第四話
主人公は短パンニーソの絡まない部分では割と冷静で頭が回るんです。
――割り当てられた部屋にて――
「善は急げだ。まずは短パンニーソを作ろう。っていっても服創造ってどうやるんだ?」
うーん。体内に魔力的なものは感じないしなぁ。
とりあえず両手を前に出して、深呼吸して、短パンニーソに思いを馳せてっと。
「服創造!!!」
ポンッ
「……マジで?」
目の前にはまごうことなき短パンニーソが一つ。そして――
「めっっっっちゃ疲れるんですけど」
体感的にはフルマラソンの後におしるこを飲んだような、疲労感と息苦しさが絶え間なくやってくる。
「まあ、この程度で短パンニーソが作れるなら安いってもんだ。それにこの短パンニーソ、かなり質がいいぞ」
とりあえず両手でそっと持ち上げてみる。
肌ざわり、軽さ、フィット具合、そのすべてが極上だ。
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【名称】極上の呪われた短パンニーソ+10
【能力】清潔:10 / 自動修復:10 / 適温:10
【解説】神をも浄化する執念と執着により創造された呪われし短パンニーソ。履いたら最後、脱げなくなる。しかし最早脱ぐ必要などないのだろう。身にまとう下半身は常に清潔で、傷やほつれは一晩で治り、極寒の地でも火山の火口でも常に快適なのだから。
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「……すばらしい」
ああ、俺が追い求めた短パンニーソは異世界にあったのか。
とりあえず作った服が呪われているのは呪いの装備のギフトのせいだろう。これパッシブなのね。ってことは服だけじゃなくて木剣や木の盾とかも作ったら呪われるのか。
厄介だな。特にこれを間違って俺が装備した時が最悪だ。次点で勇者と聖女さんか。
「おっと、この極上の短パンニーソをほったらかしにするなど言語道断だ。まずは神棚を作って、奉納しないと」
木材は、ベッドの木を拝借しよう。短パンニーソの供物になるのだ。未練はなかろう。
あとはそっと短パンニーソを奉納して、二礼、二拍手、一礼。
「とりあえず気になることは他にもあるけど、とりあえず極上の短パンニーソをいつでも生み出せるってわかればいっか。寝よ寝よ」
・・・zzz
――翌日、朝、前線基地、鍛錬場――
「さて、皆さん。おはよう」
とりあえず目の前には爽やかイケメンの勇者さん。手には立派な木剣。少し離れたところには木製の剣や槍や斧が。
「昨日も話したけど、この世界は魔物に侵攻されている。君たちにも魔物と戦ってもらうことになる。とはいえ、戦闘に向かないものもいるだろう。ギフトが戦闘向けでないということも十分にあり得る。物理戦闘に向かないものは別の場所で聖女マリアベルが魔法の講義を行う。それにも向かないものは後方で支援するための雑務を行ってもらうことになる」
その言葉に数人が抜けていく。まあ、仕方ない。そもそも3つしかないギフトに都合よく戦闘系があるとなると可能性はそう高くないのだろう。
俺はなんでここにいるって? そりゃあ”戦闘用のギフトがないから”ですよ。
鍛錬でギフトは増やせるって話だし、戦えるようになっておかないとこの世界では不安でしかない。魔物相手に命乞いが利くとは思えないし。
それに戦闘に出れば美人な女騎士やグラマーな魔導士がいるかもしれない。そんな人たちに短パンニーソのすばらしさを教える機会があるかもしれない。
武功を上げれば国王に謁見できるかもしれない。そうすれば国王や有力な権力者に短パンニーソを布教できるかもしれない。
後方にいてもいいけど、前線のほうが俺の求める短パンニーソを目指せる気がする。
「じゃあ、さっそく始めようか。まずはそれぞれの戦闘用のギフトを教えてくれ」
勇者が木剣を肩に担ぎながら告げる。
「大剣術、8レベル」 これは龍。
「弓術で7レベルです~」 これは桜
「槍術で7レベル。あと身体強化が6レベル」 これは玲
「剣術で……2レベルです……」
消え入りそうな声。確か佐伯志野だったか。実家が剣道道場って何かで聞いたな。
「問題ないよ。というかレベル2でも相当なんだ。いきなりレベル6とかを持っている三人のほうがイレギュラーなんだ。それで、最後の君は?」
爽やかイケメンが爽やかにフォローする。流石イケメン。
「俺は戦闘用のギフトはない。ただ魔法系のギフトもない。持っているのは服創造っていう生産系のギフトとそれの補助系なんだ。ただ、この世界で生きていくのに戦うすべは必要。やったこともないような魔法よりは剣を振る方がまだ見込みがありそうだったんだ」
一息で言い切る。嘘は言っていない。補助系のギフトがヤバいとか、レベルが10だとかを言わなかっただけだ。
「構わないさ。後方支援でも自分の身を守るくらいの力は必要だしね。じゃあさっそく始めようか。皆、剣を握るのは初めて?」
「ああ、けどギフトのおかげか、握り方や振り方はなんとなくわかるぜ」
「そうね。体の動かし方がわかるわ」
「わたしも、狙い方とか構え方は問題なさそうでーす」
「あ、わたしも大丈夫です」
うーん。見ているだけで違いがよくわかるな。俺にはさっぱりなんだが。これがギフトの恩恵か。
「悪いが俺は全くわからないぞ」
「うーん。といっても君に全員が合わせるとなぁ。特にあの三人はそこらの騎士なんかじゃ訓練にならないくらいギフトのレベルが高いし……」
「まあ仕方ないさ。暇な騎士を捕まえて基礎から教えてもらうよ」
「すまないね。俺のほうから騎士に声をかけてくるよ。少し待っていてくれ」
――昼、前線基地、鍛錬場――
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「さあ、頑張って。あと50回です」
むさくるしい騎士のおっさんとかれこれ数時間。
悪い人じゃないんだが、良くも悪くも体育会系で、熱血漢だった。
体はきついが頭は割と暇だったため、脳内でこのおっさんに似合う短パンニーソのパーンを作ったりもしていた。
多くの人はおっさんに短パンニーソなどに合わないと思うかもしれない。
だが、それは違う!!
もう一度言おう。違うんだ!!
短パンニーソには本来、すべての人を包み込むポテンシャルがあるんだ。ただ、いまだに人類は真の短パンニーソにたどり着けていない、真理の短パンニーソに至れていないだけなのだ。
俺がこのことに気が付いたとき、俺は真に短パンニーソの探究者になったと言えるのだろう。今まではそこにあるエロスにひかれていたことは否定しない。
だが、今では真の短パンニーソを追い求め、男でも、老人でも、ヒキニートでも包み込める、そんな短パンニーソを短パンニーソするために短パンニーソ!!
おっと、少し暴走してしまった。冷静にならねば。
少し離れたところではギフト持ちが勇者相手に打ち込んでいる。けど、勇者のほうは片手で捌いて、そのうえで軽く反撃している。
「――スラッシュ!!」
「まだまだ。ギフトに使われている。使いこなさせるようにならないと」
「ラピットショット!!」
「悪くはないが狙いが素直すぎる。もっと殺す気でやらないと」
「ペネトレイトアタック!!」
「武器破壊の技か。悪くない。けど当たらないと意味がない。連携を意識して」
「ヴォルテクスクロス!!」
「おっと、流石にそれは受けれないね。でも剣筋を逸らしてやれば避けきれるよ」
うん。異次元だ。異世界って実感するわ。
「おっと、手が止まっていますぞ。さあ、続きをやりましょう。継続は力なりですぞ」
「……はい」
――夜、割り当てられた部屋にて――
「痛い。体中が痛い」
手の平もそうだけど、なんというか全身が痛い。明日は筋肉痛かな。俺以上に動き回ってたギフト持ちは大丈夫なのか?
「まあ、それはそれとして、服創造!!」
ポンッ
出てくるのは短パンニーソ。しかし昨日のものとは違う。
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【名前】剣聖の呪われた短パンニーソ+10
【能力】剣術:9 / 身体強化:9 / 清潔:10
【解説】神をも浄化する執念と執着により創造された呪われし短パンニーソ。履いたら最後、脱げなくなる。しかし最早脱ぐ必要などないのだろう。身にまとう下半身は常に清潔であり、近寄る者はすべて切り伏せ、返り血を受けない身体能力を得るのだから。
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「これさえ履けばあなたも今日から剣聖にってか。今は一日一着しか作れないけど、そのうち量産もできるようになるのかねぇ」
そうしたらばら撒いてみようか。これだけの効果なら呪われていても構わないってやつがいるかもしれないし。
さて、これも神棚に収めてっと。
「まあ、それも追々だな。明日は実戦らしいし、早く寝よ」
・・・zzz
呪いと祝福は表裏一体。つまり短パンニーソは祝福二つ分。やったね。