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 束の間の自由を求めた姫は、城から抜け出した先で一人の騎士と出会い、その彼が姫を守る近衛として再び現れた日を境に、否応なく彼に惹かれていく事となる。

 しかし彼女は政治の道具であり、すでに婚約者のいる身だ。そのような想いが許されるわけもなく、少しでも表に出そうものなら騎士の立場すら危うくしてしまう。

 恋を知ったからこそ生まれた絶望。

 それを拭い去るべく、彼女は婚約者の破滅を企てる。

 受け身なだけの人生は地獄だと、これから先、貴女は己が運命を自らの手で切り開いていくべきだと、姫の理解者である騎士団長ヴァネッサさんが唆した結果だ。

 その騎士団長主導のもと、計画は順調に進んでいく。

 怖いくらいに、と付け足してもいいほどに上手く行った背景には、婚約者が抱える敵の数があった。彼は残忍で救いようがないくらいに下劣で、まさに絵にかいたような悪党だったのである。つまり、色々なところで恨みを買っていたわけだ。(ちなみに、婚約者の役はイル・レコンノルンという貴族の少年が立候補し、見事当選した。リッセが誰か殺しそうな勢いで反対していたけれど、多数決でそうなった)

 そんな婚約者は、数多くの手下(それは騎士団の面々が担った)を暗殺され、孤立し、窮地に立たされる事になるのだが、さすがにやられっぱなしというわけにもいかない。

 敵の正体を知った婚約者は、反撃のために王妃と手を結ぶ。

 王妃(既定路線に戻っても、その強引さで準主役級に出番を貰ったオーレリアンレル)は、姫の騎士を我が物にしようと考えており、排除するべき敵が一致していたのだ。

 故に、協力関係は無事に成立し、現状自衛に徹するしかない婚約者に代わって攻め一手を放つ事になった王妃は、姫と仲のいい第一王女ミーアを利用する事を思いつく。

 彼女もまた騎士に想いを寄せており、その感情をつつくことによって裏切りを誘発させられるのではと期待したわけである。

 そんなこんなで複数の思惑が入り乱れる中、王族たちの晩餐会が開かれる。

 美味しい料理に舌鼓を打つ面々、褒め称えられる料理人ルハ、そして特に何もなく晩餐感は終わり、数日後、婚約者が何者かに殺されるというニュースが流れる。

 犯人として逮捕されたのは姫。被害者の血に染まったナイフが自室にて発見されたのが決定打だった。

 だが、彼女にそんな覚えはない。婚約者を排除するつもりではあったが、それはもう少し先の予定だったのだ。

 自分が嵌められたのは理解したが、誰がそのような事をしたのか……。

 疑わしいのは、騎士団長と第一王女の二人だった。彼女の自室に細工が出来そうなのは、その二人しかいなかった為だ。

 でも、一体どうして? 

 第一王女の想いを知らない姫はショックを受けつつも、冤罪を受け入れるわけにはいかないと、裁きが下される前に身の潔白を証明するべく部下を使って二人について色々調べ、ある衝撃的な真実に辿りつく。

 それは、第一王女の実の父親が騎士団長だったというもので、彼は王妃と禁断の関係にあったのだ。(余談だが、オーレリアンレルが演じる王妃は王の二人目の妻であり、第一王女の母親は最初の王妃で、姫の母親は側室という設定で固まっていた。なかなかにややこしい)

 つまり、二人のどちらかではなく、二人して姫を貶めた可能性が高くなったわけである。

 動機が不明なのが非常に気持ち悪いが、裏切りを許す理由は見当たらない。彼等は姫の信頼を踏みにじったのだ。報いを受けさせる必要がある。

 だが、今まで騎士団長に頼りきりだった姫に、そのような都合のいい力はない。

 結局、自分は他人の都合に振り回されて終わるだけの無力な存在なのか…………否、けしてそうではない。己が運命は己が手で切り開くと決めたのだと、彼女は王に一通の手紙を送る事を決める。

 内容は、既に故人ではあるが彼が娶った最初の王妃の不貞と、その相手について。

 自分はその重大な証拠を掴んでおり、それは同時にこの件の裏側とも繋がっているというもので、姫は情報を餌に王との交渉を取りつけようとしたのだ。

 そして日が昇って朝となり、王(この役はオーウェさんがする事になった)がその手紙を読んで――


 ――と、ここまでが撮り終えたシーンであり、これからいよいよ後半戦が始まろうとしていた。

 うん、もうなんというか、姫と騎士の王道物語なんてものはどこにも見当たらない。そもそも婚約者が登場したあたりから最初の頃の姫と性格が百八十度くらい変わってしまっているし、ドロドロの人間関係盛りだくさんで、もはや恋愛ではなく愛憎がテーマとなっている次第である。

 それもこれも、キャストたちが好き勝手に意見しだした所為だ。まあ、その発端は間違いなくオーレリアンレルなわけだけど、それらを素直に聞き入れてしまったルハ達にも問題がないとはいえないだろう。別に強要されたわけではないからだ。

 まあ、幸いなのは、そのおかげでこちらの出番が思いのほか少なく済んでいるところだろうか。

 といっても、拘束された姫が切れるカードを全て切ってしまい、王がなにかしらの結論を出すまではもう出来る事もなく、その間は騎士の視点で話が進みそうなので、これからが本番という事になりそうだけど……

「……はぁ」

 明日の撮影の事を考えた所為か、俺は自然とため息を零していた。

 なにせ次は、騎士が姫を救う為に騎士団長に助力を求めるシーンなのだ。

 騎士団長が味方であるのなら会話劇だけで済むが、残念ながら騎士団長は敵である。

 当然、その先には戦闘というものが待っていて……恐ろしい事に、この撮影のバトルシーンには打ちあわせというものが存在しない。もちろんスタントマンもいない。要はスパーリングだ。いい映像が撮れるまで続く実戦である。あげく、相手はヴァネッサさん。先日、水風船を割るみたいに人を破裂させて絶命させた人物だ。

 まあ、さすがに本気で殺しに来ることはないと思うけど、少しでも気を抜いたら間違いなく重傷は免れないだろう。

 だからこそ、明日は――いや、もう今日か。

 部屋の壁時計に眼を向けて、俺はもう一度ため息をつく。

 なんとなく目が覚めてしまったので、とりあえず水分を補給してから自室のベッドに戻って、こうしてぼんやりと撮影の事なんかを振り返りながら再び睡魔が訪れるのを待っていたけれど、どうやらその淡い望みが叶う事はなさそうだ。

 寝不足確定である。そして、その寝不足を呪いたくなるほどにハードな撮影が待ち受けている事を、俺は多分どこかで確信していたのだった。


次回は三日後に投稿予定です。よろしければ、また読んでやってください。

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