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10 魔獣素材はお高いようです

白モフ増量中です。

 サモエドたちが来て数日。

 兄妹に色違いのマフラーを編んであげたら、めっちゃ気に入られた。

 ガルが赤、スコルが緑、ハティが青のマフラーをして並んでる。

 もちろん写真撮るよね。


 しばらくここで過ごして分かったけど、この世界は日本よりも寒冷な気候らしい。

 私がここに来て2ヵ月近く経つけど、ようやく春の足音が聞こえて来た感じだ。

 未だに、ちょっとだけレアリスさんのコートを拝借している。


 でも、モフモフにはちょっと暑苦しいんじゃないかと聞いたら、モフモフたちは気温に影響を受けないらしい。真夏だけ、「ちょっと暑いか」くらい。……冷え性の私には羨ましい限りだ。

 なので、マフラーはファッションとして楽しんでいるみたい。


 それで、あのボロ小屋で数日過ごして、さすがに手狭だと感じ、私は思い切ってログハウスを交換することに決めた。


 お財布には、まだ1万円札があったから、それを恐る恐る投入口に入れる。チャリーンと音がして、ポイントが100万追加された。


 これから私は、人生で一番大きな買い物をする。

 震える指先で、ログハウス(90万P)をポチッとした。


 “本当に交換しますか YES/NO”

「イ、イエス!」


 思わず口に出してしまった後、静かにポチッとYESを選択した。すると、“設置しますか?”と出た。ま、まさか……。


 YESを押すと、私の目の前に光の点線が現れて地面に8帖くらいの四角を作った。スキルボードには、庭の見取り図が浮かんで、その中の点線が実際の地面の点線と対応している。

 私が試しにそのボード内の点線を動かすと、地面の点線も動いた。ほうほう、凄い!

 その点線を東側の日当たりいい場所に持って行くと、確定ボタンがあったので押した。すると、音もなく現れたログハウスが、しっかりと指定した点線の中に鎮座していたのだ。


 このスキルくれたのって、神様かなぁ。よし祈っておこう。ありがとうございます、神様。


『うわぁ、お家が出てきた!』

『すごいすごい、ハル!』

『むちゃくちゃだな』

 はい、そこの一番大きい白いの。口悪いですよ。


「よし、これでみんなでお家で寝られるよ」

『『やったー!』』

「じゃあお引っ越しだ」

『『はーい』』

 お引っ越しといっても、お布団とキャンプグッズを動かすだけなんだけど。


 小屋に入ってお布団を畳もうとすると、何やらピロリーンと鳴った。あれ?今スキル使ってないんだけど。

 急いで開けてみると、“交換したものを収納しますか?”と出ている。

 な、なんだ、と……。


 私は恐る恐るYESを押すと、シュンとお布団が消えて、ボードの収納の中に「敷布団×1」「掛け布団×1」「マットレス×1」となった。もう一回神に祈っておこう。


 どうやら交換したものは、一度外に出してもまた亜空間に戻せるらしい。

 こうしてお引っ越しという名の徒歩移動は、ものの1分で終わった。

 ちなみに、ログハウスは日本人仕様なのか、階段の段差も最適だったよ。


「よーし、じゃあ引っ越しパーティしようか!」

『『『やるやる!』』』

 そんな訳でパーティ準備に取り掛かった。ここは一つ、BBQとしゃれこもうじゃないか。


『ばーべきゅーってなぁに?』

「いろんなお野菜やお肉を焼いて食べるんだよ。お菓子も焼くと美味しいよ」

『お肉?じゃあ、ハティ獲って来るね!』

「え?ハティちゃん⁉」

 私が止める間もなく、ハティが全力疾走で行ってしまった。今、獲って来るって言ったよね。


 そして、30分後。


「ぎゃーーーーーー!」

 目の前におっきな血まみれの赤い角の牛。


『お肉、獲って来たよ!』

 褒めてとばかりに、ぶんぶん尻尾が揺れている。

 いい子いい子なでなで、でもね……。


 ハティちゃん、ごめんよ。私には、……無理。



 そんな訳で、見るのも怖い牛さんに、ショックを受けるハティちゃん、という地獄絵図が目の前にある。

 ハティちゃんのお耳が、シャンプーした時のガルみたいに垂れ下がっている。


「どうしよう。ハティちゃんの気持ちは嬉しいけど……」

 がっくりとする私に、ちょんちょんとガルが足に手を乗せてきた。


「?なぁに、お手?」

『ちがわい。お前のスキルで、それ、しまえるんじゃないか?』

「……やだ、天才?」

『俺はお前が心配だよ』

 仔犬に真剣に心配されてしまった。


 で、試しに入れてみたいけど、これ、触らないでいける?

『ボードを近づけるのは駄目なのか?』

「……ホント、君、天才?」


『お前さ、早く(つがい)を見つけろよ。いくらお前が子分でも、面倒見切れないわ』

「な、ちょ、ガルくん⁉」

 急に驚くようなことを言いなさるサモエドに、私は大人なはずだけどあたふたしてしまった。今時の仔犬の恋愛事情は進んでいるのか?

 しかも、何気に見捨てられてる。前は守ってやるって言ったのに。


『ほら、取りあえずやってみろって』

「う、うん。……あ、できた」

 投入口を牛に近付けたら、できた。

 裏側だろうと何だろうと、近付けば勝手に吸い込んでくれるみたいだ。


 ピロリーン

「え?……マジか」

 出てきたメッセージは、「高級肉、魔獣クリムゾンホーンブルの角、高級牛革……60万P」となっていた。一頭からいろいろと素材が取れるみたい。

 ……しかし、60万。紅い角の牛。クリムゾンホーンブルって魔獣だったのね。


『父さんが、魔獣は希少なヤツほど価値が高いって言ってたな。こいつはあまり強くはないけど、肉は美味いんだ。いい「ぽいんと」になるんじゃないか?』

 賢い。もうポイント交換を把握している。おっしゃるとおりです。


「すると、お風呂に入った時の君たちの毛もポイントになったりして」

『まあ、なるだろうなぁ。俺たち最上位種だし』

『ええ、スコルの毛もなるかな?』

『ハティは?』

 なんか冗談で言ったらサモエドたちが興味深々になってしまった。


『昨日洗った時に出たやつ、やってみて』

 ハティがノリノリで、お風呂の隣にまとめておいた数回洗った分のこの子らの毛の塊を持ってきた。それだけでサモエド一匹分くらいありそうだったので、何となく袋に詰めておいたんだった。


「本当にいいの?なんかヤじゃない?自分の毛が売られるのって」

『『『全然』』』

 あ、そ。じゃあ、そういうことで遠慮なく。


 私が袋を投入口に近付けると、すぐに吸い込まれてチャリーンと音が鳴った。

 “魔獣マーナガルムの体毛 100万P  魔獣スコルの体毛 70万P  魔獣ハティの体毛 60万P“

「ぶっ‼︎」

 思わず吹いてしまったけど、許して。


『ねえ、どうだった、どうだった?』

『ハティも知りたい』

「ははははは」

 君らのちょっと出た抜け毛で、牛一頭より価値があるよ。凄いね、上位種。


『やったぁ。じゃあ、美味しいものいっぱい食べられるね!』

「……うん。いっぱい美味しいの食べようね」


 通貨交換よりもダメージがでかい。ちょっとゴミ感覚でいたのが、まさかのお宝だったとは。これも、余程じゃない限り頼らないようにしないと、人間ダメになりそうだ。


 ピロリーン

 あれ?なんかお知らせ来た。


“上位種魔獣素材初交換特典 『事前鑑定』を再選択/特典ツリー公開”


 また特典が発生してる。どんだけくれるの特典。もう特典じゃない気がする。

 そして、私を惑わせる選択肢が、また……。

 前に迷った特典の復活と、今後展開される特典がどんなものか見られるやつ。ああ、どっちも捨てがたい!


 でも、今の状況を考えると、事前鑑定できた方が、私の心臓に優しいような気がする。

 魔獣素材、ポイント化して初めていくらなのか分かるって、ホント怖い。

 あと、知らないで貴重な素材交換しそうで怖い!


「事前鑑定、君に決めた!」

 私は意を決してポチった。

 もうこれで、未知の素材に怯えることはなくなるだろう。


『……ハル、大丈夫か?』

「ははは、万事OKです」

 全身疲労といったていの私を気遣ってくれたガルに、乾いた笑いを返す。


「よ、よぉし、じゃあ、BBQ再開だ!」

 私は何かを振り切るように肉や野菜を焼いた。ああ、ついでにBBQ用のいいコンロも交換しちゃった。やけくそだ!


 牛肉(魔獣のじゃないよ)にピーマンと玉ねぎを串に刺して、エビとホタテも串にして、はまぐりとカニは網に直置き。ついでにランプ肉はおっきな串に刺して回す器具で、ぐーるぐる焼く。某狩りゲームの「上手に焼けましたぁ」ってヤツだ。


「出来上がり~」

 いろんな種類をじゃんじゃん焼いて食べごろになった。

 串から取って、お皿に盛ってあげる。


『『『いただきまーす』』』

 三匹は、お座りしながら私が教えたお作法で食べ始めた。可愛いね。


 でも、その動きがすぐに止まった。ガルの耳がぴーんと立っている。

 なんか、妹たちが来た時と似てる?


『うえ、来た!』

『あ、お父さんだ!』

『お父さん、お父さん!』

 え?お父さん?


 私が何事か確認する前に、目の前にふわっと何かが降り立った。

 まさか……。


『良い子にしていたか、我が子らよ』

 おっきくてサラッサラの毛並みから、凄いイケボが聞こえてきた。

 馬より大きいって聞いてたけど、めちゃくちゃ見上げるくらい大きいよ。


『初めてお目にかかる、異邦人よ』

 サモエドたちそっくりの、薄青い目が私を見た。


「……は、はじめまして!息子さんたちには、いつもお世話になっております!」

 あまりの驚きに訳の分からない挨拶をしてしまった。

 いや、だって、この子らのお父さんっていったら、あれだよ。最上位種の一角の魔獣フェンリルってやつだよ。おかしくもなるよ。


 子供らはサモエドなのに、お父さんはスラッとした白っぽいゴージャス毛並みの美狼(びおおかみ)だった。狼にボルゾイを足して2で割った、みたいな?


『そんなに畏まるな。そなたの前に出るつもりはなかったが、とても美味そうな匂いにつられてな、つい』

 ……うん。ガルは完全にお父さんの子だね。なんか、ちょっと力が抜けた。


「お父さんもどうぞ。お子さんたちのお陰でいろいろと仕入れられるので、どんどん食べてください」

『そうだな。ありがたくいただこう』


 お父さん用に大きなお皿を用意したよ。

 一応お父さんも、串は危ないからお皿に盛る時は外してあげる。下味は塩コショウだけだから、足りなかったらマヨネーズやポン酢やバター醬油も、といろいろ味変してあげた。


 4匹(?)はすごい勢いで食材を平らげていった。作り甲斐しかないわ。幸せ。


 お腹いっぱいになったみたいで、親子はコテンと横になると、全員そっくりに「くあ」っとあくびをした。


『いかんいかん。ここはつい寛いでしまうな』

「どうぞ、ごゆっくり」

『今日はそうもいかんのだ。また明日来るからその時は休ませてもらおう。土産も持ってきてやりたいしな』

 予約されてしまった。

 嬉しいけど、でもお土産って、牛じゃないよね?


『ククク、楽しみにしているといい』

 何故か楽しそうに笑って、お父さんは去って行ってしまった。


 どうしてか、私は寒気がするのだけれど。



 そして翌日、お父さんがやって来ると、私の前にポトッと何かを落とした。

 それは掌くらいの長さで、白い円錐状の……牙?


『そう、私の牙だ。ちょうど50年ぶりに抜け替わってな、そなたにやろう』

 魔獣って、大人になっても歯が生え変わるんだね。

「……え、ええと。ありがとうございます?」


 本当は要らない。でも断れない雰囲気。

 だって、子供たちの抜け毛だけであれだけのお値段だったんだよ。怖い。


『ほれ、早く私の牙を鑑定してみてくれ』

 何で事前鑑定取ったの知ってるの?

 砂ぼこりが巻き起こりそうなほど、お座りしたお父さんの尻尾が揺れてる。親子で感情表現がそっくりだ。

 しかし、……昨日の会話、聞いてたな。


 私はブルブル震える手でお父さんの牙を投入口に入れた。


 ピロリーン

“フェンリルの牙(状態:最上) 5億P ポイント化しますか? YES/NO“


「のおぉぉぉ!」

 私は文字が見えた途端、NOを押していた。

 お父さんの牙は、そのまま収納に保管された。


 取ってて良かった、事前鑑定。


『どうだ、私の牙は。なかなかのものだろう?』

「は、はははは。……ええ、とっても凄いですぅ」

『これがあれば、伝説の魔剣が作れるらしいぞ。昔、勇者というヤツが言っていた』

「わ、わぁ、さすがお父さん」


 褒めろ褒めろという空気を出す、お父さんのドヤ顔が眩しい。

 何か、牛持ってきた時のハティそっくりです。

 撫でろとばかりに頭を出してきたので、取りあえずなでなで。


 やった事ないけど、偉い人を接待するってこんな感じなのかな。

 いや、偉い人はなでなでを要求しないな。


 そんな訳で、私の亜空間収納は、しばらく封印しよう、そう思った。

お父さん登場です。

子供たちをチラ見してて、我慢できなくなったようです。

お父さんは、20代後半くらいの脳みそ溶けそうなセクスィボイスをご想像ください。

ちなみにガルは小学校高学年男子、スコルは中学年、ハティは低学年のイメージです。

補足ですが、お父さんの靴下は黒です。

補足その2ですが、モフモフたちの毛並みを波瑠は「白っぽい」って言ってますが、銀色です。

王子の髪色といい、波瑠の目は結構節穴です。


次のお話は、人間世界へ戻り、雰囲気変わってシリアスです。

王子視点でお送りします。


また明日、閲覧よろしくお願いします。

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[一言] モフモフ集団を撫でまわしたい…………(*´ー`*)
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