111 お父さんを処す
このお話最大の断罪劇です。
真面目なヤツと、お察しのとおりそうじゃないヤツもあります。
2月25日、ちょっと加筆しました。
拘束した侯爵や大司教たちを連れて外へ出ると、私たちを包囲していた兵士さんたちの前で大あくびをしながら、馬車の中に置いてあったお父さんのフェイクおもちゃで遊んでいるレッドさんに出くわした。その異様な光景に、兵士さんたちは怯えていた。
まあ、伝説のおっきな竜が、白いちっちゃなワンちゃんのおもちゃを、爪で突いたり、音を立ててキャンキャン吠えさせたりしている絵面って、結構くるものがあるよね。
「えっと、レッドさん、ありがとうございました。それと、一人にしてすみませんでした」
『いや、なかなか楽しかったぞ。なあ、フェンリル』
そう言って、おもちゃのワンちゃんに話しかけている。
『私はこっちだ!』
オクタヴィア様に抱っこされながら出てきたお父さんが、憤慨してレッドさんに怒鳴る。
『ああ、すまぬ。間違えた』
そう言って、またおもちゃに謝るレッドさん。好きだね、お父さんをからかうの。
お父さんは、オクタヴィア様の腕から逃げて、レッドさんにギャンギャン文句を言っているけど、その姿はまさにワンちゃんのおもちゃと瓜二つだ。嫌なら元の大きさに戻ればいいのに。結構、その姿に慣れちゃったんじゃないかな。
『ハッ。私は何をしているのだ。元に戻ればいいのではないか!?』
ああ、気付いちゃった。
自力で元の姿に戻ったお父さんは、再びレッドさんにギャンギャン文句を言っていた。
あれ?大きくなっても、あまり変わらないね。
そこに、眠ったままのイヴちゃんを抱っこしたイヴァンさんがやって来た。
そして、レッドさんを前に、片手を胸に当てて頭を下げる挨拶をする。畏まった様子に、さすがのお父さんも静かになって場所を譲った。
『全て終わったのか』
「はい。元凶はもう二度と、その力を揮うことはできないでしょう」
そう言って、この数十分で何十年も老けたように無力化した侯爵を見た。
「故郷を併合したデューズを支援していた侯爵の失脚で、一時は資金源が断たれて混乱をきたすでしょうが、あそこには妹が残っております。弱体化した部族の経済を立て直す時には、どうしても妹の力が必要となるはずです。我がオルドウィケスは強かですので、おそらく一年もしない内にデューズを内部から牛耳っていくでしょう」
どうやら、イヴァンさんの妹さんは、併合の際に人質としてデューズの族長に嫁いだそう。併合が一方的な侵略ではないとこじつけるために、婚姻でその正統性を補ったようだ。そして、妹さんは部族の統治に幼い頃から携わっており、部族の地力が元から飛びぬけたオルドウィケスの統治力に頼らざるを得なくなるだろうということだ。
どれほどの辛い仕打ちを受けたか、部外者である私ですら分かるのに、イヴァンさんは復讐を考えていなかった。それは、イヴァンさんの器の大きさを物語っていた。
「そこは、わたくしが持つ商会が、全力でお支えします」
イヴちゃんを抱っこした側にオクタヴィア様が並んで、オルドウィケスと縁の深いレッドさんに誓うように、イヴァンさんに向けて言った。
「ああ。頼む」
イヴァンさんは、目を眇めるようにオクタヴィア様を見て、温かさが滲む声で言った。その眼差しを受けたオクタヴィア様も、イヴちゃんに手を当てて少しはにかむように目を伏せて頷く。眠っているイヴちゃんを挟んだその光景は、一瞬三人が家族のように見えた。
『して?そなたはシャイアに戻るのか?』
レッドさんがイヴァンさんにそう尋ねた。シャイアは、オルドウィケスやデューズなどの部族がある小国家群全体を指す地域名だ。その問いに、イヴァンさんは首を振った。
「俺は戦うことしか能の無い人間です。俺が戻れば、ようやく戦から解放された故郷に、再び争いの火種を蒔くことになる。それは、愚かなことです」
そうイヴァンさんは言ったけど、人間としての器量も〝竜殺し〟としての名声も実績もある。誰の目にもイヴァンさんは人の上に立つ器だと明らかだ。
でも、だからこそ、併合されたオルドウィケスの人たちがイヴァンさんの無事を知れば、誇り高い一族だから、イヴァンさんを旗頭として戴いて蜂起し、また血で血を洗う戦争になってしまう。イヴァンさんは、それだけはしてはいけないと言った。
「それなら、俺たちと来いよ。多分お前の力が必要になる」
王子が、何でも無い事のように言った。イヴァンさんが少し目を大きくする。
イヴァンさんの力が必要になるって、多分、前に私が鑑定した瘴気に纏わることだ。瘴気の元となる何かがいる〝果ての迷宮〟に行くのに、イヴァンさんのような人がいてくれたら、こんなに心強いことはないものね。
「俺は、奴隷上がりの人間です。殿下のお側にいるには……」
「いいんじゃねぇか?どうせ俺の周りにいるのは、出世も見込めないのに仕えるもの好きの騎士とか、組織に逆らって命を狙われた護衛とか、甘えたいのにカッコつけてる仔狼の上位魔獣とか、自分で飼い犬宣言する伝説級の魔獣とか、極めつけは人外スキルを持ったオモシロ異世界人とか、毛色の変わったヤツばっかりだ。戦争奴隷ぐらい普通だろ」
『『「なんで(だ)(だよ)!!」』』
変わったヤツと言われてユーシスさんやレアリスさんは苦笑するだけだったけど、私とお父さんとガルが、王子の酷い言葉に一斉に突っ込んだ。「面白い女」だったら聞いたことあるけど、オモシロ異世界人ってなに!?
三人で王子にギャンギャン文句を言ったけど、スルーされた。
「……本当に、俺でいいんですか?」
「何度も言わせるな。お前がいいんだよ」
そう言って王子が軽く笑うと、イヴァンさんはまた少し目を丸めた後、同じように笑って王子の前に跪くと、王子の手を取って押し戴いた。
「微力ながら、お供させていただきます」
「ああ。よろしくな」
なんか、映画のワンシーンを見ているようだった。こういう時、何て言ったらいいか分からないけど、王子が大国の王族なんだって改めて実感する。
私たちの後ろの方で、有紗ちゃんとリウィアさんが、「あれを女の子にやれれば、モテると思うんだけど」「それが殿下ですから」とぼそぼそ話しているのが聞こえた。私は、さっきの「おまえがいい」っていうのを他の女性に言っている王子を想像して、ちょっとモヤッとした。王子の中で私は「オモシロ異世界人」だから、多分私は言ってもらえない言葉だ。
でも、それでもいいと思う。
王子だって、王位継承権はなくてもいずれは結婚する日が来る。それが政略結婚でなく、王子が好きな人だったらいい。私は玄武のメイさんが言っていた〝万能の霊薬〟を作って、王子にその好きな誰かとの幸せな時間を作ってあげられたら、もう多くは望まない。
あれもこれもと欲張ってはダメだ。本当に大切なことを見失ってしまうから。
『よぉし!話は全部済んだのなら、海鮮とやらを食べに行くぞ、オーレリアン!』
「全然終わってねぇよ!」
お父さんと王子の会話が聞こえてきて、クスッと笑ってしまった。
この声を、今一番近くで聞けるだけで幸せだなと思った。
そんな中、何故か黙ってオクタヴィア様を見たイヴァンさんと、そのイヴァンさんと目が合って寂し気な笑みを浮かべたオクタヴィア様がいた。
全部が終わった後、王宮へスコルがお使いをしてくれて、速やかに転移陣で調査のための人が送られてきた。王宮と神殿の両方からね。
私たちを囲んでいた外にいた兵士たちは、神殿の騎士と侯爵家のもので、王族の警護という名目で駆り出されていたと分かった。それをイリアス殿下の名で施設ごと接収した。
侯爵や大司教の謀反を知らされると、多くが戸惑いながらもほぼ無抵抗で従ってくれた。抵抗したのは事情を知って加担していた指揮官だけで、兵士たちはどことなく不穏な空気を感じていて、その原因が分かり安堵していたようだ。
以前から、不自然な脱走兵がいたらしく、無敗のイヴァンさんが来るまでは、剣闘奴隷の代わりに下級の兵士が闘技場へ送られていたようで、娯楽で仲間が犠牲になっていたことを知って強い憤りを表していたそうだ。そして、その犠牲がもう出ないことに殿下たちにとても感謝していたと言っていた。
その際の見世物に参加していた上流階級の人たちや、侯爵の資金源となっていた秘密の商会など、帳簿を押収してこれから詳しく調べるみたい。
その他の、謀叛や違法闘技場に加担していた上級の軍部や役人、侯爵家の人間は案外少なく、かなり秘密裏に進められていたようだ。いざとなればグリモワールやソロモンの指輪で従わせることができたからだろうと王子が言っていた。今はもう、ソロモンの指輪もお父さんに壊してもらい、誰も使えなくなったよ。そして、そういった加担していた人たちは、今回のイリアス殿下と王子の訪問でこのアルテに集まって来ていたので、王族二人が命令を出すまでもなく、虐げられていた使用人たちによって捕らえられていた。
その家門の貴族の中には、お茶会で毒を盛ってオクタヴィア様に罪を着せようとした家門や、妊娠初期のオクタヴィア様を階段で転ばせて流産させた人たちもいて、オクタヴィア様に助けてもらった使用人たちの証言や隠し持っていた証拠で罰されるとのこと。
失ってしまった命は戻らないけど、悪いことをした人たちが正当な罰を受けたことで、少しはオクタヴィア様の心の平穏に繋がるといいな、と思った。
オクタヴィア様に従っていた使用人のレネさんは、オクタヴィア様の弟だった。同じ黒髪で、レネさんの瞳の色は青だけど、あの赤い瞳は女性にしか現れないそうだ。
レネさんは別の孤児院に引き取られていたのを、伯爵家に引き取られてから数年後に見つけ出し、周りには弟だと秘密にして従僕として雇ったそうだ。
ようやく、隠さずに家族として過ごせることを、二人は心から喜んでいたよ。
オクタヴィア様の罪については、まだちゃんとした判断はできないけど、これまでの侯爵家の悪事の隠蔽に加担していたことは罪としても、多くの人がオクタヴィア様の手で救われていたこと、何より、侯爵の謀略を晒して止めたことの功績は大きかったから、イリアス殿下の見立てでは、侯爵家の爵位の剥奪と財産の一部没収か蟄居かというところらしい。侯爵位は多分、これからのオクタヴィア様には必要がないものだよね。
いろんな調査で待機している私たちだったけど、ふと重要なことを思い出した。
闘技場の勇者綾人君の武器は回収したけど、その上の階にあったタブレットやらお財布やら「宗教画」とかを回収してなかった。
私たちは次の日に再び古城の展示室へ向かうことにした。古城の管轄は神殿だけど、今回は犯罪の温床だったから有無を言わせずイリアス殿下が差し押さえた。今のところは誰からもクレームは来てない。
今回は、イヴちゃんはお城でお留守番で、前回私のスキルに収納されていたお父さんと、お留守番だったレッドさんも見たがったので、二人にはまた小っちゃくなってもらってお部屋に入った。
お父さんはハティの背中に乗って、レッドさんは王子の頭にくっついて、玄武さんは相変わらずユーシスさんが抱っこしている。
っていうか、娘の背中に乗るって、いいの、お父さん?
ちなみに、前回「宗教画」が何か分からなかった王子は、昨夜玄武のメイさんに教えてもらい、「燃やせ」と言っていた。気持ちは分かるけど、貴重な資料だからやめておこうね。
そんなこんなで辿り着いた展示室。
試しにお財布を手に取ろうとしたら、保存の魔術はセキュリティ機能付きなのか、何かの障壁に邪魔されて、外から眺めるしかできないことに気付いた。オクタヴィア様や外の神殿の人に聞いても、多分大司教しか知らないようで、解除の方法は分からないらしい。
試しに、イリアス殿下が「解呪」を掛けてみてもダメで、王子やメイさんが見ても、鍵か正しい呪文がないと中の物が破損するかもしれないそうだ。困った。
『ふふふ。ここはやはり、〝最強のペット〟の私の出番だな』
そう言ってしゃしゃり出てきたのはお父さんだ。
『……やめておけ。お主は絶対にやらかす』
冷静なレッドさんにツッコまれたけど、やけにお父さんは自信満々だった。
『なに、私の繊細な魔力の操作なら造作もないこと』
出た。お父さんの「造作もない」。
時に頼もしいけど、時に私たちを恐怖に陥れる言葉だ。
そう言ってお父さんは、ハティから降りると、ボワンと元の姿に戻った。
『良いか、スコル、ハティ。こういう人間の術は、一点要となる場所がある。そして、そこから相手より強い魔力を術に上書きするように流すと、解除の印だと思って無力化するものだ』
『お父さん、すごいね!』
「……デタラメな解除方法なのに、なんでか説得力があるな」
『力技を技術かのように言い切った』
ちょっと娘にいいカッコしたいのか、先生みたいな口調でお父さんが説明するのを、スコルは黙って、ハティは素直に喜んで聞いている。何かを察しているスコルが不憫だ。
でもどうやら、王子やメイさんからしたらダメな説明らしい。
『見よ。父の偉大なる姿を!』
「ちょ、待て、フェンリル!それは雷系を当てたらダメ……!」
王子が叫ぶのも間に合わず、どっかぁぁぁぁん!!!という音が響いた。
気付けば、私はユーシスさんに抱えられていて、そのユーシスさんは「鉄壁」を使ったみたいだ。もうもうとしていた砂煙が落ち着くと、みんなの様子も見えた。
アズレイドさんと有紗ちゃん、リウィアさんはイリアス殿下が「断絶」に入れて無事のようだ。オクタヴィア様は、竜化したイヴァンさんが守っている。子供たちは、ガルが素早く妹たちを遠くに避難させたみたい。王子は、咄嗟にお父さんくらいになったレッドさんが庇っていた。レアリスさんは……要領よくお父さんを盾に後ろに隠れていたよ。
どうやら、みんなはお父さんが何かやらかすと思って、それぞれに待機していたようだ。なので、爆風の直撃を受けたのはお父さんだけみたい。
『ぬぉ、びっくりした!』
あの爆発でも、お父さん無傷。
『「びっくりしたじゃねえ(ないわ)!!」』
王子とレッドさんが盛大かつ同時にツッコんだ。
「どうすんだ、これ!遺物が粉々じゃねぇか!アホか!!」
『やっぱりやらかしたではないか!この駄犬が!!』
『ギャン!』
王子とレッドさんの罵りに、お父さんが鳴いた。
今回こそ、もう弁解の余地はないね、お父さん。
「今度こそ、フェンリルを処す!」
『ああ、やってしまえ。だが、生半可なものでは、あやつには物理も魔術も効かんぞ』
「流星の魔術を落とす!」
『「やめろ!」』
今度はキレた王子に、イリアス殿下とレッドさんがツッコんだ。
そこで、私は突然に閃いてしまった。お父さんに大ダメージを与える罰を。
「はい!私がお父さんに制裁を加えます!」
『「「「「「……ハルがぁ……?」」」」」』
王子、ユーシスさん、レアリスさん、有紗ちゃん、イリアス殿下とガルが私を胡乱な目で見てくる。
なに?私の制裁が信用できない?みんな、私の何を知っているの!?
不審そうな視線の中、私は自分の案を有紗ちゃんにそっと耳打ちした。すると有紗ちゃんは、ハッと両手で口を押えた。
「……波瑠、なんて恐ろしい子……」
有紗ちゃんにお墨付きをもらった私は、ジリジリとお父さんに近付いた。
『……やめろ、やめるんだ、ハル』
「お父さん。セリカで霊廟を壊しちゃったのはみんなを助けるためだったかもしれないけど、今回はさすがにアウトだよ。反省して」
私の言葉に、お父さんが項垂れて観念した。私の目の前まで下がったお父さんの顔を見て、しばらくそのままでいるように言う。
そして、亜空間収納から例のブツを取り出した。
三十秒後。
『『『「「「「「ぶはははははははは!!!!!」」」」」』』』
古城の壁を震わす程の爆笑が響いた。
王子と有紗ちゃんと玄武のメイさん、クロさん、レッドさんが床を転げまわり、ユーシスさんが壁に腕を突いて咳き込んでいる。イリアス殿下は両手で顔を覆って天井を仰ぎ、アズレイドさんは這いつくばって床を叩く。リウィアさんとオクタヴィア様は床にしゃがみこんで両手で顔を覆っており、イヴァンさんは両腕に子供たちを抱えて部屋から飛び出ていった。そしてレアリスさんは、何故か壁際で体育座りの膝に顔を埋め、身体を震わせていた。
なんていう破壊力。
『何だ、何なのだ。いったい、私に何が起こっているというのだ!!』
絶叫するお父さんが、王子たちに近付く。
「ひぃ!こっちに来るなぁ!!ぶはははは!!!」
王子たちは、蜘蛛の子を散らしたように、必死にお父さんから逃げようとする。
『ハル!私にいったい何をしたのだ!!』
必死に訴えるお父さんの顔を見ないように、そっとスマホで写真を撮るとお父さんに見せた。
『なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!!』
両親に聞いたことがあった。昔、学校に迷い込んだ白い犬の末路を。
そこには、太っといマジックで困り眉を描かれ、まゆ毛犬と化したお父さんがいた。
お父さんの美貌、95%オフ。
『ハぁルぅぅううう!!??』
こうして、世紀の断罪ショーは幕を閉じた。お父さんの屍を残して。
爆笑のしすぎで痙攣や吐きそうになっているみんなを助け起こしながら、遺物の残骸を見たら、あるものが目の端に映った。綾人君のタブレット端末だ。
どうやら破壊されたのは、お財布や「宗教画」などの夕奈さんのものだけで、綾人君のタブレットは奇跡的に残っていたようだ。おまけに、お父さんの爆破の余波か保存の魔術が切れていて、それを手に取ることができた。
私はそれを持って、笑い疲れでぐったりしている有紗ちゃんの所へ行った。
「ねえ。これって、使えると思う?」
私が尋ねると、真剣な顔になって有紗ちゃんが私を見た。
「保存の魔術って感熱紙も三百年もたせたんだもの、きっと使えるわね。スマホも充電できたから、これもいけるんじゃない?」
私たちは頷き合って、一応イリアス殿下と王子に説明し、起動していいか確認する。二人は慎重ではあったけど、メモとかアプリとかに何か情報が残っているかもしれないからと言ったらOKを出してくれた。
綾人君のタブレットを充電し、電源ボタンを押す。
黒い画面にロゴが出て来て、起動したのが分かった。
そして、壁紙が出ると、ロックを解除していないのに画面が普通に現れた。いろんな動画やSNS系アプリが入っている、高校生っぽい画面だ。
王子が私たちに声を掛けようとした時、突然、SNSの通話機能の着信音が鳴り響いた。
「え?なんで」
あまりのことに、胸が痛くなるほど心臓が激しく脈打っている。
「おい。それって、もしかして……」
王子の声に、私は恐る恐る通話をスライドさせ、スピーカーをオンにする。
少しだけ、ザザ、と雑音が入ったけど、それはすぐに消えた。
『もしもし、聞こえてるか!?それ、エルセに置いてきた俺のタブレットだよな!?』
涼やかな男の子の声がした。そして、間違いなく相手は「エルセ」と言った。
「……もしかして、綾人、君……?」
震える声で確認する。
そんなことって、あるの?
『ああ、そうだ。綾人だ。俺は、生田綾人』
エルセに残った勇者の遺物は、今本人に繋がった。
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