106 もう、怒った!
20分前のギリギリ投稿。
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大司教が、思わぬ名前をド直球で出してきた。
カラドボルグは、セリカで入手したことは、国、神殿ともに上層部だけは知っている。もちろん大司教もその知っている人のうちの一人だけど、他の武器のことも知っているはずなのに、何故カラドボルグなんだろう。
今、私の手元には、カラドボルグの他、レーヴァテイン、グングニル、盤古の斧がある。おそらくそれは、大司教も知っているはず。
違法奴隷に関わっていて、イヴァンさんとの関わりを知っているから?
でも、イヴァンさんは、あの剣が勇者版オリジナルのカラドボルグだとは知らなかった。
綾人君が名前を言っていなかったようで、イヴァンさんはずっと「宝剣」と言っていた。レッドさんも、私が鑑定で表示するまで、自分の素材が「カラドボルグ」になる、とは知らなかった。綾人君は「剣」や「盾」になる、とは言っていたけど、レジェンドたちにも正式な名称は伏せていた。だから、奴隷主がイヴァンさんを手に入れた時点で、オルドウィケスの宝剣がカラドボルグだとは知らなかったはずだ。
「おや?お嬢さんは、私が何故カラドボルグを名指ししたのかが不思議なようだ。よろしい、少し私に付いて来ていただこうか」
そう言って、大司教は私たちをどこかへ誘導しようとしていた。私は王子を見ると、王子はイリアス殿下に視線をやって、それにイリアス殿下が頷いた。準備OK。
「私も同道させていただけるのだろうか」
侯爵様が大司教に尋ねた。大司教は「もちろん」と笑うと、侯爵様はオクタヴィア様に向かって、イヴちゃんとここに残るよう言った。それをオクタヴィア様が首を振って拒絶する。
「オクタヴィア。私の言う事が聞けないのかい?」
「私も、聖女様や勇者様が残された奇跡を拝見したいのです。このような機会は、もうこの先いつ訪れるか分かりませんもの」
ここに、少しピリッとした空気が流れた。これまで優しく朗らかな態度を崩さなかった侯爵様が、少し威圧的にオクタヴィア様へ言ったこともそうだけど、オクタヴィア様がどこか冷厳とした様子で食い下がったからだ。一瞬、侯爵様の目が冷たく眇められた。
「私たちも構わないが?子供を置いていく理由もないからな」
冷えた目の見本のようなイリアス殿下が侯爵様を見た。勝手にイヴちゃんを置いていくと言ったのが気に食わなかったようだ。
「それは、あまり大人数では、神殿側にご迷惑をお掛けするのでは?」
そっか、自分が行きたいって言ってしまったから、神殿側への配慮だったのかな。
「まあ、奥様もご一緒されても問題ありますまい」
そこに大司教が割って入った。それに侯爵様がふぅと溜息を吐いて奥様の同行を許した。
なんか、凄く息詰まる雰囲気だったけど、オクタヴィア様の手をイヴちゃんがギュッとしたから、その緊張がどこか解けた。
そうしてみんなで「どこか」へ行くことになった。
展示室の壁一面のタペストリーに大司教が手を掛けると、スルスルとロールスクリーンみたいに巻き上がって、石壁に扉が現れた。わぁ、隠し部屋ってヤツ?
そこは部屋ではなく、暗い階段が続いていた。大司教が壁を撫でると、パッと灯りが点く。うわぁ、先が見えないくらい下っていく階段だ。行くのはいいけど、帰りが怖いね。
二人が並んで歩けるくらいの幅の階段に、神殿の人たちに続いて侯爵様、ユーシスさんとアズレイドさんの次に王族二人、オクタヴィア様とイヴちゃん、ガルたち、私と有紗ちゃん、リウィアさんとレアリスさん、最後にイヴァンさんの順で歩いた。
なが~い階段を下った先が、急に拓けた。円形のすり鉢状になった体育館ぐらいのスタジアムみたいな場所だ。あれだ。前にユーシスさんのお仕事を見学した時に行った、騎士団の訓練場に似てる。
地下かと思ったら、どうやら崖に沿って作られていて、柱の奥に海と空が見えて、外から潮騒が聞こえた。
その広い空間の真ん中に、透明な壁みたいなのがあって、そこにいくつかの武器が掛けられていた。さっきの展示室の保護魔法と似た作用のある壁のようだ。
その武器の一つを見て、私たちの動きが止まった。
黒い刀身に魔獣の咢みたいな鍔、赤い宝石が嵌まった細身の剣――――レーヴァテインだ。
「まさか……ここにあるもの全て、勇者の遺物か」
レーヴァテインの他、双剣と長剣が一振りずつ、槍が一条、盾が一枚、それにスケッチブックみたいなのがあった。
スケッチブックは、二ページほどが切り離されていて、武器のデッサンがあった。そこにはレーヴァテインとカラドボルグがかなり精緻に描かれていて、画力の高さに驚いた。これはきっと、勇者綾人君が作った神話級武器の設計図だ。
そして、こしょこしょと走り書きがある。日本語で「綾人、中二病発病中w」とあった。
「…………これ、夕奈さんが描いたんだね」
「…………画力が凄すぎて、一瞬何が書いてあるか理解できなかったわ」
勇者綾人君はアレな方に凄い画力だったけど、聖女夕奈さんは軽くプロなのかっていうくらい上手だった。
それはさておき、スケッチの例のカラドボルグのところにレンダールの文字で「カラドボルグ」とあった。大司教たちがカラドボルグを何故知っていたのかが、これで分かった。
その説明書きに日本語で、「魔力を込めるとピカーッてなって、ブワッてしてザッとなる」と書いてあったけど、光るんだなぁ以外、何一つ分からなかった。
「これは、初代聖女が描かれたものと伝わっております。これで、我々が何故カラドボルグを知っていたか、お分かりになったでしょうか」
人の良さそうな笑みを浮かべた大司教だったけど、それよりも私と有紗ちゃんは、その隣にあった二枚の絵に釘付けになった。
「ああ、やはり初代聖女と同じ世界のお嬢さんたちは、分かるのですね。これは初代聖女が残された異世界の宗教画だとか」
そう言われた私たちは一斉に天を仰いだ。
それは、冷たい感じのレンダール騎士風青年と、中華風の甲冑を着けた精悍な男性をモチーフにした二枚の絵だ。一枚は、青年が脚を組んで座り、精悍な男性が足元に跪いて足に口付ける絵で、一枚は、その逆で血まみれで地面に跪く青年を、剣で顎くいして見下ろす精悍な男性の絵だ。
……うん、確かに、宗教画に……見えなくもない?
「……これ、さ。私たちの目が腐ってるのかなぁ」
「いいえ。間違いなく、BがLするヤツよ」
ああ、メイさんの発言でそうじゃないかと思ってたけど、そうかぁ。夕奈さんは自分で創作ができる人だったんだぁ。
「当時、『聖典』と呼ばれる本もあったそうですが、資格のある女性以外の目に触れてはならないものらしく、わが国の教典を慮ってか、聖女自ら禁書にしたそうです」
そんな私たちを尻目に、大司教が厳かに説明をしている。
聖女夕奈さん。あなたの絵は今、三百年の時を超えて、宗教画として崇められています。
そして、あなたの作った「布教本」は「聖典」と呼ばれています。
ああ、夕奈さん。あなたは何て罪深いのでしょう。
「おい、『びー』と『える』って、まさか、この絵は……」
王子が食い付いた。来ると思っていたよ。でも、もしかして気付いてしまった?
「あれは、そうか、メイが言っていたのは宗教だったのか!」
……王子が鈍くて良かった。
でも、レアリスさんもユーシスさんも気付いたみたいで、光を失った目をしている。あ、ユーシスさんの左のポッケが動いてる。きっとメイさんが反応しているんだ。でも、ユーシスさんが抑えにかかった。あ、大人しくなった。
「大司教よ。貴殿がカラドボルグのことを知っていたのは分かったが、何故それを欲しがる。一度手に入れた物だろうに、失くしたのか?」
ハッ。真面目なイリアス殿下の声に我に返った。そうだ。いよいよ、本題に入らないと。
「これは異なことをおっしゃる。勇者の作りしカラドボルグが見つからないからこそ、そこな異世界人のお嬢さんのカラドボルグをもらい受けたいというのに。それに異世界の遺物を、女神の意思を受けた我々神殿が持つのが道理と言うものでありましょう」
なんで、神殿が神話級武器を持つのが道理なのか分からない。けど、神殿側は勇者や聖女、異世界に関わるものの権利は、全て自分たちが持っていると思っているようだ。
ん?待って。そう言えば何を言っているの?神話級武器を集めていて、カラドボルグを使わせるために、イヴァンさんに奴隷紋を施したのは大司教でしょ?
その違和感に、みんなも気付いたみたい。
それなら、オルドウィケスからカラドボルグを盗んで、事を起こすのにイヴァンさんに使わせようとしたのは、一体誰なの?
「さあ、ではお嬢さん。私にカラドボルグをお渡しいただけますかな?これも神の意思。あなたが持っていても宝の持ち腐れでしょうから、我々が貰い受けましょう」
公正な取引に見せかけようとする大司教に、私は怖くて一歩下がった。何故、神殿が正当な所有者だと思っているんだろう。
「貴殿は『神の意思』というが、女神の神託にそのようなものは無かったはずだ。いつから神殿は女神そのものになったのだ?」
女神の神託は、教皇が受け取り、改ざんも偽装もできない石板に刻まれて公開されるものらしい。どこまで布告するかは神殿の裁量にあるけど、少なくとも王族には公開しなければならない、そういうものみたいだ。だから、イリアス殿下が「知らない神託」であれば、それは女神を騙った神官の妄言となる。そう、イリアス殿下が言った。
神殿側とこちら側で温度の摩擦があったかのように、ざわっと空気が揺れた。
「『従え』」
突然、響いた日本語に、全身が崩れ落ちそうな圧力が掛かり、その場にいた全員が身動きが取れなくなった。
声の主は、大司教だ。
「なるほど。素晴らしい効力だ。王族が持つ護身の魔道具をも通すとは」
そう言って、うっとりと手に持った教典のような本と、その手に嵌まった指輪を見た。
「もっと早くにこうすれば良かった。そうすれば、小賢しい王族や裏切り者の犬に煩わされることも、セリカの諸侯王に貸しを作ることもなかっただろうからな」
とても不快そうな顔で、王子とレアリスさんを睨んだ。私の暗殺を目論んだのは、やっぱりこの人が黒幕だったんだ。
それよりも、セリカの諸侯王って、もしかして。
「白陵王と通じていたのか。いつからだ」
イリアス殿下が吐き捨てた。やっぱりそうだ。白陵王は、自分の野望の為に、レンダールにも手を伸ばしていたと言っていた。王子とイリアス殿下の祖父王の暗殺からという、根深い因縁がある人だ。
そうすると、今回の私たちに関することだけ通じていたのか、もしかしてあの時は神殿勢力とももめ事があったとお母さまが言っていたけど、それもこの人たちが絡んでいるの?
「まあ、随分長い付き合いとだけ言っておきましょう、殿下」
最後の殿下という敬称に、全く敬意はなかった。そうか。こんなところにも王家の仇がいたんだね。神様に仕える人なのに、どうしてそんな酷いことができるんだろう。
でも、その前に、この強力な強制力の元を何とかしなくちゃ。
「ああ、この力が気になりますか?異世界人のお嬢さん」
私の視線に、大司教が揶揄するように尋ねた。
「これも、勇者の遺した物でね、『ソロモンの指輪』と『グリモワール』というものだよ」
グリモワールは分からないけど、指輪はうっすらと聞いたことがある。たくさんいる悪魔を使役するとか、そういうやつだ。グリモワールも多分、そういった「隷従」か「洗脳」系のものだろう。
「これは、掛った回数が多いほど、よく効くようになる。そうだ、面白いことをやってみようじゃないか」
さも名案という感じで、大司教が有紗ちゃんへ歩み寄った。
「さあ、聖女アリサ。その異世界人の娘が身に着けている護身を外してきなさい」
本当にただ語り掛けただけのように思えた。だけど、目を見て話し掛けられたら、有紗ちゃんが急にトロンとした目になった。
そうしたら、有紗ちゃんが私に近付いて、お父さんのブレスレットと王子の指輪を取ってしまった。
「有紗ちゃん!」
「この娘は本当に暗示に掛かりやすい」
戻ってきた有紗ちゃんに、大司教が笑いかけた。そんな、いったいいつから?
「ああ、知りたそうだな。気分が良いので教えてやろう。最初からだよ、お嬢さん」
その言葉に、私は思いを巡らせた。最初って、私たちが召喚された時?
あの時有紗ちゃんは、ユーシスさんに助け起こされた後、確か大司教にスキルを確かめられて……。
「そうだよ。あの時、この娘は攻撃的だと思わなかったかい?」
有紗ちゃんに腕を掴まれて召喚に巻き込まれた私に、確かに最初からいい思いを向けられてないと思った。
「まさか、あの時にはもう、この洗脳が掛かってたの?」
「なかなか賢いな。そうだよ、あの時私が、『ついて来てしまった娘は、お前の立場や命を脅かす存在だ』と囁いたら、あっさりと君を見捨てただろう?」
有紗ちゃんは、ちょっと調子に乗りやすい所もあるけど、基本的には自分の非はちゃんと認める子だ。だけど、あの時はまるで私がいないかのように、まるで敵対しているかのように、とても冷たい態度で私を突き放した。
「いくらクソアリサでも、さすがに胸糞悪いな」
王子も吐き捨てるように言った。
もし途中でレアリスさんが、枢機卿の思惑を疑わなかったら、私たちはしなくていい仲たがいで、永遠に分かれていたかもしれない。
それを思うと、凄い悔しい。お腹の中が沸騰しそうだ。
この世界にきて、こんなに怒ったのは初めてかもしれない。
「有紗ちゃんを返して!これ以上傷付けたら許さないんだから!」
「ほう、許さぬとはどうする?護身の魔道具も無しで、物を出すスキル以外無能な君に何ができるんだね」
「私が無能だって、そんなの私が一番分かってる。でも、あなたは許さない」
有紗ちゃんは泣いてた。洗脳されても、私に意地悪をしたのだって、ちゃんと理由があったし、自分のしたことで私が行方不明になった時は、本当に心を痛めてくれたんだ。
それが、操られて強制的に植え付けられた悪意だったなんて。
「では、君に何ができるか試してみようか?」
「やめろ!こんな枷、外してやる」
何かしようとした大司教に、王子が何か魔術を発動させようとする。ただでさえ、王子の体は蝕まれているのに、こんな強制下で無理やり力を使ったらどうなるか分からない。
「王子、大丈夫。ちょっとだけ、見守ってて。何があっても、最弱の私にできることなんてたかが知れてるから」
「変なとこに、妙な自信を持つな!」
キレのいい王子のツッコミが来たけど、すぐ後に大司教がみんなの拘束を強めてしまい、すぐに誰も言葉も発せなくなった。
「では、大言を吐いた償いをしてもらおう。『従え』」
防御力ゼロの私は、大司教の声が聞こえた途端、スコンと意識が飛んだ気がした。
すぐに何かふわふわとした気分になったけど、やけに大司教様の声だけが鮮明に聞こえた。
『まずは、裏切者に、君が思う一番惨たらしい制裁を下しなさい』
うらぎりものってだれ?
首をかしげると、大司教様が教えてくれた。大司教様が指さした先に、黒髪でヘーゼル色の目をした男性が見えた。
あれ?私はあの人のことを知っている?
でも、大司教様の言う事は絶対だった。
ああ、大司教様の声に従うことは、なんて楽しいんだろう。
さあ、あの人に、制裁を……。
あれ?気付けば、書こうと思ってたことが半分しか書けてないぞ。
やっぱりBL要素が不要だった!否!必要だ!
そんな訳で、次回、どうなるレアリス!でお送りします。
ちなみに、夕奈の宗教画のモデルは、日記に出てきた人たちです。




