其の四 偽聖女の託宣
本日も閲覧ありがとうございます。
地震……PCは無事でした!
コリーが呼ぶと、最初の客が天幕の中へ入ってきた。うわ! ドキドキする! いよいよ始まるのね!
荷馬車から荷物を運び出しながら、コリー(もちろん、本当はヨランダ!)から、客との接し方は教えてもらったけれど、さて、上手くあしらえるかしらね――。
客は、中年の男性だった。なかなか良い身なりをしている。裕福な商人といったところだろうか。男性は、わたしと向き合うように、座卓の反対側の円座にゆっくり腰をおろした。
わたしは、袖の中へ隠した両手を合わせ、男性に無言で挨拶をした。淑やかに、淑やかに……と。
「聖女様。わたしは、ビーゴンダ伯爵領のベルロエで、骨董商を営むジナステラと申します。ありがたいことに、商売の方は大変上手くいっておりまして、蓄えも随分と増えました。
さる高いご身分のお客様から、資金が余っているのなら、エチィデノカの紅色金剛石鉱山へ投資するといいと勧められたのですが、どう思われますか? そのう……、儲かりますでしょうか?」
え? 聖女に儲け話の相談にくるの? 何よ、それ!
聖女に相談するのだから、てっきり人に言えない秘密の恋とか、長年後悔していることとか、そういう話をしにくるのかと思っていたのだが――。
まあ、相手は客なのだから、相談内容にかかわらず、聖女様としてそれらしい回答をしなければならない。
コリーによると、あまり直接的な表現よりも、何かに例えて話すと託宣らしく聞こえるとのことだ。
誰から勧められたのか詮索するつもりはないが、投資を持ちかけた人物はかなり怪しいやつだ。
これは、まだ一部の者しか知らないことだが、エチィデノカの紅色金剛石鉱山は、新しい鉱脈も発見されていないので、あと数年で閉山する可能性が高いのだ。父上も、損をしないうちに資金を引き揚げると言っていた。いい原石も滅多に出なくなっているから、鉱山に投資するより、市場に出回っている良い原石を、今のうちに買い占めた方が儲かるかもしれないとも。さて、何に例えて話そうか?
わたしは、袖に隠した両手を何度か組み直し、印を結んだように見せながら、大きく息を吐いて座卓に突っ伏した。ジナステラが「おおっ!」と、声を上げた。ちょっと大袈裟だっただろうか?
頭を振りながら、ゆっくりと顔を上げる。さあ、いよいよご託宣! よく聞くのだぞ!
「ジナステラ殿。あなたが、大きな木の下に立っているのが見えました。木には、紅色の花がたくさん咲いておりましたが、あなたが花に手を伸ばそうとすると、一陣の風が吹き、あっという間に花びらを全部散らしてしまいました」
「何と! 紅色の花とは、まさに紅色金剛石を指しておるのでございましょう。それが、すべて散らされ一つも手に取れぬとは――。これは、鉱山に投資をしても得るものはないということですね」
「さらに、立ち尽くすあなたの前に、一人の少女が現れまして、紅色の花の蕾がついた枝を差し出しました。あなたに、それを買って欲しいようでした」
「蕾がついて手折られた枝を買うのですか? それはつまり、鉱山からすでに掘り出された紅色金剛石の原石を求めよ、ということでしょうか?
なるほど! わかりました! 鉱山に投資しても、鉱山からはもう質の良い紅色金剛石は掘り出されないかもしれない。だから、今、出回っている物に投資せよ。そうすれば、いずれ確実に値上がりする。そういう託宣でございますね!」
素晴らしい! よく読み取ってくれたものだ! わたしが伝えたかったことを、ジナステラは完璧に理解してくれた。というか、かなり自分に都合よく膨らませているけれど……。まあ、いいとしよう。わたしに、感謝の言葉を繰り返し、さらに追加の喜捨をして、彼は天幕を出て行った。ふう! 何とか一人目は、うまくいった。さあ、次はどんなお客様だろうか?
「次ノオ方、オ入リクダサイマセ」
コリーの声に促され、天幕の中に入ってきたのは、うら若い女性だった。上品なドレスを身に纏っている。鍔の広い帽子からベールを下げ、顔を半分くらい隠している。あまり公にしたくない話をしに来たのだろうか? まさか、またお金の話ではないわよね?
「聖女様。わたくしの悩みをお聞きくださいませ。わたくしが愛する方には、婚約者がおられます。お二人は幼なじみで、お互いが三歳の時にご婚約を決められたそうです。先日、彼から
『こんなのは、親が勝手に決めた形だけの婚約さ! わたしが愛しているのは君だけだ。わたしが彼女と婚約破棄できるように、君にも協力して欲しい!』
と言われました。彼の婚約者に恨みはありません。でも、彼の望みは叶えてあげたいのです。わたくしは、いったいどうしたら良いのでしょう?」
「あの、その、愛する方のお名前は、伺えますでしょうか?」
「はい。この国のさる貴族様の三男で、オルランド様という方です」
はあ? 貴族の三男でオルランド? それは、ビュラン伯爵家のオルランドだわ! ということは、婚約者は、シモンヌ・ラヴァーレ伯爵令嬢。でも、それはおかしい。オルランド・ビュランは、隠し子疑惑で逆にラヴァーレ家から婚約破棄をされかけていたはずだ。もしや、この娘を利用して嫌がらせ騒動でもでっち上げ、シモンヌをおとしいれた上で婚約破棄返しを企んでいるのか? ラヴァーレ家への詫び金を惜しんで? ふざけた真似を!
わたしは、先ほどと同じように、印を結んだり何かに祈ったりするような動きをした後、再び座卓に突っ伏した。娘は、「まあっ!」と叫び、わたしに触れようとしたので、さっと起き上がりそれを押しとどめながら、ゆっくりと口を開いた。オルランド・ビュランに鉄槌を下す!
「お嬢様。ある女性から、美しい船があなたに譲られました。あなたはそれにお乗りになりました。しかし、実は船には大きな穴が開いており、あなたを乗せたまま沈み始めてしまいました」
「それは……、オルランドが、わたくしといることで、何か大きな災難に遭うということでしょうか? 大変! どうしたら、わたくしたちは、災難から逃れられるのでしょう?」
「いえいえ、心配いりません。あなたに船を譲ってくださった女性が、沈没に気づいてあなたに空樽を投げて助けてくれました。その後、沈み掛けた船を二人で引き上げて、最後はそれを叩き壊して、たきぎにして、あなたと女性は濡れた体を温めました」
「それは、……彼の婚約者と協力しろということですわね。信じがたいことですが、彼は、わたしも婚約者も裏切っていて、わたくしたちを二人とも困らせようとしているのでしょうか? 一度話し合ってみなければ……。彼の婚約者は、ワインがお好きなのかしら?
わかりましたわ! 王都に戻りましたら、最高級のワイン樽を手土産に、彼の婚約者のお宅を訪ねてみることにいたします」
シモンヌもだが、父親のラヴァーレ伯爵は、大のワイン好きだ。この女性が何者かは知らないが、衣装や装身具から見て、王都の裕福な商家の娘という可能性が高い。高級ワインの樽と一緒に伯爵家を訪ねて相談すれば、たちまちオルランド・ビュランをいかにして懲らしめるかという話がまとまるに違いない。はい、一丁上がり!
「オ待タセイタシマシタ。オ次ノオ客様、ドウゾ」
コリーに呼ばれて、次に現れたのは、旅人風の男。マントやグローブがだいぶ傷んでいる。厳しい旅を続けているようだ。頬はこけ、目の下にはうっすらと隈を作っているが、眼光は鋭く、野生の獣のようなギラギラとした雰囲気がある。
「聖女殿。わたしは、人捜しをしている。もう、2年近く捜しているが、いっこうに行方が掴めない。渡り聖女の力など、実のところ信じてはおらぬのだが、相談をすすめる者がいて、藁にも縋る思いでここに来た。わたしに託宣を授けてくれ」
「承知いたしました。どのようなお人を捜しているのでしょうか?」
「今年、……15になる娘だ。その娘は、ある高貴なお方の血をひいている。訳あって、そのお方とは離れて、母親の手で育てられていた。いや、母親の陰謀で、娘が誕生したことは、そのお方にはずっと秘密にされていたのだ。ようやく行方を突き止めたが、我々の動きに気づき、何者かが娘を連れ去ってしまった」
―― カタン……
天幕の外で、小さな音がした。誰か聞き耳を立てていたのだろうか? とりあえず、客の注意をわたしに向けさせた方がいいような気がしたので、急いで男に質問した。
「その娘さんに、何か人とは違う特別なところはございますか?」
「わたしが見たわけではないのだが、左耳の後ろに、小さな星形の赤い痣があるらしい」
わたしは大きくうなずき、袖の中の両手を、印を結ぶように組んだ。
男の言葉には、ジャーダたちと同じような隣国訛りがある。高貴なお方とは誰だろう? 隣国の王家か公爵家にかかわる人物か? 娘は、おそらく正式な婚姻を経て生まれた子ではないのだろう。
しかし、何らかの利用価値が見いだされ、高貴なお方は娘を手に入れようと動き出した。跡継ぎの死か、もしくは政略結婚の駒か。どちらにしても、娘はその申し出を拒否して身を隠したのだ。
さて、この客には、何を伝えるか?
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第4話も少し長めなので、再編集中です。
週末も投稿します。よろしくお願いいたします。




