124 ダンジョンへ行こう ~地下世界の生き物たち~
最近、投稿の間が空いて申し訳ないです。
さて今回は、地下世界の婚活事情とキノコ大根のお話です。
おや?タマゴのようすが……
銀色の髭妖精たちがワラワラとビニール袋と手袋で遊んでいるその隣で、私たちは収納から取り出したキノコ大根を囲んで会議だ。
その問題のキノコ大根は、ビニール袋の中で涅槃像のような恰好でこっちを見ていた。特にユーシスさんを熱く。
その視線が気持ち悪いのか、ユーシスさんがそっと大根の入った袋を持つレアリスさんの手をそっと王子の方へ向けると、キノコ大根は王子を見て「ケケケ」と気味の悪い笑い声をあげ、また王子がそっとレアリスさんの手をユーシスさんの方へ向けるとうっとりとした顔になった。
ちなみに私たちに向けても、キノコ大根はスンとしている。
多分、王子はキノコ大根に侮られているっぽい。
「とりあえず、こいつは連れていくんだな、ハル」
「うん。とりあえず、とっても貴重だし、なんか(ユーシスさんに)懐いてるしね」
私も王子も「とりあえず」って言っちゃう。王子に聞かれて濁しながら答えた。まだ、みんなには〝万能の霊薬〟が何であるか言っていなかった。でも、特にそれ以上は追及されない。心底嫌そうな顔はされたけど。
「あと、アヤト、何のマネだ?」
「うん。ちょっと」
キノコ大根もだけど、王子は私が出してあげたカラフルな草タイプの猫じゃらしを王子の顔の前でユラユラさせる綾人君が気になって仕方ないようだ。ですよね。
綾人君は、ユーシスさんにおんぶされてた王子にもずっとおんなじことをやっていたけど、どうやら猫好きのようだ。私たちはそれに沈黙する。
王子と綾人君が無言で見つめあっていると、キノコ大根ではなく銀色ノームが群がってきた。
『人間ノ男。オ前ガ持ッテイルソノふさふさハ何ダ?クレ』
「いいけど、みんな〝等価交換〟って知ってる?」
『知ッテル。ホラコレヲヤル』
そう言って、ノームたちは石ころを渡してきた。
「石ころだな」「ええ、石ころですね」と、王子とユーシスさんも同じに見えるようだ。
綾人君が笑顔で、「レアリス、キノコ大根貸して」と言って袋を受け取ると、袋越しにキノコ大根をギュッと掴んで、袋からちょっとだけ頭(?)のお花の部分を出して、ノームたちに向けた。
キノコ大根は、「あ゙あ゙あ゙あ゙」と変な声を出しながら、満更でもなさそうな顔をしていた。少し好きなのかなぁ、痛いの。
「おとなしく対価を渡すのと白い粉と、どっちがいい?」
『……タ、対価デオ願イシマス』
そう言って、銀色に光る拳大の塊をくれた。何これ?
『ミスリルダ。ソレ一ツデ、軍隊ノ鎧ヲ全部作レル鋼ト同等ノ価値ガアル』
「うん。ありがと。はい、猫じゃらし」
そう言って、綾人君は大変貴重なミスリル銀を、五百円もしない猫じゃらしと交換した。
「アヤト、恐ろしいな」「はい、間違いなく聖女の血縁です」
ヒソヒソと王子とユーシスさんが小声で話していた。
『アト、オ前トオ前、トテモ顔ガイイ。我々ノ村ノ娘タチノ婿ニナレ』
あれ?デジャヴ?綾人君とユーシスさんを指名して、嫁候補らしきノームたちが集まってきた。それを前にして二人は固まった。ノームって面食いなんだね。
「ん?みんな髭が生えてる」「女性……があの中にいる、のか」
多分、前に出てきたノームたちは、全員女性だと思う。指名されなかった王子とレアリスさんは、そっと私の後ろに隠れた。
『種族ノ壁ナドスグニ越エラレヨウ』
相変わらず、ノームたちの種族の壁は低くて極薄みたいだね。
「悪いけどノームたち、俺たちこの世界のために、これからとても危険な場所にいかなくちゃならないんだ。だから、結婚できない。ごめん」
「ええ。私たちは淑女を悲しませたくありません」
『何テコトダ。勇敢ナ人間タチヨ。ナラバ餞ニ乙女タチノ〝髭〟ヲ贈ロウ』
ノームって、欲深いし上から目線だけど、基本素直だよね。
「勿体ないよ。それは、君たちの本当の運命の人にとっておいて」
「私たちに心を置けば、きっと辛い想いをされましょう。どうぞ、私たちのことは心に吹いた一陣の風と思い、お忘れください」
『ナント欲ノナイ。分カッタ。気ヲ付ケテ行クガヨイ』
さすがモテ男二人は、王子と違って、心にもない口先だけでサラッと断った。
でも、よく聞くとかぶせ気味で、ほぼ反射で断ってるね。これは、数を熟さないと身につかない技術だ。
それに、前回も思ったけど、ノームたちって諦めるの早いよね。
なんかいい雰囲気になったので帰ろうとしたけど、ふと気づいた。
帰り道分かんない。
「ねぇ、もう一つだけこれでお願い聞いてくれる?」
私は、もう一つ別のおもちゃを出した。もちもちふわふわのパン型のスクイーズだ。
『オオオオオ!何トイウ手触リ!神ノ創造物カ!』
そうだよねぇ、いい感触だよね。ノームたちは、スクイーズをお神輿みたいにみんなで担いで、わっしょいわっしょいと喜んでいた。
一番年上と思われるノームが、指し示した先の壁がもわーんと開いた。そこが出口らしい。
そして、さっきくれたミスリル銀の塊をもう一個くれて、キノコ大根が喜ぶという土をくれた。ここに植えると大人しくなるらしい。さすが、大地の精霊なだけあって土に詳しいね。
私は3号ぐらいの素焼きの植木鉢を交換して、ノームからもらった土を入れると、いつの間にかレアリスさんに預けられてた袋からキノコ大根が出たがった。
植木鉢の近くでレアリスさんがそっと袋を開けると、キノコ大根はいそいそと鉢によじ登り、まるでお風呂に浸かるように、鉢の縁に掴って収まって大人しくなった。すごい効果だね。
「とにかく、イリアスたちの服が溶けても誰も得しないが、骨まで溶けたらさすがに可哀そうだからな。助けに行くか。セシルはどうでもいいが」
ご機嫌なのは、ユーシスさんに植木鉢を抱っこしてもらってご満悦のキノコ大根だけだ。前を向いて楽しそうに左右に水玉模様のお花が揺れている。
あ、キノコ大根だけじゃなくて、綾人君も上機嫌だ。
「多分、これを普通のスライムにあげたら、メタル〇ライムになるかも」
わくわくしてる綾人君の狙いは、は〇れメタルから変わってなかった。
「……やめろ。お前たち日本人は、奇跡とか伝説をなめてるのか」
王子がげっそりとするように言いながら、綾人君からミスリルを取り上げる。綾人君は泣きながら「俺のメタル化計画が~」と王子にすがるけど、そのままミスリルを私に渡されたので収納にしまった。今日はもう、鑑定をオフにしておいたので静かだった。
恨みがましく王子に抱き着きながら、綾人君がメソメソしていると、急にハッと顔をあげて前を見た。その目が驚愕に見開かれる。
みんながその視線の先を見ると、キノコ大根が三匹並んで私たちの目の前に、ゆらゆらと立ちふさがっていた。珍しい大根じゃないの?
「……やせいのマンドラゴラがあらわれた……」
ケケケと笑うキノコ大根を見て、ぽつりと綾人君が呟いた。そして三匹のうち一匹が、「きぇぇぇ」と奇声を上げて踊りだす。手足短いね。
「……マンドラゴラ1がなかまをよんだ……」
また信じられないものを見るかのように前を見つめる綾人君が呟く。私たちはキノコ大根の踊りにドン引きしていた。そんな私たちを嘲笑うかのように、ササッと何かがすごいスピードで現れた。
それはこの薄暗い地下世界の中でも淡く輝く……。
「は〇れメタルきたーーーーーーー!テオ、嘘つき変態とか思ってごめんね!!」
綾人君の声がこだまする。テオドールさんからの情報だったからね。ノームがしれっと嘘ついたのを、テオドールさんのせいにするところだった。
その声に驚いたのか、ゼリーが溶けたような形のスライム型のモンスターが来たときのようにササッと逃げ出した。私が虫取り網を出すと、それをむんずと掴んで「待てぇ!」と言って綾人君が追うけど、ササッと風のように逃げて捕まらない。
もう逃げられてしまう!といったその時、横から黒い影が現れ、銀色のスライムを蹴り抜いた。隠密を使ったレアリスさんが、本日二度目のドライブシュートを放ったのだった。
キノコ大根みたいに、壁にグシャッとなった銀色のスライムをニトリル手袋で掴む。
レアリスさん。ニトリル手袋ってそんなに万能じゃないよ。防御力はほぼゼロだから。
レアリスさんがわらび餅みたいにベロンとなったスライムを持ってくると、綾人君が「ありがとう、ありがとう」と言いながら袖で目元を拭った。
さて、と言って綾人君はスキル「武具創造」で剣を作ろうと発動させた。でもすぐにハッとなってレアリスさんが掴んでいるスライムを見た。
「……スライムの『核』が必要ってことは、剣を作るためにお前を犠牲にするのか」
必要な材料が見えて、綾人君はショックだったようだ。核は、きっと取ったらスライムは死んでしまうやつなのだろう。
綾人君はしばらくレアリスさんに吊るされたスライムと見つめあった。日本でおなじみの瞳孔開いた目ではなく、つぶらな目が綾人君を見つめている。
「無理だ!俺には、『ボク、わるいスライムじゃないよ』と言っているようにしか見えない!」
多分気のせいだと思うけど、無駄な殺生はしなくていいと思うよ。
なんか友情を感じたのか、スライムが小さな手(触手?)を伸ばして、それと綾人君が握手する。そして、レアリスさんに地面に下してもらい、さっき等価交換をぼったくろうとしたノームから巻き上げた石ころをスライムにあげると、なぜかそれを嬉しそうに一人でわっしょいわっしょいしてた。どうやら私たちには石ころでも、スライムにとっては宝物らしい。
「俺、このスライム飼う!」「ダメ、帰すの」
なんか小学生みたいなことを言う綾人君を叱ると、スライムは石を持ってピュンと逃げた。
やっぱり、友情を感じたのではなくて、綾人君が持ってた石が欲しかっただけなんだね。「ああ」と嘆く綾人君は置いておいて、私はあと三匹出たキノコ大根が気になった。
後ろを振り返ったら、なぜか三匹が一列に並んで、ユーシスさんに絞られるのを待っていた。元々キノコ大根が入っていた袋に絞り汁が半分くらい入っている。
王子がそれを「こいつらなんで絞られたがるんだ?」と気持ち悪そうに汁を見ていた。
自分がその汁を飲んだのは、多分みんなで墓場まで持っていく案件だ。
そのあと、一匹目のキノコ大根が入っている鉢に、なぜか三匹も入ってきてギュウギュウになる。「お前ら帰れ」と王子が言うと、四匹は「ハッ」と鼻で嗤ったようだった。王子が劫火の魔術で燃やしそうになるのを、とりあえずユーシスさんとレアリスさんが止めた。貴重な植物らしいからね。
そんなわけで、ユーシスさんが四匹もキノコ大根が入った鉢を素手で持つのが嫌そうだったので、白いレジ袋に入れて持ってもらった。
ユーシスさんはなんでも着こなす人だと思ってたけど、レジ袋は似合わなかった。バゲットが入った紙袋なら絶対似合うだろうけど。
私たちは、ケケケと時折変な笑い声がするレジ袋と歩き続けること小一時間、地底湖みたいなお水がある大きな空洞にたどり着いた。その畔で小休憩を取ることになった。
レアリスさんがコーヒーを用意してくれて、私はどうしても目玉焼きを乗せたトーストが食べたくて提案したら、食い気味で綾人君が賛成した。地下空間で食べるのはやっぱり目玉焼きを乗せたトーストだよね。
涼しい地下とはいえ、みんな少し汗を掻いたし、少し塩コショウが効いた目玉焼きだ。食後にはチョコレートを出した。チョコはコーヒーとも合うし、甘いものは疲れが取れるから。
アウトドアチェアに座りながらコーヒーを飲んで、フウと満足の息をつく。
「もう、イリアスのこととかいっか。あいつ『断絶』あるし」
王子がまったりとして言った。
まあ、最初から誰もイリアス殿下のことは心配してなかった。本人も騒いでなかったし。殿下のスキルは優秀だから、本人に危害は及ばないし、リヨウさんのことも気に入っていたから助けてくれるだろう。セシルさんはわからないけど。
「えぇ、夕奈の手記は?」
「ああ、ばばぁなら勝った組の人間にしか見れないように、何か仕掛けてそうだけど、大丈夫だ。魔術なら俺が解除できるし、スキルならハルのスキルで解除できるだろう」
「え?ハルのスキルってまだ何かあるの?」
そういえば、まだ『回帰』のことは言ってなかったかな。王子がハテナを浮かべる綾人君に、セウェルス侯爵との戦いでスキルの無効化や削除ができたことを説明した。ついでに、レアリスさんが抱っこしている卵のことを話した。ファフニール戦で『回帰』を使ったら卵に転生しちゃった話をしたら、綾人君ドン引きしてた。いや、私が一番驚いてるから。
「俺と夕奈のスキルもすげぇと思ってたけど、ハルのスキルを前にしたら小物すぎる」
なんなら血液検査もできるし、話しかけてもきます。
やけくそ気味に言ったら、更にドン引きされた。「もう、そのままでいいと思う」と言って締めくくられた。なんかすみません。
そんなこんなで、レースを諦めムードになって、コーヒータイムを満喫していた。
キノコ大根たちがチョコレートに興味を持ったので、綾人君がふざけてあげてみたら、なんか興奮して鉢から出て走り回っていた。ひとしきり走り終わると、なんかキノコ型お花がゆさゆさし始めて大きくなった気がする。
そんなキノコ大根たちがユーシスさんの足元に集まってきて、ちょんちょんと靴をつついて何かを訴え始めた。自分や隣のキノコを指さして、なんか頭を差し出している。
「もしかして、この花(?)の部分を取ってほしいのか?」
綾人君が指で花(?)をつつくと、「あはーん」と今まで聞いたことのない声を出して、今度は綾人君の足に群がってきた。
綾人君は非常に複雑な顔をしてユーシスさんを見つめた。
嫌な役目を押し付けたいんだね。
ユーシスさんは無の表情になって、腰から短剣を抜くと、手早くキノコのお花を刈り取っていく。「きぇぇぇぇ!」という気持ちいい時に出る悲鳴を上げながらうっとりとしていたけど、次第に眠そうに目をこすり始めて、四匹は鉢の中に入っていった。
そして、それまでのけたたましさが嘘のように、全員がぐっすり眠った。
「マンドラゴラって、チョコでドーピングできて、花を取ると休眠するんだぁ」
ぽそっと呟く綾人君だったけど、多分みんなおんなじ気持ちです。
微妙な空気が流れる中、突然私たちが来たのとは違う方向から人の声が聞こえた。
私以外、全員が身構えたけど、現れたのはファルハドさんたちの組の人だった。
「あ、ハルさんだ!良かった、会えて!」
ラハンさんがいの一番に私たちに駆け寄ってきた。少し慌てている様子だ。
「どうした、そんなに慌てて」
「オーレリアン様!ファルハドさんが、変な銀色の小人に絡まれて、婿にされそうになって、断ったら変な薬を嗅がされて、動けなくなっちゃったんですぅ」
ああ。大体事情は分かった。やっぱりノームたちは面食いのようだ。うちの二人みたいに、適当に言いくるめずに、正直に断ったんだろうなぁ、ファルハドさん。
で、強硬手段に訴えるくらい、ノームたちファルハドさんのこと気に入ったんだろうね。
その被害者のファルハドさんはというと、くてっとしてスイランさんにおんぶされていた。ファルハドさんを誘拐しようとしたノームたちは、全部スイランさんが蹴散らして、意識のないファルハドさんをここまでおんぶしてきたらしい。
さすが魔物を素手で粉砕できるユーシスさんポジションの人だ。
「世話をかけてすまない、ハル。ポーションがあれば分けてもらいたい」
スイランさんが本当にすまなそうに謝る。全然迷惑じゃないんだけどね。
なんだかんだ言って、スイランさんはファルハドさんのことを心配しているようだ。
と、思ったけど「金五百万支払わせて、眉毛を全部抜いて詫びさせる」と言い出した。
金ってセリカのお金の単位で、レンダールだと一億ウェンくらいだ。ファルハドさんの年収の約四倍でぼったくりもいいところだし、ファルハドさんならカッコいいかもしれないけど眉毛も抜かなくていいです。
でも、ポーションよりも確実に効くものがある。
私は、ユーシスさんから預かったキノコ大根を絞った汁を取り出した。
セリカの人たちの動きが止まった。
「効果は保証しますが、拾い物なのでお金も眉毛もいりませんので」
「……ハル。さすがのわたくしでもファルハドに同情する」
ノームのお墨付きの万能薬の元らしいので、私は王子の時のように数滴ファルハドさんの口にビニール袋から直接垂らした。すると、たちまちファルハドさんが意識を取り戻す。
「ハル、あんたが助けてくれたのか。ありがとう。なんか、喉がイガイガするが」
私はそっと絞り汁を収納にしまって、罪悪感に笑顔が引き攣る。
王子がニヤニヤしながらファルハドさんを見ていたけど、王子もそれ飲んだんだよ。
とりあえず、ファルハドさんの体調を見るために、みんなでここに留まることにした。
道はあと二つ見えるから、もしかしたら、ここにいたら有紗ちゃんたちとも合流できるかもしれないしね。
私たちはダンジョンの中だというのに、ゆったりとした時間を過ごした。二杯目のコーヒーがおいしいね。
そんな和やかな雰囲気のなか、突然レアリスさんが「あ」と声を上げた。珍しい。
少し困惑した表情で「動いた」と卵を撫でながら妊婦さんみたいなことを言う。
動いた?
レンダール側が何かを察してレアリスさんの所に集まる。スリングを見ていると、確かにもぞっと卵が動いた。
レアリスさんが珍しく慌ててスリングを外そうとしたけど、その途中で卵のてっぺんがパカッと割れて、中から小さな黒い手が出てきた。
そのまま殻を破ってきて来たのは、真っ黒で大きな金のおめめをした、可愛い竜の赤ちゃんだった。
レッドさんたちが幼体化した時よりも更に小さくて、本当の生まれたての姿だ。黒もニーズヘッグさんのような漆黒じゃなくて、深い紫がかった黒だ。
その赤ちゃん竜が、抱っこしていたレアリスさんを見つめて、「きゅい」と鳴いた。可愛い!
「ああ、こやつ、この者を母親だと認識したようだ」
スイランさんが横からそう言った。鳥の刷り込みと同じで、最初に見たものを母親だと思う習性が竜にもあるようだ。
レアリスさんが恐る恐るスリングから赤ちゃんを抱きあげると、くあっとあくびをした赤ちゃんの口から小さい火が出た。可愛すぎる。
みんな、この赤ちゃんにメロメロだ。
「して、この竜は、伝説の悪竜と同じ色合いだが、いったいなんなのだ?」
スイランさんが尋ねる。その声は少し硬質だった。
そういえば、スイランさんにはまだ詳しく話をしていなかったかも。
スイランさんにとっては、可愛さよりも有害なものかそうでないかが重要のようだった。
そこへレアリスさんが声を上げる。珍しく説明を買って出てくれた?
「私が生みました」
そうじゃないんだ。
みんなが一斉に心で突っ込んだ瞬間だった。
突然母性に目覚めたバリスタ。
スライムに心奪われる勇者。
ジブリ飯。
どなたか、アウト判定(通報)前にボーダーラインを教えてください。