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其の七 開催式の異変

 本日も閲覧ありがとうございます。

 今日は、展開の都合上やや短めです。

 わたしは、ジャーダが落としかけた酒瓶を掴み、それを返しながら、悪鬼にでも出会ったかのように、目を大きく見開き、わなわなと唇を震わせる彼女に言った。


「あなたたちは、いったい何者ですか? なぜ、隣国の公爵家の娘であるヨランダさんと一緒にいるのですか? もし、わたしとギーを信じてすべてを打ち明けてくださるなら、わたしたちは必ずあなた方の味方になります」


 ジャーダは、酒瓶を胸に抱え、じっとわたしを見つめていた。初めて言葉を交わしてから、まだ半日しか立っていない。聖女役としてわたしを仲間に入れ、聖女祭りに乗り込んだが、追っ手はすでに身近に迫っている。味方は一人でも多い方がいいはずだ。 

 ジャーダは、ブルブルッと首を何度か振ると、喉の奥から声を絞り出すようにしてつぶやいた。


「確かに、わたしたちには味方が必要だ。あんたは、わたしたちの事情をある程度知ってしまったようだ。それに、ヨランダは、なぜかあんたを信頼している。でも、わたしは……あんたが信用できる人物なのかどうか、まだ判断できない……」

「わかりました。あなた方が、わたしを信用し、話してもいいと思うまで、もうこれ以上事情は尋ねないことにします。そのかわり、わたしはわたしで、勝手に彼女(ヨランダさん)を守ります。彼女の気持ちを考えることなく彼女を利用しようとする者に、決して彼女を渡しません!」

「あんた……は……」


 わたしは、ジャーダににっこり笑いかけた。

 先ほどの人物とは別の聖堂女が、手燭を持って出てきた。ジャーダとわたしは、呼び止められる前に就寝の挨拶をして広間へ戻った。

 あっ! いけない! ギーの様子を見に行くのを忘れていたわ! 


 次の朝。

 手桶に汲んできた水は冷たい。顔を洗っているわけではない。濡れた夜着を洗っている……。


「あのね……。みんなと、夕べ踊ったり歌ったりしたよね……。それで、のどが乾いてさ、残っていたキトゥルスの実を食べたり、水を飲んだりして……、そのうち、眠くなっちゃってさ……」

「わかりました。濡らしたのが夜着だけで良かったです。途中で気がついて、用を足しにいったのは偉かったですね。でも、寝しなに冷たい物を口にするのはいけません。これからは、夜の冷え込みが厳しくなるからなおさらですよ」

「はい……」


 少し離れたところで朝食の支度をしているパチーノやカヴァニスが、にやにやしながらこちらを見ている。いちおうギーにも自尊心はある。これくらいにしておこう。荷馬車と天幕の間に張った綱に、絞った夜着を広げ洗濯を終えた。今夜は、聖堂の広間に連れて行った方がいいかしらね?


 干し肉やスパイスを加えた麦粥と山羊のチーズの朝食を手早く済ませ、聖女祭りの開催式に備える。

 わたしは、天幕の中で、昨日と同じようにローブを纏い、髪をまとめてベールを被った。渡り聖女たちは、それぞれの天幕の前や広場の中央に出て開催式の開式を待つ。わたしたちも、大聖堂の正面に待機した。

 やがて、大聖堂の入り口の扉が開き、トランペットを持った大聖堂の楽士が登場した。いよいよ開式だ。

 トランペットの演奏が終わると、大聖堂の前のバルコニーに、聖堂長や役付の聖堂女だけでなく、町名主、堂守など、聖女大聖堂の運営にかかわる主要な人々が勢揃いした。気がつけば、聖女大聖堂衛兵団の兵士が、バルコニーや広場全体を取り囲むようにして並んでいた。

 聖堂長が、バルコニーの前方にゆっくりと歩み出て、聖女祭りの開催を宣言した。


「ここに集いし聖女たちよ! 偉大なるオティーリエ・ノールデルメーア様と心を結び、人々に平和と安寧を授ける者たちよ! あなた方の尊い行いが、あなた方の心を磨き、より高みへと押し上げるものと信じ、心して日々の務めを果たしなさい! 聖女祭りは、あなた方と偉大なるオティーリエ・ノールデルメーア様のつながりを深める、三年に一度の大切な機会であります!

 偉大なるオティーリエ・ノールデルメーア様は、いつもあなた方と共にあります! 偉大なるオティーリエ・ノールデルメーア様に感謝の祈りを捧げましょう!」


 広場にいた人々が、一斉にひざまずき、祈りを捧げた。


「三年に一度の大切な金儲けの機会だろ?」


 近くにいる誰かが、小さな声で呟いた。「しっ!」と叱責する者もいたが、忍び笑いを漏らす者もいた。聖女布をもらうために、いったいいくらぐらい喜捨するのだろうか? 例え大金を喜捨しても、聖女布というお墨付きをもらえれば、この先、三年間は渡り聖女として、世界中を自由に移動して商売ができる。十分もとはとれるということか。

 ヒュッと、冷たい風が吹き抜けた。いつの間にか空全体が、黒い雲に覆われていた。よく見れば、このトゥルワナーネの町の上空にだけ雲が集まっているようだ。何だか不気味な感じだった。人々は顔を起こし、何か異変が起こるのではないかと空を見上げている。

 数羽の白い鳥が、低く飛びながら広場の上を横切っていった。その瞬間、黒い雲の間で何かが光った。

「ひっ!」と、息を呑んだ者がいた。


 ―― ズッダーーーーーン!!


 黒い雲を切り裂くように、巨大な光の剣が現れ、聖女大聖堂の拝殿の天井に、真っ直ぐに突き刺さったように見えた。と同時に、


 ―― ガガガガガガ…… ド、ドドン!!


と、何かが崩れ落ちるような音が響き渡り、大聖堂や広場が揺れた。広場に集まっていた人々は、何が起こったのかわからず、口々に何かを叫びながら逃げ惑い、恐慌状態に陥っていた。

 衛兵団の兵士が、バルコニー上に上がり、聖堂長たちを取り囲みながら、広場へ降りるように促した。広場の周囲で警護していた兵士たちが、何組かに別れ、様々な方向へ走っていった。

 大聖堂の入り口から、うっすらと土埃のような物が漂い出てきた。そして、一人の聖堂女が、胸を押さえ、よろめきながらそこから出てきた。バルコニーから降りかけていた聖堂長を見つけると、慌てて走り寄り耳元で何事かを囁いた。それを聞いた聖堂長は、目を剥きその場に倒れてしまった。堂守や町名主、役付の聖女たちが、衛兵が制止するのも聞かず大聖堂の中へ飛び込んでいった。

 わたしの隣で、わたしと同じように、じっと成り行きを見守っていたジャーダが言った。


「何か、とんでもないことが起こったらしいね」

「何が起きたのか、わたしたちに知らされるでしょうか?」

「さあ、どうだろうね? あの人たちに都合が悪いことなら、知らされないかもね」

「では、こちらから調べに行くしかありませんね!」


 引き留めようとするジャーダを無視し、わたしは、天幕に駆け戻った。ベールを外し、ローブを脱ぎ捨て、いつもの服装に戻ると、剣を片手に駆けだした。

 右往左往する人々で混乱する広場を抜け、大聖堂の広間の奥にある拝殿を目指す。拝殿の左右にも、小さな出入り口があったはずだ。聖堂女や衛兵たちが、出たり入ったりしているのが見える。あの辺りだろう。どさくさに紛れて、うまく中には入れるかもしれない。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 連日更新を宣言したのに、ブクマをお付けいただき感謝しております。

 第4話もそろそろ折り返しです。よろしくお願いいたします。

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