133 ……夢、だよね
また、一周空いてしまい反省しております。
今回のテーマソングは、かに道楽のテーマです。
裏サブタイトルは「フラグ」です。
3/4 伊勢海老をロブスターに変更しました。
伊勢海老じゃあ挟めなかった……。
あとついでに忘れたことちょっとだけ足しました。
綾人君は、夕奈さんの画像を全部見終わるまで、私の手を握っていた。
そして、最後の写真が見終わると、グイッとまた袖で顔を拭った。
「よし。もう大丈夫!」
「うん」
顔を上げた綾人君は、ニカッと笑った。私もつられて笑う。
本当に強い人だな。
「何か美味しいもの食べよう。何がいい?」
「カニ!」
「了解です」
さっき獲ったのがあったね。でも一匹だから、綾人君だけの特権だね。塩ゆでにして、カニスプーンとキッチンバサミも出してあげよう。あとは、カニチャーハンでいいかな?
かに玉も食べたいと言い出した綾人君の、まだ少し濡れている頬に気付いて、「ちょっとごめん」と断ってからタオルハンカチでそれを拭いてあげた。私もいろいろとファルハドさんを見習って、ちゃんとハンカチを持つようになったよ。
柔らかいハンカチが気持ちいいのか、綾人君がハンカチを持った私の手を握って、顔を預けてくる。猫化した時の王子みたい。もっと拭いてほしいのかな。
「はぁ。王子がヤなヤツだったら遠慮しないのになぁ」
「王子がなぁに?」
「ううん、独り言。チャーハン、王子に取られないようにしないとって」
「あはは。王子たくさん食べるからね。でも大丈夫、いっぱい作るから」
「うん。波瑠、好き」
「ふふ。ありがとう」
そんな他愛もない会話をしながら、みんなの所へ戻った。
砂浜ではみんながワイワイとしていて、お父さんの電撃でぷかぷか浮いた海産物を、スコルと白虎さんが風の魔法で引き寄せてくれていた。どうやら気絶しているだけみたいなので、必要な分だけ獲ってもらう。あとは放っておけば、そのうち生き返るようだ。
獲れ高は、綾人君ご所望のカニの他、ウニと、あとなんかサーモンっぽいのもあった。
「これって、聖女の呪文……」
「有紗ちゃん、言わないで」
前の転移の呪文が私たちの脳裏を横切る。
有紗ちゃんは夕奈さんの画像を見てないけど、私はあの夕奈さんの笑顔のイメージを大切にしたいと思った。
せっかく獲れた魚介類なので、一度私の収納に入れると可食部分が分かるので、鑑定してみたら生食OKってなってた。こういう時のスキルさんって、本当に助かるね。
みんなには、美味しい魚介類のご飯を食べるためにご協力願う。
カニ班とウニ班、魚班に分かれてもらって作業開始!
誰でもできるカニ班は寸胴鍋で茹でて、殻を取ってもらって、身をほぐしておいてもらう。
ウニ班は、ちょっと器用な人に集まってもらい、動画を見せて、ハサミとスプーンで殻を剥いてもらった。ウニは結構みんなが拒否感を示したけど、炊き込みご飯とかウニのパスタとか美味しいんだよ、と説明したら、かなり乗り気になっていたよ。
そして魚班は、もっとも器用な人たちに動画を見せ、三枚におろしてもらう。サーモンもあったけど、幸いにしてイクラはなかった。
ここで、誰が何班になったかは、本人たちの名誉のため割愛する。「王族にカニの殻を剥かせるとはいい度胸だ」というクレームがあったけど、誰とは言わない。
私とユーシスさんと、あと意外だけど、セリカの双子のメイシンさんとメイリンさんが器用みたいで、チャーハンとかに玉の鍋振りを担当した。
フライングで二人のチャーハンをつまみ食いしたファルハドさんが、「こんなに料理が上手かったのか。セラに帰ってもまた俺に作ってくれよ」と双子に言ったら、「お金取ります」「泣きが入るくらい」と言われ、満面の笑みで「ああ、楽しみだ」と二人の頭をポンポンした。
これ、普通の女の子にやったら、誤解されて大変なヤツだ。スイランさんが、剥き終わったウニの殻をファルハドさんに投げつけて、ファルハドさんが間一髪避けていたけど。
その横では、目を覚ましたロブスター(?)を持った綾人君が、何故かその大きなハサミを王子の鼻に向けていた。
カニの殻剥きをしていた王子は、キシキシ言うロブスター(?)に不穏な空気を感じて後退っている。「ほんのちょっと、先っぽだけでいいから、その綺麗な鼻を挟ませて」「お前から敵意を感じるぞ。断る」という攻防が行われていた。
それって、ザリガニでやるヤツのような。ロブスター(?)でやったら、多分王子の鼻が持ってかれちゃう。
一方では、レアリスさんが魚を華麗に捌いている。最近、レアリスさんにマイ包丁をおねだりされたので、今はマイ出刃包丁を使っている。それをアルジュンさんが羨望の眼差しで見ていたことが印象深かった。アルジュンさん、いろんな武器を使いこなす人みたいだから。
ちなみに、同じく剣の達人のイヴァンさんにもお願いしたところ、豪快な性格のためか、まな板ごと捌いてしまったので、今は子供たちやお父さんとフライングディスクで遊んでもらっている。
リウィアさんは、ウツボの毒や食中毒菌を無効化する特殊ミッションに従事しているよ。綾人君がウツボを試食したいんだって。
そういえば、アズレイドさんってサンちゃんのファンだった気がするけど。そう気付いて観察していると、凄い微妙な距離感を保っている。サンちゃんが何も喋らない時はキラキラした目で見て、喋ると光の消えた目になる。ちなみにサンちゃんから、アズレイドさんともお風呂に入りたいと言われて、随分長い間沈黙した後、「申し訳ない」と断っていた。
みんなでお料理するとにぎやかでいいね。
そして完成したのは、予定どおりのカニチャーハンとあんかけかに玉と、ウニとお魚の海鮮丼、それとウツボの天ぷらです。
結果、ウツボ以外は大好評だったよ。ちなみにウツボは、スタッフ(お父さん)が美味しくいただきました。
ちょっと早めのランチを済ませる頃には、綾人君の気分も随分落ち着いたように見えた。手元にはキシキシ動くロブスター(?)が常備されていたけど。
食後のティータイムでゆっくりした後で、私たちはここへ来たもう一つの目的を果たすべく、サンちゃんに確認した。
「リヴァイアサン。ここに、以前アヤトが作った武器があるんじゃないか?」
王子が代表して聞くと、『ヤダ、サンちゃんって呼んで』と言ってクネクネして王子にウインクしたので、王子は何かと葛藤した後「サン」と呼んでいた。何か、心に沁みる。
『あるわヨ。でも、ここにあるのは、テオちゃんが集めた四つヨ』
そう言って、サンちゃんが持ってきてくれた。
どうやら綾人君の帰還後に、王様のカリストスさんが奪った武器を回収したのは、夕奈さんの夫のテオドールさんだったようだ。
サンちゃんが、目の前に出してくれたのは、青龍偃月刀、聖剣アル・マヒク、神弓烏号、聖盾イージスの四つだ。青龍偃月刀は私でも知ってる。三国志に出てくるヤツ。
『あ、玄武が僕の逆鱗を引っぺがしていったヤツ』
青龍さんが、偃月刀を見てぽつりと言った。どうやらメイさんが、「うちの綾人が武器作るのに、珍しい素材集めてるのよ」と夕奈さんに頼まれて譲ってくれたらしい。
「あれって、メイが勝手に持ってきたの?」
『不細工な鱗だったから、親切で剥がしてやった』
『うん。別になんかで逆に生えちゃった鱗だからいいけど』
綾人君が聞くと、メイさんがシレッと言って、青龍さんも気弱に言う。レジェンドたちの逆鱗の扱いが思ってたのと違って軽かった。
「……逆鱗って、私たちで言うアホ毛みたいなものなのかしら」
「そうみたいだね」
有紗ちゃんが、かなり残念そうに言う。
ちなみに青龍さんの鱗は「青龍って言ったらやっぱり、青龍偃月刀だよね!」というノリで作ったそうだ。私でもそう思う。
アル・マヒクは、アスパカラから南下した砂漠の国にいるアジ・ダハーカさんっていう竜からもらった素材で、サンちゃんと同じオネエさま組合の方だそう。綾人君がほっぺにチュッてしたら、黒い飛膜という翼の一部をくれたって。
イージスの盾は、メデューサさんという人型の魔獣からもらった髪の毛らしい。「メデューサって、超絶美少女だった」と綾人君が遠い目をしていた。
普段はどこから見ても人間の美少女らしいんだけど、感情の起伏があると髪の毛が蛇になるみたい。 デートに誘おうと自慢の髪を褒めたら、ミチッと蛇になっちゃったらしい。
……綾人君、種族を超えたタラシだったんだ。
で、その髪のうちの一匹の蛇が双頭の蛇だったらしくて、メデューサさんに教えてあげたら、『やだ、枝毛!』と言って抜いてくれたそう。綾人君は、「最初うねうねしてたけど、すぐに綺麗な髪の束になった」とほろ苦く笑った。でも、枝毛を教えてくれたお礼に、皮製の肩当てと胸当ての防具ももらったらしい。
「あれ? この烏号って誰の素材だったけ?」
その中の一つ、金色の短弓を持って綾人君が首を傾げた。見るからに神々しい弓だけど、綾人君の記憶にはなくて、どうしても思い出せないようだ。
「ま、いっか。そのうち会えば思い出すだろ」
そう言って綾人君は、あっけらかんとして思い出すのを諦めた。
そういえば、サンちゃんって何か作ったのかな?
「ああ、アレだ。サンちゃんのは〝グリモワール〟と〝ソロモンの指輪〟だ」
「「「「「……アレか……」」」」」
綾人君の言葉に、みんなが一斉に私を見た。アレだ。古都のアルテの古城で、大司教が私を操った魔道具だ。
やっぱりあの時何があったのか、誰も私に教えてくれないけどね。
ただみんなは、「アレは二度とこの世に出してはならない」と、固く誓っている。
あとは私がスキルで出した、レーヴァテイン、カラドボルグ、グングニル、七星剣、盤古の斧、スヴェル、古都でポイントにしたオハンの盾、ティルヴィング、干将・莫邪、トライデント、お父さんとガルが壊した羂索、グレイプニル、ドローミ、レージングル、グリモワール、ソロモンの指輪、カンタレラかな。
ちなみに、対フェンリルの拘束具のグレイプニルとドローミとレージングルは、なんと、先代のマーナガルムさんとスコルさん、ハティさんがくれた素材らしい。確かその人たちは、お父さんのお兄さんたちだったよね。
当時から暴走がちだったお父さんが大人しくなるなら、と言って積極的に協力してくれたようだ。お父さんは昔から安定のやんちゃさ加減だったようだね。
お父さんって、いつ大人になるんだろう。
取りあえず、綾人君が作った武具は回収できたと思われる。
その中で、武具は二国でそれぞれ綾人君から借り受けることになった。
長剣のアル・マヒクはアズレイドさん、青龍偃月刀はアルジュンさん、短弓の烏号はリウィアさん、イージスの盾はユーシスさんが持つことになった。
あと、私が交換してしまっておいた、白虎さん素材の盤古の斧はスイランさんだ。
……スイランさんと斧って、ものすごい違和感。でも、大きくて扱いづらい盤古の斧くらいの制約があった方が、スイランさんの抑止力になるだろうって。
まあ、身軽だと率先して最前線に行きそうだものね。
そんな訳で、私たちは次の行動に出ることになった。
荒れ果てた地の「龍の道」から、「果ての迷宮」に至る入口に行くことだ。
龍の道へは、先発隊を送って事前調査と、大勢が迅速に移動できるように転移陣を敷設してくることになった。先発隊を送って準備が整ったら、本体が転移で行く手筈だ。
「先発隊は、転移陣が敷設できる人間と、〝無慈悲〟級の魔物に対応できる人間だな」
無慈悲は、飛竜が魔物化したとんでもない魔物の名前だ。
イリアス殿下がグルッと一同を見回す。
「あら、じゃああたしが適任ね」
そう言って手を挙げたのはセシルさんだ。
この中で転移陣が敷けるのは、王子とファルハドさんとセシルさんだ。王子は、いつ倒れるか分からない状況で斥候のような真似はさせられないから、玄武のメイさんがさりげなく止めていた。ファルハドさんは最近転移ができるようになったばかりで、転移陣を敷くには少し経験不足らしい。
それに付いていくのは、レアリスさん、イヴァンさん、回復要員としてリウィアさん、こちら側の責任者としてユーシスさん。セリカ側の責任者とセシルさんの補佐を兼ねてファルハドさん、戦力としてアルジュンさんと双子のメイシンさんが行くことになった。
『面白そうだ。我も行こう』『僕も行きます』
レジェンド側でも、レッドさんと青龍さんが名乗りを上げた。正直言って、先発隊にレジェンドが参加してくれるとは思っていなかったけど、二人は楽しそうにしている。絶対興味半分面白さ半分だね。
人間組は、まずはレンダールの王都へ行って、各国の首脳に報告してから出発だ。
レジェンド組もいったん自分の巣に帰って、また来てくれることになった。長く巣を空けると、その縄張りの瘴気への対応が面倒になるから、取りあえず戻ってみる、とのことだった。
こっそり教えてくれたけど、玄武さんは王子のためにレンダールに残ってくれるようだ。その分の縄張りの監視は、白虎さんがやってくれるみたい。ありがたいね。
王都に帰る前に、一度黒の森のアルレット伯母さまの所へ行って、リュシーお母さまや他のレジェンドたちにも伝えることになった。預かってもらっていたファフニールも連れて帰らないとね。あ、キノコ大根たちもいたんだった。
迎えに行くと、伯母さまやニズさんに懐いていた様子のファフニールだったけど、レアリスさんの顔を見たら、小さな羽をパタパタと動かして、一生懸命レアリスさんの元に飛んできた。
その場にいた全員がキュンとした。黒い魔獣が苦手なスイランさんですらね。
また、レアリスさんが先発隊で離れてしまうのが可哀想だけど、そこはレアリスさんの次に懐かれているニズさんが一緒に来てくれるので安心だ。黒い竜でお揃いだからかな?
その隣で、キノコ大根たちも一生懸命短い足でユーシスさんに駆け寄ってきて、ユーシスさんのブーツにひしっと抱き着いた。キノコ花の部分が元に戻って、ただの大根じゃなくなってた。
光のない目でそれを見つめるユーシスさんに、その場にいた全員が憐みの目を向けていた。
こうして、長いようで短かった王子の領地への休暇は、ほぼ休暇にならないまま終わりを告げた。
王都へ帰ると、まず国王陛下に挨拶をして、詳細を報告した。先発隊については、全権委任されているリヨウさんが決定したので、セリカの皇帝陛下へお伺いはしなくていいみたい。出発までセリカの人たちは王宮に留まるようだ。
私とガルたちとファフニール、お父さんとレッドさんと玄武さん、ニズさんと青龍さんはベースキャンプへと帰ってきた。あと、キノコ大根たちも。
随分久しぶりに帰ってきた気がするけど、たまにお母さまが掃除に来てくれたようで、ほとんど掃除の必要はなかった。
本拠地が王宮にあるみんなは、とりあえず荷解きをしてからこちらに来てくれるようだ。新規加入の綾人君とイヴァンさんは、いろんな手続きがあるからしばらく王宮にお世話になるって。
私がお片付けしている間、みんなにゆっくりしてもらっていたけど、青龍さんもファフニールもキノコ大根たちもベースキャンプが気に入ったみたい。キノコ大根たちは四匹でお庭を駆けずり回っていたよ。
ファフニールはお外で寝そべる本来の大きさのニズさんの腕の中に埋もれていて、それを見守るように、レッドさんも本来の大きさでその近くに寝そべっていた。
なんか、いい雰囲気だよね?
青龍さんは、お父さんの頭に乗ってこの周りを案内してもらっているようだ。
私が一通り、掃除機や拭き掃除が終わる頃に、王宮からみんなも来てくれた。
先発隊は二日後に出発だって。
明日からは、いろんな準備に追われてゆっくりできるのは今夜までのようで、ユーシスさんとレアリスさんはこちらで過ごすようだ。
日程は一週間ほどで、移動に三日、転移陣敷設で一日、調査に二日、予備で一日で、完了報告をセシルさんが転移で行い、早ければ本隊の出発は七日目に出発となる。
そういえば、私がこの王宮を追放された時以外、ユーシスさんとは二、三日離れることはあっても、一週間空けて会わなかったことはなかったな、と思う。
この世界に来た時は、それこそ私に付きっきりになってくれたし、王子とはセリカ行きの時に離れていたけど、ユーシスさんとはずっと一緒にいたから。
多分、この世界で人間では一番一緒に過ごした時間が長いからかな。少しの間と思っても、なんだか行ってほしくないと感じてしまう。
夕食後に、酔っぱらった王子とレアリスさんを片付けた後、何となくそのことを言うと、ユーシスさんは優しく甘い笑顔を浮かべた。
「心配しないで。俺はちゃんと帰ってくるよ」
そう言った後に、ちょっと考えるような仕草をして、その後に蠱惑的な表情になって私に言った。
「そうだな。無事に帰ってきた時には、またご褒美をもらおうかな」
また? 私ってユーシスさんに何かご褒美あげたことあったかな?
ちょっと記憶が曖昧で思い出していると、ユーシスさんが少し顔を近づけて言った。
「今度は、絶対に忘れさせないから」
「へ?」
何を言われたか一瞬分からなかったけど、何故か背中がぞわぞわとした。
ユーシスさんは、そんな私の頭を撫でると、「おやすみ」と言って自分の部屋へ行ってしまった。
何か思い出しそうになったけど、心臓が変な動きをしそうだったので、無理やり頭を真っ白にして、私も眠りに就いた。
出発の日、私は王子と一緒に先発隊の見送りに王宮に行った。
今回は、前回のセリカ行きよりも更に強行軍で、全員騎乗していた。
セシルさんも、神殿の黒い騎士服と軽鎧を着けている。え? カッコいいんだけど。
その他の人は、自国の軍衣と軽鎧だ。イヴァンさんはもちろんレンダールの騎士服だけど、王子がイヴァンさんを誘った時に、王宮に準備しておくように指示を出していたみたい。
必要最低限の見送りだけど、とても華やかなメンバーだった。
出発の時、みんなに手を振ると、それぞれに手を振り返してくれた。
最後にユーシスさんが、兜を被る前に口の動きだけで私に言った。
『やくそく』
思わず私の背筋が伸びた。なんでこんなにぞわぞわするんだろ。
みんなを見送って、私たちは私たちでできる準備を開始した。
そうして、慌ただしい日を過ごして、先発隊を見送ってから四日目のことだった。
この日は、王子が私に準備しておくものの確認をしにベースキャンプに来ていた。
何故か、王子以上にお父さんが色々と注文を付けていたけど、話半分に聞いていた時、突然リュシーお母さまが転移でやってきた。
突然お母さまが来るのは日常だけど、今日は何故か急いでいて顔色が悪い。
「どうした、ばばあ」
「落ち着いて聞いて」
いつもより低く話すお母さまに、何故か胸騒ぎが止まらない。
「さっき、先発隊からセシルが戻ってきたの」
予定では今日から転移陣を敷設するはずだ。セシルさんが戻るのは早すぎる。
いやだ、聞きたくない。
「龍の道を調査中だったユーシスくんが、セシルとセリカの子を庇って怪我を負って……」
お母さまが一度言葉を切った。
「意識が戻らないの」
頭を殴られたような衝撃を感じた。
酷い耳鳴りのような音がする。
これは、夢、だよね……?
テーマソングは、渚にまつわるエトセトラと迷いましたが、かに道楽でいきます。
そして、「あまーい」と見せかけて「にがーい」ラスト。
また次回をお楽しみに。