つ私を、お父さんがふさふさのしっぽで撫でる。
『人間は、複雑で難儀な生き物だな。これまで我欲の強い人間を多く見てきたが、そなたの周りにいる人間は、良き人間が多い。この男も、な。ハルよ。そなたが、そなたの選択を悔いれば、そうさせたことをこの者も後悔するだろう。だからそなたは、そういった人間の心を尊重すればいい。それが周りに報いることになろう』
基本は危険がない限り、人間の感情のあれこれに触れないお父さんが珍しく、私とファルハドさんのやり取りに口を出した。でもそれは、永い時を生きてきた重みがあるものだった。
……本当にお父さん? なんかカッコいい。
『要は、忘れてやれ、ということだ。多分、あの酒精なら記憶に残らん。良かったではないか。覚えていれば、私が記憶を消してやる。ワハハハハハ』
「……やめて。それやったら、ファルハドさん無事じゃすまないから」
ちょっと感動してしまったけど、結局お父さんは通常運転だった。でも、その言葉にちょっと安心する自分がいる。
それから、すぐ眠りに就くことができた。
朝起きると、スッキリした顔で朝の鍛錬をしているファルハドさんがいた。
「酒に酔って寝てしまったようで悪かったな。ノームに酒を勧められた後は覚えてなくてすまないが、ノームたちの相手は大変だったろう」
「……ノームたちは、大丈夫でした」
私の言葉に、ファルハドさんは小首を傾げた。お父さんの予言どおり、ファルハドさんが何も覚えてないようだ。
いろいろ考えたけど、結局「ありがとうございました」とお礼を言った。何のことか分からないという風のファルハドさんだったけど、最後はやっぱりニカッと笑ってくれた。
そうして、前向きな気持ちとちょっぴり感傷的な気持ちで、帰路は進んだ。
王城の中庭に着いて、ファルハドさんの手を借りてお父さんから降りていると、みんなが出迎えてくれた。その中でも王子はあまり良くない顔色をしていたから、多分、この三日間はあまり眠っていないのかもしれない。
そんな王子に私は笑って見せた。笑顔って、力になるからね。
「あったよ、『聖水』。ちゃんと持ってきたからね」
「……ハル……」
感極まったのか、王子がみんなの前で私をギュッと抱きしめたので慌てたけど、「本当に、よくやってくれた」と絞り出すように言うものだから、私は王子の強張った背中をトントンと叩く。
良く見ると、王子の服にしわが寄っていたから、きっと昨夜は寝ないでユーシスさんの傍にいたんだろうな。
体から力が抜けると、「行こう」と言って、王子は少し急かすように私の手を取って歩き出した。急いではいるけど、私に合わせた歩調が何となく嬉しい。
後からファルハドさんも、仔犬化してお母さまに抱っこされたお父さんもついてくる。
ユーシスさんの部屋に着くと、何故かキノコ大根が一匹、床を走り回っていた。
「あ、お帰り、波瑠!」
綾人君が私たちに気付いてこっちを振り返るけど、私たちはその光景に立ち止まった。
ベッドヘッドのクッションに凭れるようにして座って顔を背けるユーシスさんの口元に、綾人君が持っているキノコ大根の一匹を生で押し付けているところだった。キノコ大根は「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」と恍惚の表情でいるけど、ユーシスさんは断固たる態度で目を瞑って口を引き結んでいた。
そして、床を走り回るキノコ大根の先には、チョコレートを持つレアリスさんが待機している。どうやら床を走り回っていたキノコ大根は、チョコドーピング中だったようだ。他の二匹は、ナイトテーブルの上で植木鉢に入って待機している。
「ハル! よく戻ってくれた!」
普段礼儀正しいユーシスさんが、キノコ大根が口に入らないように、綾人君を押しのけてから口を開いた。凄い喜びようだったけど、多分、私が「聖水」を持ち帰ってきたかもしれないという期待感より、キノコ大根を遠ざける理由ができたことが嬉しそうだ。
「……お前ら、いつの間に……」
王子も呆れて言う所を見ると、どうやらレアリスさんと綾人君は、みんなが私たちをお迎えに来ている間にこの部屋に忍び込み、キノコ大根たちと共謀してユーシスさんを襲ったようだ。
「だってさ、ユーシスは『マンドラゴラより石化の痛みを選ぶ』とか言って、必要最低限の花しか食べないんだもん」
綾人君がぶーぶー文句を言いながらユーシスさんの強情を訴えると、ハァハァ言っているキノコ大根を捕まえたレアリスさんが頷いて、その一匹をユーシスさんの肩に乗せた。直接キノコ大根の荒い息が耳に掛かるらしく、素早くユーシスさんがそのキノコ大根を下ろして、上からそっとナイトテーブルにあったタオルで蓋をする。
「西戍王殿下も、ご無事のお戻り何よりです。そして、私のために御尽力いただき御礼申し上げます」
タオルの下でもぞもぞと動くキノコ大根をいないもののように扱って、ユーシスさんは恭しくファルハドさんに言う。そういえば、ファルハドさんって偉くなって、西戍王という名前になったんだった。
「ユーシス。ハルが『聖水』を持ってきてくれたんだ」
王子もキノコ大根の存在を無視して、私たちの成果をユーシスさんに告げる。それを聞いたユーシスさんは、最初大きく目を開いて「まさか、本当に?」と信じられないかのように呟いたけど、そのまま優しい微笑みを全開にした。
「ありがとう、ハル」
その眩しい笑顔に、私とファルハドさんは目が眩むのと同時に、罪悪感で思わず目を見合わせてしまった。
さっき、綾人君が「石化を選ぶ」とか言っていたのを聞いていて、果たしてこのまま「聖水」を何も言わずにユーシスさんに飲ませていいものか、と……。
そんな私たちの一瞬の戸惑いを、目敏いユーシスさんが見逃すはずもなく、その優しい微笑みが、笑顔そのままで何か恐ろしいものに変わった。
「念のため伺いますが、その『聖水』は、いったい何からできているのですか?」
す、鋭い。聖水の成分に問題があることを一瞬で見抜かれてしまった。私とファルハドさんは、更に何も言えなくなっていた。
「もう一度お尋ねします。な・に・が、入った『聖水』なのですか?」
いつもはゴリラ神が降臨するけれども、本日は魔王が降臨なされた。
豪胆なファルハドさんでさえ、咄嗟にユーシスさんに返す言葉もなくなった。
『それはだな、ウルズの泉の水と、そこのマンドラゴラの分泌物入りの寝床の土だな。あとチョコの食べかけも入っていたぞ』
「お、お父さん!?」「フェンリル!」
サラッと、お母さまに抱っこされたお父さんが、その正体をバラしてしまった。
「……マンドラゴラの、土? 食べかけ入り……」
「いや、アレだ、フォルセリア卿! 傷付いた世界樹をも癒すほどの確かな効果があるのをこの目で確認した! 俺が効果は保証する!」
「効果『は』?」
「そ、そう、アレです! 元がアレでも、私のスキルでアレしたので、アレが沁み出していたとしても、大丈夫です!」
「沁み出していた?」
『ついでに泉の水では、蛇たちが泳いでいたな』
「お父さん!?」「フェンリル!?」
「蛇たち?」
私たちが何か言うごとに、ユーシスさんの声と笑みが深くなっていく。
「フェンリルが教えてくれなければ、隠そうとしていたのかな?」
「「……はい。そのとおりです」」
ユーシスさんの優しい問いかけに、私とファルハドさんは自首した。あわよくば隠蔽しようとしていたのは、まぎれもない事実だから。
「すまない、フォルセリア卿! 俺の不手際のせいで呪いを受けたのに、卿にバレなければいいと思っていた! 許してくれ!」
「西戍王殿下。むやみに頭を下げてはなりません」
正直に言っちゃって、土下座しそうな勢いのファルハドさんに、ユーシスさんが苦笑して言い聞かせた。
「冗談です。ハルと西戍王殿下が危険を冒して手に入れてくださったものを、何故私が怒ることがありましょうか」
「……本気だったよな」
ユーシスさんが優しく言うのに、王子がボソッと呟いた。私もそう思った。
「いや、危険は全くなかったんだ。ノームに酒を飲まされて記憶がなくって、ハルに介抱してもらったくらいだったから、逆に申し訳なさでいっぱいだ」
また正直に言っちゃうファルハドさんだったけど、私も本当にそう思う。
なんか、オリハルコンとかいうのを貰っちゃったくらいだし、事件と言えば、ファルハドさんが甘かったくらい……と、思い出してしまった。
私は、恥ずかしさに発狂する前に、素早く「聖水」が入った水タンクを取り出してファルハドさんに持ってもらうと、蛇口を捻ってコップ一杯を注いだ。
それをユーシスさんに渡すと、何故かジッと私を見た後、一気にその水を飲みほした。
ユーシスさんの喉仏が動いて、飲み込んだのを見届けると、王子が寝具を剥がして、石化したユーシスさんの足を見た。ユーシスさんの足先は完全に灰色の石になっていて、今は寝衣のズボンで見えないけど腿までがその状態らしい。最初の計算だとあと数時間で完全に石化していたはずだから、キノコ大根の花の効果は絶大だったようだ。
思わず、タオルから抜け出してきたキノコ大根の頭(?)を撫でる。いい子。
私たちが見守る中、ユーシスさんが少し顔を顰めたのであたふたしそうになったけど、王子が止めて顎で指し示したのでよく見ると、ユーシスさんの足は上の方からどんどん元の肌色に戻ってきた。そして、三呼吸するくらいの間で、すっかり元通りになった。
「……もどった……本当に?」
「ああ、君のおかげだ。ありがとう、ハル」
ユーシスさんを見ると、本当にもうどこにも痛みも後遺症も無いようだった。
実際に、ユーシスさんはベッドを降りて、私とファルハドさんの前に騎士の礼で跪いた。
「心よりの謝意を述べさせていただきます」
私とファルハドさんに深く頭を下げた後、今度は王子に膝を突いた。
「ご心配をお掛けしました、殿下」
「今度、勝手に死にかけたら、絶対に許さないからな。王族の命だ。違えるなよ」
「仰せのままに」
胸に手を当てて王子を仰ぎ見るユーシスさんは、寝衣でもどこか神々しかった。
それに王子は応えるように手を差し出すと、ユーシスさんの手を掴んで立ち上がらせた。その光景が、あまりにも嬉しくて、いつの間にか視界が歪んでいた。
「うえーん。よ゙がっだ。ユ゙ージズざん。お゙い゙わ゙い゙じばじょー」
「うわっ、お前、顔ヤバいぞ」
私がしゃくり上げながら言うと、王子がドン引きした顔で言った。今はほっといて!
「焼き鳥に豚キムチに麻婆茄子にピザに唐揚げ。ビールに合うのいっぱい作ります」
「よぉし、やるぞ、宴会だ!」
涙ながらの私の宣言に、何故かユーシスさんよりも王子が人一倍乗り気だった。その後に、みんなの「おー!」という声が続く。なんだかんだ言って、全員乗り気だった。
そんなこんなで、私たちは場所を移動することにして、ユーシスさんだけ着替えのために部屋に残った。
王子を先頭に、みんながゾロゾロと部屋を出るなか、ファルハドさんが話しかけてきた。
「本当に良かったな、ハル」
「はい」
ファルハドさんが私に笑いかけてきたので、私も笑顔を返した。
すると、ファルハドさんのハンカチが出てきて、私の涙 (と若干他のもの)を拭いてくれた。
私が恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じていると、ポンポンと頭に手を乗せてから部屋を出る。
こんなの、心臓が持たない!
殿だった私が、ドキドキしながらちょっと遅れて部屋を出ようとした時、フッと後ろから腕が伸びてきてドアが閉まり、私だけが部屋に取り残される。
いや、扉を閉めた張本人のユーシスさんもいる。背後に。
「ハル。俺は、オーレリアン殿下とのことは君の心のままに、と言ったけど」
耳のすぐ傍で声が聞こえる。
「ファルハド殿とのことは、許してないよ」
「ひっ!」
ユーシスさんの声は、最高に低かった。
魔王再臨。
果たして私は、無事にお祝い料理を作れるのでしょうか。
復活しました、ゴリ改め魔王。
あれだけ懐かれているので、キノコ大根のことが可愛く思えてきているようですが、勇者とバリスタにはちょっとイラっとしたようです。
いくら可愛くても、口に含むのはアレなので、魔王降臨となったとさ。
せっかくファルハドとのことが決着したのに、話が進まないので、次は変な生き物の登場はできるだけ抑えられるといいな。無理かな?