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 口にした手前マーカスを連れて行った方がいいのではないかと帰る途中で思ったが、徒労にしかならないと判っている問題に老人を付き合わせるのも失礼かと思い直し、ミーアはそのまま宿舎に戻った。

「マーカス先生は留守でした」

「そんな……」

 ミーアの言葉に、ミズリスが苦しげに俯く。

 それから数秒後、ばっと顔をあげた彼女は周りの騎士たちに他に良い医者がいないかと訪ねだし、それが出てこない現実に再び俯いてしまった。

 その反応に、不自然な点は見当たらない。ということは、今回の取引に彼女は関係していないという事だ。……いや、そもそも、彼女はカークの行いをどの程度理解しているのだろうか? もしかすると、パルで勝利し騎士団の安全を確保しているという点以外はろくに知らないのではないのか。

(そちらの可能性が高そうですね)

 だとするなら、この後の話に彼女を巻き込むのは避けた方が良いのかもしれない。

 そう結論をつけたところで、

「少し、痛みが増してきたかも……ルノーウェルさん、よければ、もう少し治癒を施してくれないかな?」

 と、ぼんやりとしたいつもの表情で、カークがそんな事を言ってきた。

(……これは、おそらく嘘)

 アダラが去ったあとに足を奪った二人組と少し話をしたのだが、彼等は奪った足に危害を加える事は条件に入っておらず、片足が使えない以外のマイナスはないと言っていた。

 もちろん、それが嘘である可能性もなくはないだろうが、リッセやヴァネッサが絡んでいるという状況で、二人とそれなりの関わりを持っているミーア相手につまらない嘘を並べるのはリスキーすぎる。

 それに、彼等が用いた魔法の特性上からしても、その言葉には説得力があった。

 時に医療で用いられる『隔離』の魔法は、攻撃魔法と違って相手の許可が必要になる。要は『魂移し』などと同じ類で、魔法自体の効果は極めて強力だが、強制力の方が皆無に等しいのだ。

 だから、先程の磔男のように、半殺しにされて一時的に心を折られ無抵抗になった状態であったり、なにかしらの契約が施された後にしか成立しない。

 当然、カークの場合は後者となり、その場合は前者よりもよほど綺麗に魔法は成立する。そしてその状況で後遺症や副作用を残すほど、あの二人は無能ではないとミーアは評価していた。

(つまり、これは私と二人きりで話をするための口実)

 内容は足を失った件についてと、この件でのミズリスの立ち位置についてだろうか。

 だとしたら丁度いい。こちらもそのあたりの話をはっきりさせたいところだったのだ。

「わかりました。では、貴方の部屋でもう少しだけ治療を行いましょう」

「あ、あの、私も一緒――」

「治療に専念したいので、出来れば二人きりが望ましいです」

「そ、そう……わかった」

 しょんぼりとした声と共に、ミズリスがまた俯いてしまう。

 少し心苦しかったが、かといって他に言いようもない。ミーアはそういう事が得意ではないのだ。

「……大丈夫。多分すぐに、よくなるから」

 ぼそぼそと最低限のフォローを残し、他の面々に対して心配をかけたことを詫びるように小さく会釈をしてから、カークが誰かの剣の鞘を杖代わりに歩き出す。

 その後を追い掛けて、ミーアは彼の部屋に向かう事にした。



次回は三日後に投稿予定です。よろしければ、また読んでやってください。

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