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婚約破棄されたら秒でドS王子に連れ去られた

作者: ぐうのすけ

「エリー!君との婚約を破棄する」


 許嫁のダグナにそう言われた瞬間私は王子に抱えられながら、パーティー会場を後にした。


 意味が分からないと思うがそれが真実。 





 それは私の許嫁のダグナが学園を卒業するパーティーでの事。


 私は学園1年生の終わりで16才。

 ダグナは学園の3年を終わり卒業するパーティーに私も出席するが様子がおかしい。


 ダグナの隣には真っ赤な赤い髪と赤い瞳をしたエンビーが寄り添っていたのだ。

 ダグナに胸を押し付けるように密着し、私と目が合うと勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


 エンビーとは同じ学年だが、よく睨まれていた。

「男爵令嬢のあなたは公爵家のダグナ様にふさわしくない」とか「侯爵家のわたくしの方がダグナ様にふさわしい」とバカにされてきた。


 ダグナが私の前に歩いてくると、彼の甘いマスクに多くの女性が振り返りうっとりと目を向ける。

 ダグナは女性に人気があり、背が高くグレーの髪と瞳は珍しく目を引く。


「エリー、話がある」


「そうで…しょうね」

 エンビーが私を見下すように笑う。


「ダグナ様!わたくしエリーにいじめられていましたの。熱い紅茶を頭からかけられたり、ノートを破かれたりしてひどい目に遭いましたわ!」

 エンビーはダグナに目を向けてうるうると瞳を潤ませた。


 逆に私の方が言われていたくらいよ。

 エンビーの嘘に黙っていたら私がやった事にされる。

 言い返すしかないわね。


「私はやってないわ!」


「ああ!怖いですわ!」

 エンビーがダグナに縋りつく。


 相変わらずエンビーの外面だけはいい。


 周りを見渡すと、私への怒りより、厄介ごとに関わりたくないという人間が多いように思う。


「やったやらないの話はやめよう。その場にいた証拠もなにも無いからね。僕は誰かを罰する気は無いよ」

 ダグナが助けてくれた?

 嬉しいけど、じゃあ何でエンビーがダグナの腕に絡みついているの?

 どうして振りほどかないの?


「わたくしはダグナ様に従いますわ!」


「エリー!君との婚約を破棄する」


 その瞬間、後ろから風を感じた。


【ドS王子】と言われるレスター第二王子が後ろに居た。

 

「ひい!」


 私が悲鳴を上げるとレスター王子が私を右肩で素早く担ぎ、腕で足を抑えられる。

 戦闘訓練を受けた王子にただの男爵令嬢の私は一切反応すら出来なかった。


「ダグナ、この一件は俺に任せろ!エリーを再教育してやる」


「ダグナ!助けて!お願い!!ねえ助けてよおおお!」


 私はダグナに泣いて叫んだ。


 ダグナは何事もなかったように私を無視する。


 周りの人間も王子から目を逸らす。


 エンビーは口角を釣り上げて悪魔のように笑った。


「その悪魔のような女には厳しい再教育が必要ですわ!」

 エンビーが叫ぶ。


 ドS王子の通る道を皆が逃げるように開ける。


「たすけ、たすけ、て」


「うるさい!静かにしろ!」


 ドS王子が私のお尻を『パチン』と叩いた。


「ふぁ!」


 その瞬間頭が真っ白になった。


 そんな!ダグナを愛していたのに!


 なんで?いきなりひどい事を言って、私を助けてくれないの?


 私が絶望に打ちひしがれていると、ドS王子のレスターは私を担いだままパーティー会場を後にする。


「歯を食いしばれ。舌を噛むぞ」


「え?」


「しゃべるな!歯を食いしばれ!」


 私は必至で歯を噛んだ。


 その瞬間レスターはものすごい勢いで走り出し、王城へと飛ぶように向かう。

 

 怖い怖い怖い!


 私死にたくない!


 まだ16才なのに!


 



 王城につくと、王子に下ろされる。


「怖かったか?」


「ゆ、許してください!わ、私何もやってません!」


 王子はため息をついた。

「そんな事は分かっている。俺が噂のように女性を連れ込んで拷問器具で女性を辱めると思っているのか?」


「違うんですか?」


「お前が望むならやっても構わん。やって欲しいのか?」


「や、やめて欲しいです」


「うむ、今日はゆっくり休め。明日から公務の勉強をしてもらう」


「それは?どういう意味でしょう?」


「言葉通りの意味だ。今日は休め」





 レスター王子に背中を押されながら部屋に案内されたが、嫌な感じはしなかった。


「後は、ここにいるメイドに着替えさせてもらって今日はゆっくり休め。詳しい事はメイドに聞け」


 そう言って王子は去って行った。






 ◇





【次の日の朝】


 私は昨日襲われる事も無く眠り、朝普通に朝食を食べ今は本当に公務の勉強をしている。


 辛くない。


 1つ変わっているのは私がシスター服を着ている事くらい。


「あ、あの?すみません」

 私はシスターの講師に質問する。


「何ですか?今は授業中ですよ」


「その、どうしても気になって。私の再教育は公務のお勉強だけですか?」


「そうですが何か?」


「何故私がここにいるのか分かりませんし、昨日の夜も襲われませんでしたし、よく意味が分かりません」


「なるほど、分からない部分がある事は理解しています。言えない事もありますが、1つだけいえる事は、レスター王子のお噂は真に受けない方がいいかと」


 レスター王子の噂。

「ドSで女性を連れ込んでは、鞭や三角木馬で毎晩楽しんでいるという噂は嘘という事ですか?」


 でも、私がこれからどうなるか不安だわ。


 なぜ私が連れてこられたのか分からないもの。


「不安は分かりますが、レスター王子は望まない相手にひどい事はしません。もちろんあなたがそのようなご趣味をお持ちでそれを望むなら望んだ取りにしてくださるかもしれませんね。ただ、シスターの私としてはそれは困ります。レスター王子と婚姻を結んでからにしてください」

 講師の女性がウインクをして笑った。


「あははは!まさかー!王子と結婚できるわけがないですしそんな激しいプレイは望みませんよ」


「ですよね、半分冗談です。では授業を続けます」


 半分冗談?

 

 え?どっちかは本当って言う事?


 私ドMだって思われてるの!?


 シスターは両手をパンと叩く。

「はい、集中しましょう」


「…はい」




 ◇




 3日が立つと、王城でエンビーに会った。


 エンビーは私を見つけると口角を釣り上げて近づいてくる。


「再教育の調子はどうですの?」


「まあまあね」


「ぷ!ぷふふふふふ!やせ我慢はいけませんわよおおおお!ドS王子に乱暴をされ、捨てられてシスターになったのでしょう?いい気味ですわあああ!流石王子の再教育は素敵ですわねえええ!」


「後ろに気を付けた方がいいわ」


「はあ!何を言っていますの?」


 そう言ってエンビーが後ろを振り向くと固まった。


 真っ黒い髪と真っ黒い瞳、そして少し釣り上がった強気な顔の男、レスター王子が笑いながらエンビーを見下ろしていた。

 ダグナと同じ年だから18才のはず。


 気配を消して近づくのがうまいし、背が大きくて美形だけど気が強そうで怖いのよねー。


 私は黙ってレスター王子とエンビーのやり取りを見守る事にした。


「俺の再教育はそんなに面白そうか?」


「い、いえ、そ、そんな事はあ、ありませんわ」


「だが、『王子の再教育は素敵』と聞こえたが、それは嫌味か?それとも一緒に参加したいか?」


「わ、わたくし、体調がすぐれませんので失礼しますわ」


 エンビーはおなかを抑えて走り去った。


「ち、クズが!」

 走り去るエンビーを見ながら王子が毒を吐いた。





 ◇





【エンビー視点】


 王子から走って逃げ出すと、息を切らした。


 ま、まさかドS王子に聞かれているとは、危ない所でしたわ。

 エンビーは思い違いをしていた。

 悪口を言う前からレスター王子はエンビーを心底嫌っている。

 もう手遅れなほどに。


 しかし、エリーは惨めでしたわねえ。

 地味なシスター服を着て、落ちる所まで落ちましたわ。


 ま、男爵家で格の低い者が落ちた所でそこまで変わりませんわ。


 わたくしはダグナ様から10着も服をプレゼントしてもらいましたわよ。

 エリーとは正反対。


 ダグナ様は私の物、ついにエリーから私の物になりましたわ。


 エリーは前から気に入らなかった。


 学園に入ってからすぐに男からモテてちやほやされるのが気に入らない。


 男爵家の田舎者の癖に生意気だ。


 他の女共も授業の分からない所や恋愛で困ればエリーの所に行く。

 エンビーは皆を助けることは無いが、自分が中心にいないのは良く思わない人間だ。


 エリーは皆を助け、エンビーは何か言っても文句や悪口、それか自慢話しか返ってこない為、エンビーに近寄る者が減っていたのだ。


 でもエリーはもう上がってくることは無い。


 もう一生シスターとして地味に過ごすのですわ。


 それに、わたくしとダグナ様は王子主催のパーティーに呼ばれていますわ。


 エリーが呼ばれることは無い。


 もう一生エリーに日の目は当たりませんわ!


 もうエリーは一生悪役令嬢として、いえ令嬢ですらいられず底辺で生きていきなさああいい!




 王子主催のパーティー当日。


 エンビーはダグナに買ってもらったドレスでダグナの手を取って登場する。


「ああ、喉が渇きましたわ」


「うん、飲んでおいで、少しみんなと打ち合わせがあるから僕は少ししたらまた来るよ」


「まあ、残念ですわ」


 わたくしはお皿に料理を取り、ワインを手に取って1人席につくのですわ。


 グラスに入ったワインを半分のみ、喉を潤す。


「ああ、美味しいですわ」


 指を見るとダグナ様がプレゼントしてくれた指輪が光る。

 指輪をうっとりと見つめる。

 ああ、ダグナ様、やっと手に入った。


 この指輪も私の物。


 本当にきれい。


 ドレスの袖を見ると、小さい宝石がキラキラと輝く。


 腕を動かすと宝石が反射して光る。


 学園を卒業すればわたくしはダグナ様の元に嫁ぎ、公爵家の一員になりますわ。


 男も・権力も・財力もすべてわたくしは手に入れますわ。


 エンビーの近くには誰も近づいてこない。


 エンビーの厄介さはエリーの再教育で学園中に伝わり、その親の貴族にもすぐ噂は広まったからだ。



 レスター王子の兄、第一王子が現れた。


「今日はパーティーに集まってくれて感謝する。皆には楽しんでもらいたいがその前に、弟のレスターから連絡がある」


 レスター王子が前に出るが、何故かドレスを着たエリーが後に続いた。


 は!なんであいつが居るの!


 シスターになったはずよ!


 おかしいわ!おかしいのよ!なんでみんなあいつを引きずり下ろさないの!?


「今から水晶球によって学園の悪事を報告する!」


 そう言えば学園の者が多いわね?


 照明が抑えられ、白い壁に水晶球の映像が映し出された。


 わたくしが他の生徒をいじめる映像が映し出される。


 わたくしのひどい顔が映し出される。


 わたくしの怒鳴る声が聞こえる。


「なに!なんなの!」


 レスター王子は水晶球の映像を流したまま話をする。


「そう、これはエンビーの悪行だ。もちろん下位の貴族ならパーティーの場で公表する事も無かっただろう。だが、エンビーは将来公爵家に入る身だ!上に立つ者としてこのような行いは許されない!」


「わ、わたくしこんなことはしていませんわ!!!」


「水晶球の映像がある。言い逃れは出来ない」


「エリーがわたくしを陥れようとしたのですわ!」


「それは逆だ。エンビーはありもしない事をエリーの罪としてエリーを陥れた。すでに学園生の証言は集めてある。ダグナ!どう責任を取るつもりだ!?」


 ダグナが跪く。


「公爵家の家督を弟に譲り、公爵家から抜けます!」


「だそうだ、エンビーは貴族でなくなったダグナと婚姻を結び貴族の地位を捨てるか、それとも婚約を破棄するか選べ!」


 何よ何よ!ダグナと婚姻したら貴族じゃなくなる!


 冗談じゃないわよ!絶対に嫌!


「エンビー、黙っていると言う事は、このままダグナと婚姻を結び、平民として生きる道を選ぶのだな?周りに居る者が証人となる!今すぐにエンビーとダグナをこの会場からつまみ出せ!」


「お!お待ちください!ダグナとの婚約を破棄します!」


「うむ、それではエンビー。学園を退学処分とし、明日には侯爵家の領地に帰還せよ!これは父上からの王命である!残りのエンビーの悪行を最後まで堪能していくか?」

 レスター王子は口角を釣り上げてエンビーに聞いた。


 エンビーはグラスを叩き割って悔しそうに会場を後にした。





 ◇





 エンビーが荷物をまとめ、領地に帰ると、領主である父に平手打ちを食らった。


「お、お父様!何をしますの!」


「何をやったか分かっているのか!お前のせいで侯爵の地位をはく奪され、我が家は男爵家となった!多くの領地を失い、これから貧乏貴族の仲間入りだ!」


「そ、そんな!」


 エンビーはあれだけ馬鹿にしていたエリーと同じ男爵家となり、貧乏な生活を余儀なくされた。


 



 ◇





【エリー視点】


 エンビーの悪事が暴かれ、パーティーからエンビーが姿を消す。


 レスター王子に対して拍手が鳴り響く。


「ダグナ、エリー、事の真相を話しておきたい。ついて来てくれ」


 そこに第一王子が近づいてくる。

「レスター、お手柄じゃないか。パーティーを楽しんでいかないのかい?」


「兄さん、俺は、嫌われていますから」


「ドS王子の事かい?ここにいる者は、レスターをちゃんと見ている者の方が多いはずだよ」


「兄さんに分かっていてもらえれば十分です。失礼します」

 レスター王子は子供のような笑顔を見せた。


 こういう笑顔が出来るならいつもすればいいのに。


 私とダグナが部屋に集まると、レスター王子がパーティー用の食事を持ってこさせた。


「さて、エリーには危険が及ばぬよう詳しい事は伏せておいた。それに情報の漏洩も避けたかった。だがもう終わった」


 婚約を破棄されたダグナとドS王子と一緒に居ると緊張するわ。


「うむ、まずダグナには悪い事をした。実はダグナとエンビーを婚約させたのは俺の指示だ。エリーにも辛い目に遭わせたな」


「すまなかったね。エリーを傷つけた」

 ダグナが頭を下げる。


「え?なんで?意味が分からないわ」


「エンビーを確実に潰すため、ダグナと婚約させ、将来の公爵家にした。そのおかげで遠慮なくパーティーの場でエンビーを追い詰めることが出来た。あの侯爵家はずる賢い。一時的にエンビーの地位を上げて逃げ場を無くしたのだ」


「エンビーは嫌な人間だけど、そこまでする意味があるの?」


「本当に潰したかったのはエンビーの父だ。奴は麻薬の栽培をしていた。あの家は優秀な斥候部隊が居る。何度監査しても証拠を隠蔽された。そこでエンビーの不祥事を公表して父の力を奪う事にしたのだ」


「ダグナのせいではなく俺のせいだ。エリーの気持ちが知りたい。ダグナともう一度寄りを戻したいと思えば、一緒になることは出来る。公爵家は無理だが、ダグナに爵位を与えることも出来る」


 レスター王子がじっと私を見た。


「私は、昔はダグナを好きだったけど、今はもういいわ。それに、ダグナが私の事をそこまで好きじゃないのは分かっていたわ」


 ダグナの表情が曇った。

「確かに、好きまでは思っていなかったよ。でも気になってはいたんだ。今まで本当に苦しい思いをさせたね」


「今まで苦しかったけど、事情があったのよね。でもまだ気持ちを整理できていないわ」


「そうか、ダグナと寄りを戻さないか」


「そうね」


「それでは失礼します」


「ダグナ、もう行くのか?」


「次の仕事があります」

 ダグナは敬礼して部屋を出た。


「ダグナはいったい何者なの?」


「優秀な騎士だ」


 きっとダグナは暗部とかの偉い人なんだと思う。

 表の身分は低いままで動いた方が都合がいいのかもしれない。

 戦闘の成績も斥候の成績も良かったし、私と婚約している途中でスカウトされたのかも。


 ダグナは苦しい任務を多くこなす事になるかもしれない。

 ダグナに怒っていた私が馬鹿みたい。

 私はダグナの裏の苦労も知らずに怒っていただけの子供だった。

 気持ちの整理がついてきたわ。


 考えがまとまってくると、レスター王子がじっと私を見つめていた。

 

 私の考えがまとまるのを待ってくれていたのかも。


「さて、エリー」


「な、何よ!」


「エリーに婚約を申し込む」


「……ん?」


 レスター王子が私の頬に手を当てた。


 私の耳元でささやく。


 距離が近い。


「エリー、俺には隠している能力がある。魔眼の力を持っている。嘘は見抜く」

 そう言って子供のように笑った。


「じょ、冗談ですよね?」


「さっきまで敬語じゃなかっただろ?普通に話せ」


「冗談よね?」


「冗談というのは婚約の事か?本気でエリーに婚約を申し込む」


 私が目を逸らそうとすると顔を手で押さえられる。


「目を逸らすな」


 逃げられない!


「か、考えて明日答えを出すわ」


「今答えてくれ。考えがまとまっていないなら今の気持ちを言ってくれ」


 私の吐息が荒くなる。


 顔が熱い。


 レスターの顔が近い。


「考えがまとまって無いの」


「それでいい。話す事で考えもまとまるだろう」


「答えないなら唇を奪う」


「え?あ、えええ?……」




 私とレスターの唇が重なった。


 レスターは優しいけど……ドS。





 ◇




 エンビーは書庫に閉じ込められ、1日に1度食事と湿ったタオルを渡されるだけの生活になった。


 日が落ちると暗くて毛布を被って寝るだけの生活。


 全部エリーのせい!


 エリーのせいよ!


 エンビーは何もせず黙っていれば人並み以上の生活を送ることが出来た。


 人をいじめ、婚約者を奪わなければよかったのだ。


 だが失敗した。


 エンビーは呪いのように人を恨んで過ごしたが、その豊満な体はやせ細り、夜は凍えて過ごすようになった。


 エンビーは次に狂ったように本を探し、ここから抜け出す方法を考え続けた。


 


 ある日、本棚の裏に隙間風が吹いている事に気づく。


 隠し部屋を開けると、そこには悪魔契約の本があった。




 毎日読み込み、自らの血で書いた魔法陣のみの契約方法をマスターする。


 人差し指を噛んで血を出し、魔法陣を書いていく。


 不思議な事に夜も更けて暗くなっても悪魔契約の本を持っていると周りがよく見えた。


 夜中で体が冷える。


 指が痛い。


 寒い、血を流しすぎた。


 魔法陣を完成させると人間の男の子供に角が生えた悪魔が現れる。


 空中を浮かび発する声は子供とは思えない


「お前の欲望は分かる。ここから出たいだろう?もっと食べたいだろう?男と交わりたいだろう?恨みを晴らしたいだろう?ならば我と魂の婚姻を結べ」


 ここで焦っては駄目よ。


 悪魔は約束を守る。


 でも必ず代償を求める。


「ふ、代償が気になるか?代償は日が沈んでから日が昇るまで我と夜の相手をしてもらう。そうすれば力をやろう。好きなだけ食べ物をやろう。恨みを晴らす手助けをしよう」


「待つのですわ。暗い間ずっと私とその、大人な事をするのですの?」


「その通りだ」


「それではわたくしの体は壊れてしまいますわ」

 いくら子供とはいえずっとされたら私の体がもちませんわよ。


「心配はいらない。我が傷を癒そう。体の心配は不要だ」


「魂の婚姻は解除可能ですの?」


「エンビーの求めがあれば解除できるようにしよう」


「あ、危なかったですわ。言わなければ解除出来ない所でしたわ」


「魂の婚姻を結べ」


「ほ、他の代償はありますの?」


「魂の婚姻中は他の男とまぐわう事を許さない」


「夜の間わたくしが寝ていても大丈夫ですの?」


「それは自由だ」


 夜中の間この子供に体を弄ばれるのですわね。見た所2才児程度で体は小さい。


 耐えられますわ。


 目をつぶって眠っていればいいだけですわ。


「分かりましたわ。魂の婚姻の契約を結びますわ」


「契約は成立した」


 悪魔の体が大きくなる。


 まるで急速に大人になっていくようだ。


 2メートル近い大柄の大人の姿に変わる。


「では始めよう」

 悪魔は口角を釣り上げた。


「ま、待つのですわ!わたくしが壊れてしまいます!」


「体は癒す。安心しろ」


「け、契約を解除しますわ!他の悪魔と契約を変わりますのよ!」


 悪魔は口角を釣り上げた。


「我と契約を解除したらもう二度と契約は出来ない。契約は一生の内一度だけだ」


「そんな!大きくなるのは言っていませんわよ!」


「聞かれなかった。契約を解除したら力を失う。悪魔契約は即死刑なのだろう?契約を解除した瞬間お前は無力になり殺される」


 悪魔が近づいてくる。


「安心しろ、体は癒す」


「ひ、ひいいい!」


 逃げようとするエンビーを悪魔が捕らえ、夜が明けるまで地獄が続いた。


 エンビーはその日から夜眠ることが出来なくなった。





 ◇





【エリー視点】


 私はレスターと今日結婚式を挙げた。


 学園に入り直して結婚しようとしたら「そんなに待てない」と言われ、頑張って最低限の知識を詰め込み、無事に結婚式を終えた。


「エンビーだが、悪魔と契約をして、聖騎士に追われている」


「悪魔契約をしたの?」


「悪魔契約は問答無用で処刑となる。情報によると、エンビーの契約は自らの意思で解除が可能らしいが、契約を解除すれば捕まって処刑される。だが悪魔と契約したままでも地獄の生活になるだろう。悪魔契約というのはそういうものだ」


「うん、逃げても苦しいままの生活よね」


「暗い話はこのくらいにしよう。俺は第二王子ではあるが、子供を作る事が求められる。初夜は必須だ」


 レスターが笑う。


 私の顔が熱くなった。


「ま、まだ夜じゃないわ」


「だが夜は必ずやってくる。ディナーにしよう」


 レスターが私に口づけをした。





 ◇





 レスターは世話焼きで面倒見がいい。


 レスターは優しい。


 レスターは矢面に立って私を守ってくれる。


 次の日の朝に目覚めて私は痛感した。


 レスターは私の弱い所を何度も何度も……


 レスターは魔眼持ちでドSだ。


最後までお読み頂きありがとうございます!少しでも面白いと思っていただけた方はブクマ、そして下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします!


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