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其の十二 聖堂長の告白

 本日も閲覧ありがとうございます。

 今回も密談です。そして、夢……。動きが乏しいです。

 ここは、わたしたちの天幕の中。パチーノとギーは、毛織物の上掛けでぐるぐる巻きにして、カヴァニスが外に連れて行った。天幕の中にいるのは、わたし、聖堂長、そして、先生――衛兵団長の3人だ。

 わたしが、詰め所を訪ね、たまたまそこに居合わせた団長に事情を伝え、ここに来てもらった。団長を呼んできて欲しいという、聖堂長の希望を叶えたのだ。


「それで、なぜ、このようなことをなさったのか、ご説明いただけますかな、聖堂長様」

「は、はい。正直にお話しいたします。ですから、どうか、どうかわたくしに力をお貸しください!」


 聖堂長は、髪を首元で小さくまとめ、聖堂女の制服ではない、いたって地味な灰色の服を着ていた。黒いフード付きマントは旅行用で、頭陀袋には古い旅手形や路銀袋など、旅に必要な物が詰め込まれていた。夜陰に紛れ、町から出ようとしていたようだ。


「今から、15年も前のことです。わたくしの夢に、大聖女オティーリエ・ノールデルメーア様が現れました。大聖女像に祈りを捧げたときや聖女祭りの聖女の儀で、大聖女様から託宣がくだされることはありましたが、夢を通してお告げがあったのは初めてでした。きっと、何か重大なお言葉が伝えられるのだろうと思いました。大聖女様は、わたくしに、


『そなたらの長年に渡る祈りが光の御子神様に届き、新しい大聖女が今日誕生しました。もはや、わたくしへの信仰に意味はありません。一刻も早く新しい大聖女を見つけ出し、末永く皆で支え崇め奉りなさい』


と、おっしゃったのです。あまりに突然のことで、びっくりしました。

 しかし、その日から、大聖女像から染み出ていた聖水は途絶え、聖女布を浸すこともできなくなりました。仕方がないので、毎晩こっそり井戸から水を汲み、大聖女像を濡らすことにしました。聖女の儀でも、井戸水で濡らした聖女布を渡していただけなので、聖堂女が選ばれることもなくなりました」

「何と畏れ多いことを! あなた以外の人は、そのことを知っているのですか?」

「知っています。堂守と町名主殿には、すぐに知らせました。そして、国王陛下に正直にお話しし、新しい聖女様を捜していただき、聖女大聖堂の体制を新たにすべきだと申しました。それこそが、いにしえの大聖女様のお告げが意味することなのですから」

「しかし、彼らは、あなたの意見にこぞって反対した……」

「は、はい……」


 新しい大聖女が登場すれば、堂守も町名主も聖堂長も一新されるかもしれない。国の庇護下にある独立領であるこの聖女大聖堂を利用して、長年、堂守も町名主もいい思いをしてきたのだろう。それは、簡単には手放せないほど魅力的な地位だったということだ。


「15年間、人々を欺いて聖女大聖堂の運営を続けて参りました。多くの聖堂女は、事実を知りません。でも、今朝、あのようなことが起きてしまって――。あれは、光の御子神様がお怒りになったからに違いありません。

 自分たちの利にこだわり、新しい大聖女様をお捜しもせず、今年もまた、偽りの聖女の儀を行おうとしたわたくしたちを、お叱りになったのです。大聖女像は失われました。もう、わたくしたちは、聖女の儀も行うことができません。

 何より恐ろしいのは、怒りのあまり光の御子神様が、せっかく誕生された新しい大聖女様を、闇の御子神様の手に渡し、この世界から奪い去ってしまうかもしれないということです。そんなことになったら、わたくしは……。

 一刻も早く、この呪わしい場所から逃げ出さなくてはと考えた結果、こうようなことをしでかしてしまいました」


 彼女には、堂守たちを無視して、国王陛下に真実を報告することもできたであろうに、結局は自分も彼らと一緒に保身に走ったのだ。それが、いよいよ天罰が下るかもしれないとなったら、役目を放り出そうとした。聖堂長として、あまりに無責任だ。

 15年の間己の心を悩ませ続けてきた秘密を、ひとに打ち明けることができた安心からか、聖堂長は、懐から取り出した手巾でしきりに涙を拭っていた。


「なるほど、……そういうことでしたか」


 そう呟くと、団長は、ゆったりと腕を組み、納得したようにうなずいた。そして、おもむろに語り出した。


「わたしが、聖女大聖堂衛兵団の団長として、ここに派遣されたのは1年ほど前のことです。実は、その少し前から、陛下の間者の一人が、ある聖堂女を懐柔し大聖堂内の不正を探っていました。


 拝殿の大聖女像から湧く聖水が、実はだいぶ前から途絶えてしまっていることや、大聖女の加護もないまま偽りの聖女の儀を続けてきたことなど、間者から聖女大聖堂の現状を知らされた陛下は、次の聖女祭りの場で、すべてを明らかにし、今の大聖堂の役割を終わらせよと、わたしにお命じになりました。

 

 聖堂長殿、わたしはすべて承知の上でここに来たのですよ。大聖女像が失われた今こそ、あなたの口から真実を語っていただき、15年もの間、不正を推し進めてきた堂守や町名主を糾弾すべきです。一度、聖女大聖堂を閉じて、その上で、新しい体制の元で、大聖女様を一日も早く見つけ出しましょう」

「陛下は、そこまでご存じでしたか……。もしかすると、陛下の夢枕にも大聖女オティーリエ・ノールデルメーア様がお立ちになったのかもしれませんね。わたくしたちの罪深い行いを、陛下のお力で正していただくために……。


 あなたがお助けくださるなら、わたくしは最後の聖堂長として、そのお役目を全うしとうございます。

 団長殿、わたくしは、まず何をしたら良いのでしょうか、どうぞご指示ください」


 ようやく、今回の王命の真意が、わたしにもわかってきた。

 夢のお告げだか、託宣だかで、新しい大聖女の誕生を知らされた国王陛下は、もはや形骸化した聖女大聖堂の内情を調べながら、組織改革の時期を探っていたのだろう。そして、今年の聖女祭りをその舞台に選び、いざという時は衛兵団を動かせるように、最も信頼できる部下の一人である先生を、衛兵団長として事前に送り込んだのだ。


 そこで、わたしに期待された役割だが、一つは、好奇心と運の良さと不思議な直感で、唯一無二の本物の聖女――新しい大聖女を見つけ出すこと。もしかしたら、お告げを通して、ユリアーナとわたしがここで出会うことも、陛下には伝えられていたのかもしれない。

 もう一つは、師弟関係にある団長を助けて、不正な行いを続けてきた聖女大聖堂に関わる人々を懲らしめ、聖女大聖堂の組織を一新すること――か。

 そこまでは、何とかなりそうだが、さらに、この機会に、ユリアーナを狙う隣国の公爵家の追っ手もまとめてどうにかしてしまったほうがいいだろう! それならば――。


「聖堂長様、団長、実は――、わたしは既に、新しい大聖女様の居所を掴んでおります!」

「なんと、まことですか?!」

「レオン、どういうことだ?!」


 二人は、思わず大きな声を出した後、慌てて口をつぐみ、当たりの気配をうかがった。

 

「ことを上手く運ぶために、わたしに一つ考えがございます。お二人の力もお借りして、一芝居打ってみたいと思うのですが、お聞きいただけますか? それは……」


 話がまとまり、聖堂長と団長が天幕を出た後、朝日が昇るまでの短い時間、わたしは天幕でうとうとしながら、また例の夢を見たのだった。


 ◇ ◇ ◇


 姫様は、「寺」と呼ばれる宗教施設の応接間にいた。彼女の向かいに座っているのは、この施設の長(おさ)を務める、ミョウシンニ様という女性だ。二人は、茶を飲みながら話をしていた。

 庭では、豊かな黒髪を肩の下あたりで切りそろえた、愛らしい少女が花を眺めていた。

 

 少女の母は、ある貴族の娘で、訳あってこの寺で女の赤子を産んだ。母が亡くなった後、赤子はこの寺で育てられ、明るく素直な少女に育った。

 少女の父親は、とある地方の領地の領主でユキムネ様という男だ。若い頃、王都に次ぐ大きさの西の都(みやこ)で、都の警備をしているときに少女の母親と出会った。二人はあっという間に恋に落ちたが、役目を終えたユキムネ様は領地へ帰り、二人はそのまま別れてしまったのだ。(よくある話よね!)


 ユキムネ様は、領地で妻を迎えたが、子どもには恵まれなかった。貧しい領地で、側室を抱えるほどの余裕もないので、いずれは親戚筋から養子を迎えようという話も出ていた。

 そんなとき、都の警備をしていた頃の知り合いから、この少女の話がユキムネ様に伝わった。奥方も異存はないということで、正式に娘として引き取りたいという申し出が寺に届いたのだ。


 このまま寺で生涯を終えるかもしれない娘が、小さいとはいえ領地がある領主の姫となれるのだ。喜ばしいことなのかもしれない。しかし、ミョウシンニ様はため息混じりに姫様に言った。

 領主の跡継ぎとなって、どこかの領主の息子を婿に迎えて、一生、御殿から出ることもなく暮らすことは、あの子にとって幸せといえるのでしょうか? ――と。


 姫様が庭に目を向けると、少女の側には、たくましい若者が立っていた。若者は、少女の髪を優しく指でとかし、小さな花をさしていた。見つめ合い、微笑み合う二人。

 若者は庭師だ。父親について幼い頃から寺に出入りし、少女とは幼なじみだ。若いが、腕は確かで松の木を仕立てるのが上手いらしい。

 姫様は思い出す。以前尋ねたユキムネ様の御殿の庭に、帆掛け船の形に仕立てられた、立派な松の古木があったことを。腕のいい庭師が見つからず、苦労しているという話を。姫様の心は決まった!


 いつもの侍女と若者を連れ、姫様はユキムネ様に会いに行く。姫様の邪魔をしようと襲ってくるユキムネ様の親戚筋の手の者や、この機会にお取り潰し(何かしら、それ?)を企む者たちを白い頭巾の剣士とともに蹴散らしながら(今回は大活躍ね!)、姫様はユキムネ様のもとに辿り着く。そして――。


 ◇ ◇ ◇


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 20万字まで来ました。

 まだ、先は長いのですが、よろしくお付き合いください。

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