第三話
冷静に異常、理性的な狂気、短パンニーソ それが主人公です。
――光に呑まれた後――
視界一面の真っ白い世界。上も下も右も左も、前後さえ分からなくなるような世界でただただ真っすぐに落ちている。
全てが白で塗りつくされているせいで下までの距離がわからない。いや、そこなんてないのかもしれない。
少し混乱しているな。まずは冷静に短パンニーソを数えよう。
短パンニーソがいちまーい。短パンニーソがにまーい。・・・・・・
いつ終わるかもわからないようなところをどれだけ落ちていたのか、それでも一瞬何かが光って、反射的に目を閉じて、そしてゆっくりと開くと。
「……どこ?」
ゆっくりと周囲を見渡す。
石でできた壁、天井も石で出来ているのか。手触りから床も石畳と。
ろくに装飾もなければ窓もなし。少し空気が湿っているから多分地下かな。奥に上り階段が見えるし。
で、周りには同じように飛ばされてきたクラスメイト達が10人ちょいに、厳めしいフルプレートを着た奴がいっぱい。
数人の神官っぽい爺さんがいると。着ている服の紋章に見覚えはなし。
どう見ても異世界です。本当に(ry
いやね、確かにこれだけなら見ず知らずのカルト教に誘拐されている可能性も無きにしも非ずだけどさ、神官っぽい爺さんの耳がさ、尖ってるんよ。
いわゆるエルフ耳ってやつ。
あとはなんか凄い鎧を着てるイケメンとかさ、清楚さと優雅さを兼ね備えた修道服を着た美人さんとかさ。なんかオーラが凄いんだよ。勇者と聖女みたいな?
「おい、どうなってんだよ」
クラスメイトの一人がイケメンに話しかける。うん。言葉、通じるのかな?
「落ち着いてください、異邦の方々よ。まずは突然の召喚の非礼を詫びたい」
そういって仮称勇者が頭を下げる。うん。言葉は伝わるようだ。
「私はレオンハルト。この世界の勇者です。そして隣にいるのがマリアベル。サンマルド教の聖女にして此度の召喚の議を執り行ったものです」
「お初にお目にかかります。マリアベルです。此度の召喚、重ね重ねお詫び申し上げます。ですが、どうか、どうか、私たちにお力をお貸しくださらないでしょうか」
勇者は仮称じゃなかったのか。ってか、異世界召喚なのにもう勇者はいるのね。
勇者は高身長で細マッチョ。でも腕とかの筋肉はスポーツ選手以上に引き締まっているな。ついでに生傷もすげぇ。腰の剣も素人目で普通じゃないってのがわかるわ。
イケメンな分どんな服でも似合いそうだ。短パンはいける。ならばニーソも行ける。そのうち彼にも短パンニーソを送らねばな。
聖女さんのほうはゆったりとした修道服の上からでもわかるくらい胸がでかいな。そのくせ腰回りに余計な皴とかもないから太っているわけではないのだろう。地球にいたら世界レベルのモデルになれるんじゃなかろうか。
普段からこんな服ではもったいない。やはりここは短パンニーソを送ってあげねば。
「質問しているのはこっちだ。話はこっちが納得してからにしてくれ。で、お前らが召喚とやらをしたのは判った。どうやって元の世界に返してくれるんだ?」
苛立ったようにクラスメイトの一人が聞き返す。確か名前は獅童龍。クラスのカーストトップのグループの一員だ。悪い奴じゃないんだが喧嘩っ早い奴だったはず。
うーん。すでに若干喧嘩腰か。周りの騎士さんたちが嫌な気配を放っているぞ。
「ちょっと、龍。落ち着いて」
こっちは確か山咲桜。うちの高校で一二を争う美人のおっとり派代表。
「そうよ。まずは話を聞きましょう。それで、力を貸すってどういうこと?」
で、こっちが水上玲。うちの高校で一二を争う美人のクール派代表。
「今この世界は滅亡の危機に瀕しているのです。西の暗黒大陸に邪悪な魔王が復活し、魔物を操ってこの東の大陸に攻め入っているのです」
「魔物は手ごわい上に魔王が生きている限り無限に生まれてくるんだ。魔物一体で兵士が数人必要になる。ワイバーンのような有翼種は一体で村を滅ぼすような脅威だ。はっきり言ってこのままでは人類に未来はない」
「今は協会が各地で結界を張り何とか侵攻を防ぎ、その間に対処しています。ですが前線は押し込まれる一方。勇者であるレオンハルトもすべての戦線をカバーすることはできず、もはや魔物は目と鼻の先まで来てしまっているのです」
オーケー、現状は相当ヤバいと。案外この場所も城とか協会の地下じゃなくて山の中なのかもな。だとするとしばらくは様子見しないとウッカリ死しにかねんな。
「そっちの様子は分かった。それで、俺たちを召喚した理由は?」
少し落ち着いた様子で龍が聞いている。
「戦力になってほしい。君たち異邦の方々はこの世界に来る際にギフトと呼ばれる能力を授かるんだ。その力を貸してほしい。私だけでは人類を守りながら魔王を倒すことができないんだ」
悔しそうにうつむく勇者。まあ、東の大陸で戦いながら西の大陸に行くなんて無理だろう。大陸間の距離がどれくらいあるのかは知らんけど。
「俺たちからしたらこの世界のことなんかどうでもいいんだ。元の世界に帰してくれないか。――っていっても仕方ないんだろうな。どうやったら返してくれる?」
「ご理解いただきありがとうございます。魔王を倒してください。魔王を倒せば体内に蓄えている無限に等しい魔力を世界中にバラまきます。その魔力を使えば送還の議を執り行うことができます」
聖女さんが丁寧に答える。
まあ、この世界に呼ばれた上でこう取り囲まれていたらここで元の世界に帰せと言うのは意味がないしな。協力した際の報酬で帰るほうが無難か。
それはそれとして自力で帰る方法も探さないといけないのだろうけど。
「協力するうえで条件がある」
堂々とした態度で龍が話す。すでにほとんどのクラスメイトがあいつの言うことに追従している。まあ、悪いことじゃないし、どうでもいいんだけど。
「伺いましょう」
「直近の俺たちの衣食住の確保。魔王討伐後の送還。知識、情報の収集に関しての全面協力。クラスメイトが不審死した際の調査協力及び犯人への処罰をこちらで決める権利。移動、行動、思考、思想に関する自由。奴隷なんてまっぴらだ」
「全ての条件を認めます。それでは少し移動しましょう。ここを出た先に我々の拠点があります。そこで改めてギフトなどの話をいたしましょう」
そういって聖女さんが奥の階段を上っていく。騎士に神官、そして最後に勇者が付いていく。
「さて、みんな。ここで蹲っていても帰れるわけじゃない。行こう。帰るために」
そういう龍の背中は確かに頼もしかった。
短パンニーソが似合いそうだ。
――人類前線基地、集会所――
「さて、皆さんにはまずギフトのことからお話ししましょう」
そういう聖女さん。横には勇者も立っている。その間には見慣れたような黒板が。
なぜ黒板が? まあいいか。そのうちわかるでしょう。
「まず、皆さんには一つの呪文をお教えします。『ステータスオープン』」
「これは自身のステータスを確認する呪文だ。この世界なら誰にも出来るし、異邦の方々も使えるはずだ」
「「「「「ステータスオープン」」」」」
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【種族】人間(善)
【能力】STR:10 / VIT:10 / DEX:10 / AGI:10 / INT:10 / MND:10 / MAG:0
【ギフト】服創造:10 / 強制装着:10 / 呪いの装備:10
【称号】異邦人 / 短パンニーソを称えるもの / 宣教師(短パンニーソ)
【状態】正常(狂気)
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ふむ。能力に関しては比較対象がわからんから保留として、ギフトがな……。
呪いの装備ってどういうことだよ。絶対に碌なもんじゃないだろ。
称号も短パンニーソを称えるもの / 宣教師(短パンニーソ)ってさぁ。
違うんだよ! 短パンニーソは崇め、称えるべきは全人類、全世界であって、俺が一人で称えていてもだめなんだ。これは世界のほうがおかしいんだ。まあ、今は横に置いておこう。
で、状態もなんだろうな。正常なのか狂っているのか分らんよ。狂っているのが正常ってことなのか。そうなのか?
「皆さんステータスを確認できたようですね。一つずつ説明します。まずは【種族】。これは当人の種族と善悪を表示しています」
「種族はともかく、善悪って?」
「善は人類側、悪は魔王側となります。中には中立の存在もいますね」
なるほど。種族が人間だから全員が人類サイドとは限らないと。
「次に【能力】ですね。こちらは成人男性の平均がおよそ10になります。ただ、異邦から来た皆様の場合はもっと高くなるでしょう。また、魔力を使った身体強化を使えばもっと身体能力がありますし、生まれながらの素質も関わってきます。低くても気にする必要はないですよ」
周囲からざわめくような声が聞こえてくる。うん。皆結構高い値みたいだ。俺なんてオール10。MAGに関しては0なんですが?
「しつもーん。このMAGって何?他はなんとなくわかるけど」
桜さんがのんびりとした声で聞く。
「MAGは魔力を制御する値と思ってください。この値が高いほど素早く魔術を展開できます。INTが威力に関わり、MAGは速度に関する値ですね」
なるほど。で、0ってことは俺、魔術の展開ができないってこと?
「では次は【ギフト】になります。この世界の人間は生まれながらに3つのギフトを得ます。皆さんもステータスに3つのギフトが表示されていると思います。ギフトの横に表示されているのがギフトのレベルになります。レベルは大体このように分けられますね」
そういって聖女さんが黒板に以下のような表を描く。
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レベル10 神の御 業勇者も魔王も至れない頂。もはや敵なし。
レベル9 生命の頂 生きているものが至れる最高峰。
レベル8 才能の頂 才ある者が惜しまぬ努力で至れる頂
レベル7 努力の頂 生涯をささげた努力の先に至れる頂
レベル6 鍛錬の頂 専門の職人が鍛錬で至れる頂
レベル5 一流の壁 専門職として認められる壁。
レベル4 一人前の壁 周囲に自慢できるレベル。専門的な仕事を行える。
レベル3 才能の壁 才能無き者がぶつかる壁。
レベル2 初心者 数年の鍛錬で至れる。才ある者は生まれながらに所持
レベル1 初めの一歩 一年程度の鍛錬で至れる。夢を目指してがんばれ!
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なるほど。俺、ギフトのレベル10なんですけど。どうしましょ?
周囲からはうれしそうな声が聞こえてくる。それなりに高いみたいだ。
龍なんかはレベル8があったようで周囲がざわついている。
「ギフトは生まれた際は3つですがその後の鍛錬で増やすことが可能ですし、レベルを上げることもできます。私や勇者レオンハルトはスキルを二桁ほど所持しています」
「まあ、俺たちは少し極端だがな。一般的に騎士になるには5つほどのギフトに戦闘系のギフトで5レベル以上が必要になる。ギフトは高レベルになればなるほど上げにくくなる」
そういいながら勇者が自身のステータスを開いて見せてくる。
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【種族】人間(善)
【能力】STR:550 / VIT:400 / DEX:350 / AGI:400 / INT:400 / MND:500 / MAG:300
【ギフト】身体強化:9 / 全属性魔法:8 / 聖剣術:8 / 状態異常耐性:8 / 弓術:6 / 槍術:6 / 馬術:5 / 鼓舞:5 / 聖術:5 / 気配察知:4 / 直感:4 / 魔術付与:4
【称号】勇者 / 人類の守護者 / 英雄 / 希望の灯 / 聖騎士 / 魔導士 / 立ち上がり者
【状態】正常
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うーわ。すっげぇ……。
基本能力は俺の30倍以上ですってよ。勝てる気がしねーなぁ。万能剣士かよ。
称号もなんかすっごいのばっかだ。なんだこれ。ってか勇者って名乗りとか国に認められたとかじゃなくて、称号なのか。ってことは聖女さんのほうも称号なのか。
「では次は【称号】のお話ですね。これはその人がこれまでに何をなしてきたのかを表示しています。皆さんには恐らく異邦人の称号があるでしょう。他にも何かに打ち込んでいたり、何か目覚しい行動を起こしていると称号があるかもしれません」
ほうほう。俺は短パンニーソを称え、布教するものと。なるほど。
「最後に【状態】です。これは自分がどんな以上にかかっているかを表示します。疲労、ケガ、病気、呪い、精神異常など、様々なことがわかります」
「さて、長くなったがステータスに関しては以上だ。今日はもう日が傾いてきたし、考える時間も必要だろう。明日の朝、今後の話をしよう」
そういうと聖女さんと勇者が部屋を出ていき、入れ替わりに一人の騎士が来る。
さて、俺も少し考えないとな。
――割り当てられた部屋にて――
「さーて、どうしたもんかね。ステータスオープンっと」
表示されるステータスを見る。確認すべきはギフト。特に呪いの装備か。
「これってゲームとかでよくある呪いの装備か?協会で解呪しないと脱げない的な。だとするとそうとうやべーぞ。しかも強制装着って、呪いの装備を無理やり着せられるのか?で、服創造で衣服を作ると」
自力で服を作り、呪いの装備にして、相手に強制装着。ふむ――。
「……短パンニーソ……」
いけるのでは?短パンニーソを作り、着せ、布教する。いい短パンニーソなら多少呪われていたって問題ないだろう。いや、むしろ脱ぐ必要などないのだから呪われていようと関係ない。
着てみたいが周囲の目を気にして着れないようなものにも俺なら着せられる。
多少抵抗力があろうとこのギフトレベルなら大抵の人間には着せられる。
いや、人間だけではない。異世界なんだ。エルフやドワーフ。魔族だっているかもしれない。騎士や兵士、王様にお姫様。何なら魔王だって。
老若男女を問わずこの世界のすべての生き物にあまねく短パンニーソの導きを。
俺なら出来るんじゃないか。
俺にしかできないんじゃないか。
やろう。
ようこそ異世界へ。とりあえず短パンニーソを片手に落ち着いて。
こっちの短パンニーソ型クッションに座って、ゆっくりしていってね。