13 しません
さて、お父さん素材、ただ交換だけで済むでしょうか。
王子とユーシスさんが、私とレアリスさんの間に入ってくれて、何とか私が思考能力を取り戻した後、重大な話し合いが行われた。
「取りあえず、お前、特級ポーション使えるとか絶対言うなよ」
あれは、何か、伝説級の代物だったらしい。
普通にスキルボードには表示されていたけど……、上級ポーションですら国の重鎮くらいしか使えないような超レア物のようだ。
幸いにしてレアリスさんの左腕の欠損のことは、神殿上層部には知れ渡ってないようで、このまま私とその周囲が黙っていれば、特級ポーションを使ったことは何とか誤魔化せる……気がする。伝説級の物をこんな庶民的な人間が持ってるなんて思わないだろうからね。
レアリスさんの監禁されていた場所は王都の城壁の外にある、誰が所有者か分かっていない民家だったそうだ。そこに交替で見張りが2人ずついて、レアリスさんがその2人を制圧したって言った。
で、腕のことが神殿にバレる前に王子がそこを押さえたってことで、多分大丈夫と思われる、とのことだ。
王子が「いろいろ細工したし」って言ってたけど、何がって言わなかったし聞かなかった。暗黙の了解、これ大事。
それで、私のスキルの話になったんだけど、目の前で実践して見せたら、全員が目から光が消えた状態になった。
ちなみに、試しに出してみたのは、私も一度座ったらなかなか離れられない『高級』アウトドアチェアだ。
「クソッ……包まれる」
「……実に、離れがたい」
王子とユーシスさんが、悩まし気に感想を伝えてくれた。
その王子の膝の上にはハティが、ユーシスさんの膝の上にはスコルが乗っている。私の膝には何故かお父さんが顎を乗せているよ。
それを見たガルが、『大人げねえよ』と1匹遠くからその光景に呟いていた。
レアリスさんは、何故か私の後方にずっと立ったままで、頑なに椅子を勧めても座らなかった。スコルが近付いたら、ちょっと後ろに下がっていたので、レアリスさんは座ったら膝にワンちゃんが乗る仕様だと思ってるのかも。
もしかしてレアリスさん、犬が苦手なのかな……。
「ハッ、いかん!これは悪魔の誘惑か⁉」
王子が我に返って叫ぶが、ハティをなでなでする手は止まらない。
「天国は、ここにあったんですね」
ユーシスさんもうっとりとスコルと見つめ合っている。慈愛の微笑みが、やっぱりお母さんだ。
いやー、カオスだね。
そんなくつろぎ空間で、私のスキルを披露した後に、私はホーム画面に謎の「お知らせ」という文字が浮いているのに気付いた。
疑問に思ってタッチしてみると、ずらっと未読の通知が出てきた。
……そういえば、お父さん素材を交換した時、通知音鳴ってたかも。
ちょっとお父さんにどいてもらって、私は1つずつ通知を確認していった。
“レジェンド素材交換特典 武器カテゴリに『神話級』を表示します““1億ポイント到達達成 レベルが3に上がりました。スキル『天恵』を取得できます““1億ポイント交換達成 全カテゴリを開放します“
レベルの上がり方がチョロすぎるのか。それともお父さん素材が常識外れなのか。
きっと後者だ。
『ほう。面白いことになっているな』
その事態の元凶のお父さんが、後ろから一緒に画面を覗き込んで楽しそうに笑った。お父さん、文字読めるんだ。
っていうか、尻尾でレアリスさんを追い払っている。
当の私は、何のことかさっぱり分からず、首を捻るばかりだった。
「っていうか、お父さん、レジェンドなんだね」
『言っただろう。なかなかのものだろうって』
「なかなかっていうか、突き抜けてるよ」
私の中では食いしん坊親子だけど。王子に聞いたら、神話にある古龍を除けば、恐らくこの世界で最強の部類の魔獣だろうとのこと。
……へえ、としか言えない。
お父さんは、フラッとやって来て、ご飯を要求するか、私の手が空いているとなでなでを要求する。
なでなでは、妹たちがいると遠慮するカッコつけのガルとは違って、みんながいても変わらないので、なんだか最強と言われてもいまいちピンとこない。
それにしても、驚いたのは、ポイント交換レベルが3になったら、私に別のスキルが付いたことだ。「天恵」って、凄いネーミングだよね。
もふもふ天国から帰って来た2人とレアリスさんも交えて意見を聞いたけど、やっぱり知っている人はいなかった。
試しにスキルボードの通知画面を開けて「天恵」を触ったけど、「取得しますか?YES/NO」だけしか出ない。
「名前からして、決して悪いスキルではないと思うぞ」
「そうですね。少なくともハル自身に不利益が起きそうなものではないですね」
『心配せずに取ってみるがいい』
王族とお母さん騎士とレジェンドがそう言うので、私は「えいや!」とYESを押した。
ピロリーンと通知音がして、ポイント交換のホーム画面の前のトップ画面に変わった。そこに“NEW スキル「天恵」”と出ていた。
慎重にその文字をタップすると、説明書きが現れる。
“全交換必要ポイントが半減 全ポイント交換値が2倍”
「ぎゃん!」
思わず気絶しそうになった。実質、ポイントで交換できる品が4分の1に暴落……。
100円で100円のお菓子が4つ買えるって、どんな錬金術よ!
「……お前、いや、……何でもない」
「…………」
『ククククク、まさに『天恵』だな』
王族とお母さん騎士、何か言うのを諦めないで。そしてレジェンドは絶対楽しんでる。
確かに、何かに直接害や悪影響のあるものじゃなかったけど、良識という文字が崩壊するよ。
でも、これで誰も「天恵」の効果を知らない理由が分かった。
だって、ポイント交換スキルが無いと取得できないもんね。
まだ救いがあるのは、既に交換済みのポイントは据え置きということだ。これから取得するポイントから倍になる。お父さん素材が10億になったら、私きっとダメになるとこだったね。
まだマシ。そう思おう。
『ハル、まだ面白いのがあっただろう』
お父さんがそう言って私を現実に引き戻す。
私は全然見たくない。あえて目を逸らしていた言葉がある。
そう、武器カテゴリの『神話級』というやつ。
「見ないという選択肢は……」
『無いな』
レジェンドに断言された。他の人が操作しても、私のスキルはうんともすんとも言わないから、断固拒否すればいけると思ったんだけど、男性3人 (レアリスさんまで)とレジェンドの期待と圧力に満ちた視線に晒されて、私は進退窮まった。
男の子って、何でか武器とか好きだよね!
『諦めろよ、ハル。少なくとも父さんは説得できないぞ』
ガル君の冷静な一言で、私の退路は断たれた。
っていうか、この中でガルが一番大人だね……。
そして、とうとう私はそのカテゴリを開けることになった。
ブルブルと指が震えすぎて狙いが定まらないが、それをレアリスさんがそっと支えてくれた。
それ、優しさじゃないよ。決してね。
タッチした。今まで一番怖いタッチだ。
他のカテゴリと違って、凄くあっさりとした一覧だったけど、1個を除き他のは選択できないようになっていた。
特典で全カテゴリが開示されたけど、神話級ともなると選択するのも条件があるみたい。
何を交換できるか名前とか価格とかは分からないけど、開放してない物でも剣とか槍とかの種類は見られるっぽい。剣が多く見えるけど、槍とか弓とかもありそう。
が、私はあえて見ない。怖すぎる。
その中で唯一選択できるものを、仕方なくタッチ。
“魔剣レーヴァテイン(3億P) 開放条件:フェンリルの牙”
……ああ、条件って、そういうことだよね。
手に入れることが奇跡の素材とかで開放されるのね。
っていうか、やっぱ見たくなかったよ!なんなの、魔剣って⁉
『なるほど、これが「勇者」の言っていた魔剣か』
そうだった。お父さん確かそんなこと言ってた。
それに、私がデフレを起こしたばかりに、今ならお父さん素材のポイントで交換できちゃうよ。
絶対こんな簡単に手に入れちゃいけないものだ。
不意に、私は不穏な視線を感じた。
少年のように煌めく瞳で私を見つめる、紫と緑とヘーゼルの6つの目。
あなたたち、そんなキャラじゃなかったでしょ。
「……いや、しないよ、交換」
その視線を私はぶった切る。
「この世界の、少年たちの夢を、お前は、そんなに、無情にも……」
「しないよ?」
嘆く王子にぴしゃりと言う。他の2人も目で訴えてくる。
「し、ま、せ、ん」
三度言った。その場に崩れ落ちる3人。
『なあ、もう話は済んだのか?腹減ったんだけど』
抜群の頃合いでガルが話し掛けてくる。
「そうだね。そろそろ夕飯の支度をしようか」
私は、跪く男たちを無視し、賢いガルに渾身のなでなでをする。
「何が食べたい?」
『肉がいい!』
「言うと思った」
よしよし、いいだろう。まだやってない肉料理って何があったかな?
私がレシピを考えていると、ふと天啓のように閃いてしまった。
「カテゴリ全開放っていったら、あれがあるんじゃない⁉」
私は小躍りしたくなり、ガルの前足を取って二足立ちさせた。ガルが迷惑そうに身体を捩ったので、仕方なく手を離す。だけどめげない!
さっそく私はボードを開けてポチった。そう、念願のアレだ。
「ああ、やっと手に入れた。炊飯器!」
これで、お米が炊き放題だ‼贅沢に一升炊きを3つ交換してしまった。
ご飯と肉と言ったら、もうどんぶり一択だよね。
「みんな、お肉は牛と豚と鶏、どれがいい?」
『『『『「牛‼」』』』』
ん?フェンリル親子の他に、元気な人間の声がハモった。
王子、君か。
ちょっと我に返った王子が、耳を赤くしてそっぽを向いた。
「ふふ、了解」
ユーシスさんとレアリスさんを見ると、二人もどうやら賛成のようだ。
「じゃあ、牛丼祭り、やっちゃいましょう!」
『『『おー!』』』
ノリノリのサモエドたちの声を背に、私はかつてない量の牛丼を作った。
結局一升炊き炊飯器は、2周していたよ。
みんなお腹いっぱいで幸せだね。
聖剣と魔剣は男のロマンです。
牛丼ですが、男性3人はフォークを使ってます。
負けず嫌いの王子は箸に挑戦しましたが、指がつってものの2分で断念しました。
ちなみに、お味噌汁は豚汁です。
ここでお話のストックがなくなりました。
3回目ワクチンの副反応と本業で、なかなか執筆が進まなかった……。アレ凄いですね。
書き上がり次第順次アップしていきますので、また更新しましたら閲覧よろしくお願いします。
あまりお待たせしないように頑張ります!