其の八 ロワリエの話
ロワリエは、想像通り、王都に向かう途中、アルエやオーバンの手の者と思われる三人の男たちに襲われて、大怪我をしたそうだ。街道沿いの村の村人に助けられ、匿われていたとのことだが、起き上がるのに三ヶ月、歩けるようになるのに半年もかかったという。
起き上がれるようになってすぐ、村を訪れた巡礼にディディエ親方の息子のレジス宛の手紙を託したそうだ。自分を襲った連中の一人に必死で斬りかかり、肩口に傷を負わせたので、その人物を探し出して欲しいという内容だった。
しばらくして、また、巡礼を通じて届いたレジスからの返事によると、ロワリエが傷つけたのはエリクではないかということだった。誰か証人が見つかったのかもしれなかった。自分が確かめてみるとも書かれていた。
しかし、それっきり、レジスからの連絡はなかった――。
「わたしは、村で行き倒れになった傭兵の旅手形を使って、3ヶ月前にオルワランダの町へ戻ってきました。町に戻って、はじめてレジスが、事故で亡くなったことを知りました。事故のはずがありません。レジスは、慎重な男でしたから。
レジスは、エリクの体にわたしがつけた傷があることを自分の目で確かめ、それを問いただしたために命を奪われたのだと思います。わたしが、もっと早く町に戻っていれば、そんなことには……。
神殿や市場で少しずつ聞いて回ったところ、近侍のシモンが襲われた次の日の朝、オーバンの店の裏口から、血まみれのエリクが入って行くのを見たとか、城壁で最後にレジスを見かけたとき、エリクと一緒だったとか、それぞれの事件にエリクが関わっていたと思われる話がいくつか出てきました。
わたしと親方は、命を奪われたレジスやシモンの敵を討ちたいと思っています。伯爵様がご領地にお戻りになった折に訴え出て、エリクにこの手で罰を与えた上で、その黒幕のオーバンやアルエの罪も暴くつもりです。証言は揃いつつありますが、とにかく、伯爵様がお戻りにならないことには……」
話を終えたロワリエは、泣きながら眠ってしまった親方の背中に、どこかから毛布を持ってきて、そっと掛けてやっていた。ロワリエは、いつのまにか、執事っぽい丁寧な話し方になっている。無精ひげに向こう傷の今の外見に全然ぴったりこないけど――。
うわっ、また見つめてしまっていた! ギーが、ニヤニヤしながらわたしを見ている! もう、この子は! 気を取り直して、ここはビシッと決めなくては!
「ロワリエさん。伯爵様は、まもなくご領地にお戻りになるはずです。一両日中には、早馬でご帰還のお知らせが町に届くことでしょう。遅くとも、一週間後にはご到着になるのではないでしょうか」
「な、なんと! まことですか? それならば、わたしたちの宿願を果たせる日も近いということ! ありがたい! しかし――あなたは、どうやって伯爵様がお戻りになることを、お知りになったのですか?」
それは、わたしが王の密偵だからで、秋の神殿を通じて、王宮にサウミガーレ伯爵領の現状を報告する伝書をしたからなのだ。わたしからの伝書は、神殿から国王陛下に渡る。
そして、伝書によって事情をお知りになった陛下のご命令で、伯爵は領地に戻される。表向きは、領地でシャルリーヌ様のご婚約のお披露目をするように、とかいう理由で。王命を妨害することは誰にもできない。アルエやオーバンとその仲間たちは、これからどう動くのだろうか。
でも! それは秘密! 極秘事項! 誰にも言えない! だから、ロワリエには――。
「神のお告げです。昨晩、春の神殿に宿泊しましたところ、春の神殿の幼神様が、夢でお告げになりました。伯爵様が帰還され、この地の闇が祓われるとおっしゃっておりましたよ」
「お告げが! あなたは、いったいどういうお方なのですか? 幼神様のお告げまで賜るとは!」
だから、吟遊詩人でも用心棒でも料理人でもなくて、ちょっとはしゃぎすぎたあげく国王陛下の密偵になった侯爵令嬢なのだけど、それは内緒! というわけで、わたしは、ロワリエに謎めいた微笑だけを返しておく。深掘りするなよ!
その晩は、だいぶ遅くなったので、口入れ屋に泊めてもらった。ロワリエが、自分の使っている部屋をわたしたちに貸してくれた。自分は、店の方で寝ると言う。
お言葉に甘え、部屋を借りることにした。ギーをベッドで寝かせ、わたしは毛布を敷いて床に寝た。旅は長いしいろいろある。こういうことにも慣れていかないとね!
そして、翌朝。
簡単な朝食を済ませた後、親方とロワリエを口入れ屋に残し、ギーとわたしは春の神殿に向かった。オドレイを引き取り、神官長にロワリエが生きていて、ディディエ親方の所にいることや、伯爵様が近々お戻りになり、アルエたちの悪事が露見するであろうことを伝えた。
神官長は、涙を流して喜び、わたしたちのために特別な祈りを捧げると約束した。
また怪しい連中が、口入れ屋に押しかけて来たり、押し込みに入ったりするかもしれないので、この先も、わたしは、ディディエ親方の口入れ屋に寝泊まりすることにした。口入れ屋の二階は手狭なので、親方とロワリエは、夜は冬の神殿に泊めてもらうことにした。
ギーも神殿に行くようにいったのだが、弟子だから一緒にいると言ってきかない。また、自分が置いて行かれて、一人ぼっちになることを恐れているのかもしれない。心配するな! そんなことするものか!
昼間は、口入れ屋の隣の空き地で、敵討ちに備え剣の稽古をする。久しぶりの教育係! それも剣の稽古! 相手は、ちゃらんぽらんなご令嬢たちではなくて、敵討ちに燃える親方とロワリエ! 腕が鳴る!
といっても、一人は大怪我から回復したばかりだし、もう一人は体力が衰えつつある年齢だ。厳しい稽古はとても無理である。一番見込みがありそうなのが、おまけで参加しているギーなのだから、前途多難だ。エリクに一太刀でもお見舞いすることができればいいが……。
昼食後は二人を休ませ、ギーとわたしは、オドレイを連れて冬の神殿へ向かった。オドレイを厩舎に預け、また、荘園を耕しに行った。親方とロワリエを泊めてもらっているお礼である。
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