表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/59

03

 再びカーギィに乗って、お次は広場にやってきた。

 広場は中地区で唯一空間を贅沢に使っている場所で、今日は出店が多く開かれている。名物である甘味成分をこれでもかっていうくらいにぶち込んだ魔物肉も売られていた。相変わらず広場の外まで届く甘い匂いだ。

 それを前に、ザーナンテさんが興味を示していたけれど、間違っても食前に口にしていいものじゃないと強く制し、俺たちは広場の傍にあるお店で昼食をとった。

「たしかに、美味しかったわね。待つだけの甲斐はあったかも」

「だな。量も結構あったし」

 冒険者二人は満足してくれたようだ。

 こちらもタダで堪能できたので、悪くない交渉だったと自画自賛である。

 ということで、報酬も貰った事だし、そろそろちゃんと案内をしたいところではあるのだが、冒険者でない身としては、具体的にどこを教えるのが一番有益なのかがちょっと判らなかったりもして……まあ、切実に情報が欲しいのなら、そもそも俺なんかじゃなくてドールマンさんとかに頼んでいるだろうから、そこまで気にするような事でもないんだろうけど、なにも返せないというのは、それはそれで釣り合いが取れていなくて気持ち悪い。

「色々とは言ってたけど、これは絶対に押さえておきたいって場所とかはないの?」

 食後の休憩にと広場にあるベンチに全員が腰を下ろしたところで、俺は隣のミミトミアに訪ねた。

「そうね、一つは今解決したから、あとは化粧品とかかな。武器とか防具については先輩面したいけ好かない奴がいらないお節介で色々と勝手になんか漏らしてたから必要ないし」

 あえて名前を伏せられた先輩とやらは、十中八九ドールマンさんの事だろう。

「つまり日用品関係でいいところを知りたいって事だね」

「そう、そんな感じ。――あ、それと、なんか遊べる場所とか物とか、そういうのも知りたいかも。当面は簡単な仕事こなさないといけないみたいだから、準備とかそんな気にしなくて良さそうで、結構時間が空きそうなのよね」

「映画は?」

「あんま興味ない。なんていうか眠くなるのよね、ああいうのって」

 ミミトミアらしいというべきなのか、能動的に自分が関われる娯楽を所望のようだ。

 その線ですぐに浮かんだのは、以前この広場で購入したボードゲーム(将棋に近いと思う)だった。なんでも聞くところによるとプロまで居るほどに人気らしかったそれは、実際今でも暇があればミーアと対戦するくらいには面白い。

 ただ、ああいうゲームは一人じゃできないわけで……いや、だからこそ、この二人に勧めるというのはある意味で良い選択なのか。

 興味がなければやらなければいいだけだし、これをきっかけに多少は雪解けが早まってくれるなら、それはそれで僥倖なわけだし、なにより今日もまた広場でそれは売られているのだ。

 今の状況なら過剰な干渉にも取られないだろうと、俺はベンチから立ち上がって件のボードゲームが売られている出店に赴き、それを購入して、

「はい、おすすめの娯楽品」

 と、ミミトミアに押し付ける事にした。

 すると彼女はきょとんとした表情を浮かべて、

「タダでくれるってわけ? なんか怖いんだけど……」

「心配しなくてもちゃんと裏はあるよ。これ、私達も暇を見つけてはやってるんだけど、他にも仲間が欲しい時期に差し掛かって来たというか。まあ、二人が興味ないっていうなら諦めるけど」

「……別に、こういうのは嫌いじゃないわよ。少なくとも、頭の使い方を知らない誰かさんと違って、あたしはね」

 そう言って、ミミトミアはちらりとザーナンテさんを見遣った。

 それに倣うように、俺も視線を向けて彼の反応を待つ。

「俺は、別に得意じゃないけど、それでもユミルよりは強いと思うぞ。多分」

 俯き加減に、でもずっと言われるがままなのはさすがに我慢ならなかったのか、ぼそぼそとザーナンテさんは答えた。

「じゃあ、あんたの方が弱かったら、明日の昼はあんたの驕りね。さっきの店で、野菜付きで」

「そっちが負けたらどうするんだ? あ、いや、まあ、俺は別になんもなくてもいいけど――」

「もちろん、その時はあたしが奢ってやるわよ。当然でしょう?」

 対等の条件をむしろ求めるように、ミミトミアは強い口調で言った。

 それから俺の方に視線を向けて、

「あんたが証人だからね。このやりとり、忘れるんじゃないわよ? ついでに、こいつに格の違いを教えたら、次はあんたにも教えてやるんだから」

「わかった。その時は返り討ちにして泣かせてあげるね」

 とりあえず笑顔でそう返しつつ、

「ところで、ザーナンテさんの方はどう? 知っておきたい場所とかってないの?」

 と、彼にも話を振る事にした。

 その際、これまでの丁寧語から少し砕けた口調に変えたのは、ミミトミアとの差異を無くすためだ。 なんとなくだけど、そうした方がいいと思ってのことだけど……まあ、悪い風には受け取られなかったようで、彼は少し躊躇うようなそぶりを見せたあと、

「トルフィネにも図書館ってあるのか? あるなら、行ってみたいんだが」

 俺のホームグラウンドと言っても過言ではない場所を口にし、次の目的地が決定したのだった。


次回は三日後に投稿予定です。よろしければ、また読んでやってください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ