112 カッコいい大人とダメな大人
今回は、血を吐きながら頑張った(嘘)
前回が最大の断罪劇なら、今回は最大の恋愛パートだぁ!!
あ、こんなところにネズミが。
『で、あんた誰だよ。エレナでもないし、ルヴィアでもない。って、そういえばさっきあんた、喋っていたのって、日本語じゃ……』
黒い画面の向こうから、綾人君の困惑した声が響く。
綾人君は思ったより落ち着いた男の人の声をしていたけど、あちらからしたら、この状況は完全にキャパオーバーの事態だろう。私だって、何がどうしてこうなっているのか分からない。
「えっと、私は結城波瑠、日本人です。今、エルセのレンダールにいます。私たちがいるのは、綾人君がレンダールにいた時から三百年後の時代です」
戸惑いながらも、私はこちらの状況を伝える。とにかく、今何が起きているのかを整理するのが急務だ。
『……三百年って、嘘だろ。待ってくれ、そしたら夕奈は……?』
愕然とした声が返って来る。
「ねえ。私は北条有紗っていうんだけど、こちらにはさっきの結城さんと一緒に聖女召喚で転移したの。君って、今どこにいるの?」
有紗ちゃんが代わって綾人君に尋ねた。そう、それ。いったいこの通話はどこに繋がっているんだろう。
『あ、そうだよな。俺が今いるの、20〇〇年7月16日の渋谷。俺は、エルセからこっちに帰ってきたけど、転移したのと同じ日付の2月6日に戻ってたんだ』
「こっちも7月16日だよ。私たちも2月6日に召喚されたの」
『嘘だろ。召喚された時も帰った日も一緒なのに、今はあんたたちと同じ時間が流れてる』
一瞬綾人君の声が詰まった。そして、その背後からチャイムのような音がした。
『あ、ちょっと待って。今、大学なんだ。どこか適当に空き教室入るから!』
そう言って、少しガサガサっという音がした後、ガチャッとドアを開ける音がした。そっか。召喚時に十八歳ってなってたから、約半年で大学生になっているんだ。
『悪い。で、あんたたちって、何がどうなってるの?ビデオ通話できる?』
部屋に落ち着いたらしい綾人君が、何かを確かめようとして尋ねてくる。映像の方が情報量が多いから切り替えようとしたけど、ビデオ通話は何故かロックされていた。
「ダメみたい。あれ?なんかゲージみたいなのが出てきたけど、なんだろう」
黒い画面の機能のアイコンの下に、見たことの無い「通話ゲージ」というのが表示されていた。オレンジ色のそれは、見ているうちにどんどん消費されていく。
『ホントだ。……マジか。ヤバい。多分これがなくなったら、この通話、終わるんじゃね?』
残り三分の二といったところだ。
『悪いけど、ちょっとこっちを優先させて。ねえ、そっちの世界で夕奈ってどうなった?俺たち、帰る時にバラバラになっちゃって、夕奈こっちに帰って来てないんだ!』
切羽詰まった声だった。夕奈さん、帰ってなかったの?
「ごめん。私たちは、あなたたちの足跡を探してこのタブレットに辿り着いたんだけど、二人についてはあまり詳しいことが残されてないみたいなの。この国の人に替わるね」
王子なら、聖女や勇者の歴史に詳しい。私がタブレットを王子に渡そうとすると、王子が私に眉を顰めながら聞いた。
「ハル。悪いが、勇者が何て言ってるか分からない」
私たちは変わらず日本語を話している。でも、王子たちエルセの人たちには綾人君の言葉だけ分からないようだ。
王子たちは、少なくとも公用語のレンダール語とセリカ語は話せるはずだから、綾人君が話しているのは日本語で間違いない。でも、私たちの日本語は聞き取れても、タブレットから流れる綾人君の日本語は分からないらしい。
そういえば、レアリスさんにいろんなラテアートの動画を見せた時も、日本語は翻訳されないって言っていたっけ。
私がそれを綾人君に説明すると、少しだけ間があったけど、すぐに状況を把握したみたい。
『分かった。夕奈については、あんたたちも知らないんだな。もうゲージも少ないから、このゲージが溜まる方法を模索した方がいいな。何か手がかりある?』
多分、お姉さんのことで聞きたいことが山ほどあるに違いないのに、綾人君は冷静だった。レジェンドたちの話や日記から想像していたのより、ずっと落ち着いた感じだ。
有紗ちゃんが、私と綾人君の通話を同時に訳してくれていたので、王子が何か思いついたみたいだった。
「もしかしたら、お前のスキルで鑑定したら分かるんじゃないか?」
そうか!その手があった。
「もしもし、綾人君。もしかしたら、通話の仕組みが分かるかもしれない。そのためには、このタブレットを一回私の所有物にしなくちゃいけないんだけど、いいかな」
『……なんか分かんないけど、いいよ。もう、そのタブレットは無いものだと思ってたから』
「な、なるべく、ブラウザの履歴とかアプリとか開けないから……」
あまりに潔い言い方に、私の方がちょっと気を使った。
すると、綾人君は楽しそうに笑う。
『何?変な履歴とか心配してくれた?大丈夫。それ、ほぼ夕奈との共有だから。あ、でも、夕奈が変なの見てた気がする。ま、そんな訳で、いかがわしい履歴は全部夕奈だから』
「な、なるほど。了解しました」
声だけだけど、なんかサラッとした好青年って感じ。勇者として召喚されるだけあって、オーラがある。
それに引き換えうちの王子とレアリスさんは、何かを嗅ぎ付けたのか「いかがわしいってなんだ」と興味津々になっていたけど、二人が喜びそうなものはないそうなので無視。取りあえず、「宗教画」的なのが出てくる可能性はあり、ということで。
「えっと、連絡できるようになったら、すぐ伝えるね。どうやら、今は同じように時間が流れているみたいだし、三百年はかからないはずだから」
『ありがとう、結城さん。北条さんもありがとう。よろしくお願いします』
黒い画面の向こうでは、頭を下げているんだと分かった。律儀ないい子だ。
こうして、短い綾人君との通話は終わってしまった。けど、私の仕事はここからが本番だ。
王子たちに見守られながら綾人君のタブレットを、亜空間収納に入れた。すると、すぐにいつものピロリーンという音が鳴った。
〝勇者綾人のタブレット(状態:良好) 現時点で唯一地球と交信できるアプリ『エルセ』搭載(通話は勇者綾人に限られる) 聖女夕奈の『宗教画』『聖典』のデータが多数貯蔵されている〟
はい。要らない情報も入ってますね。
で、いつものスキルが説明したいと思われる場所が赤文字になっているので、ぽちっとする。段々、この状況も慣れてきたなぁ。
〝通話ゲージ:地球との交信に必要なエネルギー量を表し、時間で回復するゲージ。通常は一週間で満タンになるが、自然の魔力が豊富な場所では三日で溜まる〟
なるほど。何か貴重な素材を持ってこいとか、生贄を捧げよとかじゃなくて良かった。
「もし、お前の言う通話が可能なら、勇者が持っていた情報を共有することができるな。大収穫だ」
王子がよしよしと私の頭を撫でる。わーい、褒められた!
多分、さっきは五分くらい話せたはず。もしかすると、満タンじゃなくても一分くらいなら通話も可能かもしれない。二日くらいしたら試してみよう。
ちなみに、魔力と言うから、試しに王子がタブレットに魔力を流してみたけど、うんともすんとも無かった。どうやら人間が意図的に流したものやポーションでは駄目みたいだ。
「自然の魔力が豊富な場所と言えば、これから俺たちが行く〝黒の森〟は最適だ。だが、どこでも魔力が自然に湧き出るような場所はたまにある。取りあえず、道中でもそういった所を見つけたら積極的に寄って行けば、そのゲージとやらも溜めやすいだろう」
なるほど。じゃあ、いつもタブレットを持って歩き回れば、その湧き出る場所も見つけやすいね。なんか、そんなスマホゲームあったなぁ。
『そう言えば、そういった魔力溜まりは、卵の孵化にも効果的だ』
小さいレッドさんが私に教えてくれた。レッドさんが言っているのは、私のスキル『回帰』で生まれ変わったファフニールの卵のことだ。普通に温めても孵らないらしいから、みんなでどうしようと思っていたけど、最初からレッドさんに聞いておけばよかった。さすが同族の竜だね。
よぉし、これからは卵も一緒に移動してGOだ!
でも、綾人君はちょっと心配なことを言っていた。姉の夕奈さんが一緒に戻っていないって。
綾人君の足跡を辿るのもだけど、夕奈さんの方が急務になった。重ね重ね、さっきお父さんが夕奈さんの遺物を粉々にしちゃったのが悔やまれた。
うん、なくなってしまったものは仕方ない!元々、本命はヴァレリアンという場所にいるリヴァイアサンさん(言いづらい)だものね。
そう言ったら、「ハルはあまいなぁ」と王子が苦笑していた。
『魔力溜まりは、私が感知できるぞ』
そう言ってちょっと得意げなのは、まゆ毛を消したお父さんだ。まゆ毛犬のままだと、みんなの腹筋が崩壊する未来しかなかったので、刑罰は終了した。クレンジングオイルで取ってあげたから、ちょっとテカテカしている。
お父さんはどうやら汚名返上したい様子だけど、今度はあまり張り切らないでね。
「よし。今日はもう切り上げて、明日の出発に備えるか」
王子がそう言って締めくくると、みんな賛成した。午後になったばかりだけど、また旅が始まるからゆっくりしておいた方がいいかもね。
みんなとワイワイしながら、ちょっと焦げた展示室を後にした。
夕食をみんなと食べるために、王子に小さくしてもらったお父さんが、王子と私に寝る前に庭に出てみようと言った。
どうやら数日前のお茶会の際に、少し気になる場所があったらしい。
どうも、異常に虫が少ない場所だったようで、そういう生き物が寄り付きにくい場所は、昼間に言っていた魔力溜まりの可能性があるって。
夜の九時くらいに待ち合わせをして、その庭園へ行ってみた。
私がタブレットを持って、王子が仔犬化したお父さんを抱っこして。
虫よけスプレーはお父さんが嫌いなので、二人で子供用の虫よけシールをTシャツに貼った。王子は私が出したTシャツとジャージにゴツめのサンダルを履いていて、やっぱりコンビニに行く大学生みたいだ。だいたい最近は、お風呂に入った後はこんな格好しかしなくて、イリアス殿下に苦い顔をされている。
夜の九時と言っても、上弦の月が明るいから散策には問題なく、庭園も昼間とは別の華々しさがあって来てよかったと思った。
侯爵家の広い庭園は四区画あって、今が見頃の花を集めた区画と、バラ園、常緑樹の生垣で作ったアートな空間、ビオトープに近い池のある野趣あふれる区画だ。ちなみにお茶会をしたのは生垣のある場所だ。
私たちは、その池の方に向かっていた。
お父さんがお茶会で退屈して、ちょっと冒険(脱走)をしていた時に気付いたらしい。池なのに虫がいなかったので気になったんだって。その池は庭園の一番端にあるので、生垣を通り抜けて行く必要がある。
ちゃんと整備されて歩きやすい庭園を、他愛もないおしゃべりをしながら、三人で進んでいく。お父さんの毛並みもだけど、王子の髪もレジェンドに劣らず、月明かりでキラキラしている。綺麗だなぁと思いながら、二人を眺めていた。
ふと思ったけど、これってなんかデートっぽくないかな。お父さんいるけどね。
ちょっとドキドキして歩いていて気付いた。
そう言えば、私は身長も低いから足も短いし、歩くのも遅いけど、王子は歩くスピードを私に合わせてくれている。普段はみんなを引っ張って先を行く人で、たまに子供っぽかったり怒ると恐かったりするけど、こういう所は普通の優しい男の人だと思った。
今、手をつないだら、びっくりするかな。
そんな不純なことを、ちょっと考えていたら、急にお父さんが声を掛けてきた。
『この先に、人間の気配がする。二人、いるな』
私たち以外にもお散歩の人がいるのかな。あ、私たちは調査に来たんだった。
特に警戒も無くトコトコと歩いて行くと、遠目に、こちらに背を向けた大きな人と華奢な人が並んでいるのが見えた。イヴァンさんとオクタヴィア様だ。
私が声を掛けようとしたら、何か簡単な魔法を使ってから、急に王子が私の腕を引っ張って近くの生垣に隠れた。
「急にどうしたの?」
「いや、イリアスを見習ってじゃないが、一応、なんで二人が会っているのかはっきりするまで、俺たちがいることを知られない方がいいかと思って」
まあ、二人は侯爵の被害者同士と言えるけど、二人が何か意図を持って以前から手を組んでいたんじゃないかと疑っているみたい。違うと思うけどなぁ。
念のためと言って、王子は水鏡みたいな視界を歪める認識阻害の簡単な魔法を使っていた。で、私の肩をグイッと引き寄せた。この魔法は、こちらの音も気配もある程度遮断するし、あちらの音を拾いやすくなるけど万能じゃないらしく、できるだけ魔法を張る範囲を狭くしないとバレる可能性が高くなるって。
王子と肩と肩がくっついて、ドキドキが止まらない。私の呼吸とか心臓の音とかが聞こえて、私がこんなにドキドキしているのに気付かれないかな。
お父さんが王子の頭に乗っているけどね。
そんな気持ちを隠しながら、私の腰ぐらいの高さの生垣に隠れて、こっそり二人の方を窺った。私たち、いったい何してるんだろう。
あちらの二人は、しばらく少し距離を空けながら、静かに月を眺めているようだった。
「あの時、奴隷紋の魔術を受ける前、薬を飲まされそうになったのを止めてくれたのも、あんただろ?」
イヴァンさんの重低音だけど、優しい声がした。その声にオクタヴィア様がそっとイヴァンさんを見た。
「聞こえていたのね。そうね、あなたなら薬の影響も乗り越えられると思ったけど、後々までの影響が少ない方がいいと思ったの。余計なお世話だったかしら」
少しツンとしてオクタヴィア様が言う。それを小さく笑いながらイヴァンさんが見た。その視線を受けて、オクタヴィア様はちょっとだけ目を伏せるようにする。
「分かってるわ。可愛げがないと思っているのでしょう?」
「何故?俺は深い感謝しかないが」
「何故って、従順でもないし、媚びることもできない。それに気が強いわ」
「頼りなさげで従順で媚を売る女か?そういう女が好きな男もいるだろうが、俺は別に魅力を感じない。それに、あんたは違う方法で自分や大切なものを守ってきたんだろう?どこに恥じるところがある?」
そう言って、イヴァンさんはオクタヴィア様の左手を取った。
そして、その掌に軽く口付けを落とした。オクタヴィア様の目がこれ以上はないというくらい、大きくなる。
え?なに?雰囲気が甘い!
「ここを自分で切り裂いたあんたは、最高に格好良い女だったよ」
あれは、ソロモンの指輪を侯爵に使わせないための自傷行為だった。でも、確かに私も、あの時のオクタヴィア様はカッコいいと思った。
「今のあんたがそうあるのは、恐ろしいことからも目を背けず、勇敢に立ち向かってきた証だ。だから、もっと自分を誇れ」
自分に向けられた訳でもない言葉だけど、私の胸にも深く響いた。言われたオクタヴィア様はどれほど胸を打たれたことだろう。
その証拠に、その綺麗な赤い瞳から、涙が止めどなく溢れているようだった。
「やめて。ここから居なくなる人がそんなこと言わないで。そんなことを言われたら、わたくしは弱くなってしまうわ」
心から寂しいと訴えるようにオクタヴィア様が言った。私まで胸が苦しくなりそうだ。
それをイヴァンさんがギュッと抱きしめた。
そして、長い時間をかけてポツリと言った。
「なあ。俺たちと一緒に行かないか?」
多くは語らなかったけど、その言葉は、イヴァンさんの想いを鮮明に表していた。
オクタヴィア様はしばらく動かなかったけど、恐る恐るイヴァンさんの背中に手を回し、シャツをギュッと縋るように掴んだ。そして、ゆっくりと時間を掛けながらその手を放すと、身体を遠ざけてイヴァンさんを見て首を振った。
「ありがとう。こんなに嬉しいことがあるなんて、罰が当たりそうだわ。でもわたくしは、ここに残らなくてはならない。それに、イヴちゃんを預からせてほしいの」
イヴァンさんをこれから誘う場所は、危険が伴う場所だ。だからイヴちゃんを誰かに預けなければならない。イリアス殿下に頼めば、王都でちゃんとした暮らしはできるだろうけど、イヴちゃんはまた一人になってしまう。
このオクタヴィア様の申し出は、きっとイヴァンさんには願ってもないことだ。イヴちゃんはオクタヴィア様にあれだけ懐いていたから。
でも、なんて切ない言葉なんだろう。二人ともきっと、お互いの気持ちが伝わっているはずなのに。
イヴァンさんが、オクタヴィア様の頬に手を当てて撫でた。
「それなら、俺を、待っていてほしい」
イヴァンさんの言葉に、またオクタヴィア様が嬉し泣きのような顔になった。
「……待っていて、いいの?」
「ああ。あんたが、俺の帰る場所になってくれるか?」
オクタヴィア様は、泣きながらもハッとするほど綺麗な笑顔を見せた。その笑顔に、イヴァンさんの顔が重なった。
え?キスしたぁ!?
それほど長くない時間で二人は離れた。その離れ際、イヴァンさんはオクタヴィア様にそっと言った。
「〝オクタヴィア〟は、貴族名だろう。あんたの本当の名を教えてくれないか」
そうか。オクタヴィア様は孤児院にいたと言っていた。本当の名前があるんだね。
「ラナ」
小さな声だったけど、しっかりとした声だった。それに応えるように、イヴァンさんは低く蕩けるような声で「ラナ」と呼んだ。
胸が、部外者の私の胸がキュンとした!
当のオクタヴィア様は、まるで少女のように恥ずかし気に頬を染めて俯くと、「先に戻ってますわ!」と言って、ヒールなのに走って逃げた。健脚だ。私たちの横を通り過ぎたけど、こちらには気付かなかったようで私たちはホッとする。
でも、その後をゆったりと追いかけるようにイヴァンさんが歩いてくると、私たちの茂みの前に立ち止まった。バレてるぅ!!
「まったく、悪い王子様とお嬢ちゃんと魔獣だ」
そうは言ったけど、イヴァンさんは怒ってなくて苦笑していた。
私が謝ろうとしたら、自分の唇に指を当てて「静かに」とジェスチャーをする。そして、余裕のある笑みを浮かべて私たちを通り越すと、無言で手をひらひらと振った。
大人だぁ。カッコいい大人だぁ。
「王子。私たち反省会だね」
「ああ。粛々とやろうな。フェンリル、あんたもな」
『……分かった』
完全に出歯亀と化した私たちは、大いに反省しながらその場を後にした。
はぁ、と溜息を吐くと、先を行く王子がちょっと振り返った。
何だろうと思って近付くと、私の左手をギュッと握った。そして、びっくりして目を丸めた私に何も言わずにそのまま歩き出した。
王子に抱っこされてるお父さんは、くあっとあくびをして見えないふりをしている。
私たちは、手をつないだまま夏の夜の庭園を、何も言わずにゆっくりと歩いて帰った。
次の日、反省会という酒飲みでちょっと顔がむくんでいる王子と寝不足の私、ツヤツヤの仔犬化お父さんにハティが言った。
『昨日、みんな遅かったね。何してたの?』
『それはだな、庭に魔力溜まりがありそうだったから……』
お父さんがハティに説明しようとして、止まった。
『「「……あ……」」』
当初の目的を完っ全に忘れた、ダメな大人が三人いました。
ごめん。綾人君。
まさか、この物語初のチュー(くち)が、あいつに搔っ攫われるとは。
いや、王子も頑張った。
王子はまず、となりのトト〇のカ〇太を目標に頑張っています。
皆さん、王子を応援してあげてね!




