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万能悪玉令嬢ですが、王命に従い世直し奉仕旅に出ました!【完結済】  作者: 有理守
プロローグ  悪玉令嬢 王の密偵となる
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其の四 悪玉令嬢 御前試合で無双する 前編

 弟のフロランタンは、舞踏会の翌日には、紳士クラブに出かけ、舞踏会に出席した友人たちから、ナルシスの破廉恥漢ぶりを聞かされていたようだ。王宮から戻り、舞踏会の一件で教育係の任を解かれたと伝えると、真っ赤になって怒り出した。


「ナルシスは、姉上が嫌がっているのに、3曲も踊ろうとしたというではないですか! 仮面の男が現れなかったら、もっと付き合わされていたかもしれませんよ、あのへたくそに! 

 ご令嬢たちもご令嬢たちですよ! あんな安っぽい男のどこがいいんでしょうか? まあ、くだらない連中に関わる必要がなくなって、姉上にとっては良かったのかもしれませんが、姉上が汚名を着せられたことは我慢がなりません!」

 

 フロランタンの怒りは収まらず、ブツブツ言いながら、クッションをドスドスと拳で突いている。普段は穏やかなのだが、わたしと似ていて少し直情径行なところがある。このままだと、わたしのためにナルシスに決闘を申し込みかねない。どうしたものだろう? 

 すると、突然フロランタンが動きを止め、とんでもないことを言い出した。


「そうだ! 姉上、御前試合に出場されたらいかがですか? 王太子殿殿下のお誕生日に、貴族の子弟の中から、武芸に自信がある者たちを集めて行われることになっています。今年の武器は、スモールソードだそうです。どうせナルシスの奴も、宝石など鏤めた派手な剣を見せびらかすために出場するはずです。

 国王陛下や王太子殿下の前で、奴のシャツの胸をNの字に切り裂いてやったらいかがですか? たぶん、オーミルシェ侯爵夫人は、ナルシスが優勝できるように、対戦相手に金を渡して勝ちを譲る約束をさせているでしょうが、決勝で当たって思い知らせてやりましょう!」

「でもね、フロランタン、御前試合には女性は出場できないはずですよ。」

「大丈夫ですよ。わたしということにして出場すれば。幸いわたしと姉上は、背格好も顔立ちもよく似ています。マスクなり覆面なりつけて、かつらでもかぶればきっと誤魔化せます!」


 いや、マスクか覆面つけて鬘かぶったら、動きづらいでしょうが。それだけで、だいぶ不利になると思うよ。我が弟は、わかっているのかね? 

 フロランタンは自分の計画にすっかり酔っているが、そこへまた援軍がやって来た。アレットである。お茶の支度をしながら、今の話を小耳に挟んでしまったらしい。


「まあ、お嬢様! 今度は男装ですわね! わたくしが、フロランタン様そっくりに仕上げて差し上げますわ。んふ、早速お衣装の準備をいたしましょう。フロランタン様、お貸しいただけますか?」

「もちろんだとも! 必要なものは、なんでも使ってくれ。よろしく頼むよ、アレット!」

「お任せくださいませ!」


 また、アレットの着せ替え人形にされるとは! そんなことより、なんで、フロランタンではなくて、わたしが出場するわけ? フロランタンが出場した方が、話は早いだろうに。そのことをフロランタンに問うと、


「姉上、わたしの腕前はよくご存じでしょう? ナルシスと対戦する前に負けてしまったらどうするのですか?」

「オーミルシェ侯爵夫人のように、対戦相手を金銭で懐柔しておいたらいいのではなくて?」

「そんな卑怯な真似はできません! 姉上の実力で、正々堂々とナルシスを成敗するのです!」


と言うのだが、女のわたしが弟のふりをして出場するという計画が、すでに規則に反していて、もう正々堂々ではない気がする。それに、正体がばれたときには、大変なことになるのではないだろうか。


「姉上、ナルシスを懲らしめたら、もうそれ以上戦う必要はありません。さっさと挨拶をして退場してください。わたしと入れ替わる計画にしましょう。王太子殿下から、お褒めの言葉をいただくときは、わたしが御前に出るようにいたしましょう」

「まあ、じゃあ、同じ衣装が二組必要ですわね。足りないものは、急いで注文しませんと」

「そうだな、アレット。準備を急いだ方がいいな」

「はい、フロランタン様!」


 もう、この二人には何を言っても無駄のようだ。まあ、すこしやり過ぎという気もするが、決闘沙汰になるよりはましである。それに、王妃様のお気に入りであることを笠に着て、どんなことも金で何とかなると考えているらしいあの侯爵夫人に、少し反省していただく必要はあるだろう。


 翌日、王宮に出かけたフロランタンは、王太子様の侍従の中に親しい者がいるとかで、ナルシス様と自分(本当はわたし)が、決勝戦で当たるように試合を組ませてきた。また、自分は恥ずかしがり屋なので、マスクをつけて出場したいと申し出て、許可までもらってきた。その侍従に、袖の下掴ませてないわよね? 

 アレットは、メイドのエディトを伴って買いものに出かけた。フロランタンの近侍のジョエルは、何をどこまで知っているのかわからないが、熱心に武具の手入れをしている。父上と母上は、領地に出かけていて留守なので、誰も彼も好き放題にやっている。大丈夫か? アブリージ侯爵家!

 わたしは、ひたすらスモールソードの稽古に励もう。わたしにできることは、それしかない!


 そして、いよいよ御前試合当日となった。

 ブノワが御する馬車に乗り込む。今日は、珍しく満席状態だ。わたしとフロランタンだけでなく、アレットとジョエルも乗っている。わたしとフロランタンは、シンプルなシャツにズボンと言う服装で、マントを羽織っている。それぞれ下着を工夫して、極力体型差がでないようにしてある。

 顔は薄い革製のマスクで目元を隠し、マスクの紐を後ろで結ぶことで鬘が動かないようにした。二人並んで、何度も鏡に映してみたが、ほぼ見分けはつかないだろうという仕上がりぶりであった。さすが、アレットである。

 いや、フロランタンの近侍のジョエルが来るのはわかるけれど、どうしてアレットも馬車に乗っているの? あなたがいると、わたしが来ていることがばれるかもしれないわよね。


「試合が終わり次第、お嬢様のお着替えが必要になるかと思いまして。わたくしは、替えのお召し物と共に、馬車の中でお待ちしております。存分に戦ってくださいませ」


 そう言ってはいるけれど、たぶん、見に来るのよねぇ。御前試合は、王宮のアドニスの間で行うが、観戦は自由である。王宮には暇な人間が少なくないので、それなりに人が集まるに違いない。その人だかりに紛れて、自分が仕上げた男装で剣を振るうわたしを見ようとしているに違いない。その証拠に、アレットは珍しく頭巾を被ってきている。顔が見えにくいように。


 馬車が王宮に到着した。わたしは、ジョエルを伴いフロランタンとして、アドニスの間に向かう。アレットとフロランタンは、人目につかないように馬車の中で待ち、決勝戦が始まったところでジョエルが知らせに行くという手はずになっている。


 御前試合への参加者は、わたしを含め8名。予想通り、ナルシス様の剣は、鍔に宝石や派手な細工を施した豪華なものだった。スモールソードは片手使いの剣で軽いことが特徴なのに、華美な装飾は剣を重くし扱いにくくする。お飾りとして帯剣するだけならいいが、今日のような試合で使うものだろうか?


 フロランタンの情報によると、オーミルシェ侯爵夫人は、フロランタンに使いを寄越し、ナルシス様の優勝に協力するよう頼んできたそうだ。謝礼は、金銭でもそれ以外のものでも、何でも応じるという話だったようだが、アポリーヌを嫁にくれるというのもあったらしい。それは、謝礼じゃないだろう!

 フロランタンは、その頼みに対し、自分は剣術を愛しており、そのような不正に手を染めたくない、是非、真剣に勝負をしたいと返したそうだ。よく言うよ! 他の6人がどういう返事をしたかは、試合を見ればわかるだろう。


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